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16:一週間がかりの長期依頼「港の納涼夏祭り・設営と警護」 【後編】:揃いの浴衣(ハッピ)と、大輪の花火

本日の呉料理:『おでん(呉風・煮干し出汁と味噌だれ)』

夜風で少し冷えた身体に染み渡る、煮干し出汁でじっくり煮込んだおでん。特製の甘味噌ダレをかけて食べ、職人たちと大盛り上がり。

16:一週間がかりの長期依頼「港の納涼夏祭り・設営と警護」

【後編】:揃いの浴衣(ハッピ)と、大輪の花火


【PM 05:00 | 港町ポルトー・職人街『槌音の路地』】


一週間に及ぶ設営と街頭警護の長期依頼も、ついに最終日——「納涼港祭り」の当日を迎えていた。


港沿いに真っ直ぐ伸びる潮風通りには、職人たちとひより、そして付喪神たちが力を合わせて吊るし上げた数百の赤い提灯がズラリと連なり、夏の夕風を受けて揺れている。港の中央には、竹千代の精密な計測と飯蔵の力強い補助、そして大工頭の源造たちの熟練の技によって組み上げられた、高さ十メートルの特大やぐらが、港の象徴のようにどっしりと聳え立っていた。


「ひよりちゃん! ミミちゃん! ナナちゃん! ちょっとこっちに来てつかぁさい!」


職人街の広場で手招きしていたのは、石工頭のダン吉と大工頭の源造だった。二人の後ろには、職人街のお裁縫手芸屋のおばちゃんたちも笑みを浮かべて並んでいる。


「ダン吉さん、源造さん? どうしたんかいね?」


ひよりが呉弁で首を傾げると、源造が照れくさそうに太い鼻の頭を掻きながら、大きな竹籠を差し出してきた。中には、鮮やかな藍色と深紅色に染め上げられた、仕立てたばかりの新品のハッピが入っていた。


「これな、この一週間、現場で誰よりも汗を流してくれたお前さんたちへの、職人街全員からのプレゼントたい! ひよりちゃん、ミミちゃん、そしてナナちゃんの分の『お揃い特製ハッピ』ばい!」


「えっ……! うちたちのハッピ……!?」


ひよりが驚いてハッピを広げると、背中には力強い字体で『ポルトー港』と刺繍され、裾には波の模様と、可愛らしい「付喪神たちのシルエット」が丁寧に刺繍されていた。さらに、幼いナナの分は、肌触りの優しい柔らかい木綿で作られた小さな赤いハッピだ。


「ナナちゃんの分まで作ってくれたがやき……!?」 ミミが大きな猫耳をピクピクと揺らし、琥珀色の目をうるませる。


お裁縫屋のおばちゃんが、車椅子のナナの前でかがみ込み、優しい手つきで小さなハッピを着せてあげた。胸元で黄色い帯をきゅっと結ぶと、ナナの小さな姿が一気に華やかなお祭り仕様に大変身する。


「まあ……可愛い! ナナちゃん、ぶち似合っとるよ!」 ひよりが呉弁で歓声を上げると、ナナは小さな手を自分の胸元の赤いハッピに添え、パッと可愛らしい笑顔を咲かせた。


「……あかいハッピ……おそろい……嬉しいやき……!」


「ガハハ! 似合っとるぞい、ナナちゃん! さあ、ひよりちゃんたちも着て、祭り本番に繰り出すばい!」


ひよりとミミも藍色のハッピを羽織り、帯をしめた。お揃いのハッピを身にまとった三人の姿に、職人たちから割れんばかりの拍手と「日本一!」「べっぴんさんだばい!」という歓声が上がったのだった。


【PM 06:30 | 納涼港祭り開幕と、夜の警護巡回】


陽が傾き、夕闇が港町を優しく包み込み始めると、数百の赤い提灯が一斉にぽっと温かな朱色の明かりを灯させた。


「「「納涼港祭り、開幕だぁぁぁぁッ!!」」」


ドンドンッ! ドコドンッ!


