41 そろばんと電卓
二月を迎え、ルミナス魔法学院にはいよいよ最高学年・三年生としての卒業を目前に控えた、どこか寂しくもソワソワとした雰囲気が漂っていた。
数々の理不尽な危機や大騒動を、人里離れた山奥にあり、今や誰も知らない土の下に没した実家「天照神社」の蔵から現れた付喪神たちと共に爆発的なハッピーエンドへと塗り替えてきた天照ひよりは、今、人生最大の選択に直面していた。
「みんな、聞いて聞いて! 二月だよ、二月! 広島の呉のれんが通りのお菓子屋さんでもね、二月になるとバレンタインの甘くて濃厚生チョコレートや温かい焼きマシュマロのスイーツがたくさん並ぶ最高の季節だけど、ルミナス魔法学院の二月も大変なことになってるよ!
何しろ、王宮からの特級仕官オファーとか、王都の上級貴族からの結婚のお申し込みとか、いろんな人から『進路をどうするんだ』って手紙が山のように届いているんだから! でもね、私の人生の尺度は誰にも決めさせないよ!
私の進路は、私が決めるんだもん! というわけで、今日の目標は王都の冒険者ギルドへ向かって『魔物料理研究家&よろずお助け屋』としての正式登録を無事に完了させること!
これが無事に済んだら、ギルドの特級食堂から『二月限定・王都冒険者ギルド名物・爆盛り濃厚生チョコレート&焼きマシュマロの特大ハニートースト・おかわり自由手形』が授与されるんだから!
香ばしく焼き上げられた一斤丸ごとの厚切りハニートーストの上に、濃厚なとろける生チョコレートと、表面がキツネ色にこんがり焼けたフワフワのマシュマロがどっかーんと乗った特製スイーツ……!
これはもう、広島県立女子高生としての私のすべての胃袋の情熱と、我が実家の天照のお宝たちの力を合わせて、絶対に冒険者登録を大成功させて、最高のハッピーエンドの第一歩を掴み取るしかないよね!」
冬の爽やかな風に制服の裾を揺らしながら、天照ひよりは手にした木製の特大しゃもじを王都の冬空へ力強く掲げ、三年A組の仲間たちに向けて元気いっぱいに大声を張り上げていた。
「おいおい、天照! 朝っぱらからハニートーストへの執念が凄まじい魔力となって、ギルドの看板を無駄にピカピカ発光させてんぞ! だが、本気なのか!? 王宮の専属魔導士のポストも、僕の家からの……その、結婚の提案だって、君なら選び放題だったんだぞ!? 『結婚拒否=行き遅れまっしぐら』なんて古い貴族の連中は騒いでるが、まさか全部蹴っ飛ばして、自由気ままな『魔物料理研究家の冒険者』になるなんて言い出すとはな!」
ツンツン頭の少年――最高学年の胸章をつけたルファスが、顔を真っ赤にしながら何十枚もの結婚申し入れ書や王宮の辞令書類を抱え、呆れつつもどこか嬉しそうにハチマキを締め直していた。
「ひよりさん、ルファスさん! 天照さんのその決断、ミーナはとっても素敵だと思いますぅ! 誰かの奥さんになっちゃったり、難しいお城のお役人になるより、ひよりさんと一緒に美味しいものを探して世界中を旅する冒険者さんになる方が、絶対に何百倍もハッピーですぅ!」
犬耳の少女ミーナが、ふさふさの尻尾をピーンと立てて大喜びしながら、ひよりの隣で元気いっぱいに飛び跳ねていた。
「ひよりお姉様……! 私、お姉様が王宮に残ってくださらないのはとっても寂しいですけれど……お姉様がご自身の意志で『冒険者』という道を選ばれたのなら、私、全力で応援いたしますわ! 王女の権限を以て、お姉様の旅路に必要な『特級冒険者パス』と『王宮特許・魔物料理研究許可証』の発行をお手伝いさせていただきますわ!」
可憐な冬服に身を包んだ第一王女セシリアが、極光の瞳をキラキラと輝かせながら、ひよりの手をぎゅっと握りしめた。
