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22 ピンセットとそろばんと過去召喚のデッドストックたち

八月最後の日、ルミナス魔法学院が誇る巨大な白亜の学園都市は、これまでにない熱気と歓声に包まれていた。


第一学期の全科目赤点パーティーを文房具の因果修正コンボで乗り切り、王都と魔界からの同時ハッキング招待状をセロハンテープとラシャ切ハサミの連携で「合同大晩餐バーベキュー祭り」へと強制合体させて大勝利を収めた天照ひより。

そんな激動の八月の締めくくりとして、学園では街の人々や亜人、魔物たちへ日頃の感謝を伝えるための最大のイベント――『ルミナス感謝の魔法花火大会』の開催が、あと二時間というところまで迫っていた。


「いよいよだね、ルファス君、ミーナちゃん! 見てよ、この中央広場を埋め尽くす屋台の波! 呉のれんが通りの土曜夜市も凄かったけど、異世界の屋台はスケールが違いすぎるよ! 巨大な魔導イノシシの丸焼きに、エルフ特製のフライド精霊ポテト、それに見て見て、八月最後の夜に相応しい『極上ひんやり氷イチゴ魔導練乳シロップかけ(特大桶サイズ)』が、なんとたったの百ルミナ(百円相当)で売られてるんだよ!? これを食べずに八月を終わらせるなんて、広島県立女子高生としての私のアイデンティティが完全消滅しちゃう!」


夕暮れの涼しい風が通り抜ける中央広場。ひよりは、浴衣を模したルミナス特製の藍色の魔導式和装に身を包み、両手に持った大きなかき氷の器をキラキラと輝かせながら、満面の笑みで飛び跳ねていた。


「おいおい、天照! 花火大会が始まる前からそんなに胃袋を魔導エネルギーで満タンにしてどうするんだ! 僕たち二年生A組の班は、今回の花火大会の総指揮――

………つまり、一万発の魔法花火を寸分の狂いもなく夜空へ打ち上げるという、学園の命運を賭けた大プロットを任されているんだぞ!

もし一発でも暴発して街の防衛結界に直撃したら、僕のヴァルカン家が王宮から買い付けておいた『九月限定・秋の味覚マロン魔導モンブラン・無限おかわり手形』が、教頭たちの怒りで完全に没収の刑になっちまうんだ!」


ツンツン頭の少年――ルファスが、背中に何本もの巨大な打上花火の魔導筒を背負いながら、顔を真っ青にしてハチマキを締め直していた。


「ひよりさん、ルファスさん! 街の入り口には、人間の貴族たちだけじゃなくて、近くの森からやってきた人狼族の子供たちや、可愛いスライムの群れ、さらには魔界から観光旅行に来た心優しい魔物の皆さんまで、何万人も花火を楽しみに待ってますぅ! 尻尾の毛がワクワクで逆立っちゃいそうです!」


犬耳の少女ミーナが、お祭りの提灯の光に照らされながら、ふさふさの尻尾を激しく左右に振って大喜びしている。


「ふむ。一万発の魔法花火によって、すべての種族の垣根を取り払い、美しい八月の終わりを夜空の記述(プロット)として刻み込むか。これ以上ない、美しい夏の最終幕に相応しい舞台設定だな、ひより」


私はひよりの浴衣の帯に差し込まれた、竹定規の竹千代の裏側の影に、依り代である文机を精神体として小さく実体化させ、滑らかな万年筆の先から透明なインクを走らせながら応えた。

私の名は『硯水(けんすい)』。千年の歴史を持つあの蔵の中で、人間の様々なる「夏の夜祭りの終わりの切なさ」「夜空に咲いては消える一瞬の火花の美しさ」「祭りの後に残された夜店のおもちゃの寂しさ」の歴史を静かに見つめ続けてきた、文机の付喪神だ。


「そうだよ、硯水さん! 呉の港で見た宇品の花火大会もすっごく綺麗だったなぁ。パパとママと三人で、冷たいラムネを飲みながら見たあの大きな三尺玉の光、今でも忘れられないの。