特大やぐらの上から打ち鳴らされる威勢のいい太鼓の音が港中に響き渡り、全土から集まった数百の露店に火が灯る。香ばしいソースの匂い、甘い果実の香り、そして人々の熱気と笑顔が、ポルトーの夜を熱狂の渦へと巻き込んでいった。


ひよりとミミ、そして付喪神たちは、ハッピ姿で賑わう通りをゆったりと警護巡回していた。


「迷子はおらんかいね〜? 足元、暗いけぇ気を付けてね〜!」


ひよりが呉弁で声をかけながら歩く横で、裁縫用糸切りバサミの糸吉が「チョキチョキ! 提灯の紐、緩みなしチョキ!」と空を舞い、三つ仕切りバケツの洗三が「熱気で喉が渇いた人、冷たいお水どうぞ!」と人々に湧き水を配って歩く。


車椅子のナナは、ミミに車押しをされながら、目をキラキラさせて屋台を眺めていた。


「ミミおねえちゃん……あっちのお店、キラキラしてるやき……」


「あれは水風船釣りやきね! ナナ、やってみるがやき!」


水風船釣りの屋台に寄ると、店主のおっちゃんがナナの赤いハッピ姿を見るなり、破顔した。


「おうおう! 可愛いお嬢ちゃんたちだな! ナナちゃん、好きなの一個持っていきな!」


「えっ……おじちゃん、いいのやき……?」


「いいんだよ! あんたらがこの素晴らしい祭りを作ってくれたんだからな!」


おっちゃんから貰ったピンク色の水風船を手に、ナナは「ありがと……やき……!」と嬉しそうに車椅子の上で大事に抱きしめた。


街の誰もが、ひよりやミミ、そして治療を続けながら元気になっていくナナのことを知っており、すれ違うたびに「ナナちゃん、ハッピ似合ってるぞ!」「しっかり食べるんだぞ!」と温かい声をかけていく。街全体が、まるでひとつの大きな家族のように、三人を温かく包み込んでいたのだった。


【PM 08:00 | 飯蔵特製『呉のおでん』と、職人たちとの大宴会】


夜も更け、海からの夜風が吹き抜けると、昼間の猛暑が嘘のように肌寒さが漂い始めていた。


「ふぁぁ……海風が少し冷たくなってきたねぇ」 ひよりがハッピの襟を合わせていると、やぐらの下の特設屋台から、食欲を激しくそそる香ばしいお出汁の湯気が立ち上った。


「カッカッカ! 皆々様、夜警とお祭り巡りでお身体が冷えた頃合い! 港の夜風を吹き飛ばす、特製のご馳走ができましたぞ!」


大童の姿となった木製しゃもじの付喪神・飯蔵が、大鍋の蓋を豪快に開けた。


「うわぁぁぁぁ……! ぶちええ匂い! 飯蔵、今日のお夜食は何かいね!?」


ひよりが目を輝かせると、飯蔵が胸を叩いて宣言した。


「本日の祭宴飯は! ひより様の故郷・呉の屋台の味!『おでん(呉風・煮干し出汁と甘味噌だれ)』でございますぞ!」


大きな角鍋の中でフツフツと煮立っていたのは、じっくりと味が染み込んで黄金色に輝く大根、極上の卵、結び昆布、竹輪、厚揚げ、そして呉おでんの代名詞である「平天(練り物)」や「牛すじ串」だ!


出汁は、瀬戸内産の煮干し(いりこ)と昆布から極上の旨味を抽出し、塩と醤油で黄金色に澄み切った深みのある味に仕上げられている。


「うおっ!? なんて出汁のいい香りだばい! おでんだばいね!」 巡回を終えた石工頭のダン吉と大工頭の源造が、匂いに引き寄せられて駆け込んできた。


「カッカッカ! 職人の諸君! 呉のおでんは、この熱々の具材に、特製の『甘味噌ダレ』をたっぷりとかけて食べるのが伝統なのですぞ!」


飯蔵は、赤味噌と砂糖、みりん、そして隠し味に酒かすを練り上げた特製の濃密な「甘味噌ダレ」を、出汁の染みた大根と牛すじ串の上にトロリと回しかけた。


「味噌をかけて食べるおでん……!? いただきますだばい!」


ダン吉が大きな大根をハシで割り、甘味噌ダレをたっぷりと絡めて口に運んだ。


ハフッ……ハフッ……。


次の瞬間、ダン吉の表情が至福の笑みに崩れ去った!