「ふむ。 王宮の栄誉や貴族の求婚といった周囲の不当な圧力や古い固定観念を排し、自らの胃袋と魂が求める『魔物料理研究家&よろずお助け屋』という自由なる冒険者の道を選ぶか。 まさに天照ひよりらしい、見事な日常の自己決定プロットだな。 だが、王都の冒険者ギルドに足を踏み入れるとなれば、君がこれまで残してきた数々の規格外すぎる実績(ハッキング撃破、幾何学空間補正、不可逆氷結解凍など)が、ギルドの魔導査定システムにどのような影響を与えるか……そこだけは警戒が必要だな」
私はひよりの帯に差し込まれた竹定規の竹千代の影から、依り代である文机を精神体として小さく出現させ、滑らかな万年筆の先から透明なインクを走らせながら静かに告げた。
私の名は『硯水』。 災害によって土の下に没し、今は誰も知らぬ人里離れた山奥の天照神社で、千年の間、人間の様々なる「複雑な計算や査定を正確に行う知恵」「不当な評価や数字のエラーを正しき数値に弾き直す技術」「人生の大きな節目において、自らの尺度で正しき道を選ぶ決意」の歴史を見つめ続けてきた、文机の付喪神だ。
「そうだよ、硯水さん! 呉の学校でもね、進路希望調査の紙を書く時は自分が本当にやりたいことを書いて、算数の時間の計算ミスはそろばんでパチパチって確かめ算をするのが決まりだったんだもん! 誰が何と言おうが、私の人生のランクも進路も、私が自分でパチッと計算して決めてやるんだからぁぁぁーーーッッ!!」
天照ひよりが力強く拳を握りしめ、王都の中心にそびえ立つ重厚な『王都冒険者ギルド本部』の巨大な扉へと、堂々たる足取りで第一歩を踏み出した。
第二章:暴走する査定電卓! 測定不能のエラーバグ
「いらっしゃいませ、ルミナス魔法学院の天照ひより様。 ……えっ!? 王宮からの仕官辞退届と、全貴族からの求婚拒否通知を提出した上で、当ギルドへの『魔物料理研究家&移動よろずお助け屋』としての冒険者新規登録をご希望ですか!?」
冒険者ギルド本部の受付カウンターにて、眼鏡をかけたベテランの受付嬢が、ひよりから提出された書類を見て素で素っ頓狂な声を上げた。
「は、はい! 特定の組織に縛られないで、実家の蔵の道具たちと一緒に、世界中の美味しい魔物料理を研究しながらトラブルを解決するフリーランスになりたいんです!」
ひよりがニコリと弾けるような笑顔で答える。
「な、なるほど……。では、ギルドの規定通り、こちらの『超大型魔導登録・査定電卓』に手を触れていただき、過去の魔力実績と適正ランクの算出を行います。 この電卓は、古代の魔導演算回路を搭載した最新鋭のデジタル査定機でして、志望者の実績を即座に数値化し、最適な冒険者ランクを弾き出すのですが……」
受付嬢がギルド中央に設置された、液晶画面が青く光る巨大な『魔導登録・査定電卓』のスイッチを入れた。
ひよりが「よろしくお願いします!」と小さな手を査定電卓のセンサーに置いた、その瞬間――!
ピ・ピ・ピ・ピキキキキキキキキキキキキッ!!!!!
「な……なんですか、この異常な演算速度は!? 紙の迷宮の構造解体、絶対迷宮の幾何学補正、十万個の風船バグ解除、マイナス五十度凍結の解凍……! 実績のデータ量が多すぎて、査定電卓の演算処理が追いつきません!」
受付嬢が顔を真っ青にして叫ぶ。 さらに、ひよりの規格外すぎる実績に対して、ひよりの冒険者登録を阻止して強制的に求婚を受け入れさせようと企む保守派貴族たちが密かに仕込んでいた「評価歪曲ノイズ」が電卓の回路に混入! デジタル液晶画面が禍々しい赤と黒のノイズに染まり始めた!
『警告! 警告! 評価データ過負荷&ハッキングノイズ検出! 対象者:天照ひより。 算出結果……エラー! エラー! 測定不能! 総合危険度:測定不能エラー(国家危険人物・即刻隔離対象)! 防衛プログラム起動! ギルド全出入口を緊急全酷密閉ロックします!』
ガシャン! ガシャン! ガシャン!
ギルド全体の厚い鉄格子の扉が一斉に下り、重厚な魔導シャッターが密閉ロックされた! 同時に、暴走した査定電卓の液晶画面から『ERR-9999999』という赤く明滅する数字のバグが溢れ出し、電卓自体が過圧によって爆発しそうな煙を吹き出し始めたのだ!
