18:夏の夜の潮風テラスと「呉風の冷やしうどん&アイス」 18【後編】
18:夏の夜の潮風テラスと「呉の冷やしうどん&アイス」
18【後編】:満天の星空大宴会と、お手製アイスクリン
【PM 06:30 | 港町ポルトー・冒険者ギルド「潮風の錨亭」2階 潮風テラス】
ギルドの2階に広がる木造の「潮風テラス」には、昼間のギラギラとした猛暑が嘘のように、波打ち際から爽やかで心地よい海風が吹き抜けていた。
西の空に沈みゆく太陽が、茜色から深い群青色へと空を染め上げ、点々と輝き始めた一番星が港の海面に優しく映り込んでいる。
「う……うおぉぉ……っ! なんて心地よい風だばい……! 1階のホールで干からびていたのが馬鹿らしくなるようだばい!」
津軽弁の魔法使いガルバが、テラスの手すりに身を乗り出し、開いた口から冷たい海風を「はぁ〜っ」と吸い込んで感涙の声を上げた。
「ほんとうたい! 潮の香りと風が身体の熱を一気に奪い去っていくばい! ここは天国たいねぇ……!」
九州弁の巨漢斧使いレンも、重い身体を木の椅子へ投げ出し、大きな手で汗を拭いながら感無量の面持ちで目を細める。
そこへ、ギルドマスターをはじめとするベテランの冒険者たちが続々と階段を上がってきた。
「ほう……ひよりちゃんにミミちゃん、こんな素晴らしい宴場を用意してくれたのか。連日の猛暑でみんな参っていたからな、ありがたいことだ」
渋い髭を蓄えたギルドマスターが温かく目を細めると、ミミは大きな猫耳をピンと立て、胸を張って笑顔を弾けさせた。
「えへへ! マスター、驚くのはまだ早いがあやき! 今夜はあたいとナナ、そしてひよりお姉ちゃんで、暑さを吹き飛ばす特製のご馳走をたっぷり準備したがあやきーッ!」
「……ナナも……おちち(出汁)とアイス……お手伝いしたやき……!」
桃色の小さなエプロンをつけた5歳の妹ナナが、コバルトブルーのリボンを揺らしながら車椅子の上で小さく拳を握ると、冒険者たちから「可愛い〜〜〜っ!」「ナナちゃんが作ったなら全部食うだばい!」と割れんばかりの歓声が上がった。
「よーし! ほいじゃあみんな! 疲れたお腹を癒す、真夏の特製夜食テラス……開店じゃよーっ!」
ひよりの元気いっぱいな呉弁の掛け声とともに、八百万の付喪神たちが一斉に動き出した。
【PM 07:00 | 宴の幕開け・氷水で締めた『呉の冷やし細うどん』】
「カッカッカ! 皆々様、お待たせいたしました! 猛暑で疲れ切った胃袋を優しく満たす、本日の第一のメイン料理でございますぞーッ!」
大童の姿となった木製しゃもじの付喪神・飯蔵が、氷を浮かべた巨大なガラス鉢と、黄金色に輝くお出汁の入った大ピッチャーを抱えてテラス中央へ進み出でた。
「うおっ!? 透き通った冷たそうな麺だばい!」 関西弁の盗賊トニが、身を乗り出して目を丸くする。
「本日の前菜兼主食は! ひより様の故郷・呉の夏を代表する名物!『呉の冷やし細うどん(冷製いりこ出汁仕立て)』でございます!」
大きなガラス鉢の中に盛られていたのは、先ほど洗三の汲んできた超冷水でキュッと締められた、ツルツルと細くしなやかな細うどん! その上には、細切りのキュウリ、サクサクに揚がった天かす、刻み大葉、生姜、そして特製のお揚げが涼しげに添えられている。
そこへ、飯蔵が一晩かけてじっくり旨味を抽出した、キンキンに冷えた「瀬戸内いりこ(煮干し)の黄金出汁」を注ぎ込んだ。
「さあ! 冷たいうちにご賞味あれ!」
ひよりの手から、一番に大鉢を受け取ったのは、食欲不振で倒れかけていたトニだった。
「うぅ……冷たい出汁の匂いが、鼻を抜けていく……。いただきます……!」
トニはハシで細うどんをすくい上げ、ズルズルッ! と勢いよく口の中へかき込んだ。
次の瞬間——トニの瞳が、カッと見開かれた!