「う……う美味い……!! 煮干し出汁が芯までジュワッと溢れ出してからに……濃厚な甘味噌のコクが絶妙に絡み合っておるだばい!!」


噛んだ瞬間に大根の繊維から溢れ出す、煮干し出汁の深い旨味。そこに、練り上げられた甘味噌ダレの濃厚で温かな甘みが加わり、冷えかけた身体の隅々までジワ〜〜ッと温もりが染み渡っていくのだ!


「美味すぎるばい! この牛すじ串、お肉がトロトロで味噌と出汁が極上に合っとるたい!」 源造も牛すじ串を一口で頬張り、大鉢の出汁まで一気飲みした。


「これぞ港祭りの最高の酒(果汁)の肴だばい! 飯蔵のオッチャン、大根と玉子と平天、おかわりだばい!」


「俺もおかわりたい! 味噌ダレをたっぷりかけてくれ!」


職人たちや冒険者たちが大歓声を上げ、おでん鍋の周りに大行列を作り上げた。


ひよりもうれしそうにおでんを口にし、「んん〜〜っ! これこれ! 呉のおでんは、いりこ出汁のお味がしっかりして、甘いお味噌をかけて食べるのが一番ぶち美味しいんよ!」と満面の笑顔を咲かせた。


小さく切ってもらった大根を食べたナナも、ほくほくの顔で「……お出汁が……あたたかくて……美味しいやき……」と微笑み、ミミも「あたい、この牛すじと味噌の組み合わせ、大好物やきーっ!」と大喜びで頬張ったのだった。


【PM 08:45 | 波止場の大輪の花火と、永遠の絆】


美味しいおでんで心も体もすっかり温まった頃。 お祭りのクライマックスを告げる鐘の音が、港に優しく響き渡った。


「さあ、ひよりちゃん! ミミちゃん! ナナちゃん! こっちの波止場が一番花火が綺麗に見える特等席だばい!」


ダン吉と源造に案内され、ひよりたちは新防波堤の根元にある静かな波止場へとやってきた。 ひより、ミミ、そして車椅子のナナが並んで海を見つめる。その周りには、朱色の袴の紅緒、飯蔵、竹千代、糸吉、洗三、ぬくもり、硯水、おみくじ箱、ステラ……八百万の付喪神たちが寄り添うように立ち並んでいた。


ヒュゥゥゥゥゥゥゥゥ……ッ。


静寂の夜空へ、一本の光の筋が尾を引いて昇っていった。


ドォォォォォォォンッッ!!!!


一瞬の静寂の後、夜空全体を覆い尽くすほどの、巨大な金緑色の大輪の花火がドカンと打ち弾けた!


遅れて届く、腹に響くような重低音と地鳴り。 パラパラと夜空から降り注ぐ光の枝垂れ柳が、暗い海面を黄金色と真紅に美しく染め上げていく。


「わぁぁぁぁぁぁぁ……っ!!」


ひよりの呉弁の感嘆の声が、大空へと溶けていった。


「すごいやき……! ナナ、見てみぃね! お空にお花が咲いたやき!」 ミミが目を輝かせて夜空を指差す。


車椅子のナナは、小さな手で握りしめたピンクの水風船と、赤いハッピの裾を抱きしめ、夜空に咲く大輪の光を大きく見開いた瞳に映し出していた。


「……きれい……っ! お空の……おはな……ぶち……綺麗やき……!」


ナナの唇から、ひよりの口癖である「ぶち」の言葉が零れ落ち、その可愛らしい両頬に、今日一番の輝かしい笑顔が咲き誇った。


「ナナちゃん……っ!」


ひよりの目頭が熱くなり、ミミと二人でナナの小さな手を両側からぎゅっと握りしめた。


ヒュゥゥゥ……ドォン! ドォン! ドドドドドンッ!


