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21 セロハンテープと裁ち鋏

七月のうだるような魔導の熱波が去り、ルミナス魔法学院には本格的な盛夏、すなわち八月が到来していた。


先月、一学期の期末試験で全科目赤点という、広島県立女子高生スペックの限界を遥かに超越した落第大パーティーを開催してしまった天照ひより。

だが、実家の蔵からリュック経由で呼び出した竹定規の竹千代、修正刃のカリカリ丸、そして修正液の白妙という「お馴染みの文房具・因果修正コンボ」により、学園の最高管理システムごと成績の記述を真っ白に削り消して「再試験は夏休み明けに持ち越し」という奇跡の執行猶予を勝ち取っていた。


なんとか悲惨な補習監獄塔への収監を誤魔化し、ルファスやミーナと共に八月限定の「王都特製・冷やしマンゴー練乳パフェ」をのんきに貪り尽くしていたひよりの元に、それは突如として、夏の青空を引き裂くような二つの『絶対不条理のプロット』として舞い込んできた。


「ちょっと待ってよ!

何これ、同時にポスト(魔導郵便箱)に突っ込まれてたんだけど! 片方は純金の刺繍で飾られた、いかにもお上品で美味しそうな匂いがする『王都最高宮廷・夏の星涼み大晩餐会への極上招待状』。

……で、もう片方は、なんで触っただけで指先が黒焦げになりそうな禍々しい漆黒の革で装丁されてるわけ!?

表紙に血文字みたいなルーンで『魔界の深淵・極暑灼熱デスメタルバーベキュー地獄祭への生贄(招待状)』って書いてあるんだけどぉぉぉーーーッッ!?」


放課後の涼しい風が通り抜ける学生寮のひよりの部屋。天照ひよりは、ベッドの上に並べられた二通のあまりにも両極端な招待状を交互に指差しながら、完全に魂の抜けた顔で絶叫していた。


「何をそこまで夏の怪談に遭遇した読者のようなト書き通りの表情をしているのだ、ひより。お主が前日譚において、日本の名もなき村から五歳の時に呉のれんが通りへ逃げ延び、そこでたい焼きの買い食いによって培った不屈の日常防衛本能(食欲)は、ついに人間の王族だけでなく、世界の裏側に君臨する魔王の感性にまでその『規格外のバグ』として届いてしまったのだな」


私はひよりの勉強机の横、冷やした麦茶が置かれたガラスコップの影に、依り代である文机を精神体として小さく実体化させ、滑らかな万年筆の先から羊皮紙に文字を刻みながら応えた。私の名は『硯水(けんすい)』。

………千年の歴史を持つあの蔵の中で、人間の様々なる「両家からの理不尽な同時二股縁談」「絶対にどちらを選んでも血を見る派閥争いの宴」「あっちを立てればこっちが立たずの宴席喜劇」の歴史を静かに見つめ続けてきた、文机の付喪神だ。


「違うの! 硯水さん、そんなのんきな喜劇じゃないのよ! 王都の晩餐会には、あのルファス君のヴァルカン家も総出で参加するから、もし行かなかったら『王家に対する不敬罪で実家のリュック(ゲート)没収の刑』だし!

でも魔王のバーベキューを無視したら、今度は『八月十五日、ルミナス魔法学院の敷地内に十万匹の凶悪な爆弾魔導ブタを降らせて、購買部の夏のパン祭りを完全崩壊させる』って脅迫状の裏に書いてあるんだよ!?

どっちに行っても、私の美味しい八月の夏休みプロットが、跡形もなく大爆発しちゃうじゃん!」


「いや、ひよりの姉ちゃん。オイラ、さっき学園の裏庭の掲示板からからと覗いてきたんだけどさ……」


ひよりのリュックのポケットから、おみくじ箱の付喪神である『吉凶(きっきょう)』が顔を出し、木箱の体をガタガタと気まずそうに鳴らした。


「この二つの招待状、実は学園の魔導空間リンクと完全に同期しててさ。八月十五日の夜、ひよりの姉ちゃんがどちらかの招待状を開いて転移魔法陣を起動した瞬間、選ばれなかった方の招待状が『空間反転の呪い』を爆発させて、学園のメインストリートを丸ごとドロドロのマグマの海か、もしくは貴族たちの冷たい社交辞令の吹雪に変えちまうプロット(契約)になってるんだぜ!」


