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27 里帰り

一月、新春の厳かな魔導寒波が学園都市ルミナスを白銀の世界へと塗り替えていた。


十二月の冬休み前定期試験。あの、死霊の硬直と生の躍動が激突した恐怖の課題曲【スリラー】のダンス試験を、拍子木の絶対同期と大太鼓の共鳴結界という「実家の蔵の楽器コンボ」で見事な満点引き分けハッピーエンドへと導き、特大十段重ねクリスマスケーキを貪り尽くしてから数日。


ルミナス魔法学院は、異世界における『新春精霊光臨祭(お正月)』の穏やかな静けさに包まれていた。だが、その年の初めの澄み切った空気のど真ん中、天照ひよりのリュックの底――

……あの千年の歴史を持つ実家の蔵へと繋がるゲートの奥底から、これまでにない、あまりにも優しく、そして切ない「奇跡のト書き(プロット)」が、光の粒子となって溢れ出し始めていた。


「ひより。お主に、千年に一度の神社のデッドストックたちからの、最大のお年玉(ハッピーエンド)を記述する時が来たようだぞ」


元日の朝。お祝いの魔導雑煮から立ち上る湯気の向こう、私はひよりの白木の机の横に、依り代である文机を精神体として静かに実体化させ、滑らかな万年筆の先を羊皮紙に当てながら応えた。


私の名は『硯水(けんすい)』。あの蔵の奥で、人間の様々なる「お正月の家族の団欒」「離れ離れになった血脈の再会」「生者と死者の境界線がほんの一瞬だけ融け合う、新年のハレの日の奇跡」を見つめ続けてきた、文机の付喪神だ。


「え……? 硯水さん、お年玉って何? 私、今こっちの世界の美味しい新春白玉団子をルファス君やミーナちゃんと一緒にハグハグ食べるプロットに忙しいんだけど……」


「ひよりの姉ちゃん、よく聞きなよ」


ひよりのリュックのポケットから、おみくじ箱の付喪神である『吉凶(きっきょう)』が顔を出し、その六角形の木箱の体をからからと、どこか涙を堪えるような優しい音で鳴らした。


「お正月三日間のうち、たったの一回、『十二時間』だけ。……お前の魂を、あの遠い、遠い故郷の『広島県呉市』の、パパとママのいる実家のリビングへ直接転移させてやることができるんだ。……でもね、ひよりの姉ちゃん。ごめんよ。

…あの夏の日のパトカーの事故の夜、ひよりの元の肉体は、あっちの世界ではもう『いなくなってしまった(死亡した)』ことになってるんだ。だから……元の『天照ひより』の姿のまま会うことは絶対にできない。あっちの世界で、お前のパパとママの血をほんの少しだけ引いている、

…小さな『姪っ子』の身体の質量を借りて、ほんの一時だけ、迷子の子供としてリビングの扉を叩くことしかできないんだよ。……それでも、お前はパパとママに会いに行きたいかい?」


その言葉が空間に響いた瞬間、ひよりの手から木製の箸がポロリと床に落ちた。


十六歳の女子高生(兼・見習い召喚士)としての彼女の瞳から、大粒の涙が、ぽろぽろと、大理石の床の上へと溢れ落ちていく。


「……行く。行くに決まってるじゃん! 姿が違ってたって、声が違ってたっていいよ! 私は、呉のパパとママに、あの夏の日からずっと、ずっと『ありがとう』って言いたかったんだもん! ――デッドストック、起動!! 私を、大好きな呉の、お母さんとお父さんのところへ連れて行って!!」


第二章:因果の壁と「十二時間の時間砂時計」


ひよりが涙ながらに叫ぶと同時に、実家の蔵のすべての付喪神たちの魔力がリンクした。


「おい、天照! 君が急に部屋で泣き叫びながら光に包まれたってミーナから聞いて、飛び込んできたぞ! 一体何のハプニングだ!?」


ツンツン頭の少年――ルファスが、新年の正装姿のまま、顔を真っ青にして部屋へと飛び込んできた。


「ルファス君……私ね、今から、私の本当のパパとママに会いに、元の世界へ行くの。たったの十二時間だけだけど、私の魂の里帰りなんだよ」


「な、何だって……!? 世界の壁を越えて、死者と生者の因果(プロット)を繋ぎ直すというのか! だけど天照、世界を跨ぐ時間転移は、この異世界の強力な『世界因果面・防衛システム(ワールド・フィルター)』によって、強烈な摩擦(ノイズ)として弾き飛ばされる! 魂が向こうの世界に着く前に、時間の狂いによって次元の狭間に永久に閉じ込められちまうぞ!」