だからね、この異世界のみんなにも、絶対に忘れられない最高に美味しくてハッピーな八月の終わりをプレゼントしたいんだ!」


ひよりが力強く拳を握りしめた、まさにその時だった。中央広場の奥に設置された、一万発の魔法花火を一括制御するための「最高打上魔導盤(コントロール・ルーン)」の周囲が、突如として不気味な暗雲に包まれ、バリバリと黒い静電気が走り始めた。


「な、何だ!? 魔導盤の様子がおかしいぞ! 制御ルーンが真っ黒に染まって、カウントダウンの数字がめちゃくちゃに加速している!」


ルファスが悲鳴を上げて魔導盤に駆け寄る。なんと、かつてひよりたちに敗北した王都の超過激派貴族の生き残りと、魔界の過激派の呪詛師たちが、最後の嫌がらせとして魔導盤に『狂乱の連鎖暴発呪(カオス・チェーン)』のバグコードを仕込んでいたのだ。


「クハハハ! 異世界の巫女よ、そしてヴァルカン家の小倅よ! 街への感謝など反吐が出るわ! その一万発の魔法花火の全エネルギーを、あと数分でこの学園都市のど真ん中で『同時大爆発』させ、美しい八月の終わりを、跡形もない灰色の地獄のプロット(終焉)に変えてくれるわ!」


スピーカーの役割を持つ魔導拡声器から、悪意に満ちた犯人たちの声が響き渡る。一万発の魔法花火が同時に地上で大爆発すれば、学園都市はおろか、見物に来ている何万人もの人々や魔物たちが一瞬で消し飛ばされてしまうという、最悪のバグイベントが発生してしまったのだ。


「そんなの絶対に許さない! みんなが楽しみに待っている花火大会を、私の大好きなかき氷の時間を、そんな嫌がらせで台無しにされてたまるかぁぁぁーーーッッ!!」


ひよりの純情と、夏の思い出を守るための猛烈な日常防衛本能(食欲)が、極限の出力で爆発した。


「ひより、その通りだ。相手が『一万発という圧倒的な数の暴発』を盾にして、お主たちの美しい夏の終わりを暗黒の上書きで塗りつぶそうとするなら……我が神社の東の第三蔵の引き出しの奥――

………千年の間、人間のありとあらゆる『一度に大量に届いてしまった複雑な書類の仕分け』や『バラバラに散らばった一万個のビーズの正確な整理』、そして歴史の裏で発生した『一度に数千人が押し寄せた大参拝客の完璧な誘導』を、その絶対的な『一対の指先による精密な挟み込みと分類』、そして『大量の対象を瞬時に一つの正しい流れに整列させる』という二つの知恵によって、一瞬で元の綺麗な秩序へと強制補正し続けてきた、あの二つの伝統的な日常道具を呼び出すしかないようだな」


「東の第三蔵の、大量のものを綺麗に仕分ける道具……あ! おじいちゃんが昔、神社の盛大な夏祭りの後に、何万枚散らばったか分からない小さな賽銭の硬貨や、バラバラになったおみくじの紙を、指先をパチパチって鳴らしながら、一瞬のズレもなく種類ごとに綺麗に整列させていた、あの小さな真鍮製の……それに、お母さんがお裁縫の時に、細かすぎて目に見えない一万本の針や糸を、ピンポイントでピシッと挟んで並べていた、あの……!」


「そうだ。あれらは、魔法の全滅呪ではない。だが、人間の『どんなに大量に絡み合って暴走したものでも、一つずつ丁寧に挟んで整列させれば、必ず美しい一つの芸術に生まれ変わる』という、あまりにも力強い生活の知恵から生まれた道具たちだ。……ひより、彼らを呼び出して、その暴走する一万発の火花の記述を、夜空のキャンバスへと正しく整列させてやれ!」


第二章:新付喪神現る!「ピンセットの挟持結界と十露盤の弾き秩序」


「デッドストック、最大出力起動! 我が実家の蔵の奥、千年の間、どんな膨大な数の暴走も絶対に許さず、バラバラの存在を綺麗に整列させてきた、最強の仕分けコンボ、おいで!」


ピシィィィィン!!! パチパチパチパチ……!!!


