14:ミミと妹ナナのポルトー到着&「夏のひまわり大作戦」 【後編】:ひまわり畑のピクニックと、小さな笑顔
本日の呉料理:『呉名物・呉冷麺(呉風レモン醤油だれ)』
平打ちのツルツル麺に、甘酸っぱくピリ辛なレモン醤油タレをあわせた夏の名物。暑さで食欲が落ちていたナナも「おいしいやき!」とペロリと平らげる。
14:ミミと妹ナナのポルトー到着&「夏のひまわり大作戦」
【後編】:ひまわり畑のピクニックと、小さな笑顔
【AM 10:00 | ポルトー郊外・風の丘ひまわり畑】
ポルトーの街並みと青い海を一望できる「風の丘」に、眩しい夏の太陽を浴びて咲き誇る、一面のひまわり畑が広がっていた。
「わぁぁぁ……! ぶち綺麗じゃねぇ、ナナちゃん! 見てみぃね!」
車押しの車椅子をゆっくりと進めながら、ひよりが呉弁で声を弾ませた。 車椅子にちょこんと座る5歳の亜人少女ナナは、自分の背丈よりもずっと高い大輪のひまわりを見上げて、くりくりとした大きな瞳をまあるくさせている。
「ひまわり……いっぱい……やき……」
「すごいやろ、ナナ! あたいとひよりお姉ちゃんで、ナナのために一番景色のええ場所を探したんやき!」 ミミが大きな猫耳をピンと立て、尻尾を機嫌よくフリフリと揺らしながら前を走る。
東の国からポルトーへ到着し、医療ギルドでの最初の検査と治療を終えたナナ。長旅と初めての治療の緊張で、この数日は少し元気がなく食欲も落ちていた。そんなナナを元気づけようと、ひよりとミミ、そして付喪神たちが計画したのが、この「夏のひまわりピクニック」だった。
ひよりたちは、大きな木陰になっている芝生の上にピクニックシートを広げた。
「ナナちゃん、ここに座ろうかいね」
ひよりが抱きかかえてシートの上に座らせてあげると、リュックから手のひらサイズの天球儀の付喪神・ステラがふわりと空中へ舞い上がった。
『ナナ様、ひまわり畑にようこそ! わたしから小さなプレゼントです!』
ステラがくるくると可憐に旋回すると、天球儀から真夏の太陽の光を浴びてキラキラと輝く「黄金の光の粒子」が、まるで星の砂のようにひまわりの花々の間へと降り注いだ。
ひまわりの黄色と、ステラの放つ星光が織りなす幻想的な光景。
「あ……きれぃ……」
光の粒を小さな手でつかもうと伸ばしながら、ナナの唇からぽろりと小さな声がこぼれ、その可愛らしい頬に、ポルトーに来て初めての小さな笑顔が咲いた。
「笑ったやき……! ナナが笑ったやき……っ!」 ミミが涙ぐみながらひよりの手をギュッと握りしめた。ひよりの呉弁の心も、ぽかぽかと温かい感動でいっぱいになる。
【PM 12:00 | 木陰の昼食タイム・飯蔵特製『呉冷麺』】
「カッカッカ! 皆々様、お腹が空いた頃合いでございますぞ! 本日の特製ピクニック重、お披露目でございます!」
大童の姿となった木製しゃもじの付喪神・飯蔵が、風呂敷に包まれた重箱を恭しく広げた。
「飯蔵、今日のご飯は何を作ってくれたんかいね?」 ひよりが尋ねると、飯蔵は髭を揺らして胸を叩いた。
「ひより様! 本日のご馳走は、暑さで食欲が落ちているナナ殿と皆様のための、ひより様の故郷の名物『呉冷麺(呉風レモン醤油だれ)』でございますぞ!」
重箱が開かれると、氷水でキリッと締められた平打ちのツルツルとした麺の上に、エビ、ゆで卵、細切りのキュウリ、そして自家製チャーシューが美しく盛り付けられていた。そこへ、瀬戸内レモンの爽やかな果汁を利かせた、甘酸っぱくほんのりピリ辛な特製醤油ダレがたっぷりとかけられている。
