8 魔鏡炬燵とお猪口と徳利と至高の耳掻き 後編
新作 第3弾目の投稿です。
題名 転生したらしいけどスキルデッドストックって何???
今回の主人公は海軍さんの街呉からの転生した女子高生のお話です
はちゃめちゃのスキルで異世界を乗り越えます。
誤字脱字が多くなると思いますが、よろしくお願いいたします。
途中で、脱線することもあると思いますが、ゆっくりと見守ってください。
作品の内容が前後することが多々あると思いますが、大目に見て頂ければ、うれしく存じます。
パラレルワールド編 ダビンチは世界遺産のナスカから謎の大陸ムーのお話です!
当初から作品を見ていただき本当にありがとうございます。
大変励みになっております。
これからもよろしくお願いします。
では、参ります!!
## 第三章:氷の古龍と「熱燗の猪口」
金蔵の金貨を燃料にした炬燵猫の結界は、古龍が放つ絶対零度の前震を完全に遮断し、広場の中にだけ「日本の大晦日の茶の間」のような、異常に平和でのどかな空間を作り出していた。
しかし、本番はここからだった。
天を突くほどの巨体を誇る、全身が透明な氷晶で構成された『狂乱の古龍』が、ついにルミナスの街の目前へと到達したのだ。
「グルアァァァァァァッ!!」
古龍が大きく顎を開くと、その口内から、空間そのものを白くひび割れさせる【絶望の凍土】の極大ブレスが放たれた。絶対零度の奔流が、炬燵猫の唐草模様の結界へと真っ向から激突する。
ズズズズズズ……ッ!!!
さすがの炬燵猫の結界も、世界を滅ぼす古龍の直接攻撃を受け、外側の布団の繊維がパラパラと凍りつき始めた。
「うぅ……っ、やっぱりあのトカゲ、なかなかの火力……いや、氷力やな。ワシの温もり(魔力)が、どんどん外側から相殺されとるわ。ひよりの嬢ちゃん、これだけやと、あと数分でワシのヒーター(赤外線)が壊れてまうで!」
炬燵猫が額に汗を浮かべながら、必死にこたつの出力を維持しようとする。
「そんな! 炬燵猫さんの温もりでも耐えられないの!? 硯水さん、もっと火力を! 熱い熱い付喪神様を呼んで!」
「火力を足すのではない、ひより」
私は文机の後ろから立ち上がり、冷静に指示を出した。
「炬燵の魔力を最大限に引き出すには、相乗効果が必要だ。……日本の冬、炬燵の上にあるべき『最高の相棒』を忘れては困る。本殿の裏の離れ、歴代の神主たちが、夜な夜な寒さを忘れるために酌み交わしていた、あの『一献』の器を呼び出すのだ」
「炬燵の相棒……? あ! お父さんが毎晩、お母さんに怒られながらストーブの上で温めてた、あの……!」
「そうだ。あれは、人間の身体を芯から熱狂させ、魂をドロドロに融解させる、至高の加熱兵器だ」
ひよりは残りの魔力を振り絞り、炬燵の天板の上に直接、デッドストックの魔法陣を展開した。
「デッドストック! 我が家の離れに眠る、人間の理性を心地よく狂わせるお宝、ここに現れろ!」
ポン、と小気味良い音とともにこたつの天板に出現したのは――蛇の目の模様が底に描かれた、古びた陶器製の『お猪口』と、湯気を立てる『徳利』の一組だった。
「おやおや、随分と冷えるお座敷ですねぇ。……これでは、せっかくの『熱燗』が冷めてしまいますよ」
徳利の湯気の中から現れたのは、着物の胸元を大きくはだけ、顔をほんのり桜色に染めた、妖艶な大人の男性の付喪神――名を『酒器丸』という。千年の間、神主たちに極上の日本酒を注ぎ続け、その「アルコールによる血管拡張と、魂の弛緩」の執念を極限まで高めた、お猪口の付喪神だ。
「酒器丸さん! あの外にいる冷たいトカゲのせいで、炬燵が凍っちゃうの! 助けて!」
「ふふ、無粋なトカゲですね。冷え切った体には、ワシの注ぐ『神の熱酒』が一番ですよ。――【酔眼朦朧・五臓六腑】!」
酒器丸が徳利を傾けると、お猪口の中に、黄金色に輝く液体が並々と注がれた。その瞬間、お猪口から放たれたのは、ただの湯気ではない。浴びた者の血液を一瞬で沸騰させ、魂を強烈な「酔い(多幸感)」で満たす、熱狂の波動だった。
その波動が炬燵猫のヒーターと融け合うことで、こたつの結界の出力が、なんと十倍に跳ね上がったのである。