次々と打ち上がる銀色や紫色の連続花火。 天球儀のステラが、打ち上がる花火に合わせて可憐に宙を舞い、真夏の夜空にキラキラと美しい光の粒子を降らせる。


「ひよりちゃん……そして付喪神のみんな」


隣に立つ石工頭のダン吉が、花火の光に照らされた顔で優しく呟いた。


「この一週間、最高の祭りを一緒に作ってくれて……ナナちゃんをこんなに笑顔にしてくれて、本当にありがとうだばい。あんたらは、このポルトーの街の宝物だばい」


「うん! ダン吉さん、源造さん、みんな……! うちこそ、ポルトーの街が……みんなのことが、ぶち大好きじゃよ!」


ひよりが呉弁で叫ぶと、打ち上がる大輪の花火の光が、ひより、ミミ、ナナ、そして付喪神たちの温かな笑顔を、どこまでも眩しく照らし出していたのだった。


【PM 10:30 | 宿屋「海猫亭」・ひよりの日記】


賑やかな夏祭りが終わり、静けさを取り戻したポルトーの夜。 お祭りの余韻と美味しいおでんで満たされたナナとミミは、職人さんたちに貰ったハッピと水風船を枕元に大切に置き、安心しきった様子で気持ちよさそうに深い眠りについていた。


ひよりは宿屋の机に向かい、高級生漉き和紙と松煙墨を取り出した。 膝の上では、朱色と黄色のモコモコカバーを着たトタン湯たんぽの『ぬくもり』が、ポカポカとした優しい熱でひよりの膝を温めてくれている。


ひよりは、今夜の大輪の花火と仲間たちの温かな笑顔を思い浮かべながら、故郷のパパとママへ向けて、心を込めて日記を書き始めた。


【天照ひよりの異世界冒険日記〜ポルトー納涼港祭りの花火〜】


パパ、ママへ。


今日ね、一週間みんなで準備してきた「ポルトー納涼港祭り」の当日じゃったよ!


職人さんたちがね、うちとミミちゃん、そしてナナちゃんに、お揃いの素敵な「特製ハッピ」をプレゼントしてくれたんよ。赤ハッピを着たナナちゃん、ぶち可愛かったわぁ。


夜警の合間には、飯蔵が呉名物の「いりこ出汁のおでん」を作ってくれてね。特製の甘味噌ダレをかけて食べたら、職人さんたちも「美味い美味い!」言うて大喜びしてくれたんよ。


最後には、波止場でみんなで並んで、夜空に上がるぶち大きな花火を見たよ。 ナナちゃんがね、花火を見上げて「ぶち綺麗やき!」言うて、最高のお顔で笑ってくれたんよ。その笑顔が見れて、うちは胸がいっぱいになったわ。


ポルトーの街の人らは、みんな温かくて家族みたいじゃよ。 これからも、この大切な街と仲間たちを、うちの自慢の道具(家族)たちと一緒に大切に護っていくけぇね!


ひよりより


日記を書き終えたひよりは、そっとペンを置き、窓の外に広がるポルトーの海を見つめた。


夜の静寂の中、打ち上げ花火の煙が静かに潮風に溶けていき、波止場では赤い提灯の灯りが温かく街を照らしている。


「みんな……明日からも、ぶち楽しく過ごそうかいね」


「はい、ひより様。どこまでも、共におります」


神刀の紅緒が優しく微笑んで毛布をかけてくれ、天球儀のステラが部屋の天井に綺麗な星空を映し出す。


広島呉弁の少女・天照ひよりと、愛おしくも頼もしい八百万の付喪神たち。 絆を深め、小さな妹の回復と未来を温かく見守る彼女たちの愉快で優しい冒険の日々は、ポルトーの穏やかな潮騒とともに、これからもどこまでも続いていくのであった。

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