23 バールと熊手
カレンダーのページが九月にめくられると同時に、ルミナス魔法学院を囲む広大な白亜の山々には、黄金色の稲穂の波と、魔力をふんだんに吸い上げて丸々と実った新米、そして芳醇な香りを放つ特大の魔導キノコや果実の色彩が一面に広がっていた。
八月最後の日に発生した「一万発の魔法花火・地上暴発テロ未遂バグ」を、実家の蔵のあらゆる付喪神を総動員した『デッドストック・フルコンボ』によって接着・修正・大団円へと導いた天照ひより。
彼女の旺盛な食欲と日常防衛本能は、新学期が始まると同時に、さらなる高みへと上り詰めようとしていた。なぜなら、九月のルミナス魔法学院最大のイベント――『秋の収穫祭・クラス対抗ダンジョン実食大収穫祭』の開催が、まさに目前に迫っていたからである。
「みんな、おはよう! 九月だよ、九月! 秋といえば食欲の秋、収穫の秋、そして何と言っても、実り豊かな新米と特大魔導キノコをバター醤油でジューシーに炒めて、ホクホクの焼き芋と一緒にハグハグ食べる最高の季節なんだよ!
今年の学園実習は、なんと学園の地下に広がる『特級魔導大迷宮』の最下層に眠るという、伝説の食材『黄金の魔導古代米』と『極上霜降り魔導キノコ』をどっちのクラスが先に美味しく調理して収穫できるかっていう、クラス対抗戦なんだって! これはもう、広島県立女子高生としての私のすべての胃袋の機能と、我が実家の蔵のお宝たちの力を合わせて、絶対にA組を優勝に導くしかないよね!」
涼しい秋の朝風が教室の窓から吹き込む中、ひよりはエプロンを模したルミナス特製の藍色の調理用魔導和装に身を包み、両手に木製のしゃもじと巨大なボウルを構えながら、鼻息を荒くして机を叩いていた。
「おいおい、天照! 朝っぱらから食欲の魔力が教室の天井を突き破りそうになってるぞ! 今回のクラス対抗戦は、ただの芋掘り遠足じゃないんだ。僕たち二年A組のライバルである、あの頭の固いエリート魔導師が集まる二年B組の班――
………通称『王宮直属・完全無欠の冷徹魔導エリート騎士団』の連中が、今回の実習のために、最新鋭の自動追尾型魔導お掃除ルーンや、食材を一瞬で乾燥粉末にする超効率魔導破砕機を王都から大量に買い付けて参戦してくるらしいんだ! もし彼らに負けたら、僕のヴァルカン家が秋の収穫祭のためにキープしておいた『九月限定・最高級魔導イノシシの極上ロース肉・十キログラム山分け手形』が、B組の連中に完全に奪われちまうんだぞ!」
ツンツン頭の少年――ルファスが、背中に何本もの探索用魔導松明と特大の背負い籠を背負いながら、顔を真っ青にしてハチマキを締め直していた。
「ひよりさん、ルファスさん! B組の皆さんは、効率重視でダンジョンの生態系を完全に無視して、キノコの根っこまで魔法で消し飛ばして収穫する作戦みたいですぅ! そんなことをしたら、ダンジョンの魔物たちや、美味しい食材を守っている山の精霊さんたちが悲しんじゃいます! 尻尾の毛が怒りでパチパチしちゃいそうです!」
犬耳の少女ミーナが、もふもふの尻尾をピーンと逆立てながら、悔しそうに拳を握りしめている。
「ふむ。効率と破壊によってダンジョンの実りを強奪せんとするB組の冷徹なプロット(記述)か。だが、自然の恵みを美味しくいただくということは、その食材が持つ歴史と、調理する者の道具への愛情が重なり合って初めて『至高の味覚』へと収束するもの。効率の魔法だけで本当の秋の味覚を記述できると思うなよ、ひより」
私はひよりの和装の帯に差し込まれた、竹定規の竹千代の裏側の影に、依り代である文机を精神体として小さく実体化させ、滑らかな万年筆の先から透明なインクを走らせながら応えた。
私の名は『硯水』。千年の歴史を持つあの蔵の中で、人間の様々なる「秋の収穫の喜び」「厳しい冬を前にした備えの知恵」「一つの鍋をみんなで囲んで突く時の温かい団欒」の歴史を静かに見つめ続けてきた、文机の付喪神だ。
「そうだよ、硯水さん! 呉の山でパパとおじいちゃんと一緒にやったキノコ狩りでもね、小さいキノコは残しておかないと、次の年に美味しいキノコが生えなくなっちゃうんだよ。
それに、お米の一粒一粒には、七人の神様が宿ってるんだから、そんな乱暴な魔法で無理やり引っこ抜くなんて絶対に間違ってる! だからね、この異世界のダンジョンのみんなにも、道具を大切にする心と、世界一美味しい秋のハッピーエンドを教えてあげるんだ!」
