40 茶こしとストロー
一月を迎え、ルミナス魔法学院には最高学年・三年生として迎える最後の冬休みが訪れていた。
数々の理不尽な危機を、人里離れた山奥にあり、今や誰も知らない土の下に没した実家「天照神社」の蔵から現れた付喪神たちと共に爆発的なハッピーエンドへと塗り替えてきた天照ひよりは、今、人生で一番贅沢で平和な冬休みの真っ只中にいた。
「みんな、 一月だよ、一月! 広島の呉のれんが通りのお菓子屋さんでもね、一月になると温かいココアやぜんざいが最高に美味しい季節だけど、まさか王都の『王宮迎賓離宮』にお招きしてもらえるなんて夢みたいだよ!
なにしろ、今日のセシリアちゃんの熱烈なおもてなしをみんなで楽しんだら、王宮の特級シェフさんたちから『一月限定・王宮特製・贅沢完熟いちご練乳ココア&超特大とろけるフォンダンショコラ・おかわり自由手形』が授与されるんだから!
とろける濃厚な温かいショコラに甘い練乳と甘酸っぱい完熟イチゴがドカンと乗った特製ココアと、ナイフを入れたら中から熱々のチョコレートが溢れ出す特大フォンダンショコラ……!
これはもう、広島県立女子高生としての私のすべての胃袋の情熱と、我が実家の天照のお宝たちの力を合わせて、絶対にセシリアちゃんのおもてなしを最高に味わい尽くして、超ハッピーエンドを掴み取るしかないよね!」
冬の柔らかな日差しが差し込むフカフカの絨毯の上で、上質な冬用ドレスに身を包んだ天照ひよりは、手にした木製の特大しゃもじを高く掲げ、三年A組の仲間たちに向けて元気いっぱいに大声を張り上げていた。
「おいおい、天照! 朝っぱらからフォンダンショコラへの執念が凄まじい魔力となって、離宮の温室のイチゴを前倒しで完熟させてんぞ! だが、今回は危険な事件や魔物の襲撃なんて何ひとつ起きていないのに、別の意味で凄まじいことになってるぞ!」
ツンツン頭の少年――最高学年の胸章をつけた上質な冬服姿のルファスが、あまりの豪華さに圧倒されながら、額の汗を拭っていた。
「ひよりさん、ルファスさん! 見てくださいぃ! テーブルの上に運ばれてきた『王宮特製・最高級魔導ココア&ホットチョコレート』が、大きすぎてプールみたいになってますぅ!
セシリア様がひよりさんを喜ばせようと『王宮で一番大きくて最高級のココアを!』ってシェフに頼んだら、シェフたちの気合いが空回りして、直径三メートルを超える超巨大な金のカップになっちゃいましたぁ!」
犬耳の少女ミーナが、フカフカの毛布の上でふさふさの尻尾をピクピクさせながら、テーブルの中央で湯気を立てる巨大なカップを指差して目を丸くしていた。
「ひよりお姉様……! 私、お姉様に世界で一番美味しいココアを召し上がっていただきたくて、王宮の特級シェフ全員に最高級のカカオと極上のミルクを煮詰めさせましたの!
そうしましたら……シェフたちが張り切りすぎてしまって、超濃厚なショコラの上に、甘いマシュマロの極厚な膜がペタリと張って、中で熱々の湯気がどんどん溜まってきてしまいましたわ……!