「な……なんや……この喉越しの良さはぁぁぁぁッ!?」
一口噛むと、一般的な太いうどんのような硬いコシではなく、しなやかで柔らかい細麺が、まるで清流のようにスルスルッと喉の奥へ落ちていく! そして、麺がたっぷりと吸い上げた「冷たいいりこ出汁」の澄み切った深い旨味が、生姜の清涼感とともに、暑さで弱っていた胃袋にじんわりと染み渡っていくのだ!
「美味い……! 美味すぎるでぇ!! 重たくなくて、噛まんでもスルスル入っていく! 胃袋が生き返る感覚やぁぁぁッ!」
トニが一気にお鉢を空にし、「おかわり! おかわりくれぇぇッ!」とハシを振り回した。
「どれどれ、俺にも食わせるだばい!」
ガルバもレンも、争うようにして冷やし細うどんを頬張った。
「うぉぉぉ……! 出汁が冷たくて、いりこの旨味が身体の隅々まで染み渡るだばい! 暑さで死にそうだったのが嘘みたいだばい!」
「甘辛いお揚げと、シャキシャキのキュウリが絶妙たい! 幾らでも食べられるばいーッ!」
ベテラン冒険者たちが我先にとおかわりを求め、巨大なガラス鉢があっという間に空になっていく。
ひよりもうれしそうに冷やしうどんを口にし、「んん〜〜っ! これこれ! 呉の細うどんは、冷やしにしてもお出汁がしっかり絡んでぶち美味しいんよ!」と満面の笑顔を咲かせた。
車椅子のナナも、小さく切ってもらった冷やしうどんをフォークで上手に食べ、「……お出汁がつめたくて……ツルツルして美味しいやき……」と笑みを浮かべた。
「ふふっ、ナナちゃんがいりこの頭を取ってくれたおかげで、ぶち美味しいお出汁になったんよ!」 ひよりが呉弁で褒めると、ナナは誇らしげに桃色のエプロンの胸元をキュッと握りしめたのだった。
【PM 08:00 | 満天の星空と、ステラの光の演出】
冷やしうどんでお腹を満たし、すっかり元気を取り戻した冒険者たち。
夜が深まるにつれ、潮風テラスの頭上には、ポルトーの澄み切った夜空一面に散りばめられた「満天の星空」が広がり始めていた。天の川がくっきりと夜空を縦断し、海面には星々の光がキラキラと揺れている。
「ふぅ……最高の夜風と、最高の星空だばい……」 ガルバがテラスの椅子に深々と身を沈め、満ち足りた溜め息をつく。
すると、ひよりのリュックから手のひらサイズの天球儀の付喪神・ステラがふわりと空へ舞い上がった。
『皆様、真夏の夜空の宴に、さらに素敵な光をお届けいたします!』
ステラがくるくると可憐に旋回すると、テラスの天井と周囲の提灯に向けて、真夏の星空の光を模した「黄金とエメラルドグリーンの光の粒子」が降るように放たれた。
「わぁぁぁぁぁぁっ……! ぶち綺麗じゃねぇぇぇっ!」
ひよりの呉弁の感嘆の声が、夜風に溶けていく。
光の粒子が、テラスのテーブルやグラス、そして人々のハッピの上にキラキラと降り注ぎ、まるで星空の真ん中で宴会を開いているかのような幻想的な空間を作り出したのだ。
「ぽやぁぁぁ……☆」
テラスの端に汲まれた洗三の冷たい水たまりから、先日の「海の精霊たち」がポコンと顔を出し、ステラの光に誘われて楽しそうに水しぶきを跳ね上げ始めた。
「あ! 海の精霊ちゃんたちも遊びに来てくれたねぇ!」
ナナも小さな手を伸ばし、キラキラと光る粒を「ぽん……ぽん……」と楽しそうに掴もうとしている。
「ミミおねえちゃん……お星様……いっぱい……やき……」
「うん! ナナ、ポルトーの星空は日本一……ううん、世界一綺麗やきね!」 ミミがナナの手をぎゅっと握りしめ、二人の笑顔が星空の光に優しく照らし出されていた。
【PM 08:30 | 本日のメインディッシュ・『昔ながらの呉風アイスクリン&メロンソーダ』】
「カッカッカ! 皆々様、星空の下の大宴会、締めくくりに相応しい本日の特製デザートの登場でございますぞーッ!」
大童の姿となった木製しゃもじの付喪神・飯蔵が、銀色のトレイに載せられた涼しげなグラスを恭しく運んできた。