ひよりが力強く拳を握りしめ、クラス全員と共に、地下へと続く巨大なグルメ・ダンジョンの黒い鉄扉を開け放った、まさにその時だった。
第二章:過酷なグルメ・ダンジョンと、B組の非情な罠
ダンジョンの中は、まるで巨大な地下の原生林のようになっていた。壁一面から発光する魔導キノコが怪しい光を放ち、通路のあちこちには、新米の香りに誘われて活発に動き回る『巨大おにぎりスライム』や、背中に巨大な栗のイガを背負った『トゲトゲ栗ネズミ』がうごめいている。
「うわぁ! 美味しそうなスライムがいっぱい!……じゃなくて、みんな、B組の足跡があるよ!」
ひよりが指差した先には、B組の生徒たちが放った『自動追尾型魔導お掃除ルーン』が、凄まじい轟音を立ててダンジョンの通路を荒らし回った痕跡が残されていた。
彼らは食材を丁寧に収穫するのではなく、強力な風魔法と爆破魔法で周囲の土壌ごと食材を吹き飛ばし、魔法の吸引機で吸い上げるという、あまりにも非情な「完全効率化収穫」を行っていたのだ。
「ハハハ! 遅いぞ、マヌケなA組の面々よ! 農業や収穫など、高度な計算と魔法の出力の前には、ただの作業に過ぎんのだ! 我がB組はすでに最下層の『黄金の魔導古代米・聖域』へと到達し、すべての食材を我が方の魔導コンテナへと強制収容させてもらう!」
通路の奥から、B組のリーダーであるエリート魔導師の声が響き渡る。さらに彼らは、後から追ってくるA組を完全に足止めするため、通路に『空間歪曲・超高密度土砂崩れ(マッド・フォール)』のトラップを起動させた。
ゴゴゴゴゴゴ……ッ!!!
「うわあああっ!? 天井から、ダンジョン特有の、一度固まったらダイヤモンドよりも硬くなるという『魔導乾燥粘土の巨大土砂』が大量に降ってきたぞ! 通路が完全に埋まって、これじゃあ一歩も前に進めないし、埋まった食材が全部ペシャンコに押し潰されちゃう!」
ルファスが探索用松明を振り回しながら悲鳴を上げる。目の前には、何十トンものカチカチに固まった乾燥土砂の壁が立ちはだかり、その奥にあるはずの美味しい食材の気配を完全に遮断してしまっていた。
「そんなの絶対に許さない! せっかくの美味しいキノコやお米が、そんなカチカチの泥んこの中に閉じ込められちゃうなんて……みんなが美味しく食べられるはずの秋の恵みを、そんな嫌がらせの壁で台無しにされてたまるかぁぁぁーーーッッ!!」
ひよりの純情と、美味しい新米を絶対に炊き上げるという猛烈な日常防衛本能(食欲)が、極限の出力で爆発した。
「ひより、その通りだ。相手が『カチカチに固まった圧倒的な体積の障害物』を盾にして、お主たちの美味しい秋の収穫プロットを絶望の上書きで塗りつぶそうとするなら……
……我が神社の北の第二蔵の棚の奥――千年の間、人間のありとあらゆる『カチカチに固まってビクともしなくなった古い土壁の撤去』や『長年の湿気で完全に固着して開かなくなった開かずの間の巨大木扉の抉じ開け』、そしてどんなに固い大地の岩盤であっても『梃子の原理と、磨き上げられた一端の金属の刃による絶対的な空間の削り込み』、そして『大量の土砂を一瞬で美しい平地へと均して整える』という二つの知恵によって、一瞬で元の綺麗な平地へと強制補正し続けてきた、あの二つの伝統的な日常道具を呼び出すしかないようだな」
「北の第二蔵の、固いものを綺麗に抉じ開けて均す道具……あ! おじいちゃんが昔、神社の裏山が台風で土砂崩れになった時、魔法みたいに固い岩や泥の塊を、サクッて差し込んでバリバリッて抉じ開けて、一瞬で綺麗な通り道を作っていた、あの頑丈な鉄製の……それに、お母さんがお庭の畑を耕す時に、どんなにカチカチの土でも、波打つ板の先でサラサラサラって綺麗に均して、一瞬でふかふかの畝に変えていた、あの……!」
「そうだ。あれらは、大破壊の爆破魔法ではない。だが、人間の『どんなに固く閉ざされた大地や土砂であっても、一つずつ丁寧に抉じ開けて均せば、必ずそこには新しい実りの道が生まれ変わる』という、あまりにも力強い生活の知恵から生まれた道具たちだ。……ひより、彼らを呼び出して、その暴走する乾燥土砂の記述を、美味しい収穫のバージンロードへと正しく均してやれ!」
第三章:新付喪神現る!「バールの抉開破砕と熊手の整地結界」
「デッドストック、最大出力起動! 我が実家の蔵の奥、千年の間、どんな頑固な固着も絶対に許さず、カチカチの障害物を綺麗に抉じ開けて均してきた、最強の開墾コンボ、おいで!」
ズガァァァァァン!!! ザザザザザザ……!!!