「ええええーーーッ!? どっちを選んでも学園が崩壊するなんて、そんなの、呉のパパとママが知ったら『ひより、あんたまた変なトラブルに巻き込まれて!』って、お母さんの特製お好み焼きのヘラで頭を思い切りパコーンって叩かれちゃうよ!」


第二章:二つの絶対契約と「引き裂かれる空間リンク」


「おい、天照! 大変なことになった! 僕の親父殿や王都の近衛魔導師たち、精度高く偵察に出ていた亜人の斥候たちからの情報が完全に一致した!」


部屋の扉がバン!と開き、ツンツン頭の少年――ルファスが、額に汗を滲ませながら飛び込んできた。彼の手には、王宮から届いた公式の暗号解読書が握られており、その表面からは「危険・絶対競合」の赤い魔法文字がピカピカと明滅していた。


「ルファス君! やっぱりこの二つの招待状、何かの罠なの!?」


「あ国裏の超過激派・王政復古主義の貴族どもと、新しく台頭してきた魔王軍の第七極熱軍団長が、裏で手を組みやがったんだ!

あいつら、君という『実戦最強・座学最弱』の特異点を、王都の煌びやかな結界か、魔界の灼熱の領域のどちらかに強制的に閉じ込めることで、僕たちの班の戦力を分断し、この八月の学園の防衛結界の制御権を丸ごと乗っ取ろうとしていやがる!」


ルファスの説明によると、この二つの招待状は「因果の対極(タイキョク・リンク)」という古代の最上位結合魔法で結ばれており、ひよりが「王都」か「魔界」のどちらか一方にしか行けないという人間の肉体的な限界そのものを人質にしているのだという。


もし片方に行けば、もう片方の領域から「空間の引き裂き(パラドックス・テア)」が発生し、ひよりの肉体そのものが、右半身は王都の華やかなドレス姿、左半身は魔界のバーベキューの生贄の衣となって、次元の狭間に永遠に引き裂かれて消滅してしまうという、最悪のバグ技が組み込まれていた。


「このままじゃ、君は王都の美味しい冷製スープを飲むことも、魔界の極上魔導ブタのスペアリブを奪い取ることもできずに、空間のシミになっちまう! 何より、僕のヴァルカン家が王都から買い付けてきた『八月限定・瀬戸内風レモン魔導ソルベ・食べ放題チケット』も、すべてこの空間引き裂きバグのせいで消滅しちまうんだ!」


「……え? レモンソルベ食べ放題チケットも消滅!? ――って、それより何より、私の体が半分こになっちゃったら、呉の家に帰ってお母さんのお好み焼きを両手で持って食べることもできなくなっちゃうじゃないの!」

ひよりがベッドの上に並んだ二通の招待状をペシペシと叩きながら、激しい焦燥の声を上げる。



「なるほどな。二つの相容れない絶対の目的地――『どちらか一方しか選べない』という物理の矛盾を盾にして、二人の自然な夏休み(プロット)を破壊しようとする、不条理な因果のバグというわけか」

私は文机の前で、静かに万年筆の先を尖らせた。


「ひより、慌てるな。相手が世界の『右か左か』という限られた選択肢を盾にしてお主の自由な食欲(プロット)を縛ろうとするなら……我が神社の南の第三書庫の最奥――

………千年の間、どれほど頑固に二つの派閥に引き裂かれた大名たちの領地争いや、人間の『二つの大切な約束が同じ時間に重なってしまった不条理なスケジュール』の歴史を、その確実で、ただひたすらに『二つの相容れない紙(空間)を、寸分の狂いもなく一つの完璧な規格へと繋ぎ合わせる』という一念の物理的結合力によって、解決し続けてきた、あの古びた生活の知恵を呼び出すのだ」


「南の第三書庫の、二つのものを繋ぎ合わせる道具……あ! おじいちゃんが夏の日に、台風で真二つに破れちゃった神社の大切なお札や、何冊にも分かれちゃった分厚い帳面の背表紙を、『これの接着力には、どんな嵐の風も勝てんよ』って笑いながら、紙の裏側にスッと貼り付けて、綺麗に一冊の頑丈な本に戻していた、あの透明で平らな……!」