ひよりお姉様に危険な事故なんて絶対に起こさせませんけれど、このままですとマシュマロのフタが弾けて、お姉様の可愛いお洋服が濡れてしまいますわ……!」
可憐なピンク色のドレスに身を包んだ第一王女セシリアが、手繰り寄せた袖をぎゅっと握り締め、極光の瞳にポロポロと泣きそうな浮かべながらひよりの腕にしがみついた。
「ふむ。 危険な敵の悪意もハッキングも一切存在しない、純粋なおもてなしの情熱による過剰供給と、濃厚なココアの物性エラーか。
表面に張った極厚のマシュマロ膜が湯気を閉じ込め、下からの圧力でカップから溢れ出そうとしているな。
命の危険などどこにもない長閑なドタバタだが、このままではせっかくの最高級ココアが台無しになり、セシリア王女の健気な心が痛んでしまう。
ひより、実家の天照神社の蔵に眠る、あの『過剰な液体と表面の膜』を完璧に整える絶対なる規律を呼び出す時だ」
私はひよりの帯に差し込まれた竹定規の竹千代の影から、依り代である文机を精神体として小さく出現させ、滑らかな万年筆の先から透明なインクを走らせながら静かに告げた。
私の名は『硯水』。 災害によって土の下に没し、今は誰も知らぬ人里離れた山奥の天照神社で、千年の間、人間の様々なる「濃厚な汁物の表面に張ったアクや膜を優しく取り除く知恵」「深すぎる器から流体をスムーズに吸い上げて口元へ届ける技術」「何事もない平和な日常の中で、温かい飲み物を囲んで笑顔になる情熱」の歴史を見つめ続けてきた、文机の付喪神だ。
「そうだよ、硯水さん! 呉の家やお家のお台所でもね、お鍋の上の浮いたアクや膜は茶こしで優しくすくって、大きなココアはストローでジュルッと美味しく飲むのが決まりだったんだもん!
事故じゃないけど、このままだとココアの湖にマシュマロがフタをして、下から湯気が吹き出してドレスが濡れちゃうよ! セシリアちゃんがせっかく準備してくれた最高のココアを、私の甘味への情熱と天照のお宝の力で、世界で一番飲みやすい極上ココアに変えて、みんなで美味しく大食いしてやるんだからぁぁぁーーーッッ!!」
天照ひよりが力強く拳を握りしめ、ふかふかの暖炉と超巨大ココアが待つ豪華なテーブルへと、堂々たる足取りで第一歩を踏み出した。
【第二部:中編】「道具登場! 『ストローの吸い丸』&『茶こし(アミ)の網蔵』の日常技」
「ハハハ! 困ったようだな、天照ひより!」
王宮離宮の厨房の陰から、金のココアカップを作った王宮の筆頭料理長(特級シェフ)が、胸を張りながら誇らしげに姿を現した。
「この『王宮特製・至高の魔導ホットショコラ』は、我が厨房が持てる全情熱を注ぎ込んだ至高の逸品! 表面を覆う濃厚マシュマロの膜は、冷めないように熱と香りを完全に閉じ込める『絶対保温の皮膜』なのだ! だが、あまりに濃厚すぎたか……! 下からの湯気圧で、あと一分もすればマシュマロの膜が吹き飛び、周囲十メートルに温かいココアの雨が降り注ぐことになるぞ! さあ、王宮のシェフたちの情熱をどう受け止める!?」
「料理長さん、気合いが空回りしすぎですよぉ!」
ルファスが風魔法で周囲に簡易バリアを張りながら叫ぶ。
「天照さん! このままだとセシリア様の可愛いピンクのドレスも、ミーナのふさふさの毛皮も、全部甘いチョコまみれになっちゃいますぅ!」
ミーナが耳をペタンと寝かせて慌てふためく。
セシリア王女も「お姉様、私の準備不足ですわ……!」と涙ぐみながらひよりの服の裾をぎゅっと握りしめていた。
「なに言ってるのよ、料理長さん! せっかくセシリアちゃんが私を喜ばせようと作ってくれて、シェフさんたちが情熱を込めて煮詰めてくれた最高のココアじゃない! 粗末にするわけないでしょ!」
ひよりの日常防衛本能(異常なまでの甘味への愛と、日常の知恵)が、ポカポカとした暖炉の前で心地よく爆発した。
「天照ひより、その通りだ。 世界がどれほど過剰な情熱でココアの表面に極厚のマシュマロ膜を作り出そうとも、人間の『網目の細かいステンレスで液体と不要なアクや膜を優しく分離する茶こしの技術と、どんなに深く濃厚な流体であっても吸い上げて口元へ完璧な量で届けるストロー』という日常の裁量と嗜好の規律の前には、過剰な湯気の圧力など一滴の暴走も許されない。
