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17:ミミの初めてのお使いと、不思議な「真夏の迷子貝」 【前編】:ナナの治療費のために! ミミの単独挑戦

17:ミミの初めてのお使いと、不思議な「真夏の迷子貝」

【前編】:ナナの治療費のために! ミミの単独挑戦


【AM 08:30 | 港町ポルトー・冒険者ギルド「潮風の錨亭」前】


八月上旬の太陽がポルトーの石畳をじりじりと照りつける朝。夏真っ盛りの港町は、早くから飛び交うウミネコの鳴き声と、波止場で水揚げ作業をする漁師たちの威勢のいい声に包まれていた。


ひよりは宿屋「海猫亭」の軒下で日よけの庇(ひさし)に入り、手ぬぐいで額の汗を拭いながら呉弁で大きく息をついた。


「ふぁぁ〜〜あ……! 今朝も朝からぶち暑いねぇ。太陽がギラギラしとるわ」


「ひより様、本日も外気温が急上昇しておりますぞ! 水分補給を怠ってはなりませぬ!」 三つ仕切りバケツの付喪神・洗三が、キンキンに冷えた湧き水をなみなみと湛えてバケツのフチを叩く。


その時、ギルドの重い木製扉がガタリと開き、小さな影が凛とした足取りで外へ出てきた。 亜人少女のミミだ。腰には、かつてひよりたちと共にピカピカに磨き上げた愛用の短剣を誇らしげに差している。


「よしっ! 今日はあたい一人の力で、しっかりやり遂げて見せるがやき!」


ミミは胸を張り、手に握りしめた羊皮紙の依頼書をギシッと握りしめた。大きな猫耳が気合十分にピンと立ち、栗色の尾がフリフリと激しく揺れている。


「あ、ミミちゃん! おはよう! 朝早くからギルドにおったん?」


ひよりが声をかけると、ミミはビクッと肩を跳ね上がらせ、慌てて依頼書を背中に隠そうとした。


「ひ、ひよりお姉ちゃん!? お、おはようやき! えへへ……ちょっとね、ギルドに用事があっただけやき!」


「用事? なにか困ったことでもあったんかいね?」


ひよりが首を傾げると、ミミは一瞬、言葉に詰まったように視線を泳がせたが、やがて腹を括ったようにキュッと唇を結び、背中から依頼書を差し出した。


「……これやき! 今日はあたい、一人でこの依頼を受けることにしたがあやき!」


ひよりが覗き込んだ羊皮紙には、手書きの丸っこい文字でこう書かれていた。


『Fランク依頼:南のサンゴ浅瀬における「薬用・真珠貝」の採取(十個)』 『報酬:銀貨二枚(※医療ギルド提携・薬用成分の抽出用)』


「薬用・真珠貝の採取……? これって、医療ギルドの……」


「そうやき!」 ミミは琥珀色の瞳を真っ直ぐにひよりに向け、力強い土佐弁風の語尾で言葉を続けた。


「ナナの治療費、いつもひよりお姉ちゃんやギルドのみんなに助けてもらってばっかりじゃ、あたい、一人前の冒険者にもお姉ちゃんにもなれんがやき! この真珠貝から取れるお薬は、ナナの飲むお薬の材料にもなるって医療ギルドのお医者さんが教えてくれたがやき。だから……今日はあたいの力だけで、絶対にやり遂げたいがやき!」


ミミの言葉には、妹ナナを想う強い情熱と、ひよりの弟子として成長したいという真っ直ぐな誇りが溢れていた。


ひよりの胸がじんと熱くなる。


「ミミちゃん……。そっか、ナナちゃんのために頑張りたいんね。ぶち立派じゃよ!」


「えへへ……! ひよりお姉ちゃんに教えてもらった通り、道具(短剣)も大切にして、安全第一で行ってくるがやき! 誰もついてきちゃダメやきね!」


ミミは元気に手を振ると、小さな背中をピンと伸ばし、南海岸のサンゴ浅瀬へ向かってタッタッタと駆け去っていった。


その勇ましい後ろ姿を見送りながら、ひよりは呉弁でぽつりと呟いた。


「……ミミちゃん、ぶちカッコええねぇ」


しかし、次の瞬間——。


「……いや、でもやっぱりぶち心配じゃわぁぁぁぁぁぁッ!!」


ひよりは頭を抱えて頭を振った!