「そうだ。あれは、魔法の融合呪(フュージョン)ではない。だが、人間の『離れてしまった二つのものは、上から強固な透明の膜で繋ぎ合わせれば、必ず一つの頑丈な存在として機能する』という、恐るべき単純明快な物理の知恵から生まれた道具だ。

……ひより、彼を呼び出して、その上品な王都の招待状と、禍々しい魔王の招待状を、根元から『一枚の紙(同じ場所)』へと繋ぎ合わせしてやれ!」


第三章:八月十五日の夜と「競合する二つの魔法陣」


そして迎えた八月十五日の深夜、しとしとと夏の夜虫が鳴く学園の中央大講堂。


ひよりとルファス、そしてミーナの前には、ベッドから移動された二通の招待状が、不気味な光を放ちながら空中に浮かび上がっていた。


「さあ、哀れなヴァルカン家の少年と、異世界の巫女よ!」


講堂の影から姿を現したのは、今回の同時招待状ハッキングを仕掛けた、王都の不敬貴族たちと魔王軍の残党たちの連合だった。彼らは不気味な笑みを浮かべ、魔法杖と暗黒の刃を高く掲げている。


「この『因果の対極リンク』の契約は絶対だ! どちらを選んでも、選ばれなかった方の空間が爆発し、お前たちのその不条理な『実家のお宝(デッドストック)』の力も、二つの空間が同時に引き裂かれる次元の衝撃の前には、形を維持できずに完全に消滅するのだ! さあ、王都の冷たい牢獄か、魔界の灼熱の地獄、どちらか片方のプロットだけを選んで絶望するがいい!」


ズズズズズズ……ッ!!!


次の瞬間、大講堂の右半分には、王都の宮殿へと繋がるまばゆい『黄金の転移魔法陣』が展開し、左半分には、魔界の深淵へと繋がるドロドロとした『紅蓮の転移魔法陣』が同時に起動し始めた。


ひよりの身体は、二つの魔法陣から伸びる強力な空間の引力(システム)によって、右側は華やかなシルクのドレス、左側はトゲトゲしい鉄の甲冑へと無理やり変形させられ始め、身体の中心線からミシミシと、文字通り『二つに引き裂かれる』ような凄まじい次元の過負荷がかかり始めた。


「くそっ……! 空間の引力が強すぎる! 天照、ダメだ! このまま僕たちの存在が二つの世界に分断されたら、契約が完全に確定して、僕たちは一生、システムに縛られた世界のシミになっちまう!」

。

ルファスがツンツン頭を振り乱し、必死にひよりの手を握ろうとするが、右と左の引力は容赦なく二人の物理的な距離を引き裂いていく。ひよりのリュックのチャックが、次元の歪みでパカッと開きかけた、まさにその絶体絶命の瞬間だった。


「おのれ……。私の、私の完璧な『王都の冷製スープと魔界の特上スペアリブ、ついでにルファス君のレモンソルベ全種類コンプリート大団円プロット』を、そんな身勝手な二者択一のハッキングイベントで邪魔されてたまるかぁぁぁーーーッ!!」


ひよりの純情と異常なまでの食欲の執念が、身体の中心から銀色の魔力を一瞬で爆発させた。


「ひより、今だ。相手がどれほど高位の対極魔法でその目的地(嘘のプロット)を二つに分断していようとも、人間の『離れた二つの紙は、上から透明な帯で貼り合わせれば必ず一つになる』という純粋な物理の衝撃の前には、一線の防衛線すら維持できない。……彼を呼び出し、その王都と魔界の不条理な境界線を、根こそぎ貼り合わせてやれ!」


第四章:因果結合と「セロハンテープの絶対接着」


ひよりは引き裂かれかける両手を力強く前へと突き出すと、地底の本体リンクによって極限まで純度を高めた、黄金の魔力を二通の招待状へと叩き込んだ。


「デッドストック、完全同調! 我が実家の書斎の奥、千年の間、どんなに真二つに破れた大切な書類も、綺麗に一つの完璧な紙へと繋ぎ合わせてきた、最強の結合王、おいで!」