「はぁぁぁ……熱い、熱いなぁ! これや、炬燵には熱燗が一番や! ワシのヒーター、完全復活やでぇぇ!」
炬燵猫の布団の結界が、真っ赤な「炎の唐草模様」へと進化し、古龍の絶対零度のブレスを逆にじわじわと押し返し始めた。結界の熱に触れた古龍の吹雪が、次々とただの「心地よい水蒸気」へと変わっていく。
## 第四章:古龍の体内侵入と「耳かきの極楽」
「グルゥゥゥ……ッ!?」
自慢のブレスを完全に無力化され、逆に全身の氷の皮膚がドロドロと溶け始めた古龍は、その巨体そのものを突撃させ、炬燵猫の結界を物理的に食い破ろうと暴れ狂った。
巨大な爪が、炎の布団の結界をギリギリと引き裂き、その隙間から、古龍の「三番目の首(本体の核)」が結界の内部へと強引に侵入してきたのだ。
「ひよりさん、危ない! 古龍の本体の核が、私たちのすぐ目の前に……!」
セリアが叫ぶが、彼女はまだこたつの温もりから抜け出せず、腰が抜けたままだ。
「どうしよう、目の前に古龍の顔が! 紅緒姉さん、今度こそ斬って!」
「ああん!? 斬りたいのは山々やが、あのトカゲの目の前に立つだけで、ウチの刀身が冷気でパキパキに凍りつきそうなんや! 近づけへんわ!」
流石の紅一文字(紅緒)も、古龍の至近距離の冷気には手を焼いていた。
「ひより、焦るな」
私は文机の原稿用紙に万年筆を構えながら、鋭い眼光を古龍に向けた。
「奴は炬燵の温もりと、酒器丸の熱燗の波動を浴びて、すでにその精神の根底がガタガタに緩んでいる。……あと一押しだ。奴の脳髄に、完全に戦闘を放棄させるほどの『究極の快楽』を叩き込み、その動きを数秒間だけ完全に停止させろ。そうすれば、私の文字で奴の核を直接消滅させられる」
「古龍の脳髄を、快楽で停止させる……!? そんなの、どうやって!?」
「我が神社のデッドストックにおける、最も地味で、しかし最も人間に『あぁ~……、そこそこ……』と言わせ続けてきた、本殿の引き出しの奥に眠る『あの小さな一本』を使うのだ」
「あの小さな一本って……あ! おじいちゃんがいつも耳の後ろに挟んでた、あの……!」
「そうだ。彼を呼び出せ。古龍の巨大な耳の穴に、至高の快感を突き刺すのだ」
ひよりは最後の力を振り絞り、古龍の巨大な頭部に向けて、デッドストックの光を放った。
「デッドストック! 我が家の引き出しの奥に眠る、人間の脳を蕩けさせる小さなお宝、出てください!」
シュッ、と空中に出現したのは――先端に真っ白なフワフワとした『梵天』がついた、細い竹製の『耳かき(耳掻き)』だった。
「……はいは~い。お耳の掃除の時間ですかぁ? どんな頑固な耳垢も、このワシが綺麗に、気持ちよ~くお掃除してあげますよぅ」
耳かきの先端から現れたのは、白い綿毛の帽子を被った、非常にのんびりとした小さな老人の姿をした付喪神――名を『梵天翁』という。千年の間、歴代の神主たちの耳の穴を掃除し続け、人間の「迷走神経」を刺激して極楽へと誘うことだけに特化した、耳かきの付喪神だ。
「梵天翁おじいちゃん! あの大きなトカゲの耳の穴を、思いっきりカリカリして、気持ちよくさせて動けなくして!」
「ほほう、随分と大きなお耳のトカゲさんじゃな。……よしよし、ワシの【極楽浄土・鼓膜愛撫】、とくと味わうが良いわい」
梵天翁は自らの本体である耳かきを巨大化させると、古龍の頭部の横にある、巨大な耳の穴(集音器官)へと音もなく滑り込ませた。
そして、先端の竹のヘラで、古龍の耳の奥を……優しく、絶妙な角度で、カリカリ……カリカリ……と、優しく掻き始めた。
「……ッ!?!?!?」
古龍の全身の氷の鱗が、一瞬にして逆立った。
それは、千年の生涯の中で一度も経験したことのない、脳髄を直接マッサージされるような、圧倒的な「気持ちよさ」の衝撃だった。
「カリカリ……カリカリ……。さぁ、次はフワフワの梵天で、優しくコショコショしますぞぅ……」
梵天翁が耳かきを反転させ、白い綿毛で古龍の耳の奥を、優しく撫で回す。
「グ……グオォォォ……あ、あぁぁぁ~~~……。そこ……そこが、ええのじゃぁ~~~……」