「くっ! 誰かが事前に電卓の回路に邪魔なハッキング呪文を仕込んでやがったんだ! データ量が多すぎる上にノイズが混ざって、ギルド全体が隔離空間になっちまったぞ!」
ルファスが風魔法で煙を払おうとするが、デジタルノイズのバグは物理的な攻撃を透過し、電卓の爆発カウントダウンを進めていく。
「ひよりさん! 扉がびくともしませんぅ! このままだと冒険者登録どころか、全員爆発に巻き込まれちゃいますぅ!」
ミーナが悲鳴を上げる。 セシリア王女も「私の名において解除を命じます……! なのに、デジタル回路が王命すら拒絶しておりますわ……!」と顔を真っ青にさせていた。
「デジタル表示がエラーを起こして爆発しそうだからって威張ってるんじゃないわよ! 画面の数字が狂ったならね、そろばんでパチパチって手計算で確実な数値を弾き出して、正しきランクに上書きしちゃえばいいんだからね!」
ひよりの日常防衛本能(異常なまでの自己決定への情熱とハニートーストへの執念)が、極限の出力で爆発した。
「天照ひより、その通りだ。 世界がどれほど複雑なデジタル回路とハッキングノイズで数字を狂わせようとも、人間の『指先で木製の珠を物理的に弾き、絶対的な十進法の目盛りによって一寸の誤差もなく正確な解を導き出すそろばんの確実性と、電卓の不当なエラー表示を正しき数字へ上書きする』という日常の計算と算術の規律の前には、保守派貴族が仕掛けた不当なバグなど一歩も侵入できない。
天照の神社の東の第十三蔵の引き出しの奥――昭和や平成の時代、人里離れた山奥の神社で代々の神主や寺子屋の子供たちが使い込み、何万回もの台帳計算や収支確認をパチパチと正確に弾き続けてきた、あの『絶対弾算・数値上書き道具たちの総力戦』を発動するのだ!」
「東の第十三蔵の、パチパチ弾いて正しく計算する道具……あ! お父さんやおじいちゃんが神社の帳簿をつける時に『電卓もいいが、最後はやっぱりこれが一番確かだ』って、滑らかな黒い枠の中で黄色の五位珠と一位珠をパチパチ弾いていた、あの使い込まれた高級算盤! それに、お母さんがお買い物や家計簿をつける時に『ボタンを押すと一瞬で数字が出るのよ』って大切に使っていた、あの手のひらサイズのボタン式電卓!」
「そうだ。 あれらは、世界を滅ぼす破壊魔法ではない。 だが、人間の『どんなに複雑で狂ったエラーの数字であっても、自らの手で珠を弾き、正しい計算を叩き出せば、世界は必ず正しき評価に還る』という、あまりにも力強い生活の知恵から生まれた道具たちだ。 ひより、彼らを呼び出して、その暴走する大型査定電卓のバグをすっきり弾き直し、君の正しき冒険者ランクを、今すぐ上書き決定してやれ!」
第三章:新付喪神現る!「そろばんの絶対指弾と電卓の数値物理補正」
「デッドストック、最大出力起動! 我が実家の天照の蔵の奥、どんな狂った数字も絶対に許さず、パチパチ正確に計算してきた、最強の算術コンボ、おいで!」
ズガァァァァァン!!! パチッ! パチパチパチッ! ピピッ!
空間に、黒檀のフレームに並んだ黄色の樺珠が指先で軽快に弾かれ、寸分の狂いもない正確な計算音を響かせる爽快な音と、液晶のデジタルボタンが『ピピッ!』と心地よく押されて正しき数値を表示する、あまりにも頼もしい『算術と補正の音』が響き渡った。
光の中から出現したのは――天照家で長年大切に使い込まれ、四本桁の樺珠が滑らかに滑り絶対的な計算精度を保持し続ける『高級木製・二十三桁算盤』と、頑丈なプラスチックボディに明確なボタンタッチを宿す『事務用・小型電子計算機』の一対だった。
「おやおや、随分と液晶の表示が荒れて、桁の揃わない不精な計算機だねぇ! アタシのそろばんの珠で、正しき数値をパチパチと弾き直してあげようかい!」
そろばんの木枠から立ち上る、どこか懐かしい木と手あぶら、そして寺子屋の墨の芳しい香りと、整えられた空間の煙の中から現れたのは、粋な番頭風の和装を着て、手に巨大なそろばんを構えた職人肌の青年の姿をした付喪神
名を『十兵衛』という。 千年の間、人里離れた山奥の天照神社で神事の帳簿や寺子屋の算術で「一厘の誤差も許さない正確な計算」を弾き続けてきた、絶対弾算の執念から神格を得た、そろばんの付喪神だ。
「そしてそしてぇ! 弾き直された正しい数字は、ボクの液晶画面でバシッとデジタル決定してあげるよ、ひよりちゃん!」
電卓のキーボードから、ピョンと飛び出してきたのは、頭に大きな電卓のボタン帽子をかぶり、両手に『+』『=』の計算ステッキを構えた、利発で素早い少年の姿をした付喪神――
名を『計算丸』という。 彼は、神社や家計で「複雑な計算を一瞬でデジタル数値として固定する」という絶対確定の規律を司る、電卓の付喪神であった。
「十兵衛さん、計算丸君! あの暴走してる査定電卓のバグノイズをパチパチ弾き飛ばして、私の本当の冒険者ランクを正しい数字で書き直して!」
「おう、任せときな、ひよりのお嬢さん! アタシのそろばんが弾く珠はね、ハッキングのノイズだろうがデジタルエラーだろうが、一瞬で『正しき十進法の数値』として物理補正するのさ! ――【神域弾算・絶対指弾珠算補正(しんいきだんざん・ぜったいしだんしゅざんほせい)】!」
十兵衛が、自らの本体である特大そろばんを構え、暴走して『ERR-9999999』と明滅していた大型査定電卓に向けて、空中を連続でパチッ! パチパチパチッ! と激しいスピードで珠を弾き飛ばした!