空間に、頑丈な鍛造鉄が固い岩盤を根元からバリバリと引き剥がすような豪快な音と、何本もの竹や鉄の爪が荒れた大地を優しく、だが一糸乱れぬ正確さでサラサラと掻き均すような、あまりにも心地の良い『開墾と整地の音』が響き渡った。
光の中から出現したのは――長年の労働によって漆黒の鈍い光を放ち、先端のL字型の爪がどんな隙間にも鋭く噛み合うように鍛え上げられた伝統的な『解体用・頑強鍛造バール(ばーる)』と、一本一本の爪が弾力のある美しい竹と鉄で編み込まれ、長年の使用によって大地の油を吸い込んでピカピカに磨き上げられた特大の『農家用・平型整地熊手』の一対だった。
「おやおや、随分と頭の固い、カチカチに気取った土砂の壁が、お嬢さんの美味しい収穫の和装を汚そうとしているねぇ。……これじゃあ、せっかくの地下の極上キノコたちが、息が詰まって台無しになっちまうよ」
バールの表面から立ち上る、かすかな鉄錆と大地の香りと、整えられた空間の煙の中から現れたのは、筋骨たくましい身体を作業着に包み、豪快な笑みを浮かべながらも、その瞳の奥に「物理的梃子の絶対計算」を宿した職人の姿をした付喪神――
………名を『抉郎』という。千年の間、神社の境内で発生したあらゆる「固着した巨大御神木の根の引き抜き」や「錆びついた大戸の強制解放」の最前線に担ぎ出され、どんなに強固な防壁であっても「我が爪が差し込まれた隙間は、すなわち絶対破断の『境界線』である」という、強烈な『梃子抉開』の執念から神格を得た、バールの付喪神だ。
「そしてそしてぇ! 抉じ開けるだけじゃ、カチカチの泥はサラサラにならないからね! ボクがサラサラのふかふかに均してあげるよ、ひよりちゃん!」
熊手の爪から、ザザザと音を立てて飛び出してきたのは、頭に大きな稲穂の飾りをつけ、手にした熊手を神速のスピードで振り抜く、いかにも快活で働き者の少年の姿をした付喪神――
………名を『均吉』という。彼は、農業が爆発的に栄えた時代から、何万町歩もの荒れ果てた新田の土壌を、その爪の動きによって一瞬の誤差もなく「実りの秩序(ふかふかの土壌)」へと収束させてきた、熊手の付喪神であった。
「抉郎さん、均吉君! あのB組の魔法のせいで、ダンジョンの通路がカチカチの土砂で埋まっちゃったの! あの固い壁を抉じ開けて、通路をふかふかに均して、奥にある美味しいお米とキノコを助け出して!」
「おう、合点承知の助だ、ひよりのお嬢さん! 僕の爪が掴む隙間はね、ダイヤモンドの硬度だろうが神の結界だろうが、絶対に滑り落としはしないのさ!……ただ『ここに支点を置き、固執する因果の根元をピンポイントで跳ね上げる』。――【神域抉開・金剛鍛造梃】!」
抉郎が、自らの本体である鍛造バールを両手で大上段に構え、通路を塞いでいた『超高密度土砂崩れ』のダイヤモンド級にカチカチな土砂の壁の、ほんのわずかな「分子の隙間」に向けて、楔のように鋭く突き刺した。