シャァァァァァッ!!!と、


空間の表面に極めて滑らかで、一切の気泡の侵入を許さない『透明な粘着の質量』の音が響き渡った。


光の中から出現したのは――直径が十センチほどもある、美しい琥珀色の天然ゴム系の粘着剤が厚く塗布され、長年の歴史によって側面にうっすらと蔵の埃を纏いながらも、その中央からは圧倒的な『二つのものを一つに繋ぎ止める』ための絶対的な透明の帯が引き出された、伝統的な事務用・超強力『セロハンテープ(粘着テープ)』の姿だった。


「……おうおう、随分とバラバラに引き裂かれた不躾な『空間(ページ)』が、お嬢ちゃんたちの真ん中を割ろうとしてやがるねぇ。おいおい、新しいお嬢ちゃん、ワシを呼んだからには、どんなに世界の端と端に引き裂かれた赤い糸も、お宮のシステムごと、綺麗に一枚の頑丈な紙へと貼り合わせてやるよ」


テープの先端から立ち上る、懐かしい上質な樹脂の匂いと、乾いたパルプの火花の煙の中から現れたのは、全身に透明なクリスタルのような装飾が施されたタイトなスーツを纏い、指先がどんな滑らかな紙にもピタリと吸い付く特殊な吸着力を持った、いかにも冷静沈着で包容力溢れる大人の男性の姿をした

………付喪神――名を『吸着丸(きゅうちゃくまる)』という。千年の間、神社の夏のあらゆる「お札の破れトラブル」や「ボロボロに裂けた重要機密文書の修復」の現場に担ぎ出され、人間の力では修復不可能な頑固な破損の誤字を、ただその圧倒的な「上から透明な帯で覆い隠して一体化させる」という純粋な物理の執念だけで綺麗に一枚の強度へと結合し続けてきた、セロハンテープの付喪神だ。


「吸着丸さん! あの王都の招待状と魔王の招待状の真ん中を、シャッと一本の透明なテープで貼り合わせて、一つの『王都魔界合同大バーベキュー晩餐会』の会場へと、空間ごと繋ぎ合わせてほしいの! 私の五体満足な夏の食欲のために、お願い!」


「フハハハ! 空間の貼り合わせか、そいつはワシの専門分野(メインプロット)だ! ワシの身体(セロハンテープ)の前にはな、絶対契約の二者択一だの、空間の引き裂きだの、そんな小賢しい理屈は一切通用しねえんだよ! ただ『薄い透明な帯が、二つのものの境界線を跨いで吸い付く』。

これ以上の結合の真理はねえ! ――【神気吸着・一帯連鎖(しんききゅうちゃく・いったいれんさ)】!」


吸着丸が、自らの本体であるセロハンテープを両手で美しく引き出し、二通の招待状の境界線、構造的な右の黄金の魔法陣と左の紅蓮の魔法陣の、まさに『次元の裂け目』の中心に向けて、一切の躊躇なく、


シャァァァァァッ!!!!!と力任せに貼り付けた。


その瞬間、二つの魔法陣が展開していた「絶対分断・排除結界」が起動し、吸着丸の透明な帯を焼き尽くそうとした。

しかし、吸着丸の吸着は、魔法ではなく『千年の人間の「もったいないから繋ぎ合わせる」という執念が乗った純粋な物理の粘着面』そのものであったため、結界のプログラムは熱ではなく「ただの透明な樹脂の密着」を処理しきれず、完全にシステムエラーを起こして火花を散らした。


「シャシャシャシャッ! これでも喰らいやがれってんだ!!」


次の瞬間、絶対分断魔法で引き裂かれていた二つの魔法陣のど真ん中が、吸着丸の圧倒的な接着の前に「ピキピキピキィン!」と軽い音を立てて、文字通り『破れた紙がセロハンテープで補強されるように』完全に一体化し、そこにひよりがすかさず万年筆で『合同会場』の新しい記述を書き加えた。


ピカァァァァァン!!!!!