パチパチパチバババッ!
その瞬間、大型査定電卓の回路にへばりついていた黒いハッキングノイズとエラー表示が、十兵衛の放つ「絶対弾算の珠」によって、まるで埃が払い落とされるようにサラサラと音を立てて物理的に叩き潰されていったのだ! 不当なエラーの数字が、十兵衛のそろばんの物理補正に触れた途端、ただの「正確に整理された綺麗な過去実績データ」へと物理的に強制上書きされてしまったのである!
「な……なにぃ!? 我が方が仕込んだ評価歪曲のハッキングノイズが、ただの『そろばんのパチパチ音』によって完全に消去・計算し直されているだと……!?」
ギルドの物陰に潜んでいた保守派貴族の工作員が絶叫する。
「それだけじゃないよ! ボクのキーボードで、ひよりちゃんの正しき冒険者ランクをバシッと確定入力! ――【神域確定・絶対デジタル計算入力(しんいきかくてい・ぜったいでじたるけいさんにゅうりょく)】!」
計算丸が、驚異的なスピードで大型査定電卓の上に舞い降り、両手の『=』ステッキで電卓の確定ボタンをピピピッ! と軽快に叩き込んだ!
ピピピッ! ポンッ!
不思議なことに、計算丸がボタンを押すたび、赤く明滅していた大型査定電卓の液晶画面が清々しい青い光を取り戻し、そこにはハッキングノイズの挟まる余地もない完璧な計算結果が浮かび上がったのである!
『計算完了! 対象者:天照ひより。 適正職業:魔物料理研究家&移動よろずお助け屋! 登録ランク:特命フリーランス・ランクA(完全自由行動権適用)! ロック解除! ギルド全出入口を開放します!』
ガシャン! ガシャン!
ギルドを密閉していた鉄格子とシャッターが一斉に上がり、暴走していた大型査定電卓も「ピッ!」と心地よい音を立てて正常な状態へと完全復旧したのだった!
「ああっ!? 測定不能のエラーが消えて、世界に一つだけの『特命フリーランス・ランクA冒険者』として正式登録されたぁぁぁ!?」
工作員たちが悲鳴を上げ、ギルドの受付嬢や職員たちが「凄すぎる……!」と一斉に歓声を上げたのだった。
第四章:自由なる第一歩と「特大ハニートースト完食大団円」
「やったぁぁぁーーーッ! これで私は、晴れて『魔物料理研究家&移動よろずお助け屋』の天照ひよりだぁぁぁ!」
ひよりが受付カウンターで発行されたピカピカの「ランクA冒険者ライセンスカード」を頭上に掲げると、ギルド全体から地鳴りのような拍手と大歓声が巻き起こった!
コソコソ逃げようとしていた保守派貴族の工作員たちも、駆けつけたギルドの警備隊とルファスによって全員がその場で取り押さえられ、ひよりの進路を妨害しようとした罪で厳しく処罰されることとなった。
「ふん、ざまあ見ろ! 天照さんの進路は、天照さん自身が決めるんだよ!」
ルファスがスカッとした顔で胸を張り、抱えていた結婚申し入れ書や仕官の書類を、全部笑顔でゴミ箱へとサラリと放り投げた。
「ひよりお姉様! ランクA冒険者としての第一歩、本当におめでとうございますわ!」
セシリア王女も目を輝かせ、ひよりに飛びついて抱きついた。
そしてギルドの熱気が最高潮を迎える中、ギルド本部の特等テラス席。 ひよりたちのテーブルの上には、ついに勝ち取った約束の報酬――ギルドの特級食堂から授与された、高さ三十センチを超える巨大な『二月限定・王都冒険者ギルド名物・爆盛り濃厚生チョコレート&焼きマシュマロの特大ハニートースト』がドカンと鎮座していた!