ルファスの言う通り、空中に浮かび上がった『実家のリュック』のゲートからは、世界の境界線を絶対に越えさせまいとする不気味な青黒い数字の嵐――【世界因果の拒絶陣(タイム・バグ)】が噴き出し、ひよりのドレス(和装)の裾をボロボロに引き裂き始めていた。


「くっ……! 相手が世界全体の『時間は逆流しない、死者は還らない』という冷徹な絶対の真理(ルール)か。

どれほど巨大な世界の壁がひよりの帰郷を阻もうとも、お正月の一瞬の家族の温もりを汚すことは許されい。

……我が神社の西の第一蔵の最奥――千年の間、人間のありとあらゆる『一分一秒の遅れも許されない神聖な儀式の刻限管理』や『どれほど長い年月が経とうとも、一寸の狂いもなく神職たちの呼吸のテンポを維持し続けてきた』、あのシンプルながら最も厳格な道具を呼び出すのだ」


「西の第一蔵の、時間を刻む道具……あ! おじいちゃんが新年の最初の一秒に、本堂の奥でサラサラサラって静かにひっくり返して、『この砂が落ちる間だけは、神様と人間が手を繋げる時間なんじゃ』って言っていた、あの美しい真鍮製の……!」


「そうだ。あれは、魔法の時計ではない。

だが、人間の『どんなに過酷な世界の歪みが遮ろうとも、この砂の落ちる速度(テンポ)だけは絶対に嘘をつかない』という、強烈な『時間統制』の一念から神格を得た道具だ。

……ひより、彼を呼び出して、この不気味な世界の拒絶壁に、呉へと続く完璧な『十二時間の安全通路』をブチ抜いてやれ!」


第三章:新付喪神現る!「三尺砂時計の絶対刻限結界」


「デッドストック、完全同調! 我が実家の蔵の奥、千年の間、生者と神様の境界線を一秒の狂いもなく繋ぎ続けてきた、最高の時間支配官、おいで!」


シャラララララ……!!! カチ、カチ、カチ……!!!


空間に、世界で最も粒子が細かい純白の砂が、透明なガラスの器の中を音もなく滑り落ちていくような涼やかな音と、何百年の歴史の秒針が完璧な秩序で刻まれていくような、脳裏の焦燥を一瞬で静止させる『時間の音』が響き渡った。


光の中から出現したのは――高さが三尺(約九十センチ)もあり、重厚な真鍮のフレームには美しい十二支の彫刻が施され、中央の水晶ガラスの内部で、一粒一粒が真珠のように輝く神聖な砂が正確無比に流れ落ちている、伝統的な『神事用・特大三尺砂時計(すなどけい)』の姿だった。


「おやおや、随分と野暮で冷たい世界のルールが、お嬢さんの可愛い里帰り(プロット)を邪魔しているねぇ。……これじゃあ、せっかくの新春の温かいお雑煮の湯気が、次元の風で冷めちまうよ」


砂時計のフレームから立ち上る、新年の清々しいお神酒(みき)と古い白木の香りがする煙の中から現れたのは、全身を格調高い古風な神官の衣服に包み、瞳の奥に一分一厘のブレもない絶対的な『時間の水平線』を湛えた、大変に知的で物静かな老紳士の姿をした付喪神――


……名を『砂刻翁(さこくおう)』という。


千年の間、神社の最も重要な新春の儀式や、絶対に乱れてはならない時間の結界の最前線に担ぎ出され、どんなに世界の因果がねじ曲がろうとも「我が砂が刻む十二時間は、すなわち世界から完全に独立した『絶対正解の時間』である」という、強烈な『刻限統制』の執念から神格を得た、砂時計の付喪神だ。


「砂刻翁さん! あの世界の壁のせいで、パパとママのいる呉の家に帰れなくなっちゃうの! 私の魂を、十二時間だけ、完璧に守って向こうの世界へ送り届けて!」


「お安い御用だよ、ひよりのお嬢ちゃん。ワシの身体(砂時計)が刻む時間はね、世界のシステムごときにハッキングされるほどヤワじゃないのさ。……さぁ、この砂の輝きの後に付いてきなさい! ――【神域統制・十二時間絶対隔離刻限(しんいきとうせい・じゅうにじかんぜったいかくりこくげん)】!」