天照の神社の東の第十二蔵の引き出しの奥――昭和や平成の時代、人里離れた山奥の神社で家族のお茶や和菓子を仕立てる際、歴代の家族の手によって何万回も余分な膜を掬い、甘い飲み物を注ぎ届けてきた、あの『絶対分離・流体吸引道具たちの総力戦』を発動するのだ!」
「東の第十二蔵の、余分な膜をすくってシュルッと美味しく飲む道具……あ! お母さんがお茶を淹れる時やお料理の時に『これで漉すと舌触りが良くなるのよ』って大切に使っていた、あの半球型の細やかな茶こし! それに、お父さんやおじいちゃんが冷たいドリンクやお祭りのお店で『これで飲むと一層美味しいな』って、カラフルな袋から出していた、あの蛇腹付きのプラスチックストロー!」
「そうだ。 あれらは、世界を滅ぼす破壊魔法ではない。 だが、人間の『どんなに濃厚で溢れそうな飲み物であっても、不要な膜を優しく取り除き、ストローで吸い上げれば、世界で一番美味しい至福のひとときになる』という、あまりにも力強い生活の知恵から生まれた道具たちだ。
ひより、彼らを呼び出して、その巨大なココアの湖を、今すぐ世界で最も優雅で美味しい『至高のティータイム』へと変えてやれ!」
「デッドストック、最大出力起動! 我が実家の天照の蔵の奥、どんな濃すぎる飲み物も絶対に無駄にせず、最高に美味しく整えてきた、最強のドリンクコンボ、おいで!」
ズガァァァァァン!!! シュルシュルシュルッ! サクッ! ジュルル……!!!
空間に、細やかなステンレス網が微細な気泡と極厚のマシュマロ膜を優しく掬い上げて分離する爽快な音と、カラフルなプラスチックストローが吸い口の蛇腹をカチッと曲げて、絶対なる吸引力で濃厚な流体をスムーズに導き出す、あまりにも頼もしい『分離と吸引の音』が響き渡った。
光の中から出現したのは――天照家で長年大切に使い込まれ、半球形の目には一微粒のダマも残さない『特撰茶こし(あみ)』と、フレキシブルな曲がり角と絶妙な内径を持つ『事務・飲食店用カラフルストロー(すい)』の一対だった。
「おやおや、随分と気合いの入った濃厚なスープ……じゃなくてココアだねぇ! アタシの網で、表面のフタを優しくすくって舌触りを最高にしてあげようかい!」
茶こしの表面から立ち上る、どこか懐かしい緑茶とお茶の香りと、整えられた空間の煙の中から現れたのは、清潔な和割烹着を着て、手に大きな半球型のステンレス網を構えた粋なお母さんの姿をした付喪神――
名を『網蔵』という。
千年の間、人里離れた山奥の天照神社で「不要なアクや膜を取り除き、澄んだ美味しさだけを残す」という絶対分離の執念から神格を得た、茶こしの付喪神だ。
「そしてそしてぇ! すくった後の濃厚ココアは、ボクのストローでジュルッと最高の量で吸い上げてあげるよ、ひよりちゃん!」
ストローの屈曲部から、ピョンと飛び出してきたのは、頭にカラフルなストローの帽子をかぶり、両手に吸い口型の棒を構えた、軽快で小粋な少年の姿をした付喪神――
名を『吸い丸』という。 彼は、神社でのお祭りや集会で「どれほど深い器であっても、飲む人の口元へスムーズに流体を届ける」という絶対流動の規律を司る、ストローの付喪神であった。
「網蔵さん、吸い丸君! あの巨大カップの上のマシュマロ膜を優しくすくって、みんなが安全に最高に美味しく飲めるように仕立て直して!」
「おう、任せときな、ひよりのお嬢さん! アタシの網がすくう膜はね、シェフの過剰な情熱だろうが熱気の圧力だろうが、一瞬で『極上のふわふわマシュマロトッピング』として分離するのさ! ――【神域分離・絶対網目微細大掬い(しんいきぶんり・ぜったいあみめびさいだいすくい)】!」
網蔵が、自らの本体である特大茶こしを手に持ち、巨大カップの上を覆っていた極厚のマシュマロ膜に向けて、空中をすーっと滑らかに走らせた!
サクババババッ!
その瞬間、湯気を閉じ込めて破裂寸前だった極厚のマシュマロ膜が、網蔵の放つ「絶対分離の網」によって一瞬で優しく掬い上げられ、ダマや固まりのない『フワフワでとろける最高級マシュマロホイップ』へと綺麗な別皿に切り分けられていったのだ! 圧力の溜まっていたココアの表面からは、心地よい甘い湯気がフワリと立ち上り、ただの「完璧な温度の極上ホットショコラ」へと物理的に整えられてしまったのである!