「待ってましたやきーッ! ひよりお姉ちゃんとナナとあたいで作った、お手製アイスクリンやき!」
ミミが元気いっぱいに声を張り上げると、トレイの上に並べられたデザートがお披露目された。
「本日の呉料理デザートは!『昔ながらの呉風アイスクリン&メロンソーダ(クリームソーダ仕立て)』でございます!」
レトロで透明な高足ガラスのグラスの中に注がれていたのは、シュワシュワと涼しげな泡を立てるエメラルドグリーンの「特製メロンソーダ」! その上には、ひより、ミミ、ナナが昼間に丹精込めて混ぜ合わせた、優しい淡黄色の『手作りアイスクリン』が丸く愛らしくトッピングされていた。
仕上げには、鮮やかな真っ赤なチェリー(サクランボ)がちょこんと添えられ、真夏の星空の光を受けて宝石のように輝いている。
「うわぁぁぁぁぁぁっ……! なんてポップで涼しげな飲み物なんだばい!?」 石工頭のダン吉が目玉を飛び出させた。
「アイスクリン……!? あの甘くて冷たいアイスかたい!?」 大工頭の源造も大スプーンを手に身を乗り出す。
「さあ! ナナちゃん、一番に召し上がれ!」 ひよりが、小さなストローと長いスプーンを刺したグラスをナナの前へ置いた。
ナナは小さな手で長いスプーンを持ち、アイスクリンをちょこんとすくって口へ運んだ。
シャクッ……。
次の瞬間、ナナの大きな瞳がパッと輝き、丸い猫耳がピクピクと嬉しそうに震えた。
「……つめたくて……しゃりしゃりして……たまごと牛乳のやさしいお味が……お口の中に広がるやき……!」
ナナは続いて、ストローでシュワシュワのメロンソーダを飲んだ。
ゴクッ……。
「……炭酸がシュワシュワして……アイスクリンと混ざると……クリーミーでぶち美味しいやき……!」
「あはは! ナナちゃん、また『ぶち』使ってくれたねぇ!」
ひよりが呉弁で大喜びすると、ガルバやレン、トニたちも夢中になってスプーンとストローを動かし始めた。
シャクッ! スーッ!
「う……美味い……!! なんという懐かしくて優しい甘さだばい……!!」 ガルバが手で顔を覆い、感涙の声を上げた。
「洋風の濃密な生クリームのアイスと違って、卵と砂糖の素朴でさっぱりした甘さだから、いくらでも食べられるばい! シャリッとした繊細な氷の食感が、口の中でスーッと溶けていくたい!」
「シュワシュワのメロンソーダと、甘いアイスクリンの組み合わせが最高や! 身体の奥から火照りが完全に消え去っていくでぇぇっ!」 トニも夢中になってグラスの底までスプーンですくい取り、綺麗に平らげてしまった。
ギルドマスターも満足そうにグラスを傾け、髭を撫でて微笑んだ。
「素晴らしい……。甘すぎず、さっぱりとしていて、童心に帰るような優しい味わいだ。これなら夏の疲れも一吹きだな」
「カッカッカ! さようでございます! 呉の街角で売られるアイスクリンは、昔から大人から子供まで、誰もが夏に愛した伝統の味! 卵と砂糖と牛乳というシンプルな素材だからこそ、素材の優しい甘さが心と身体を癒すのですぞ!」
飯蔵が誇らしげに胸を叩くと、昭和レトロなトタン湯たんぽの『ぬくもり』も「私めの急速冷却効果も一役買いましたぞ!」と誇らしげにポカポカの熱を放った。
「おかわりだばい! 飯蔵のオッチャン、アイスクリンダブルでくれだばい!」 「俺もおかわりたい! メロンソーダをなみなみ注いでくれ!」
冒険者たちが大歓声を上げ、アイスクリンのおかわりを求めて大行列を作り上げた。
ひよりもうれしそうにアイスクリンを口にし、「んん〜〜っ! これこれ! 呉のアイスクリンは、このシャリッとした食感と優しい甘さが最高なんよ!」と満面の笑顔を咲かせたのだった。
【PM 09:30 | 星空の下の大団円と、温かな約束】
美味しい冷やしうどんと、甘いアイスクリンメロンソーダでお腹を満たし、心地よい潮風に包まれたテラス席。
冒険者たちの顔からは、昼間の死にそうな疲労感は完全に消え去り、誰もが満ち足りた温かな笑顔を浮かべていた。