砂刻翁が、自らの本体である巨大な三尺砂時計を、空中でクルリと一回転させて完全に逆さへとひっくり返した。

その瞬間、純白の砂が中央の細い管をスーッと滑らかな速度で流れ落ち始め、ひよりの身体の周りに、世界全体の時間の流れから完全に独立した『絶対黄金の時間球(タイム・シールド)』が展開された。


世界の拒絶陣(タイム・バグ)が放っていた、ひよりの魂をバラバラのノイズへ分解しようとする黒いレーザー光線が、砂刻翁のシールドに直接命中した。

普通なら一瞬で存在を消滅させられる威力の次元の歪みだったが、砂刻翁の砂時計は魔法防御ではなく『千年の人間の「この時間は、神聖にして不可侵である」という絶対の規律の物理結界』そのものであったため、世界のバグは熱や因果をシールドに伝えることができず、逆にその圧倒的な「一秒の正確さ」の前に、パチパチパチ! と軽い音を立てて完全に消滅し、道を譲るしかなかった。


「な……何ということだ……! 世界の次元の壁が、ただの『古い砂時計』の落ちる速度の前に完全に無力化され、呉へと続く完璧な光の線路が記述されていく……!?」


ルファスが本日一回目の「完全に顎を外して固まるポーズ」を披露しながら絶叫している。


「ハハハ、どんなに冷酷な世界の真理(ルール)だってな、人間の家族を想う一秒の熱さの前には、ただの砂山の煙よ! さぁお嬢ちゃん、時間はピッタリ十二時間。行ってきなさい!」


砂刻翁が穏やかに微笑むと、ひよりの魂は黄金の光の粒子となり、ルファスやミーナ、そして付喪神たちが見守る中、実家のリュックのゲートの奥底へと吸い込まれ、一瞬にして世界の壁をブチ抜いて跳躍していったのだった。


第四章:呉の雪と、小さな姪っ子の身体


二〇二六年、一月三日の夕暮れ。


広島県呉市の空からは、静かに、優しく、新春の冷たい小雪がひらひらと舞い落ちていた。


「……ん……っ、あ……」


呉の市街地から少し離れた、見覚えのある古い住宅街の路地裏。天照ひよりがゆっくりと目を開けた時、自分の視線が、以前よりも遥かに『地面に近い(背が低い)』ことに気がついた。


自らの両手を見つめると、それは十六歳の女子高生のものではなく、手袋に包まれた、いたって小さな、五歳か六歳ほどの幼い子供の手だった。


「あ……声も、すっごくちっちゃい……。吉凶君の言ってた通りだ。私は、もうこの世界には『天照ひより』としては存在してないから……パパとママの血を引いている、いとこのお姉ちゃんちの小さな『姪っ子』の身体を借りて、ここに立ってるんだ……」


小さな姪っ子の身体に宿ったひよりは、トタトタと短い足で雪を踏み締めながら、一歩一歩、懐かしい我が家の玄関へと向かって歩き出した。


角を曲がると、そこには、あの日と全く変わらない、少し古びた、だけど世界で一番温かい、天照家の表札がかかった一軒家が、夕暮れの街灯の光の中に静かにたたずんでいた。

窓の奥からは、温かいオレンジ色のリビングの灯りが漏れており、ひよりの鼻腔に、懐かしい、本当になだか涙が溢れるほど懐かしい「お母さんの特製手作りお好み焼きのソースの焦げる匂い」が、ほわぁーんと優しく届いてきた。


ひよりは小さな胸をギューッと締め付けられるような愛おしさに震えながら、低い位置にある玄関のインターホンのボタンを、小さな指で思い切り押し込んだ。


ピンポーン。


「はーい、どちらさ……。あら?」


ガチャリと扉が開き、そこに出てきたのは――あの夏の日から、少しだけ白髪が増えたかもしれない、だけど世界で一番大好きで、世界で一番会いたかった、ひよりの優しいお母さんの姿だった。


「おばちゃん……。あのね、私、迷子になっちゃって……すっごく寒いの。……お家の中に、入れて、くれませんか……?」


ひよりが小さな声を震わせながら見上げると、お母さんは一瞬、そのパールの瞳を大きく見開いて息を呑んだ。

姿も声も全く違うはずなのに、お母さんの本能が、その子供の瞳の奥にある「黒い輝き」に、かつて失った愛しい娘の面影を一瞬でハッキング(上書き)したかのように、ダラダラと大粒の涙を流し始めたのである。