空間に、硬質な金属が細かな物質を確実にホールドするような小気味よい音と、乾いた極上の柘植(つげ)の珠が滑らかな枠の中で一糸乱れぬ正確さで弾かれるような、あまりにも耳心地の良い『計算と整列の音』が響き渡った。


光の中から出現したのは――長年の使用によって美しい銀色の鈍い光を放ち、先端が髪の毛一本の狂いもなく噛み合うように研ぎ澄まされた伝統的な『事務用・精密鋼鉄ピンセット(ぴんせっと)』と、五つ珠の時代から数百年の計算の因果を吸い込み、枠の隅々まで磨き上げられた一分の隙もない特大の『職人用・二十三桁木製算盤(そろばん)』の一対だった。


「おやおや、随分と気の短い、せっかちに暴発したがっている一万発の火花たちが、お嬢さんの綺麗な和装を汚そうとしているねぇ。……これじゃあ、せっかくの八月の美しい星空が、黒煙で台無しになっちまうよ」


ピンセットの表面から立ち上る、かすかな防錆油の香りと、整えられた空間の煙の中から現れたのは、タイトな衣服を身に纏い、眼鏡の奥の瞳を鋭く輝かせた、いかとも几帳面で隙のない職人の姿をした付喪神――名を『挟身(はさみ)』という。千年の間、神社の境内で発生したあらゆる「細かすぎる御神体の修復」や「絡み合った一万本の絹糸の分離」の最前線に担ぎ出され、どんなに激しい暴走の数式であっても「我が指先が挟み込んだ物質は、すなわち絶対不変の『隔離された一粒』である」という、強烈な『個物保持』の執念から神格を得た、ピンセットの付喪神だ。



「そしてそしてぇ! 挟むだけじゃ、一万発の計算は追いつかないからね! ボクがパチッと整列させてあげるよ、ひよりちゃん!」


算盤の枠から、パチパチと音を立てて飛び出してきたのは、頭に大きな珠の飾りをつけ、手にした算盤の珠を神速のスピードで弾き鳴らす、いかにも聡明で活発な少年の姿をした付喪神――


名を『盤歩(ばんぷ)』という。


彼は、商業が爆発的に栄えた時代から、何万件もの大店の帳簿の計算や、天文学的な星の運行の座標を、その珠の動きによって一瞬の誤差もなく「数の秩序」へと収束させてきた、算盤の付喪神であった。


「挟身さん、盤歩君! あの黒魔導盤のせいで、一万発の花火が地上で大爆発しちゃうの! あの暴走する火花のエネルギーを一つずつ挟んで、夜空に綺麗に一万発、順番に並べて打ち上げて!」


「おう、合点承知の助だ、ひよりのお嬢さん! 僕の指先(ピンセット)が掴む因果はね、一万個だろうが百万個だろうが、絶対に滑り落としはしないのさ!……ただ『ここに照準を合わせ、暴走するエネルギーの核をピンポイントでホールドする』。――【神域挟持・精密鋼鉄指(しんいききょうじ・せいみつこうてつし)】!」


挟身が、自らの本体である精密ピンセットを両手でハサミのように構え、黒魔導盤から噴き出し始めていた『狂乱の連鎖暴発呪』のドロドロとした黒い火花の核に向けて、空中でパチッと噛み合わせた。


その瞬間、一万発の花火を一瞬で地上爆発させるはずだった黒い呪いのエネルギーが、挟身のピンセットの先端に直接完全に挟み込まれた。

普通なら、どんな魔法障壁であっても一瞬で粉砕するはずの暴発の圧力だったが、挟身のピンセットは魔法ではなく『千年の人間の「どんなに細かいものも、絶対に逃さず掴む」という執念の物理保持』そのものであったため、暴発のエネルギーは完全に動きを止められ、ただの「綺麗にコントロール可能な火花のビーズ」へと一粒ずつ強制的に分解されてしまったのだ。


「な……何だと……!? 我が連合の放った、すべてを灰にするはずの同時暴発の呪いが、ただの『鉄の毛抜き』のような道具によって、完全に一粒ずつ動きを止められたというのか……!?」


スピーカーの向こうの犯人たちの声が驚愕に大きく引き裂かれ、魔導盤のゲージが急激に緑色の安全信号へと戻り始めた。


「それだけじゃないよ! はい、ボクの番! パチパチパチパチ、パチパチパチパチッ!! ――【神域整列・一万因果二十三桁弾(しんいきせいれつ・いちまんいんがにじゅうさんけただん)】!」