その瞬間、どんな爆破魔法であっても傷一つ付かなかったはずの乾燥土砂の壁が、抉郎のバールの先端から走る『絶対の梃子の力』によって、バリバリバリバリッ!!! という凄まじい音を立てて根元から一気に引き剥がされ、ただの「崩れやすい泥のブロック」へと一瞬で強制分解されてしまったのだ。
「な……何だと……!? 我がB組の放った、上位の土級防御魔法を兼ねた土砂崩れの壁が、ただの『解体用の鉄の棒』のような道具によって、完全に根元から抉じ開けられたというのか……!?」
遠くの魔導通信機からB組の生徒たちの驚愕の声が響き渡り、土砂の壁がガラガラと崩れ落ちていく。
「それだけじゃないよ! はい、ボクの番! ザザザザザザ、サラサラサラサラッ!! ――【神域整地・一万因果ふかふか爪(しんいきせいち・いちまんいんがふかふかづめ)】!」
均吉が、驚異的なスピードで特大熊手を大地に振り下ろし、抉郎が粉砕してバラバラになった乾燥土砂の山を、一瞬のズレもなく、サラサラとした極上の『高級培養土』へとマッピング(整地変換)し始めた。
不思議なことに、均吉が熊手で土をザザザと掻くたびに、カチカチだった泥の塊が、空気をたっぷりと含んだ世界で最も肥沃なふかふかの土の絨毯へと生まれ変わり、通路の奥に隠されていた、まるまると太った『極上霜降り魔導キノコ』や、黄金色に輝く『黄金の魔導古代米』の穂が、傷一つない完璧な状態でスーッと美しく地表へと姿を現していったのである。
「ああっ!? バカな、我が方が罠として設置した土砂が、ただの『庭掃除の熊手』によって、完璧に計算された『最高級のキノコ栽培ベッドと水田の土壌』へと上書きされていく……!? 止めてくれ、これではただの最高に美味しい菜園になってしまう!」
B組の生徒たちが悲鳴を上げるが、均吉の熊手の動きは止まらない。罠の泥が完全にふかふかの土壌へと整地されたグルメ・ダンジョンの通路には、あと数分で、歴史上見たこともない最高の秋の収穫の舞台が幕を開けようとしていた。
第四章:グルメ・ダンジョン最下層の激突と「至高の調理対決」
土砂の壁を完全に突破し、最高の土壌から収穫した新鮮な『極上霜降り魔導キノコ』と『黄金の魔導古代米』を背負い籠にいっぱい詰め込んだひよりたちは、ついにダンジョンの最下層、巨大な地下祭壇へと到達した。
そこには、すでに最新鋭の自動魔導調理コンテナを設置し、機械的な手順で食材を乾燥粉末スープに加工し終えようとしていたB組の面々が、勝ち誇った顔で待っていた。
「フハハハ! 間に合わなかったな、A組! 我がB組は、ダンジョンのすべての食材の栄養価を『完全効率魔導抽出』により、この一本の『高濃度エリート魔導栄養ドリンク・秋の味覚フレーバー』へと完璧に濃縮した! 審査員の教頭先生たちも、この圧倒的な魔力数値と効率性を見れば、どちらが勝者か一目瞭然……」
「そんなの、そんなの全然『美味しくない』よ!!」
ひよりの怒声が、地下祭壇全体に響き渡った。
「お米はね、お釜の中でふっくらと炊き上がって、パカッて蓋を開けた時に真っ白な湯気がほわぁぁーんって立ち上るのが一番カッコいいんだよ!