「……ええ、ええ! よく頑張って歩いてきたわね、寒かったでしょう! さあ、中に入りなさい、おじさんも今、リビングにいるからね!」


お母さんは小さなひよりを包み込むようにギュッと抱きしめると、温かい天照家のリビングへと、彼女の手を引いて招き入れてくれたのだった。


第五章:天照家の食卓と「お好み焼きの味のハッピーエンド」


「おやおや、可愛いお客さんだねぇ。お外は雪が降ってて寒かったろう」


リビングのコタツの横から立ち上がったのは――あの夏の日の夜、娘を失って誰よりもボロボロに泣き崩れていた、ひよりの不器用で優しいお父さんだった。

お父さんもまた、小さなひよりの顔を見た瞬間、持っていた新聞紙をごとりと床に落とし、その頑固な目元を真っ赤に染めて後ずさりした。


「お父さん、この子、迷子になっちゃったみたいでね……。今から、あったかいご飯を食べさせてあげるからね」


お母さんが優しく笑いながら、コタツの上の特大の鉄板の上に、まさに今、じゅうじゅうと音を立てて焼き上がったばかりの『天照家特製・具だくさん広島風お好み焼き(豚玉・そば入り・ネギ山盛り)』を、大きなヘラで綺麗に切り分けて、小さなひよりの前へと差し出してくれた。


「さあ、お腹いっぱい食べなさい。うちのひよりがね……あの子が本当に、大好きだったお好み焼きなんだよ」

お母さんが声を詰まらせながら微笑む。

ひよりは小さな両手で、お馴染みの天照家の小さな箸を握り締め、フーフーとお好み焼きの湯気を吹き飛ばしながら、思い切り一口、その温かいお肉とキャベツを口へと運んだ。


ハグハグ、モグモグ……。

「…………っっっ!!!!」


その瞬間、ひよりの小さな身体の芯から、異世界のどんな宮廷の最高級冷製スープや、魔界の特上スペアリブ、白桃ミルフィーユの甘みをも遥かに超越した、凄まじいまでの『本物の幸福の記憶』が、一瞬にして爆発した。


「おいしーーーい!!! 何これ、キャベツがすっごく甘くて、豚肉がサクサクで、お母さんの特製グレービーソースのコクが上品で……世界で、世界で一番美味しいよぉぉぉ、お母さん、お父さん!!」


小さなひよりの瞳から、大粒の涙が、ぽろぽろと、お好み焼きのソースの海の上へと溢れ落ちていく。姿は姪っ子の子供のままで、声もちっちゃいけれど、その食べ方、その「おいしい!」と叫ぶ満面の笑顔のプロットは、天照家のお父さんとお母さんが何十五年間も毎日ずっと隣で見守り続けてきた、あの愛しい娘『天照ひより』そのものの記述だった。


「お前……ひより、ひよりなのか……!? 姿は違っても、その食べ方は……ああ、やっぱり、お前はあの日、神様の蔵のお宝と一緒に、どこか遠い世界で元気に生きてたんだな……!!」


お父さんがたまらずコタツの上に突っ伏し、小さなひよりの身体を、その大きな、ゴツゴツとした職人の手でギュッと、壊れないように強く抱きしめて男泣きに大号泣した。


「ひより、ひより……! よく帰ってきてくれたわね! 会いたかった、ずっと、ずっと会いたかったのよぉ!!」


お母さんもひよりを抱きしめ、三人で、新春の静かな天照家のリビングのど真ん中で、涙だらけの顔でお互いのぬくもりを確かめ合った。


ひよりはお父さんの胸の中で、ちっちゃな手で二人の背中をパタパタと叩きながら、最高の笑顔で言った。


「パパ、ママ、あの夏の日、急にいなくなっちゃって本当にごめんなさい! でもね、私、あっちの剣と魔法の世界で、おじいちゃんの神社の消しゴムや定規、ハサミや砂時計の付喪神たちみんなと手をつないで、すっごくかっこいい特異点の巫女さんになって、毎日毎日、お腹がはち切れるくらい美味しいものを食べて、最高の仲間たちとハッピーエンドを作って元気に生きてるんだよ! だから……だからもう、私のために泣かないでね! 私はずっと、二人の最高の娘なんだから!」


天照家のリビングの時計の針が、砂刻翁の刻む「十二時間」の終わりのカウントダウンへと向かう中、三人は残りの時間を惜しむように、お好み焼きを全員でハグハグと笑いながら貪り食い、これまでの異世界での大冒険のお話を、パパとママにたくさん、たくさん聞かせてあげたのだった。