盤歩が、驚異的なスピードで算盤の珠を弾き鳴らし、挟身が掴み取って分解した一万個の火花のエネルギーの座標を、学園都市の夜空の完璧な位置へと一瞬でマッピング(整列計算)し始めた。


不思議なことに、盤歩が珠をパチッと弾くたびに、地上で暴発しかけていた打上筒の中から、一本ずつ、いや、百本、千本、一万本の純粋な魔法花火が、一糸乱れぬ完璧な芸術の列(シーケンス)となって、夜空へとスーッと美しく吸い込まれるように打ち上がっていったのである。


「ああっ!? バカな、一万発の花火のエネルギーが、地上での大爆発ではなく、完璧に計算された『世界で最も美しい打上プログラム』へと上書きされていく……!? 止めてくれ、これではただの最高にハッピーな花火大会になってしまう!」


犯人たちが悲鳴を上げるが、盤歩の指の動きは止まらない。暴発の呪いが完全に美しい火花のエネルギーへと整列させられたルミナス魔法学院の夜空には、あと数分で、歴史上見たこともない一万発の魔法花火の芸術が幕を開けようとしていた。


第三章:一万発の光の饗宴と「夜空を彩る種族の絆」


そして、時計の針が午後八時を指したその瞬間――。


ドンッ!!!!!


地響きのような大音響と共に、盤歩の計算によって完璧に秩序化された第一陣の花火、一千発が夜空へと一斉に打ち上げられた。


「わぁぁぁぁぁーーーッッ!!! すごい、すごいよルファス君! 見て、夜空に大きな『エルフの森の緑の星葉』と、私の大好きな『呉のたい焼きの形をした黄金の火花』が、並んで一緒に泳いでる!」


ひよりが夜空を見上げて、口を大きく開けて大はしゃぎしている。


夜空に咲き誇ったのは、ただの火花ではなかった。それは、剣と魔法、そして亜人と魔物が共に暮らすこの世界全体の「感謝と絆」を記述する、見たこともない色鮮やかな魔法花火のオンパレードだった。


人間の魔導師たちが放つ純白の星屑花火が、夜空でパッと弾けたかと思うと、その光の中から、人狼族の咆哮を模した深紅の炎の狼が駆け抜け、さらにその周囲を、水精霊(ウンディーネ)たちが作り出した透き通るような青い水の華が優雅に包み込んでいく。


「おお……! あれを見ろ! 普段は人間と対立しているはずの、北の渓谷の巨大な岩石竜(ロックドラゴン)の形をした、七色のきらめく火花が、夜空全体を優しく包み込むように円を描いて咲いているぞ! なんて温かい光だ……!」


広場を埋め尽くす何万人もの観客たち、そして街の住人たちから、地鳴りのような大歓声と涙が沸き起こる。


二千発、三千発、五千発――!


花火は一瞬の途切れもなく、夜空という広大なキャンバスの上に、美しい色のグラデーションを描き続けていく。

ある場所では、スライムたちが大喜びで飛び跳ねるようなポヨポヨとした緑の小さな火花が何千個も同時にパチパチと弾け、またある場所では、魔界の特上魔導ブタが美味しそうにバーベキューされているような、ピンク色とオレンジ色のコミカルな炎の渦が、甘い香りの魔法の煙と共に夜空を縦横無尽に駆け巡る。


「すごいや、天照……! 盤歩の奴が弾き出す算盤の数の秩序は、僕たちの作った魔法花火のエネルギーを、ただの破壊の炎から『すべての種族の心を一つに繋ぐ、最高の芸術の光』へと完全に変換していやがる! これなら、僕のヴァルカン家のモンブラン無限おかわり手形どころか、学園の歴史に永久に残る最高の大団円(プロット)だ!」


ルファスがツンツン頭を誇らしげに揺らしながら、ひよりの隣で、夜空を彩る一万発の圧倒的な光の饗宴を、どこか誇らしげに、そして幸せそうに見つめていた。


第四章:暗雲の逆襲と「不条理な夜空の切り裂き」


だが、一万発の花火がまさにクライマックス、最後の九千九百九十九発目に達しようとしたその時、往生際の悪すぎる犯人たちの最後の悪あがきが、夜空の因果を再び捻じ曲げようとした。