「な……なにぃ!? 我が厨房が誇る保温の皮幕が、ただの『茶こしの網』によって、フワフワの極上トッピングにすくい分けられただと……!?」
筆頭料理長が驚愕する。
「それだけじゃないよ! 仕上げはボクのストローで、みんなのカップへ最高のエレガント注入! ――【神域流体・絶対角度ジャスト吸給(しんいきりゅうたい・ぜったいかくどじゃすときゅうきゅう)】!」
吸い丸が、驚異的なスピードで巨大カップの周りを舞い、ひよりやセシリア王女、ルファスやミーナの前に置かれた個別の小カップに向けて、自らのストローの軌跡を繋いだ!
ジュルジュルジュルッ!
不思議なことに、吸い丸が角度をカチッと曲げて誘導するたび、巨大カップの中の濃厚なココアが、一滴の飛び散りもなく滑らかに個別のカップへと注ぎ分けられ、表面には網蔵が掬ったフワフワのマシュマロがトッピングされていったのだ! 巨大すぎて困っていたココアの湖は、一瞬にして「テーブルを飾る最高の王宮アフタヌーンココアセット」へと大変身を遂げたのだった!
「ああっ!? 溢れそうだったココアの湖が、世界一美味しそうなココアセットになったぁぁぁ!?」
料理長たちが感涙する中、危険な事故など何一つない「ただのおもてなし大成功」が完成したのだった。
【第三部:後編】「ポカポカの暖炉と、一月限定『王宮特製・贅沢いちご練乳ココア&超特大フォンダンショコラ』大食い!」
「おおお……! なんということだ!
溢れそうだったあの濃厚なショコラが、ダマひとつない完璧な喉ごしと温度のココアとなり、しかもあの極厚のマシュマロがフワフワのホイップとして美しく添えられている……!
これぞ……これぞまさに、王宮の情熱と天照殿の知恵が融合した『至高の一杯』だぁぁぁ!」
王宮の筆頭料理長が、小カップに注がれたココアを一口含み、あまりの美味さにその場で崩れ落ちて感動の涙を流した。
「ふふん、見たかシェフ!
天照さんの『実家の道具の力』にかかれば、どんなに量が多くて濃すぎるおもてなしだって、一瞬で最高のティータイムに変えちゃうんだからな!」
ルファスが自分のカップを持ち、嬉しそうに鼻が高々になっている。
「ひよりさん、すごいですぅ!
見てください、マシュマロがフワフワで、ココアが甘くてポカポカして、お耳も尻尾もトロけちゃいそうですぅ!」
ミーナが口のまわりに真っ白なマシュマロの泡をちょこんとつけながら、大喜びで尻尾をプロペラのように振り回していた。
「ひよりお姉様……!
私、お姉様のために準備したおもてなしが台無しになってしまったかと、本当に肝を冷やしましたわ……!
お姉様がこうして笑顔で、世界で一番美味しいココアにしてくださって……私、私、本当に嬉しくって……!」
セシリア王女が極光の瞳からポロポロと大きな嬉し涙をこぼし、ひよりのドレスの胸元へ思い切り抱きついた。
「よしよし、セシリアちゃん! 泣かないで!
セシリアちゃんが私を喜ばせようと、こんなに最高で甘いココアを用意してくれたんだもん!
台無しどころか、今まで飲んだどんなココアよりも何万倍も美味しくてハッピーだよ!」
ひよりはセシリア王女の頭を優しく撫でながら、満面の笑顔を弾けさせた。
その時、暖炉の火が心地よくパチパチと爆ぜる離宮の広間へ、王宮の給仕たちが銀の特大ドームを掲げて続々と入ってきた。
「さあ、皆さま! 事故もハプニングも一切ない、完全無欠の王宮アフタヌーンティーのメインディッシュでございます!
『一月限定・王宮特製・贅沢完熟いちご練乳ココア&超特大とろけるフォンダンショコラ』でございます!」
ジャジャーン! と銀のドームが開けられると、そこには焼きたての芳しい香りを放つ、直径三十センチを超える超特大のフォンダンショコラと、真っ赤に熟した甘酸っぱい完熟イチゴ、そしてトロリとした甘い練乳が山盛りに添えられていた。
「おいしーーーい!!!
