12-第4話:最後の大型石材と「みそ仕立ての煮込み(どて焼き風
【本日の呉料理:『みそ仕立ての鶏皮煮込み(呉風どて焼き)』】
難所を乗り越えた日の夕方、濃厚な赤味噌と酒かすの香る熱々の煮込み。柔らかく煮込まれた鶏皮と玉ねぎと大根に、職人たちが「これぞ男の酒の肴だばい!」と大歓声を上げる。
第4話:最後の大型石材と「みそ仕立ての煮込み(どて焼き風)」
【AM 09:00 | ポルトー南海岸・新防波堤建設現場】
一ヶ月に及ぶ大規模な建設作業も、いよいよクライマックスを迎えていた。 荒波が砕け散る新防波堤の最先端。そこには、工事の命運を握る「巨大な親石(要石)」が鎮座していた。
高さ三メートル、重さ数トンにも及ぶ白亜の巨石。これを防波堤の先端の海底基盤へ、寸分の狂いもなくピッタリと据え付けること——それこそが、この公共事業における最大の難所であった。
「よし……っ! 野郎ども、気合いを入れ直すばい!」
石工頭のダン吉が鉢巻を固く締め直し、大工頭の源造が太い太鼓のバチを握りしめる。現場に漂うのは、今までのどの作業とも違う、息をのむような緊迫感だった。
「ひよりちゃん! この親石の設置、誘導と音頭はあんたに任せただばい! 全員の心をひとつにまとめてくれ!」
「任せつかぁさい! うちの呉の港仕込みの音頭で、バッチリ一番ええ場所に据え付けてみせるけぇね!」
作業着の袖をまくり上げたひよりが、力強い呉弁で胸を叩いた。
【PM 01:30 | 決戦の親石設置と付喪神たちの神技】
「そーれ! よいやさーっ!!」
ひよりの威勢のいい掛け声が、荒々しい潮騒を突き破って響き渡った!
「「「よいやさーっ!!」」」
数十人の職人たちが一丸となり、太い麻縄を全身の力で引き絞る。巨石がゆっくりと、メリメリと音を立てて滑り出していく。
その先端で、竹定規の付喪神・竹千代がシャキーンと実体化した。
「要石の着地位置、補正計算完了! 潮流によるミリ単位のズレを感知。左へ三・二センチメートル移動後、角度を二・五度右へ倒すべし!」
竹千代のミリ単位の正確な誘導指示が飛ぶ!
「よし! 左に引けぇぇぇい!」
しかし、巨石が基盤の直前で岩肌に引っかかり、ぴたりと動きを止めてしまった。職人たちの腕に限界が近づき、縄が悲鳴を上げる!
「いかん、石が浮き上がらんばい……!」
「カッカッカ! 皆々様、焦る必要はございませぬぞ! ワシのしゃもじの力、お見せいたしましょう!」
大童の姿となった木製しゃもじの付喪神・飯蔵が、巨大なしゃもじを巨石の隙間へ滑り込ませた!
「テコ入れ絶技・木地開眼ッ!」
グググッ……!
飯蔵の驚異的な腕力とテコの原理により、数トンの巨石が一瞬フワリと浮き上がった!
「今じゃぁぁぁぁッ! そーれ! よいやさーっ!!」
ひよりの叫びとともに、全員が最後の力を振り絞って縄を引いた。
ズガァァァァァンッッ!!
水しぶきと地鳴りのような重低音とともに、親石が海底基盤の凹凸へ完璧に吸い込まれるように収まった。
一秒の静寂。
「……は、入った……! ピッタリ噛み合わさっただばい!!」
ダン吉の叫びを皮切りに、「うぉぉぉぉぉぁぁッ!!」と現場全体から地響きのような大歓声とハイタッチの嵐が巻き起こった!