「おのれ、おのれぇぇぇ! どこまでも我が連合の邪魔を……! ならば、一万発目の最後の『超巨大魔導グランドフィナーレ玉』の因果関係を、世界を完全な暗黒の静寂(バグ)で包み込む【夜空の絶対消失呪(エンド・オブ・ブラック)】へと強制的に書き換えてくれるわ! すべての光を闇で切り裂き、このハッピーエンドのト書きを、全員の記憶から消去してやる!」


ズズズズズズ……ッ!!!


なんと、一万発目の最も大きくて美しいはずの花火が打ち上がった瞬間、夜空の頂点で、巨大な「黒いインクのシミ」のような暗黒の空間の裂け目(バグ)が発生し、これまでに咲き誇っていたすべての美しい火花の光を、ブラックホールのようにズズズと吸い込み、夜空全体を「何も見えない、誰も声を出せない冷たい沈黙の闇」へと、無理やり切り裂いて上書きしようとしたのである。


「大変です! 最後のフィナーレ玉の魔力が、空間の闇に切り裂かれてバラバラのノイズに変えられています! このままでは、一万発の感謝の光がすべて闇に呑み込まれ、みんなの心に『最高の夜祭りの記憶』ではなく『冷たい拒絶のトラウマ』だけが残ってしまいます!」


セリア生徒会長が本部席から懸命に魔法で防衛しようとするが、世界そのものを切り裂く暗黒のバグの前には、生徒会の光も届かない。


「そんなの、そんなの絶対に認めないんだから! 私たちの、みんなの、八月の最高の思い出を、そんな真っ黒いゴミ箱の底みたいな闇で切り裂いて終わらせるなんて、そんな不条理なバグイベント、私は絶対に『返品』してやるんだからね!」


ひよりの食欲と、日常を守るための巫女としての魂が、限界を超えた出力で爆発した。


「ひより、その通りだ。世界がどれほど頑固な暗黒のルールで夜空を切り裂こうとも、人間の『どんなに大きく破れて切り裂かれてしまった大切な夜空(紙)も、上から強固な透明の帯で包み込み、正しい定規で枠をはめ、元の綺麗な一つの世界として完全に接着してしまえば、そこには何の間違いもない美しい未来が再出発できる』という日常の再生の規律の前には、歴史の闇など一歩も侵入できない。…

………我が神社の蔵の引き出しの最奥――千年の間、地域の子供たちが盛大に破いて切り裂いてしまったお祭りの巨大な紙芝居の枠や、代々の神主たちが間違えてバラバラに裁断してしまった重要な儀式の巻物の汚点を、その絶対的な『セロハンテープの接着力』と『竹定規の直線規格』、そしてすべての道具たちの力を一つに束ねる『物理的修復の重量』によって、一瞬で何もない綺麗な夜空へと再固定し続けてきた、あの『すべての付喪神たちの総力戦(デッドストック・フルコンボ)』を発動するのだ!」


「蔵の引き出しの奥の、みんなの力を一つにする道具……あ! 私が子供の時、名もなき村から呉に逃げてくるとき、おじいちゃんが『これさえあれば、破れた家族の絆も、離れ離れになった思い出も、全部ペタッと一つに繋ぎ止めておけるぞ』って言いながら、私のリュックの底にそっと入れてくれた、あの小さくて丸い……!」


「そうだ。あれは、魔法の消滅呪ではない。だが、人間の『間違えて破れてしまった過去は、すべての道具の知恵を使って、上から綺麗に繋ぎ直して、新しく美しい光で書き直せばいい』という、あまりにも力強い生活の知恵から生まれた兵器だ。……ひより、彼らを呼び出して、お主の『八月のハッピーエンド』の上に、絶対的な光の結界をブチまけてやれ!」


第五章:大団円と「一万発の完全なるハッピーエンド」


ひよりは混濁しかける夜空の闇を見つめながら、自らの「九月の美味しいモンブランへの執念」、そして「この世界のみんなとずっと一緒に美味しいものを食べたい」という最高の純情を爆発させ、足元の不気味な黒い裂け目に向けて、渾身のデッドストックの光を放った。


「デッドストック、フルコンボ稼働!! 我が実家の蔵のすべてのお宝たち、みんなの力を一つに合わせて、あの真っ黒な闇をペタッと繋ぎ合わせて、世界一番の大きな『ハッピーエンドの光』を夜空に咲かせてぇぇぇーーーッ!!」


パカッ!!! シャカシャカシャカ……!!! シャァァァァァッ!!!