終章:一月の星空と、二年生の約束


そして、十二時間の奇跡の刻限がまさにゼロを迎えようとした、一月四日の午前四時。


呉の街がまだ深い眠りの中に静まり返り、冷たい星空が美しく瞬く天照家の玄関先。


「ひより、もう時間なのね……」


お母さんが小さなひよりの防寒着の襟元を優しく整えながら、涙を拭って微笑んだ。


「うん、お母さん。でもね、私、全然寂しくないよ。だって、実家の蔵のリュックの中に、パパとママの作ってくれたお好み焼きの温かいぬくもりと、この『無限おかわり手形』が、心の中にガッチリ接着されたんだもん!」

「ああ、ひより。向こうの世界に行っても、ご飯だけは、美味しいものだけは絶対に我慢しちゃ駄目だぞ。ヴァルカン家のツンツン頭の坊主にも、よろしくな」


お父さんが赤い目元を擦りながら、頼もしく笑ってくれた。


ひよりの身体が、砂刻翁の「絶対の帰還命令」によって、黄金の光の粒子へとゆっくりと溶け込み始めた、その最後の瞬間。


「パパ、ママ! 私を天照家に生んでくれて、本当に、本当にありがとう!! 私、あっちの世界でも、宇宙一の美味しい大団円をたくさん記述して、元気に生きていくからねぇーーーッッ!!!」


ピカァァァァァン!!!!!


まばゆい新春の精霊の光が呉の夜空へと駆け抜け、次の瞬間、ひよりの魂は世界の壁を逆跳躍し、ルミナス魔法学院の自室のベッドの上へと、一分の狂いもなく元の『二年生の先輩・天照ひより』の姿となって返り咲いた。


「……天照! 戻ったか! 無事なのか!?」


ベッドの横で、十二時間一歩も動かずに心配そうに手を握り締めていたルファスが、顔を真っ赤にして叫んだ。ミーナも「ひよりさん、おかえりなさいですぅ!」と大号泣しながら尻尾を振ってしがみついてくる。


「うん、ルファス君、ミーナちゃん……ただいま! 私ね、パパとママに、ちゃんと『ありがとう』って言えたよ。それにね、これからは二年生の先輩として、もっともっとこの世界の美味しい日常を守るために、前を向いて戦う元気が、体の中からマグマみたいに溢れてるんだから!」


ひよりは涙の跡が残る顔に、これまでにない、歴史上最も強くて美しい「調停の巫女」の最高の笑顔を浮かべてみせたのだった。


「ふむ。失われた因果の頁を一時だけ繋ぎ直し、正しい親子の絆のステップで最高のハッピーエンドを記述する。これ以上ない、千年に一度の完璧な新春第一章のプロットだな、ひより」


私は文机に向かい、この『第二十七幕・一月の呉の里帰り編』の最後の一ページに、これまでにない最も美しく、最も力強い文字を刻み終え、万年筆を静かに置いた。


「仕上げは終わった、硯水さん?」


ひよりが窓の外から差し込む、新春の美しい学園都市の夜明けの光を見つめながら覗き込んでくる。私は微笑み、表紙に誇らしげな文字でこう書き込んだ。


『名もなき神社のデッドストック・第二十七幕~一月の三日間の奇跡の里帰りを、三尺砂時計の絶対刻限結界により、姪っ子の身体を借りてパパとママにお好み焼きのハッピーエンドを伝えてみた~』


「ふふ、大・大団円だ。さあ、ひより。一月での最大の奇跡もこれにて一段落。明日からはまた、このルミナス魔法学院で、新しい美味しい二年生編の後編のプロットの始まりだ」


「うん! よーし、新しい学期が始まったら、今度はみんなと一緒に冬のあったか焼き芋大会と大福引き大会で、世界一美味しい日常をたくさん作っちゃうぞ!」


窓の外では、静かに、優しく一月の満天の星空が異世界と呉の空を一つに繋ぎ、王宮の暖かい魔導の光がひよりの黒い髪を美しくドレスアップする。


少女のどこまでも明るいハッピーエンドの笑い声と、千年の時を超えてリュックの中で賑やかに笑う付喪神たちの声は、ぬくもりに包まれた学園都市の夜空へ、遠い、遠い故郷の空へと、どこまでも、どこまでも響き渡っていった。

みなさま、どんな風に感じてもらったのでしょうか?

少しでも面白いかもと思って頂けましたら幸いです。

励みになりますので、☆をチェックしてもらえると嬉しく存じます。

これからもお付き合いのほどよろしくお願いいたします。

今回は女子高生のお話です。

よろしくお願いします。

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