閑話2ポルトー:海猫亭の夜話と付喪神たちのむかし語り(昔話&絆深まり回
ひよりの冒険者編の始まりです。よろしくお願いします
学園を卒業したので、丁寧語ではお話ししません!
登場人物等も方言で物語が進んでいきます。
間違った方言も多数あると思いますのでごめんなさい!
これからもよろしくお願いします
途中で、脱線することもあると思いますが、ゆっくりと見守ってください。
作品の内容が前後することが多々あると思いますが、大目に見て頂ければ、うれしく存じます。
これからもよろしくお願いします。
海猫亭の夜話と付喪神たちのむかし語り(昔話&絆深まり回)
【PM 06:30 | 港町ポルトー・しとしと雨の夕暮れ】
昼間の晴天が嘘のように、夕方になるとポルトーの街はしっとりとした薄紫色の雨雲に覆われていた。
屋根を叩く「ポツポツ、ザァァ……」という静かな雨音が、静寂に包まれた街に心地よく響いている。海からの濡れた風が窓を揺らし、部屋の空気が少しだけひんやりとしてきた。
「うわぁ……ぶち降ってきたねぇ。昼間にピクニック行っておいてほんまに良かったわ」
宿屋「海猫亭」の二階客室。ひよりは窓枠に肘をつき、雨に濡れる白壁の街並みと、霞む港を眺めながら呉弁で呟いた。
「ひより様、窓を閉めましょう。潮風混じりの雨は身体を冷やします」
朱色の袴を纏った神刀の紅緒が、静かな足取りで寄ってきて窓をゆっくりと閉めてくれた。
部屋の中央では、今日のために買った朱色と黄色のモコモコ毛糸カバーを纏ったトタン湯たんぽの『ぬくもり』が、お部屋の真ん中で小さな太陽のようにポカポカとした黄金色の熱を放っている。
「ふぁぁ……ぬくもりのおかげで、部屋の中がぶちあたたかいねぇ」
ひよりは部屋の丸テーブルの前に座り、膝の上にぬくもりを抱え込んだ。
テーブルの上には、三つ仕切りバケツの洗三が汲んできてくれた綺麗な水で沸かした、ハーブとミカンの皮を浮かべた温かいお茶が湯気を立てている。
木製しゃもじの飯蔵、竹定規の竹千代、糸切りバサミの糸吉、文机の硯水、着物姿のおみくじ箱、そして天球儀のステラ。
八百万の付喪神たちが全員実体化し、ぬくもりの温もりと温かいお茶を囲むようにして、丸テーブルの周りにちょこんと腰掛けた。
「外は雨じゃし、今夜はみんなでのんびりお茶でも飲みながらお話しせんかいね?」
ひよりが呉弁で優しく微笑むと、おみくじ箱がカコンと心地よい音を立てて身を乗り出した。
『おお! それはよい考えにございますな、ひより様! 雨の夜の静かな茶話会……風流でございますぞ!』
【PM 07:30 | 温かいティータイムと付喪神たちのむかし語り】
「ほうじゃ、みんな。うち、ずっと気になっとったんじゃけど……うちらが出会う前、みんなはどこでどう過ごしとったん?」
ひよりがハーブティーを口に含みながら尋ねると、付喪神たちは互いに顔を見合わせ、少し懐かしそうな、そして愛おしそうな表情を浮かべた。
最初に口を開いたのは、文机の付喪神・硯水だった。空中を静かに浮遊しながら、遠い目をして静かに語り始める。
『ふむ……では拙者からお話しいたしましょう。拙者は元々、古い城下町の歴史ある寺子屋の文机にございました。何十人、何百人もの子供たちが、拙者の上で筆を握り、墨をすり、学問に励んでおりましたな。子供たちの流す汗や墨の匂い、そして「強くなりたい」「賢くなりたい」という熱い想いが、拙者に意思を与えてくれたのです』
「へぇぇ……! 硯水は昔から、みんなのお勉強を助ける物知りさんじゃったんね!」
『はい。ですが寺子屋が時代の流れで壊された時、拙者は暗い蔵の奥に何十年も仕舞い込まれました。誇りも知識も失いかけていた拙者を救い出してくださったのが……ひより殿の曾おじい様だったのです』
「うちの曾おじいちゃんが!?」
