11【後編】:世界にひとつだけのカバーとお手入れの午後(生活・絆のお茶会編)
11【後編】:世界にひとつだけのカバーとお手入れの午後(生活・絆のお茶会編)
【AM 09:00 | 港町ポルトー・宿屋「海猫亭」の中庭】
心地よい潮風が吹き抜ける「海猫亭」の中庭で、お手入れ期間の最終日となる朝が訪れていた。
芝生の上には、昨日ピカピカに磨き上げられ、新しい毛糸のカバーやお守りケースを贈られた付喪神たちがズラリと勢揃いしている。常時帯同の紅緒や飯蔵たちはもちろん、学園時代からの絆である三四郎や消蔵たちも、朝日を受けて誇らしげに光を反射させていた。
「ふぁぁ……! みんな、本当に見違えるくらいピカピカになったねぇ」
ひよりが呉弁で嬉しそうに目を細めると、文机の付喪神・硯水がそっと浮遊し、知的な声で頷いた。
『ふむ……ひより殿。道具の輝きは、そのまま持ち主の心の現れにございます。我ら全員、ひより殿の深い情熱と愛によって、本来以上の神気と力を取り戻しましたぞ』
「ほうじゃね! これで明日からの冒険も、みんないっしょならどんなことがあってもへっちゃらじゃね!」
その時、宿屋の玄関の方から「ひよりお姉ちゃ〜〜ん!」と元気いっぱいの叫び声が聞こえてきた。
大きな猫耳をピクピクさせ、尻尾をちぎれんばかりに振ってきたのは、後輩の亜人少女ミミだった。
【AM 10:30 | 後輩ミミの見送りと、新たな一歩】
「ひよりお姉ちゃん! 今日からまた本格的にお仕事再開やき!?」
息を切らして駆け込んできたミミの腰には、先日ひよりと一緒にピカピカに磨き上げた短剣が、誇らしげに収まっていた。
「ミミちゃん! ううん、今日はね、この一週間の締めくくりに、みんなで街のお散歩とお買い物をして締めくくろう思っとるんよ」
「お買い物やき!? あたいも一緒に行くやきーっ!」
ひよりとミミ、そして付喪神たちは大賑わいでポルトーの市場へと繰り出した。
市場では、競り市の大将や関西弁のイカ売りのおっちゃん、手芸屋のおばちゃんたちが「おう! ひよりちゃん! 道具たちも嬉しそうだなぁ!」「ミミちゃんもええお顔になって!」と温かい声をかけてくる。
ミミは、自分が地道な薬草摘みや猫探しで稼いだ銅貨を大切そうに取り出し、小さな果物屋の前に立った。
「おじさん! 一番甘くて栄養のある『太陽ミカン』を二個ほしいがやき!」
「あいよっ! 頑張り屋のミミちゃんには特大のをまけておくばい!」
ミカンを受け取ったミミは、嬉しそうにひよりを見上げた。
「ひよりお姉ちゃん、あたいね……明日から東の国へ行く定期馬車に乗って、妹に会いに行ってくるがやき!」
「えっ……! 妹さんに!?」
「うん! 自分で稼いだお金と、ひよりお姉ちゃんに教えてもらった『道具を大切にする心』を持って、妹を元気づけてくるやき! 帰ってきたら、もっともっと強い冒険者になって、ひよりお姉ちゃんに恩返しするがやき!」
胸を張って土佐弁風に宣言するミミの瞳には、かつての焦りは消え、真っ直ぐで強い希望の光が宿っていた。
ひよりの目頭がじーんと熱くなった。
「ミミちゃん……っ! うん! 気を付けていってらっしゃいね! 妹さん、絶対に元気になるけぇね!」
ひよりはミミを力いっぱい抱きしめた。
【PM 03:00 | ギルド「潮風の錨亭」での再会と誓い】
ミミを見送った後、ひよりたちは久しぶりに冒険者ギルド「潮風の錨亭」へと立ち寄った。
ギルドの扉を開けると、九州弁の巨漢斧使いレンや、津軽弁の魔法使いガルバたち先輩冒険者たちが、相変わらず賑やかに宴卓を囲んでいた。
「おう! ひよりちゃん! メンテ週はしっかり休めたかだばい!?」
ガルバが笑いながらジョッキを掲げ、レンも太い腕を組んで豪快に笑う。
「ひよりちゃん、あんたが休んどる間、ギルドはちょっと静かで寂しかったたい! 明日からの復帰、みんな楽しみにしとるぞ!」
「レンさん、ガルバさん! うん、うちもみんなもパワー100倍じゃよ! 明日からどんな難しい依頼でもどんと来いじゃ!」
ひよりが拳を握りしめて宣言すると、ギルド中に大歓声と拍手が巻き起こった。
腰の『おみくじ箱』が、カコンと最高に心地よい音を立てて跳ねる。
『ひより様! 拙者のおみくじも満点の大吉を吐き出したがっておリますぞ!』
ひよりがおみくじ箱を振ると、金色の文字が浮かび上がった。
「本日の運勢……『大吉』! 『整いし絆と道具は無限の力とならん。新たな明日に向かい、笑顔で一歩を踏み出すべし』!」
「完璧じゃ! 明日からの冒険も、大吉間違いなしじゃね!」
【PM 08:30 | 宿屋「海猫亭」・明日に向かって】
夜。すっかりお手入れを終え、最高の輝きを取り戻した道具たちが、部屋のテーブルの上で温かな光を放っていた。
学園時代の仲間である三四郎や消蔵たちも、リュックの特等席で嬉しそうに寄り添っている。
ひよりは、朱色と黄色のモコモコカバーを着たトタン湯たんぽの『ぬくもり』を膝に抱き、松煙墨をすって日記帳を開いた。
【ひよりの日記】
パパ、ママへ。 一週間のメンテナンス週が無事に終わったよ! 紅緒や飯蔵はもちろん、学園の三四郎たちもみんなピカピカになって、ぶち誇らしそうにしとるよ。 後輩のミミちゃんも、自分の足で前を向いて妹さんに会いに出発したんよ。 道具を大切にすること、人を思いやること、呉でパパやママに教えてもらった大切なことを、異世界でもしっかり届けていけとる気がするわ。 明日からまた、みんなとポルトーでの冒険を元気に頑張るけぇね! ひよりより
日記を書き終えたひよりは、そっとペンを置き、窓の外に広がるポルトーの満天の星空を見上げた。
「ふぁぁ……明日からも、ぶち楽しみじゃねぇ……」
「はい、ひより様。私どもはどこまでも、ひより様と共におります」
神刀の紅緒が朱色の袴を揺らして優しく微笑み、毛布をかけてくれた。
トタン湯たんぽの『ぬくもり』がぽかぽかと温かい熱を伝え、天球儀の『ステラ』が部屋の天井に綺麗な星空を映し出す。
広島呉弁の少女・天照ひよりと、愛おしくも頼もしい八百万の付喪神たち。 絆を深め、さらに強く優しくなった彼女たちの愉快で温かな冒険の日々は、ポルトーの優しい潮騒とともに、これからもどこまでも続いていくのであった。




