6 お賽銭箱と天上のトカゲと一輪挿し 後編
新作 第3弾目の投稿です。
題名 転生したらしいけどスキルデッドストックって何???
今回の主人公は海軍さんの街呉からの転生した女子高生のお話です
はちゃめちゃのスキルで異世界を乗り越えます。
誤字脱字が多くなると思いますが、よろしくお願いいたします。
途中で、脱線することもあると思いますが、ゆっくりと見守ってください。
作品の内容が前後することが多々あると思いますが、大目に見て頂ければ、うれしく存じます。
パラレルワールド編 ダビンチは世界遺産のナスカから謎の大陸ムーのお話です!
当初から作品を見ていただき本当にありがとうございます。
大変励みになっております。
これからもよろしくお願いします。
では、参ります!!
## 第三章:聖なる天空の天秤と「雨乞いの太鼓」
「おのれ、ならばこれならどうだ! 天にまします我が神の天秤よ、あの不浄なる存在に『罪の重さ』を課し、その肉体を押し潰せ!」
バルド枢機卿が狂ったように杖を掲げると、上空に浮かぶ巨大な黄金の天秤の幻影が、ゆっくりとひよりの頭上へと移動してきた。
直後、ひよりの全身に、文字通り「家一軒分」の質量に匹敵するような、凄まじい重力の圧力が襲いかかった。
「くっ……! う、動けない……! 体が、地面に沈んじゃう……!」
ひよりが膝をつき、呼吸を荒くする。金蔵の結界は「外からの攻撃」は防げるが、天空から広範囲に降り注ぐ「概念的な重力(審判)」を完全に遮断することはできなかったのだ。
「ひよりさん! あの天秤は、この世界の法そのものを利用した天候・空間固定魔法です! あの光の天秤が完全に傾き切ったら、このエリアの重力は百倍になり、私たちは全員塵になってしまいます!」
セリアが必死に叫ぶが、彼女自身も重力に圧され、その場に平伏していた。
「なるほど。空間と天候を『神の秩序』で完全に固定し、上空から一方的に圧殺するプロットか。……確かに、これは少々厄介だな」
私は文机の陰で、万年筆を握る手に力を込めた。私の現実改変で天秤の概念を消すには、やはり長文の執筆が必要となり、今のひよりの魔力では途中で息切れしてしまう。
「固定された空、か。……ならば、あの神社の『最も理不尽で、最も気まぐれに天候をひっくり返してきた』、北の隠れ祠に安置されていた『あの暴れん坊』を目覚めさせる時だな」
「北の隠れ祠の……暴れん坊……? あ! まさか、おじいちゃんが『絶対に悪戯で叩いちゃダメだ』って言ってた、あの真っ黒い……!」
「そうだ。あれは千年前、干ばつに苦しむ村人たちが、天の龍神を脅しつけて無理やり雨を降らせるために使った、呪術的な太鼓の付喪神。……ひより、奴のノイズで、あの気取った天秤の調律を狂わせてやれ!」
ひよりは歯を食いしばり、重力に抗いながら、右手を天に向けて突き出した。
「デッドストック……! 神様を脅して雨を降らせる、我が家の一番の暴れん坊! 出てきて、大暴れしちゃって!」
ドガァァァァン!!!
ひよりの頭上の空間が割れ、そこから出現したのは――全面に禍々しい三つ巴の紋様が描かれた、巨大な『和太鼓』だった。その両脇には、骨で作られたような頑丈なバチが二本、宙に浮いている。
「オラオラオラァァァ!! 誰がワシを呼び出したぁ! 天の上のトカゲ(龍神)か、それともそこらの雑魚どもかぁ!?」
太鼓の打面から飛び出してきたのは、雷雲を模したボサボサの青髪に、二本の小さな角を生やした、ヤンキー風の少年の姿をした付喪神――名を『雷轟』という。千年の間、雨乞いの儀式で叩かれ続け、天候を強引に書き換える「自然への反逆心」の塊のような付喪神だ。
「雷轟くん! あの空に浮いてる金ピカの天秤が邪魔なの! あれをバラバラに壊して!」
「ああん!? あの気取った秤か! 気に入らねえなぁ、ワシの空で勝手に澄ました顔して浮いてんじゃねえよ! いくぞお前ら、ワシのビート(雷鳴)に震えやがれ! ――【天逆毎・神鳴大雨乞】!!」
雷轟が宙に浮くバチを掴み、自らの太鼓の腹を、凄まじい速度で連打し始めた。
ドン!! ドコドン!! ドン、ドン、ドコドコドコドコ!!!