「やったぁぁぁぁっ! 完璧じゃぁぁぁっ!」
ひよりが呉弁で跳び上がり、竹千代と飯蔵、そして付喪神たちと手を取り合って大喜びしたのだった。
【PM 05:00 | 難所達成の夕暮れと飯蔵特製『鶏皮の煮込み』】
難所を乗り越え、茜色に染まる夕暮れの海岸。 仕事をやり遂げた最高の達成感と心地よい疲労感の中、職人たちが焚き火の周りに腰を下ろしていた。
「カッカッカ! 諸君、歴史的難所の突破、本当におめでとうございます! 本日の夕飯は、男たちの偉業を祝う最高のおつまみ煮込みでございますぞ!」
大童の飯蔵が、大鍋から立ち上る濃厚な赤味噌と甘い酒かすの香ばしい湯気とともに姿を現した。
「うわぁぁ……! ぶち濃厚でええ匂いがするわぁ!」
ひよりが目を輝かせると、飯蔵が大鍋の蓋をパッと開けた。
「本日のご馳走は、ひより様の故郷・呉の名物居酒屋の味!『みそ仕立ての鶏皮煮込み(呉風どて焼き)』でございます!」
大鉢に盛られていたのは、じっくり煮込まれてトロトロになったプルプルの鶏皮、甘みのある大根と玉ねぎ、そして濃厚な赤味噌の出汁がしっかりと絡みついた逸品だ。
「鶏皮の味噌煮込み……!? 鶏の皮を味噌で煮込んだ料理だばいね?」
石工頭のダン吉が、ハシでたっぷりと煮込みをすくって口に運んだ。
次の瞬間、ダン吉の目がカッと見開かれた!
「な……なんんだこの香ばしさと柔らかさはぁぁぁっ!?」
噛む必要もないほど柔らかく煮込まれた鶏皮から、コラーゲンの旨味と鶏の脂がじゅわっと溢れ出す! 濃厚な赤味噌のコクと、ほのかに香る酒かすの甘みが、トロトロの玉ねぎと出汁の染みた大根と見事なハーモニーを奏でているのだ!
「美味い……! 美味すぎるばい! 濃厚な味噌と鶏皮の旨味が、疲れた体の中にガツンと響いてくるたい!」
大工頭の源造も夢中になってハシを動かし、煮込みを豪快に頬張った。
「これぞ男の酒の肴だばい! 飯蔵のオッチャン、酒(あるいは果汁ジュース)が無限に飲めるだばい!」
職人たちが大歓声を上げ、煮込みを求めて大鉢の周りに集まっていく。
ひよりもうれしそうに鶏皮を口にし、「んん〜〜っ! これこれ! 呉の居酒屋や屋さんで食べる鶏皮煮込みは、お味噌が濃厚でぷるっぷるでぶち美味しいんよ!」と満面の笑顔を咲かせた。
「飯蔵殿、呉の鶏皮煮込みにはどのような特徴があるのですか?」 文机の硯水が尋ねると、飯蔵が髭を揺らして誇らしげに語り始めた。
「カッカッカ! さようでございます! 呉の戦後の屋台街で生まれたとされるこの煮込みは、安価で栄養豊富な『鶏皮』を無駄なく使い、赤味噌や味噌をベースに手作りの出汁と酒かすを入れてじっくり煮込むのが伝統なのですぞ! 毎日現場で汗を流す職人や戦後の人々を支えてきた、力強いスタミナ食なのです!」
「俺たちの努力を労ってくれる、最高の味だばい……!」 ダン吉は大涙を流し、「おかわりだばい! 鶏皮と大根、汁までたっぷりくれだばい!」と鉢を差し出した。
【PM 07:00 | 大団円へのカウントダウン】
濃厚な味噌煮込みでお腹を満たし、心も体もすっかり温まった職人たち。
夕暮れから星空へと移り変わるポルトーの海を見つめ、防波堤の先端にどっしりと鎮座する親石を眺めながら、誰もが誇らしげな笑みを浮かべていた。
「ひよりちゃん……明日はいよいよ最後の仕上げ、防波堤の完成だばい」 ダン吉が感無量といった面持ちでつぶやいた。
「うん! 明日は最後の最後まで手抜きなしで、最高の防波堤を完成させようね!」
ひよりが呉弁で元気に答えると、朱色の袴の紅緒やステラ、ぬくもり、そして付喪神たちも温かく頷き合った。
一ヶ月間の汗と涙、そして故郷の美味しい料理が紡いできた絆。 ポルトーの新防波堤は、明日、ついに完成の時を迎えようとしていた。