『左様でございます。「こんなに立派な机を眠らせておくのは勿体ない」と、埃を払い、丁寧に磨き上げてくださった。あの時の手の温もりは、今でも忘れませぬ』
続いて、小さなハサミを手にした糸吉が、チョキチョキと軽快に空を跳ねながら身を乗り出した。
「糸吉も話すチョキ! 糸吉はね、呉の街のお仕立屋さん(裁縫箱)の中にいたんだよ! おばあちゃんが毎日毎日、着物や服を縫う時に糸吉を使ってくれたの! 着物が完成した時、お客さんが『綺麗だねぇ』って笑うのが、糸吉はぶち嬉しかったんだチョキ!」
「糸吉はうちのおばあちゃんの糸切りバサミじゃったんね。おばあちゃん、糸吉のこと『このハサミは一番切れ味がええけぇ』って大切にしとったよ」
「うん! おばあちゃんの手が温かくて、糸吉はずっと大好きだったチョキ! だから、ひよりちゃんのお家に来た時も、ぶち嬉しかったんだよ!」
竹定規の竹千代も、三十センチの目盛りを誇らしげに光らせてカチリと音を立てた。
「我が身、竹千代は、ひより様が小学校に入学された際、お父上より贈られた竹定規にございます。ひより様が算数の図形を描く際、何度も何度も我が目盛りに指を添えてくださった。ひより様の成長の軌跡……一ミリ単位ですべて記憶しております」
「うわぁぁ……竹千代、そんな前からうちのこと見てくれてたん! なんか恥ずかしいわぁ……!」
ひよりが頬を赤らめると、周りからドッと笑い声が上がった。
三つ仕切りバケツの洗三も、バケツをぎゅっと抱きしめながら元気に言った。
「僕もお掃除の時に、ひよりお姉ちゃんがいっぱいお水を入れて洗ってくれたの、覚えてるよ! 一緒にお庭のお花にお水あげたの、ぶち楽しかったんだ!」
木製しゃもじの飯蔵が豪快に胸を叩く。
「カッカッカ! ワシもひより様のお母上が毎日毎日、美味しそうな白米を炊くたびにワシを使ってくださった! 家族全員が笑顔で「ごちそうさま」と言うあの瞬間……料理の道具として、これ以上の幸せはございませんぞ!」
そして、トタン湯たんぽのぬくもりが、膝の上でポカポカと優しい熱を放ちながら呟いた。
『私めは、ひより様が風邪をひいた寒い冬の夜、いつでもお布団の足元で温めてまいりました。ひより様の「ぬくもり、あったかいねぇ」という呉弁の一言が、私めの生きる力そのものにございます』
「みんな……」
ひよりの瞳に、じんわりと温かい涙が浮かんできた。
道具たちは皆、ひよりやその家族に愛され、大切に使われてきたからこそ、命を持ち、こうして異世界でもひよりを守るために「付喪神」として実体化してくれたのだ。
【PM 08:30 | ステラとおみくじ箱の想い、そして絆】
その時、ひよりの肩の上で、手のひらサイズの天球儀の付喪神・ステラが、少し寂しそうに小さな羽を萎ませた。
「ステラ……? どうしたん?」
『あの……わたしは……ひより様のお家から来たわけではありません……。百年間も宝箱の中に閉じ込められていて……皆さんのように、温かい思い出がありませんでした……』
ステラの瞳から、ポロポロと光る涙の粒がこぼれ落ちる。
ひよりは優しく両手でステラを包み込み、自分の頬にそっと寄せた。
「何言っとるんね、ステラ。過去がどうじゃったかは関係ないよ。あんたは今、うちの仲間じゃろ? これからうちと一緒に、いーっぱい楽しくて温かい思い出を作っていけばええんよ!」
「はい! ひより様の仰る通りです!」
神刀の紅緒が静かに進み出た。
「私めも、かつては神社に奉納され、長く静寂の中に置かれていた神刀に過ぎませんでした。ですが、ひより様と出会い、共に行動する中で、本当の絆を知ったのです。ステラ殿、貴女ももう一人ではありません」
「カッカッカ! 拙者もついておりますぞ!」とおみくじ箱がポンと跳ねる。
『ステラ殿、ひより様の仲間になった瞬間から、我らは全員家族にございます!』
「みんな……! ありがとう……ありがとうございます……!」