キノコはね、ジューシーな肉厚の身を網の上でジュウジュウ焼いて、傘の裏側に旨味のスープがじんわり浮き出てきたところを、ハフハフしながら食べるのが一番幸せなんだよ! そんな、プラスチックのボトルに入った冷たい液体にしちゃうなんて……食材の神様にも、お腹を空かせて待ってる街のみんなにも、絶対に失礼だよ!」
「フン、所詮は落ちこぼれA組の感情論だな! ならば、その場に設置された調理台で、どちらの料理が真の収穫祭に相応しいか、審査員の教頭たちに判定してもらおうじゃないか!」
バチバチと火花が散る中、クラス対抗の『至高の収穫祭調理対決』が幕を開けた。
B組が最新鋭の魔導コンテナから、一分の狂いもない機械的な熱線で食材を処理していくのに対し、ひよりの陣営には――日常の調理道具たちの、あまりにも温かい『知恵の連鎖』が起動していた。
「白妙の修正液で食材のわずかな泥汚れを綺麗に消し去り、竹千代の竹定規でキノコの厚みを一ミリの狂いもなく均等に切り揃え、吸着丸のセロハンテープで旨味の肉汁を完全に包み込んで外に逃がさない! ――
………さぁひより、我が万年筆から、最高の『美味の記述』を羽釜の底へと注ぎ込んでやる!」
私が文机の上で万年筆を走らせると同時に、ひよりがダンジョンで収穫した黄金の古代米を、すり鉢としゃもじを使って丁寧に研ぎ始めた。
さらに、抉郎のバールが火打ち石の因果を抉じ開けて『最高火力の熾火』を発生させ、均吉の熊手が羽釜の周囲の熱風を完璧に均して、お釜全体に「均一な極上の沸騰対流」を作り出していった。
ゴトゴト、ゴトゴト……パカッ!!!
対決の制限時間が訪れたその瞬間、ひよりが巨大な羽釜の蓋を勢いよく開け放った。
シュゥゥゥゥゥゥーーーーッッ!!!
その瞬間、地下祭壇はおろか、ダンジョンの入り口、さらには地上の学園都市全体にまで、お米が炊き上がる時の「どこまでも甘く香ばしい、日本人の魂を揺さぶる新米の香り」と、バター醤油でじっくりと色づいた「極上魔導キノコの濃厚な旨味の香り」が、爆風のように一気に吹き抜けていったのである。
「な……何だ、この圧倒的な香りは……!? 身体の芯から、まるでお母さんが作ってくれた秋の日の夕ご飯の情景が、脳裏に直接ハッキング(上書き)されてくるような、凄まじい幸福のビジョンが……!」
審査員席の教頭先生たちが、香りを嗅いだだけでダラダラと涙を流し始め、目の前に差し出された、ひより特製の『黄金古代米のふっくら極上キノコ炊き込みご飯・特大おにぎり(自家製炙り味噌ハサミ焼き)』を、我先にと掴み取って口に放り込んだ。
「う……美味い……!! 美味すぎるぞぉぉぉーーーッッ!!! お米の一粒一粒が、ダンジョンの大地の恵みをたっぷりと吸い込んで口の中でパラパラと心地よく解け、そこに肉厚な霜降りキノコのジューシーな歯ごたえと旨味が、濃厚な炙り味噌の香ばしさと完璧なハーモニーを奏でている!
B組の栄養ドリンクのような冷徹な効率とは次元が違う、これぞ、これぞ私たちがずっと求めていた『秋の収穫の喜び』そのものだぁぁぁーーーッッ!!」
教頭先生たちが大絶叫しながらおにぎりを貪り食い、その点数カウンターは上限を一瞬で突き破って、A組の圧倒的な『大勝利』を告げる鐘の音が、ダンジョン全体に高らかに鳴り響いた。
「バ、バカな……! 我がB組の最新鋭の魔導効率計算が、ただの『おにぎりと焼きキノコ』に、これほどまで完全に叩きのめされるとは……!」
B組のリーダーが、ひよりのおにぎりのあまりの美味しそうな香りに耐えかねてその場にへたり込み、お腹をグーグーと鳴らしながら涙を流していた。
「はい、B組のみんなも、意地を張ってないで一緒に食べよ! ダンジョンの食材はね、みんなで『美味しいね』って言いながら、お腹いっぱい食べるのが一番のハッピーエンドなんだから!」
ひよりが満面の笑みで、炊きたての特大おにぎりをB組の生徒たち全員に手渡していく。それを一口齧った瞬間、彼らの冷徹なエリートの仮面は完全に崩壊し、「美味い、美味すぎるよぉ!」と声を上げて全員で大号泣しながら、A組と手を取り合って収穫の喜びを分かち合ったのだった。
第五章:大団円と「秋の味覚のハッピーエンド」