大講堂、いや、学園都市全体の夜空に、小さなボトルのキャップが開けられ、竹が空気を切り裂き、透明なテープが滑らかに引き出され、すべての文房具たちが一斉にその「修復の知恵」の音を奏でる、あまりにも優しく、だが圧倒的な物理の重量のシンフォニーが響き渡り、純白と黄金の巨大な魔法陣が夜空一面に展開した。


「……おやおや、随分としつこい暗闇のようだねぇ。だが、我が『デッドストック一同』の前に、繋ぎ直せない夜空など、ただの一寸も存在しないのさ」


光の中から、これまでひよりを助けてきた全ての付喪神たち――硯水の私、竹定規の竹千代、修正刃のカリカリ丸、修正液の白妙、セロハンテープの吸着丸、ラシャ切ハサミの裁子、おみくじ箱の吉凶、そしてピンセットの挟身と算盤の盤歩が、一つの巨大な「日常修復の巨大な円陣(プロット)」となって、夜空の闇を完全に包み込んだ。

「白妙の修正液で闇のシミを真っ白に塗りつぶし、竹千代の竹定規で夜空の歪みを真っ直ぐに固定し、吸着丸のセロハンテープで切り裂かれた空間の隙間をペタッと完全に接着する! ――さぁお嬢さん、最後の、本当の一万発目のトリガーを引きなさい!」



ひよりはルファスとミーナの手をしっかりと握り締め、夜空のど真ん中に向けて、自らの本体リンクから黄金の神聖な魔力を一気に解き放った。


「いっけぇぇぇーーーッッ!!! これが私たちの、最高の八月の終わり、一万発目の『天照ひより特製・呉の港の三尺玉・大団円ハッピーエンド花火』だぁぁぁーーーッ!!!」


ズドォォォォォォォォォォンッッッッッ!!!!!!!!!!


その瞬間、学園都市全体の夜空が、見たこともない純白と黄金、そして七色のまばゆい「絶対の幸福の光」によって、昼間よりも明るく、世界の一番奥底まで美しく照らし出された。


暗黒の消失呪(バグ)は、付喪神たちの絶対的な「修復と接着」の力の前に、ただの一瞬の抵抗もできずにシュワシュワと白い煙を立てて完全に消滅し、夜空の頂点には、直径数キロメートルにも及ぶ、超巨大な『笑顔のひよりとルファス、ミーナ、そして全ての種族が手をつなぎ合った、黄金の光の紋章』が、まばゆい大輪の華として、ドカンと大音響を立てて咲き誇ったのである!


「な……何ということだ……! 我が連合の放った絶対の闇が、ただの『文房具たちの修復の知恵』の前に、完全にハッピーエンドの光へと書き換えられたというのか……!?」


スピーカーの向こうの犯人たちは、爆発の衝撃とあまりの光の美しさに、完全に心をへし折られてその場に泣き崩れ、近衛魔導師たちによって一網打尽に逮捕されていった。


「やった、やったよ、ルファス君! ミーナちゃん!」


「ああ……! 天照、君は本当に、最高の夏の夜空を僕たちに見せてくれたよ!」

「ひよりさん、最高ですぅ! 街のみんなが、みんなが笑顔でバンザイしてますぅ!」


夜空から降り注ぐ、温かい黄金の光の粉(魔力)を浴びながら、何万人もの人間、亜人、魔物たちが、種族の壁を完全に忘れて抱き合い、ルミナス魔法学院の歴史上、最もハッピーで、最も温かい八月の終わりの拍手が、街全体にいつまでも、いつまでも鳴り響いていたのだった。