その音が響いた瞬間、審判騎士団が固定していた「聖なる青空」が、一瞬にして真っ黒な雷雲へと塗り替えられた。それだけではない。太鼓の音波が「物理的な衝撃波」となり、上空の黄金の天秤の幻影を直撃した。
ピカー!バリバリバリィィィッ!!!
「な、何だと!? 神の天秤に、ひびが入っていく……!? 聖なる空間の固定が、ただの太鼓の音で破壊されるなど……!」
バルド枢機卿が血を吐くような悲鳴を上げる。
「ガハハハ! ワシの太鼓はな、天の理を無理やり捻じ曲げるために作られたんだよ! 神の秩序がどうした! ワシが『雨だ』と言ったら槍が降ろうが雨が降るんだよぉ!」
雷轟がさらに激しく太鼓を叩くと、雲から降り注いだのは、水滴ではなく――数万発の『青い稲妻の矢』だった。
ドガガガガガガガッ!!!
ジャッジメント・エンジェルたちが雷撃を浴び、次々と翼を焦がして地面へと墜落していく。ひよりを押し潰していた重力も完全に霧散し、彼女は大きく息を吸い込んで立ち上がった。
## 第四章:枢機卿の足掻きと「一輪挿しの花の精」
「おのれ……おのれぇぇぇ! 異端の者どもめ! ならば我が命を捧げ、神の具現たる『大天使』をこの地に降臨させてくれるわ!」
完全に追い詰められたバルド枢機卿は、自らの血を杖に塗りつけ、禁忌の召喚術を発動した。
彼の体が光の粒子となって消滅していくのと引き換えに、上空の雷雲を割って、体長五十メートルを超える、六枚の翼を持つ巨大な光の巨人――『大天使メタトロン』の幻影が出現した。
その巨人が掲げる光の剣は、一振りでルミナスの街を更地にできるほどの、圧倒的な破滅のエネルギーを孕んでいた。
「さすがにアレは不味い。金蔵の賽銭箱でも、あの規模のエネルギーは容量オーバーで爆発するぞ」
私は文机の前に立ち、万年筆を強く握りしめた。
「ひより。私の『現実改変執筆』を使う。文字数は……約百文字。お主の今の全魔力を注ぎ込めば、ギリギリで奴の『存在の消滅』を書き換えることができる。だが、お主は確実に一週間は寝込むことになるぞ」
「一週間寝込むくらい、街が滅びるのに比べたら安いもんだよ! ……でも、待って、硯水さん。本当にそれしか方法はないの?」
ひよりは自分の胸の奥、デッドストックのスキルが示す「もう一つの、とても小さくて静かな光」に気づいていた。
「まだいるよ。我が家の、本殿の裏の、小さなお地蔵様の前にひっそりと置かれていた……あの子なら、あの大きな神様を、優しくお家に帰せるかもしれない」
「……ほう。本殿の裏の、一輪挿しか。成程、お主は本当に、小説家である私以上のプロット(構成)を思いつく。よし、やってみろ、主よ!」
ひよりは両手を優しく胸の前で合わせ、祈るように微笑んだ。
「デッドストック……。千年の間、お地蔵様にお供えされる野の花の命を、そっと守り続けてきた、小さなお宝。……おいで、世界を優しくお片付けしちゃおう」
ぽつん、とひよりの手のひらに現れたのは――竹を半分に割って作られた、手のひらサイズの質素な『一輪挿し(いちりんざし)』の器だった。中には、どこにでも咲いているような、一輪の小さな白い野菊が挿さっている。
「……ふわぁ。おはようございます、ひよりお嬢様。随分と、外が騒がしいのですねぇ」
一輪挿しから現れたのは、淡い緑色の着物を着た、おっとりとした小さな少女の姿をした付喪神――名を『小菊』という。千年の間、名もなき旅人や村人がお地蔵様へと捧げた「感謝と、死者への鎮魂の祈り」を吸い続け、張り詰めた戦意や殺意を完全に『無』に帰す力を得た、一輪挿しの付喪神だ。
「小菊ちゃん、あの大きな光の神様ね、とっても怒ってて、この街を壊そうとしてるの。あのおっきな剣を、お片付けできる?」
「まぁ、そんなに怒って……可哀想に。神様も、お疲れなのですねぇ。では、小菊が、おやすみの準備をしてさしあげます。――【清浄一輪・諸行無常】」