なんと、狂乱の古龍は、あまりの気持ちよさにその三つの首の目を完全にトロンとさせ、犬のように後ろ足で自分の頭をカリカリと動かそうとしながら、その場にズゥゥゥンと頽れてしまった。絶対零度の冷気は完全に消失し、ただの「耳かきされて蕩けている大きなトカゲ」と化していた。
「ひより、今だ! 世界を書き換えるぞ!」
「はい、硯水さん! 一気にいっちゃって!」
私は文机に向かい、これまでにない速度で筆を走らせた。ひよりの魔力タンクから、最後の黄金色の光が私の万年筆へと吸い込まれていく。
『――千年の眠りから目覚めし狂乱の古龍は、そのあまりの心地よさに、戦う理由を完全に忘却した。奴の魂の核は、温かい春の光に包まれて消滅し、その巨体は、ルミナスの街を潤す『ただの綺麗な春の雪』となって天へと還っていった。』
サラサラサラ……と、最後の文字が書き終えられた瞬間。
原稿用紙が、世界の冬を終わらせる「圧倒的な春の光」となって爆発した。
「グ、オ……あぁ~、極楽、極楽じゃったぁ……」
古龍は、満足度百パーセントの、この上なく幸せそうな笑みを浮かべたまま、その巨体そのものがキラキラとした、温かい『春の雪』の結晶へと変化し、空へと溶けるように消え去っていったのである。
ルミナスの街を覆っていた極寒の雲は完全に払われ、再び、どこまでも澄み渡った初夏の青空が戻ってきた。
## 終章:炬燵の余韻と、呉の海軍カレーを想う
世界を滅ぼすはずだった古龍の氾濫を、「炬燵」と「熱燗」と「耳かき」という、世界のどの魔法書にも載っていないような、究極の怠惰と快楽のコンボで完全解決したひより。
街は救われ、降り注いだ春の雪は、街の農地を潤す豊かな水源となった。
数日後。平穏を取り戻したルミナス魔法学院の図書室には、まだ片付けられていない巨大な炬燵(通常サイズに戻ったもの)が置かれ、その中にひより、セリア、そして私や他の付喪神たちが、仲良く足を突っ込んでいた。
「いやー、一時は本当にどうなるかと思ったけど、梵天翁おじいちゃんの耳かきが神がかってたね!」
ひよりは炬燵猫が剥いてくれた、異世界の(みかん風の)果物を口に放り込みながら笑う。
「ホッホッホ、ワシの手にかかれば、龍の耳だろうが神の耳だろうが、イチコロじゃよ」
梵天翁が満足そうに髭を蓄える。
「でもなぁ、天照さん。この『コタツ』という魔道具は、本当に危険ですね……。一度入ると、王族としての義務も、明日の公務も、すべてがどうでもよくなってしまいます……。ふにゃぁ……」
セリアはすっかりこたつの魔力に毒され、酒器丸が淹れた(普通の)お茶を飲みながら、完全にダメ人間と化していた。
私は文机に向かい、この『第四幕』の物語の最後のページに、満足のいく文字を刻み終えたところだった。
「硯水さん、今回のタイトルは何にしたの?」
ひよりがこたつから首を伸ばして覗き込んでくる。
私は微笑み、表紙に美しい文字でこう書き込んだ。
『名もなき神社のデッドストック・第四幕~絶対零度の古龍を、最強の炬燵と耳かきで骨抜きにしてみた~』
「ふふ、最高のエンディングだ。さあ、ひより。次のお話のプロットを練ろうか。お主の周りには、まだまだ面白い道具(付喪神)たちが、眠りから覚めるのを待っているのだから」
「うん! よーし、これからもみんなで、この異世界をどんどん賑やかにしていこうね!」
初夏の爽やかな風が、図書室の窓から吹き込み、ひよりの黒い髪を揺らす。
「パパ、ママ。私ね、こっちの世界で、実家のみんなと一緒に、最高に温かい日常を送れてるよ。だから……呉の美味しい海軍カレー、24の船の名前が付いてたね。いろんな味があってどれも好きだけど、私はトマトたっぷり使ったあのカレー………お腹いっぱい食べさせてね!」
少女の明るい笑い声と、千年の時を生きた付喪神たちの賑やかな話し声は、異世界の美しい空の下、どこまでも、どこまでも響き渡っていった。
みなさま、どんな風に感じてもらったのでしょうか?
少しでも面白いかもと思って頂けましたら幸いです。
励みになりますので、☆☆☆☆☆をチェックしてもらえると嬉しく存じます。
これからもお付き合いのほどよろしくお願いいたします。
今回は女子高生のお話です。
よろしくお願いします。




