11【中編】:世界にひとつだけのカバーとお手入れの午後(生活・絆のお茶会編)
11【中編】:世界にひとつだけのカバーとお手入れの午後(生活・絆のお茶会編)
【AM 10:00 | 港町ポルトー・宿屋「海猫亭」の中庭】
やわらかな太陽の光が降り注ぐ「海猫亭」の芝生の中庭。昨日の職人街巡りで手に入れた極上のオイルやお手入れ道具、そしてモコモコの毛糸を広げ、ひよりは呉弁で元気いっぱいに声を上げた。
「さーて! 今日は中庭で、みんなを隅々までピカピカにお手入れする『大ケア日和』じゃよ! それにね……」
ひよりはリュックの奥から、大切に布に包まれていた道具たちをそっと取り出した。
「学園時代にうちを助けてくれたみんなも、今日はしっかり磨いてあげるけぇね!」
ひよりの手から現れたのは、かつて学園で共に過ごした懐かしい道具たち—— 学園の授業や寮生活でいつもひよりの力になってくれた**『三角定規の三四郎』、『コンパスの円』、『消しゴムの消蔵』、『丸つけ赤ペンの赤丸』、そして『下敷きの敷子』**だった。
「ひより様……! 我らのことまで覚えていてくださったのですか……!」 三角定規の三四郎が実体化し、感激のあまり角をプルプルと震わせる。
「当たり前じゃろ! どこにおろうと、あんたらはうちのぶち大事な家族なんじゃけぇね!」
「ひよりお姉ちゃん、僕もお手伝いするよ!」 バケツの洗三が小さな手でタオルを抱え、神刀の紅緒や文机の硯水たちも笑顔で取り囲んだ。
【PM 01:00 | 学園の仲間たちと、想い出のお手入れ】
ぽかぽかと温かい午後の光の下、ひよりは職人街でもらった『極上鹿皮』にオイルを垂らし、丁寧に道具たちを磨き始めた。
「三四郎はね、学園の図形のテストでいつも正解の角度を教えてくれたんよねぇ」 「はい……! ひより様が答案用紙の上で緊張で手を震わせておられた時、必死で直線を支えたのを覚えております!」 ひよりの手で表面を磨かれた三四郎の透明なプラスチックが、まるで新品のようにキラキラと澄み渡っていく。
「円ちゃんも、赤丸も、消蔵も、敷子も、みんな綺麗にするけぇね」 コンパスの円がキュキュッと針を研がれて心地よさそうに音を立て、消しゴムの消蔵が汚れを拭われてスッキリした顔を見せ、下敷きの敷子も表面の傷を磨かれてツヤツヤの輝きを取り戻した。
「ひより様……学園を離れて異世界へ来てからも、こうして我らを慈しんでくださること、言葉に尽くせぬ歓びにございます」 赤ペンの赤丸が赤い光を宿して頭を下げた。
「カッカッカ! 学園組の面々もすっかり男前(女前)になりましたな!」 木製しゃもじの飯蔵が豪快に笑い、竹定規の竹千代も「精度向上率、全員一〇〇パーセント」と嬉しそうに数値を弾き出した。
【PM 03:00 | 世界にひとつだけのカバーと、絆のお茶会】
お手入れが一段落すると、ひよりは裁縫用糸切りバサミの糸吉と一緒に、カラフルな毛糸を広げた。
「次はね、ぬくもりと……ステラと、それから学園のみんなにも、小さなお守りカバーを作ろう思うんよ!」
「任せてチョキ! 糸吉のハサミ技で、世界にひとつだけのカバーをチョッキン編んじゃうよ!」
ひよりと糸吉の息の合った作業で、朱色と黄色の毛糸が編み上げられていく。 トタン湯たんぽの『ぬくもり』には、より肌触りの良い特製大判毛布カバーが贈られ、天球儀の『ステラ』には、星空をイメージした紺色と銀糸の可憐なミニポーチがプレゼントされた。
『あぁ……! 暖かくて、ふんわりして……ひより様の情熱が直接伝わってくるようでございます……!』 ぬくもりがポカポカと黄金色の熱を放ち、ステラも『ひより様、宝物にします……!』と星の光を降らせて大はしゃぎした。
三四郎たち学園の付喪神たちにも、それぞれ小さな毛糸のストラップやケースが贈られ、中庭全体が優しい笑顔と歓声で包み込まれた。
「さあさあ! 仕上げは飯蔵特製・お手製フルーツタルトとお茶会ですぞ!」
大きな木箱が開かれると、ポルトーの「太陽ミカン」と「紫ブドウ」がたっぷり乗ったサクサクの焼き立てタルトと、洗三が汲んだ湧き水で淹れた香ばしいハーブティーが並べられた。
「うわぁぁぁ! ぶち美味そうじゃん! みんな、今日はお疲れ様! かんぱーい!」
「「「かんぱーい!!」」」
青空の下、海の見える中庭で、ひよりと常時帯同の付喪神たち、そして学園時代の懐かしい仲間たちが膝を突き合わせ、美味しいタルトを頬張りながら笑い合った。何気ない日常の、最高の時間がゆっくりと流れていく。
【PM 07:00 | 宿屋での静かな夜と日記】
陽が落ち、中庭のお茶会を終えて部屋に戻ってきたひより。
磨き上げられた道具たちは、テーブルの上でそれぞれの定位置につき、誇らしげに綺麗な光を放っていた。学園の仲間たちも、ひよりのリュックの特等席で嬉しそうに寄り添っている。
ひよりは、朱色と黄色のカバーを着たぬくもりを膝に抱き、高級和紙と松煙墨に向かって、パパとママへの日記を静かに書き始めた。
【ひよりの日記】
パパ、ママへ。 今日は一日、中庭で付喪神みんなの大ケアをしたよ! 学園の時に一緒じゃった三四郎(三角定規)や消蔵(消しゴム)たちも、ピカピカに磨いてあげたらぶち喜んでくれたんよ。 糸吉と一緒に新しいカバーも編んで、みんなで美味しいタルトを食べたんよ。 道具を大切にする心は、どこにおっても変わらんね。 ひよりより
「ふぅ……みんな、今日は本当にええ日じゃったねぇ……」
ひよりが呉弁で呟くと、膝の上のぬくもりがポカポカとした優しい熱を放ち、神刀の紅緒が「ひより様、どうぞおやすみください」と優しく毛布をかけてくれた。
学園時代からの絆と、異世界で紡いだ新しい家族の温もりに包まれて、天照ひよりは港町の優しい潮騒を聞きながら、幸せな夢の中へと静かに落ちて行ったのだった。