「浅瀬言うても潮の満ち引きもあるし! 暑さで熱中症になったら大変じゃし! 魔物に襲われたらどうしよう! あぁぁ、心配で胃がキリキリするわぁ!」


「カッカッカ! ひより様、弟子を心配する師匠の鑑でございますな!」 木製しゃもじの飯蔵が大童の姿で豪快に笑う。


『ふむ……ひより殿。ミミ殿の「一人でやり遂げたい」という自立心を尊重しつつ、万が一の事態に備えて影から見守る……いわゆる「尾行・密着警護」を提案いたしますぞ』 文机の硯水がそっと浮遊し、眼鏡を光らせて提案した。


「ほうじゃ! 陰からそっと見守ればええんじゃ! よーし、みんな! 変装してミミちゃんを尾行するよーっ!」


「「「おおーっ!!」」」


こうして、ひよりと八百万の付喪神たちによる、前代未聞の「変装尾行大作戦」がスタートしたのだった。


【AM 09:30 | 南海岸・サンゴの浅瀬への道中】


南海岸へ続く一本道。 麦わら帽子を目深に被り、サングラスをかけ、怪しい黒布を羽織ったひよりが、街道沿いの茂みからソソソ……と顔を出していた。


その横には、葉っぱを頭に乗せた神刀の紅緒や、風呂敷を被った竹千代、大きな麦わら帽子を被せられたバケツの洗三が並んでいる。


「ひより様……この変装、少々目立ちすぎてはおりませぬか?」 紅緒が朱色の袴の裾を気にしながら囁く。


「大丈夫じゃよ! サングラスしとるけぇ、誰がどう見てもただの旅人じゃよ!」 (完全に怪しい不審者である。)