「おいしーーーい!!! 何これ! サクサクに焼けた厚切りパンの中から温かいはちみつがじゅわっと溢れて、濃厚なとろける生チョコレートとこんがり焼けたフワフワのマシュマロが口いっぱいに広がって、広島の呉のれんが通りや実家の神社で食べるどんな冬スイーツより身体の芯までハッピーが染み渡るよ!」
ひよりは特大のスプーンとナイフを持ち、焼きマシュマロと生チョコが山盛りになったハニートーストを豪快に切り分けてガブリと頬張り、とろけるような笑顔を爆発させていた。
「フ、フン、相変わらずの凄まじい食欲だな、天照。 だが、不当な圧力も評価バグも全部そろばんで弾き飛ばして、自分のやりたい道(冒険者)を自分で勝ち取る……やっぱり君は最高にかっこいいよ。 ……まぁ、その、天照さん。 君が『移動よろずお助け屋』として世界中を旅するなら、僕も公爵家の依頼人として、君の旅にずっとついて行ってあげてもいいぞ」
ルファスは顔を少し赤くしながら、自らの分のハニートーストを優雅に口に運び、満足そうに目を細めている。
「ひよりさん、ルファスさん、セシリア様! 生チョコが濃厚でお耳がピクピクしちゃいますぅ! ミーナもひよりさんの冒険者パーティの一員として、どこまでも一緒についていきますぅ!」
ミーナも鼻の頭にマシュマロのくずをつけながら夢中でハニートーストを平らげ、ふさふさの尻尾をプロペラのように激しく振って大喜びしていた。
「ひよりお姉様! 私も王宮から、お姉様へたくさんの『美味しい魔物料理の探索依頼』を出し続けますわ!」
セシリア王女も口元にチョコレートをちょこんと付けながら、嬉しそうにハニートーストを小さくフォークですくって口に運んでいた。
「ふむ。 狂ったデジタル表示の不当なエラーをそろばんと電卓で正しき数値に弾き直し、自らの進路を勝ち取って極上のハニートーストを大食いする。 これ以上ない見事な二月の冒険者門出プロットだな、天照ひより」
私は文机に向かい、この『第四十一幕・二月の冒険者ギルド登録編』の最後の一ページに、満足のいく文字を刻み終え、万年筆を静かに置いた。
「推敲は終わった、硯水さん?」
ひよりがテラスから差し込む、二月の爽やかな冬空と王都の賑やかな街並みを見つめながら覗き込んでくる。 私は微笑み、表紙に力強い文字でこう書き込んだ。
『名もなき神社のデッドストック・第四十一幕~二月の卒業目前進路選択・査定電卓の評価バグノイズを、そろばんの絶対指弾珠算と電卓の確定入力により、正しきランクA冒険者へ上書きして特大爆盛り生チョコハニートーストを大食いしてみた~』
「ふふ、完璧な大団円だ。 さあ、天照ひより。 二月の進路選択もこれにて無事幕引き。 三月からはついに、ルミナス魔法学院の卒業式と、新しい冒険の旅立ちプロットの始まりだ」
「うん! よーし、三月になったら、いよいよ卒業式本番! セシリアちゃんたちみんなと一緒に、門出の卒業大祝宴と特大イチゴ三色桜もち和パフェで、最高のハッピーエンドを作っちゃうぞ!」
窓の外では、冬の澄んだ空に温かい陽光が降り注ぎ、王都の爽やかな風がひよりの黒い髪を美しく揺らしていた。
「パパ、ママ。 私ね、二月の進路選択で、土の下に眠る天照のお宝たちの力を使って、不当なエラーをパチパチ弾き飛ばして、自分が一番やりたい『魔物料理研究家の冒険者』になれたよ。 だから……いつか本当に私が美味しいものをいっぱい見つけて呉の家に帰れた時は、あの居酒屋さんで食べた小鰯のアツアツ天ぷら、パパの奢りで、絶対に家族みんなで、お腹がはち切れるくらい食べさせてね!」
少女のどこまでも明るいハッピーエンドの笑い声と、千年の時を超えてリュックの中で賑やかに笑う付喪神たちの声は、ぬくもりに包まれた王都の空へ、遠い、遠い故郷の空へと、どこまでも、どこまでも爽やかに響き渡っていった。