「ひよりちゃん……ミミちゃん、ナナちゃん、そして付喪神のみんな」
津軽弁のガルバが、テラスの端で星空を見上げるひよりたちの元へ歩み寄ってきた。
「本当にお前さんたちには感謝しかないだばい。この過酷な猛暑で、俺たち冒険者はみんな参っていたばってん……今夜のおかげで、明日からまた元気に冒険に出かけられるだばい!」
「そうたい!」と大工頭の源造も太い手でミミの頭をなでなでした。
「ナナちゃんが作ってくれたお出汁とアイス、世界一美味しかったぞい! 焦らずゆっくり治療して、元気な姿を見せておくれね!」
「……うん……! ナナ……お薬がんばって……元気になって……またみんなとお料理するやき……!」
ナナが車椅子の上からパチパチと小さな手を叩いて微笑むと、テラス全体から地鳴りのような温かな拍手と歓声が降り注いだ。
「ミミちゃん、ナナちゃん……ほんまに良かったねぇ」
ひよりが呉弁で二人の肩を抱きよせると、ミミも「うん! ひよりお姉ちゃん、ありがとうやき!」とひよりの腰にギュッと抱きついた。
満天の星空の下、涼やかな潮風に乗って、人々の温かな笑い声と海の精霊たちの「ぽや〜♪」という歌声が、ポルトーの夜空へとどこまでも高く響き渡っていくのだった。
【PM 10:30 | 宿屋「海猫亭」・ひよりの日記】
賑やかな夜食テラスの宴が終わり、静けさを取り戻したポルトーの夜。
美味しい冷やしうどんとアイスクリンでお腹を満たし、最高の笑顔を見せてくれたナナとミミは、安心しきった様子で手を繋いだまま、満ち足りた可愛い寝顔で気持ちよさそうに眠りについていた。
ひよりは宿屋の机に向かい、高級生漉き和紙と松煙墨を取り出した。 膝の上では、朱色と黄色のモコモコカバーを着たトタン湯たんぽの『ぬくもり』が、ポカポカとした優しい熱でひよりの膝を温めてくれている。
ひよりは、今夜の満天の星空と仲間たちの温かな笑顔を思い浮かべながら、故郷のパパとママへ向けて、心を込めて日記を書き始めた。
【天照ひよりの異世界冒険日記〜真夏の潮風テラスとアイスクリン〜】
パパ、ママへ。
今日ね、ポルトーがぶち猛暑日でからに、ギルドの冒険者さんたちやナナちゃんが暑さで食欲をなくしとったんよ。
じゃけぇね、ひよりとミミちゃん、そして桃色エプロンをつけたナナちゃんで、ギルドの2階テラスで「真夏の特製夜食テラス」を開店したんよ!
氷水でキリッと締めた「呉の冷やし細うどん」を出したらね、みんな「スルスル入る! 生き返るだばい!」言いうて大喜びしてくれたんよ。
食後には、昼間にみんなで混ぜて作った「呉風アイスクリンとメロンソーダ」を出したんよ。 卵と牛乳の優しい甘さでね、シャリッとしたアイスクリンを食べたナナちゃんが「ぶち美味しいやき!」って、満天の星空の下で最高のお顔で笑ってくれたんよ。
ポルトーの夏はぶち暑いけど、冷たいご馳走と温かい仲間がおるけぇ、毎日が宝物みたいに楽しいよ。 ナナちゃんの病気も、少しずつじゃけど良くなってきて、本当によかったわ。
これからも、呉で教わった優しい心を持って、自慢の付喪神たちと一緒に、みんなの笑顔を守っていくけぇね!
ひよりより
日記を書き終えたひよりは、そっとペンを置き、窓の外に広がるポルトーの夜空を見つめた。
静寂の中、満天の星々がキラキラと海面を照らし、心地よい潮風が部屋のカーテンを優しく揺らしている。
「みんな……明日からも、ぶち楽しく過ごそうかいね」
「はい、ひより様。どこまでも、共におります」
神刀の紅緒が優しく微笑んで毛布をかけてくれ、天球儀のステラが部屋の天井に綺麗な星空の光を映し出す。
広島呉弁の少女・天照ひよりと、愛おしくも頼もしい八百万の付喪神たち。 絆を深め、小さな妹の回復と未来を温かく見守る彼女たちの優しく愉快な異世界スローライフは、ポルトーの穏やかな潮騒とともに、これからもどこまでも続いていくのであった。