前方五十メートル先を歩くミミは、そんなひよりたちの奇行に全く気づく様子もなく、鼻歌を交えながら歩いていた。


「〜〜♪ ナナのお薬、真珠貝〜♪ あたいがバッチリ採ってくるやき〜♪」


ミミは途中で足を止めると、腰の短剣を鞘ごとそっと手にして、柄の革紐や刃のぐらつきがないかを念入りにチェックした。


「よし、柄の目くぎも緩んでないやき。紅緒お姉ちゃんに教えてもらった手入れ、完璧やきね。今日もよろしく頼むやき、相棒」


短剣に優しく語りかけ、トントンと柄を叩いて確かめるミミ。


茂みの影からその様子を見ていたひよりは、目頭を押さえてボロボロと涙をこぼした。


「うぅぅ……ミミちゃん……あんなに道具を大事にしてからに……ぶちええ子に育っとるわぁ……」


「ひより様、感涙により視界が奪われております。対象者ミミ殿、浅瀬の入口へ到達。尾行速度を維持されたし」 竹千代がシャキーンと目盛りを光らせて冷静に指示を出す。


【AM 10:30 | サンゴ浅瀬での採取と、ミミの奮闘】


港町ポルトーの南端に位置する「サンゴ浅瀬」は、干潮時には膝下ほどの深さになり、美しい熱帯魚や透明な貝たちが生息する絶好の採取ポイントだった。


眩しい真夏の太陽が海面をキラキラと照らし、温かい潮風が吹き抜けていく。


「よし! ここがサンゴ浅瀬やきね!」


ミミはブーツを脱ぎ、ズボンの裾を膝上までたくし上げると、浅瀬の中へバシャバシャと足を踏み入れた。


「ええと……薬用・真珠貝は、岩の陰やサンゴの隙間にくっついちゅうって依頼書に書いてあったやき……」


ミミは腰をかがめ、透き通った海水の中をじっと見つめた。 手にした小さな潮干狩り用の手かぎとバケツを使い、丁寧にサンゴの隙間を探っていく。


「あったやき! ひとつ目ゲットやき!」


岩の裏側にくっついていた、手のひらサイズの灰色の「薬用・真珠貝」を見つけ、嬉しそうにバケツへ放り込むミミ。


物陰の岩の裏から、双眼鏡(ステラの光を屈折させた簡易双眼鏡)で覗いていたひよりが、小さくガッツポーズを作った。


「やったぁ! ひとつ目じゃね! ミミちゃん手際がぶちええわぁ!」


「ミミ殿の作業効率、予想数値を一五パーセント上回っております。集中力、極めて良好」 竹千代も満足そうに目盛りを光らせる。


ミミは額からボトボトと汗を流しながらも、弱音を吐くことなく一心不乱に貝を探し続けた。


「ふぅ〜〜……暑いやき……。でも、ナナが毎日苦いお薬を頑張って飲んちゅうがやき。あたいがこれくらいでへばっとったらアカンやき……!」


ミミは首に巻いた手ぬぐいで汗を拭うと、冷たい海水で顔を洗い、再び腰を落として作業に打ち込んだ。


ふたつ、みっつ、よっつ……。バケツの中に、順調に真珠貝が溜まっていく。


「あと三つで目標達成やき! よーし、この調子で一気に集めるがやきーッ!」


ミミが腕をまくり上げ、少し深くなったサンゴの岩陰へ手を差し込んだ、その時だった。


【AM 11:30 | 虹色の光と「歌う迷子貝」の出現!】


「にゃ……!? なんやき、この輝きは……!?」


ミミがサンゴの隙間から引き揚げたのは、目的の薬用・真珠貝ではなかった。


それは、大人の頭ほどもある巨大な二枚貝だった。しかも、その貝殻の表面は、真夏の太陽の光を受けて七色……いや、虹色に眩しくギラギラと光り輝いていたのだ!


「うわぁぁ……! ぶち綺麗な貝やき! これ、もしかしてごっついお宝貝じゃないがやき!?」


ミミが目を輝かせて二枚貝を抱え上げた、まさにその瞬間——。


パカッ……!!


二枚貝が、突然大きく口を開いた!


「にゃッ!?」


貝の中身は、まるで南国のパパイヤのようにプルプルとしたピンク色の肉質をしており、中央には大きな「つぶらな二つの瞳」が存在していた!


そして、その貝は口(貝殻)をパクパクと激しく開閉させながら、とんでもない大音量で歌を歌い始めたのだ!


「〜〜〜〜♪♪♪ ラララ〜〜〜〜ッ!! 潮風最高〜〜〜〜ッ!! 真夏最高〜〜〜〜ッ!!♪♪♪」


「ギャァァァァァッ!!?? 貝が歌ったがやきーーーッ!!??」


ミミが腰を抜かしてひっくり返った!


その歌声は、可憐な見た目からは想像もつかないほどの「ソプラノ大音量」であり、音波の振動によって浅瀬の海水がバシャバシャと激しく跳ね上がり始めたのだ!


「〜〜〜♪♪♪ 帰りたい〜〜♪ 沖へ帰りたい〜〜♪ けど潮に流されて迷子になった〜〜〜ッ!!♪♪♪」


「迷子貝かい!? 歌いながら潮を吹き出しよるがやきーッ!」


迷子貝がパカパカと勢いよく貝殻を開閉させるたびに、大量の海水が「ブシャァァァッ!」と高圧放水のように噴き出し、ミミは全身びしょ濡れになって「ふにゃあぁぁぁっ! 助けてがやきーっ!」と水しぶきの中で翻弄され始めた!


「ひ、ひより様ぁぁぁッ! ミミ殿が大惨事になっておりますぞッ!」 岩陰のひよりたちも大パニックになった!


「大変じゃぁぁぁッ! ミミちゃんが謎の歌う貝に襲われとるわぁぁぁッ! みんな、救出に向かうよーっ!!」


変装の黒布を投げ捨て、ひよりと八百万の付喪神たちは、白波が狂い咲くサンゴ浅瀬へと勢いよく飛び出したのだった!

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