何これ! ナイフを入れたら中から熱々のとろけるチョコレートが溢れ出して、甘酸っぱい完熟イチゴと甘〜い練乳、そしてフワフワマシュマロココアが合体して、広島の呉のれんが通りや実家の神社で食べるどんな冬スイーツより身体の芯までハッピーが染み渡るよ!」
ひよりは特大のフォークを持ち、とろけるフォンダンショコラに完熟イチゴと練乳をたっぷり絡めてガブリと頬張り、ココアをゴクゴクと飲んで、とろけるような笑顔を爆発させていた。
「フ、フン、相変わらずの凄まじい食欲だな、天照。
だが、危険な事件も魔物の襲撃も何ひとつ起きず、こうして王宮のふかふかソファで最高級のスイーツを食べる冬休みというのも……悪くないな。
三年生最後の冬休み、君の隣でこうして美味しいものを食べられて良かったよ」
ルファスは胸元の最高学年章を優しく撫でながら、自らの分のフォンダンショコラを優雅に口に運び、満足そうに目を細めている。
「ひよりお姉様!
お姉様と一緒に温かい暖炉の前で食べるこのフォンダンショコラ、人生で一番美味しいですわ!」
セシリア王女も、口元に甘いチョコレートをちょこんと付けながら、嬉しそうにイチゴをフォークですくって口に運んでいた。
「天照さん、ルファスさん、セシリア様!
練乳とイチゴが甘くてお耳がピクピクしちゃいますぅ!」
ミーナも、鼻の頭に生クリームをつけながら夢中でケーキを平らげ、ふさふさの尻尾を激しく振って大喜びしていた。
「ふむ。
過剰なシェフの情熱を茶こしとストローで完璧に整え、危険な事故など何ひとつ起こさず、ポカポカの暖炉の前で極上のフォンダンショコラを大食いする。
これ以上ない見事な一月の『王宮ぬくぬく冬休み』プロットだな、天照ひより」
私は文机に向かい、この『第四十幕・一月の王都ぬくぬく冬休み編』の最後の一ページに、満足のいく文字を刻み終え、万年筆を静かに置いた。
「推敲は終わった、硯水さん?」
ひよりがテラスから差し込む、冬の温かい夕陽と王都の美しい街並みを見つめながら覗き込んでくる。
私は微笑み、表紙に力強い文字でこう書き込んだ。
『名もなき神社のデッドストック・第四十幕~一月の王都ぬくぬく冬休み・最高級魔導ココアの過剰情熱を、茶こしの微細大掬いとストローの絶対流体吸給により、完璧な至高セットへ整えて特大フォンダンショコラを大食いしてみた~』
「ふふ、完璧な大団円だ。さあ、天照ひより。
一月の冬休みもこれにて無事幕引き。
二月からはまた、卒業を目前に控えたルミナス魔法学院で、新しい美味しい日常のプロットの始まりだ」
「うん!よーし、二月になったら、卒業直前!
セシリアちゃんたちみんなと一緒に、バレンタイン大感謝祭と特大濃厚焼き生チョコハニートーストで美味しい日常をたくさん作っちゃうぞ!」
窓の外では、冬の澄んだ夜空に温かい星々が輝き始め、離宮の暖炉のぬくもりがひよりの黒い髪を美しく照らしていた。
「パパ、ママ。
私ね、一月の冬休みにセシリアちゃんの王宮へ遊びに行って、土の下に眠る天照のお宝たちの力を使って、すっごく大きくて甘いココアをみんなで美味しく整えて、一番美味しいフォンダンショコラを食べられたよ。
だから……いつか本当に私が呉の家に帰れた時は、せっかくお正月だから、ママの手料理たくさん食べたかったな!絶対に家族みんなで、食べさせてね!」
少女のどこまでも明るいハッピーエンドの笑い声と、千年の時を超えてリュックの中で賑やかに笑う付喪神たちの声は、ぬくもりに包まれた王都の夜空へ、遠い、遠い故郷の空へと、どこまでも、どこまでも爽やかに響き渡っていった。