「冷たい麺……やき?」 ナナが不思議そうに器を見つめる。
「ほうよ、ナナちゃん。呉の夏はぶち暑いけぇね、みんなこの『呉冷麺』を食べて元気を出すんよ。麺が平べったくてツルツルじゃけぇ、お口にスッと入るんよ」
ひよりが呉弁で優しく教え、小さめのフォークで冷麺をすくってナナのお口へ運んであげる。
ナナはちいさな口をあけて、パクリと冷麺を食した。
モグモグ……。
一秒の静寂の後、ナナの大きな瞳がパッと輝いた。
「……つめたくて……レモンのお味がして……美味しいやき……!」
レモンの甘酸っぱさと出汁の旨味が効いた平打ち麺は、喉越しが爽やかで、食欲の落ちていたナナの胃袋にスーッと馴染んでいく。ナナは自分でフォークを持ち、夢中になって冷麺を口に運び始めた。
「すごい! ナナがおかわりしておるやき!」 ミミも大喜びで自分の冷麺を豪快にすする。
「う〜〜ん! 美味しいやき! 甘酸っぱくて、ピリッとして、麺がモチモチで最高やきーっ!」
「カッカッカ! 呉冷麺は一般的な冷やし中華とは違い、平打ち麺に甘酸っぱいタレを合わせるのが伝統! 隠し味に酢ガラシを少々加え、爽やかさを引き立てておりますぞ!」 飯蔵が誇らしげに語る横で、職人街で手に入れた漆黒墨で目盛りを研ぎ直した『竹千代』も、「ナナ殿の栄養摂取量、目標値の八〇パーセントを速やかに達成」と嬉しそうに数値を弾き出した。
【PM 03:00 | ポカポカのお昼寝と、決意の言葉】
美味しい呉冷麺をいっぱい食べてお腹を満たしたナナは、ひまわり畑を渡る心地よい夏の風を受けながら、次第にまぶたを重くしていった。
膝の上には、朱色と黄色のモコモコカバーを着たトタン湯たんぽの『ぬくもり』が、暑すぎない絶妙な「人肌のぽかぽか熱」を静かに伝えている。
「ナナちゃん、眠たくなったかいね……?」
ひよりが優しく頭を撫でてあげると、ナナはぬくもりをぎゅっと抱きしめ、「ひよりお姉ちゃん……ありがと……」とつぶやき、そのままスースーと気持ちよさそうに深い眠りへと落ちて行った。
すやすやと眠る妹の可愛い寝顔を見つめながら、ミミがひよりの隣に座り直し、小さな声で語り始めた。
「ひよりお姉ちゃん……あたい、今日ほんとうに嬉しかったがやき。ポルトーに来てから、ナナがあんなに楽しそうに笑って、ご飯をいっぱい食べたのは初めてやき」
「うん……良かったねぇ、ミミちゃん。ナナちゃん、ぶち頑張っとるけぇね」
ミミは自分の腰に差した短剣の柄を、そっと愛おしそうに握りしめた。
「あたい……ひよりお姉ちゃんや付喪神のみんなに『道具を大切にする心』や『焦らないことの大切さ』を教えてもらわなかったら、きっと一人でパニックになって崩れてたと思うがやき。けど今は、ナナの治療を焦らずしっかり支えていく覚悟ができたがやき」
ミミの琥珀色の瞳には、かつての焦りや迷いは消え、前を向く強い希望の光が宿っていた。
ひよりは呉弁で柔らかく微笑み、ミミの小さな肩をぎゅっと抱きよせた。
「ミミちゃんはもう、立派なお姉ちゃんであり、最高の冒険者じゃよ。ナナちゃんの治療も、これからの冒険も、うちや付喪神みんながずっと側におるけぇね!」
「……うん! ひよりお姉ちゃん、ありがとうやき!」
満開のひまわりが咲き誇る風の丘で、優しい夏風が三人の髪を揺らしていく。
ポルトーの夏の太陽の下、妹ナナの小さな回復への一歩と、ひよりとミミの温かな絆は、ひまわりのように真っ直ぐ、輝かしく咲き誇っていたのだった。