ステラは溢れる涙を拭い、満面の笑みを咲かせた。ステラの周りで、星くずのような光の粒が、祝福するように美しく舞い踊った。
部屋の中は、外の雨の冷たさを完全に忘れてしまうほど、温かい家族の情愛に満たされていた。
【PM 09:30 | パパとママへ贈る日記と、懐かしい呉の味】
夜も更け、付喪神たちがそれぞれの道具の姿へと戻り、心地よい寝息を立て始める頃。
ひよりは、買い求めた高級和紙と、文机の硯水から借りた極上の松煙墨を使い、机の上で日記帳を開いた。
窓の外では、ポルトーの港を濡らす雨が、静かに静かに降り続いている。
「パパ、ママ……お元気ですか?」
ひよりは、異世界に来てからの出来事、ポルトーの美しい海、新しい仲間ステラとの出会い、そして大切な付喪神たちとの日々を、一字一字心を込めて呉弁の言葉で綴り始めた。
【天照ひよりの異世界冒険日記〜ポルトーの雨の夜に〜】
パパへ、ママへ。
うち、無事に隣街の「ポルトー」っていうぶち大きな港町に着いたよ! ここは海が近くて、船がいっぱいあって、風が潮の匂いがして、ちょっとだけ呉の港に似とるんよ。
今日ね、こっちで新しくできたお友達や、うちの大切な付喪神のみんなと、お買い物をしてピクニックをしたんよ。 みんなね、パパやママ、おばあちゃん、曾おじいちゃんが、うちのお家で昔から道具を大切にしてくれとったことを、ぶち覚えてくれておったよ。 竹千代(竹定規)も、糸吉(糸切りバサミ)も、飯蔵も、ぬくもり(湯たんぽ)も、みんなパパやママの手に感謝しとった。 うちをこうやって道具を大切にする子に育ててくれて、本当にありがとうね。
みんながおってくれるけぇ、うちは異世界でも寂しくないし、どんな大変なことがあってもへっちゃらじゃよ!
また明日から、ポルトーでの冒険をゆっくり頑張るね。 二人とも、風邪ひかんように元気でおってね。
ひよりより
日記を書き終えたひよりは、ふぅと小さく息をつき、ペンを置いた。
お腹が「くぅ〜」と小さく鳴る。
「あはは……なんか急にお腹がすいてきたわぁ……」
ひよりは窓の外の暗い海を見つめながら、遠い故郷・広島県呉市の風景を思い浮かべた。
雨の日に、お母さんやおばあちゃんがよく作ってくれた、あの懐かしい料理の匂いが、鼻腔の奥に蘇ってくる。
「……あぁ、呉の『がんす』が食べたいなぁ……」
『がんす』。 魚のすり身に野菜や唐辛子を混ぜ込み、パン粉をまぶして油でサクッと揚げた、呉の庶民に愛されるソウルフードだ。
「揚げたてのサクサクした衣に、ちょっとピリッとするすり身の旨味……お醤油をちょろっと垂らして、温かいご飯と一緒に食べたら……ぶち美味いんよねぇ……」
ひよりが呉弁で生唾を呑み込むと、リュックの中で木製しゃもじの飯蔵がカタカタと優しく揺れた。
「カッカッカ! ひより様! 港町ポルトーには新鮮な海の魚が腐るほどございます! 明日はワシが、ポルトーの魚で『極上手作りがんす』を揚げることにいたしましょうぞ!」
「ほんまに!? 飯蔵、約束よ! ぶち楽しみじゃわぁ!」
ひよりの顔に、今日一番の輝くような笑顔が戻った。
【PM 10:30 | 就寝】
日記帳を大切にリュックへ仕舞い、ひよりはモコモコカバーを着た『ぬくもり』を抱きかかえて布団に入った。
トタン湯たんぽの心地よい温もりが、足元からじわりじわりと体全体を包み込んでいく。
「ぬくもり……今日もあったかいねぇ……」
『ひより様、良い夢を。明日は美味しい『がんす』を食べましょうね』
「うん……おやすみ、みんな……」
雨音が静かに窓を叩くポルトーの夜。 呉の家族への想いと、温かい付喪神たちの愛に包まれて、天照ひよりは静かに、幸せな夢の中へと落ちて行ったのだった。
今回は学園を卒業してからのお話です。
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