終章:九月の風と、家族の絆


八月最後の日の最大の危機と、「一万発の魔法花火の同時暴発バグ」を、実家の蔵の全ての付喪神たちの総力戦(デッドストック・フルコンボ)という、異世界のどんな超常魔法の系譜にも存在しない不条理な日常道具の絆で完全解決したひよりたち。


お祭りが終わり、涼しい九月の秋の気配を含んだ夜風が優しく吹き始めた、深夜の中央広場の特等席。

ひよりはテーブルの上で、ついに守り抜いた最高の報酬――ルファスのヴァルカン家からプレゼントされた、まばゆい光を放つ『九月限定・秋の味覚特大マロン魔導モンブラン・無限おかわり手形』を前にしていた。


「おいしーーーい!!! 何これ、栗の濃厚な甘みが口の中でジュワッて弾けて、高級生クリームのまろやかさが上品で、呉のれんが通りのどんな高級洋菓子屋さんで食べる秋のスイーツより美味しいよ!」

ひよりはモンブランをこれでもかと頬張り、頬をリスのようにパンパンに膨らまままがら、最高の笑顔を浮かべていた。


「フ、フン、当然さ。今回の花火大会では、君のその『よく分からない実家の道具たちの絆の力』に、世界中が救われちゃったわけだからね。……まぁ、その、天照さん。明日から始まる九月の新学期の授業も、僕が付き合って勉強を教えてあげてもいいぞ」


ルファスはすっかり胸元の二本線章を誇らしげに揺らしながら、自らの分のお菓子を大事そうに口に運び、どこか幸せそうに微笑んでいる。


「ひよりさん、ルファスさん! このモンブラン、食べると心の中からポカポカと温かい魔力が溢れて、次の学期は全部満点が取れそうな気がしますぅ!」


ミーナも、お皿をピカピカになめる勢いでケーキを平らげ、尻尾を千切れんばかりに激しく振って笑っていた。


「ふむ。暴走する一万発の因果を整列させ、暗黒の切り裂きを全て接着して最高のハッピーエンドを掴み取る。これ以上ない見事な八月最終幕のプロットだな、ひより」


私は文机に向かい、この『第二十一幕・八月最後の一万発花火大会編』の最後の一ページに、満足のいく文字を刻み終え、万年筆を静かに置いた。


「推敲は終わった、硯水さん?」


ひよりがテラスから差し込む、温かいお祭りの余韻に包まれた学園都市の美しい夜景を見つめながら覗き込んでくる。私は微笑み、表紙に力強い文字でこう書き込んだ。


『名もなき神社のデッドストック・第二十一幕~八月最後の日の一万発魔法花火大会を、すべての付喪神たちの日常修復フルコンボにより、バグを粉砕してマロンモンブランを堪能してみた~』


「ふふ、完璧な大団円だ。さあ、ひより。八月でのささやかな大騒動もこれにて一段落。明日からはまた、このルミナス魔法学院で、新しい美味しい秋の日常のプロットの始まりだ」


「うん! よーし、九月になったら、今度は秋の収穫祭とお月見で美味しい日常をたくさん作っちゃうぞ!」


窓の外では、静かに、優しく八月最後の星空が世界を包み込み、王宮の暖かい魔導の光がひよりの黒い髪を美しく照らし出す。


「パパ、ママ。私ね、八月最後の日の夜に、実家の全てのお宝たちの力を使って、一万発の暴走花火を世界一綺麗な光に変えて、最高にハッピーな思い出と美味しいモンブランを食べちゃったよ。だから……いつか本当に私が呉の家に帰れた時は、パパの奢りでピリ辛のガンスバーガーとラムネ、絶対に家族みんなで、お腹がはち切れるくらい食べさせてね!」


少女のどこまでも明るいハッピーエンドの笑い声と、千年の時を超えてリュックの中で賑やかに笑う付喪神たちの声は、ぬくもりに包まれた学園都市の夜空へ、遠い、遠い故郷の空へと、どこまでも、どこまでも響き渡っていった。

みなさま、どんな風に感じてもらったのでしょうか?

少しでも面白いかもと思って頂けましたら幸いです。

励みになりますので、☆☆☆☆☆をチェックしてもらえると嬉しく存じます。

これからもお付き合いのほどよろしくお願いいたします。

今回は女子高生のお話です。

よろしくお願いします。

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