こうして、九月のクラス対抗ダンジョン実習は、罠や効率の魔法をすべて日常の道具たちの知恵で包み込んだA組の、完全なる大勝利と、学園全体のハッピーエンドによって幕を閉じた。
実習が終わり、夕暮れの大地の恵みの香りが優しく吹き抜ける中央広場の特等席。
ひよりはテーブルの上で、ついに守り抜いた最高の報酬――ルファスのヴァルカン家から提供された『九月限定・最高級魔導イノシシの極上ロース肉・十キログラム山分け手形』をフルに使用した、特大の『秋の味覚・大鍋ぼたん汁(新米おにぎり無限おかわりセット)』を前にしていた。
「おいしーーーい!!! 何これ、イノシシのお肉が全然臭くなくて、口の中で脂身がジュワッて甘く溶けて、均吉君が均してくれたふかふかの土から採れた根菜たちと、赤味噌のコクが完璧に合体して、広島の西条の酒祭り(子供だから甘酒だけど!)で食べるどんな名物鍋より身体がポカポカ温まるよ!」
ひよりは鍋の具材をこれでもかと頬張り、頬をリスのようにパンパンに膨らませながら、最高の笑顔を浮かべていた。
「フ、フン、当然さ。今回のダンジョン実習では、君のその『よく分からない実家の開墾道具たちの絆の力』に、B組の連中どころか学園の生態系まで救われちゃったわけだからね。……まぁ、その、天照さん。収穫祭の本番のパレードも、僕が君の隣で一緒に美味しい屋台を巡ってあげてもいいぞ」
ルファスはすっかり胸元の二本線章を誇らしげに揺らしながら、自らの分のおにぎりを大事そうに口に運び、どこか幸せそうに微笑んでいる。
「ひよりさん、ルファスさん! このぼたん汁、食べると心の中からポカポカと温かい魔力が溢れて、次の実技試験は全部満点が取れそうな気がしますぅ!」
ミーナも、お皿をピカピカになめる勢いでスープを平らげ、尻尾を千切れんばかりに激しく振って笑っていた。
「ふむ。固い障害の因果を抉じ開け、荒れた大地を綺麗に均して最高のハッピーエンドを掴み取る。これ以上ない見事な九月の収穫プロットだな、ひより」
私は文机に向かい、この『第二十三幕・九月のグルメ・ダンジョン収穫祭編』の最後の一ページに、満足のいく文字を刻み終え、万年筆を静かに置いた。
「推敲は終わった、硯水さん?」
ひよりがテラスから差し込む、温かい夕暮れの光に包まれた学園都市の美しい景色を見つめながら覗き込んでくる。私は微笑み、表紙に力強い文字でこう書き込んだ。
『名もなき神社のデッドストック・第二十三幕~九月のグルメ・ダンジョンクラス対抗戦を、すべての付喪神たちの日常開墾フルコンボにより、バグを粉砕して特大ぼたん汁とおにぎりを堪能してみた~』
「ふふ、完璧な大団円だ。さあ、ひより。九月でのささやかな大騒動もこれにて一段落。明日からはまた、このルミナス魔法学院で、新しい美味しい秋の日常のプロットの始まりだ」
「うん! よーし、秋の収穫祭本番が始まったら、今度は街のみんなと一緒に世界一大きなお餅つき大会で美味しい日常をたくさん作っちゃうぞ!」
窓の外では、静かに、優しく九月の黄金色の星空が世界を包み込み、王宮の暖かい魔導の光がひよりの黒い髪を美しく照らし出す。
「パパ、ママ。私ね、九月のダンジョンの中で、実家の全てのお宝たちの力を使って、カチカチの泥んこの壁をふかふかの畑に変えて、最高にハッピーな炊き込みご飯とおにぎりを食べちゃったよ。だから……いつか本当に私が呉の家に帰れた時は、パパの奢りのあの店の美味しいキノコたっぷりのピザとキノコたっぷりのグラタン絶対に家族みんなで、口から漏れるくれる食べさせてね!」
少女のどこまでも明るいハッピーエンドの笑い声と、千年の時を超えてリュックの中で賑やかに笑う付喪神たちの声は、ぬくもりに包まれた学園都市の夜空へ、遠い、遠い故郷の空へと、どこまでも、どこまでも響き渡っていった。
みなさま、どんな風に感じてもらったのでしょうか?
少しでも面白いかもと思って頂けましたら幸いです。
励みになりますので、☆☆☆☆☆をチェックしてもらえると嬉しく存じます。
これからもお付き合いのほどよろしくお願いいたします。
今回は女子高生のお話です。
よろしくお願いします。