小菊が一輪挿しの中の白い野菊を、そっと大天使メタトロンに向けて、ふっと息を吹きかけた。
すると、野菊の花びらが一枚、ひらりと風に乗って舞い上がった。その小さな、ちっぽけな一枚の花びらは、大天使が掲げる五十メートルの光の剣の切っ先に、ぽつんと触れた。
その瞬間。
大天使メタトロンの全身を包んでいた、世界を滅ぼすほどの破滅的な光のエネルギーが――一瞬にして、数百万枚の『白い花びら』へと変化した。
「……え?」
セリアが呆然と声を漏らす。
大天使の巨体も、その掲げる剣も、怒りも、殺意も、すべてが優しい花の香りを漂わせる純白の花吹雪となり、ルミナスの街へと穏やかに降り注いでいったのである。後に残されたのは、ただの静かな、初夏の終わりのような穏やかな風だけだった。
「ふふ、神様も、綺麗なお花になって、天国へお帰りになりましたねぇ」
小菊はおっとりと微笑み、再び一輪挿しの姿に戻ってひよりのポケットへと収まった。
## 終章:お賽銭の山と、呉の風を想う
異端審問騎士団の襲撃は、こうして「貯金」と「雷鳴」と「花吹雪」という、教会の教典には一文字も載っていないような不条理な方法で完全解決された。
枢機卿を失い、武器(魔力)をすべて百円玉に変えられた審判騎士たちは、戦意を完全に喪失し、「ご、誤解だった……天照ひより様は聖女である……!」と涙を流しながら、這う這うの体で本国へと逃げ帰っていった。
数日後。ルミナス魔法学院の図書室には、信じられないほどの『日本の硬貨(百円玉や五円玉)』が山積みにされていた。金蔵が賽銭箱から吐き出した、騎士団の魔力の残骸である。
「いやー、大金持ちになっちゃったけど、これこの世界じゃ使えないよね……。どうしよう、文机さん。これで日本の自動販売機のジュース、何万本買えるかなぁ」
ひよりは百円玉の山に寝そべりながら、可笑しそうに笑っていた。
「ふむ。この世界の鋳造技術で、これらを現地の金貨に鋳潰す(いつぶす)ことは可能だとセリアが言っていたぞ。お主は名実ともに、この街一番の資産家だな」
私は文机に向かい、今回の第三幕の物語を書き終え、満足そうにペンを置いた。
「金も入ったし、空も晴れた! なぁひより、次のお祭り(戦闘)はいつだ!? ワシの太鼓、もっと叩かせてくれよ!」
雷轟が退屈そうにバチを回している。
「これ、雷轟。主を困らせるものではありません。お嬢様、お疲れでしたら、小菊が美味しいお茶を淹れますねぇ」
付喪神たちは、すっかりこの異世界の日常に馴染み、賑やかに過ごしていた。
「ひより」
私が声をかけると、ひよりは百円玉の山から顔を上げ、私を見た。
「何、硯水さん?」
「良い物語だった。お主がこの世界で紡ぐ章は、どれも泥臭く、しかし温かい。あの集中豪雨で埋没した故郷の神社も、お主がこうして彼らを呼び出すたびに、この異世界で少しずつ形を変えて『再建』されているのだな」
「……うん。そうだね。私のデッドストックは、売れ残りのお宝なんかじゃない。私と、みんなの、大切な『我が家』そのものなんだ」
ひよりは一輪の白い野菊を窓辺に飾り、遠い空を見つめた。
「パパ、ママ。私、こっちの世界の神主として、立派にみんなを守れてるよ。だから……呉の海に沈む夕日を見ながら、私の大好きな肉じゃがの味、ずっと忘れないよ!」
少女の紡ぐ言葉は、付喪神たちの温かい笑い声とともに、新緑の風に乗ってどこまでも、どこまでも響き渡っていった。
みなさま、どんな風に感じてもらったのでしょうか?
少しでも面白いかもと思って頂けましたら幸いです。
励みになりますので、☆☆☆☆☆をチェックしてもらえると嬉しく存じます。
これからもお付き合いのほどよろしくお願いいたします。
今回は女子高生のお話です。
よろしくお願いします。