次の瞬間、左右に分かれていた魔法陣は一瞬で黄金と紅蓮が美しく混ざり合った『極上紫電の合同転転移ゲート』へと姿を変え、学園全体の魔導システムが「異常結合・完全一体化完了」の歓喜のファンファーレを鳴り響かせたのである。ひよりとルファスの身体の引き裂き拘束は一瞬で解け、二人の衣装も、王都のお上品なシルクと魔界のワイルドな黒革が完璧にハイブリッドされた、最高にスタイリッシュな『夏の夜会用・特製セットアップ制服』へと再記述された。


「な……何だってぇぇぇーーーッ!? Judeの誇る絶対分断の呪いが、ただの『裏面に糊がついた透明なプラスチックの帯』の吸着力で、物理的に引き剥がされるどころか、一つの空間に強制接着されただとぉぉぉーーーッ!?」


不敬貴族と魔王軍の残党たちが、あまりの不条理な光景の前に、完全に腰を抜かして大講堂の床にアゴを外している。


「ガハハハ! どんなに引き裂かれた空間だってな、上から透明なテープで力いっぱいペタッと貼りにいきゃあ、こうして綺麗に一つに繋がるもんだ! さぁお嬢ちゃん、ツンツン頭の坊主、合同の宴会ステージといこうじゃねえか!」


吸着丸が爽快に笑う。システムが正常化した大講堂の中央には、今まさに、二つの世界が一つに繋がったことを祝う、本物の次元の鐘の音が、高らかに響き渡ったのだった。


第五章:合同晩餐会と「不条理なハサミの出現」


吸着丸の圧倒的な接着のおかげで、ひよりとルファスは、分断の呪いから見事に解放され、一つの目的地――『王都・魔界合同・夏の星涼み大晩餐バーベキュー祭り』の特設会場へと、光のゲートを潜って堂々の入場を果たした。


そこは、王都の美しい庭園の夜景と、魔界の幻想的な紫の炎が融合した、歴史上誰も見たことのない壮大な空中宴会場だった。テーブルの上には、王都の最高級冷製スープと、魔界の十万匹から厳選された特上魔導ブタのスペアリブが、これでもかと山積みにされて煙を上げている。


「やったぁぁぁ! ルファス君、本当に両方の美味しいものが一箇所に集まってるよ!」


「フ、フン、当たり前さ! あんなハッキングされた不条理な選択肢で、僕たちの食欲を制限されてたまるか!」

二人は手を携え、合同会場のメインテーブルへと一歩を踏み出そうとした、まさにその時だった。


「往生際の悪いお遊びはそこまでだ、異世界の巫女よ!」


なんと、宴会場の夜空の影から、今回の計画の真の黒幕である『次元の暗殺伯爵』が姿を現した。彼は自らの命を削る禁忌の魔法杖を掲げ、ひよりたちがまさにスペアリブに手を伸ばそうとしたその瞬間に、会場全体の因果関係を丸ごと『切り刻んでバラバラの破片(ゴミデータ)』に変えようとする、超巨大な【次元破断の呪い(カオス・シザース)】を投下したのだ。


ズズズズズズ……ッ!!!


なんと、二人がまさに次の美味しいお肉を口に運ぼうとした瞬間に、お皿の周りの空間が、見えない『巨大なハサミの刃』によってチョキチョキと音を立てて切り刻まれ、食べ物がすべて「一センチ四方の細かいデータの屑」へとバラバラに解体され始めたのである。もしここにフォークを突き立てれば、手の指ごと空間のハサミに切り刻まれ、夏のト書きごと肉体がバラバラの肉片になって大醜態を晒すことは確実だった。


「おのれ……。私の、私の完璧な『王都魔界合同・特上スペアリブ満腹大団円プロット』と、このルファス君のレモンソルベの時間を、そんな往生際悪すぎる切り刻み魔法で邪魔されてたまるかぁぁぁーーーッ!!」

ひよりの食欲と純情の執念が、再び特製制服全体の黄金の魔力を一瞬で爆発させた。


「ひより、その通りだ。空間がどんなに不条理に切り刻まれようとも、そのハサミの動き(バグ)を、より絶対的な『正しい境界線でのみ、美しく切り分ける』という、一分の狂いもない『裁断の刃』として、優雅に、かつ一瞬で『逆キャンセル・規格化』するプロットだな。……ならば、我が神社の本殿の裏庭の工作小屋――

………千年の間、地域の職人たちが切り出してきた凸凹の着物の生地や、経年劣化で激しく絡まり合った神道の麻の紐を、その絶対的な『正しい一線でのみ、美しく切り離す』という一念の刃によって、一瞬で真っ直ぐな規格へと切り揃えてきた、あの『最高級の裁断兵器』を呼び出すのだ!」


「工作小屋の……あ! 先月もおじいちゃんが、新しい神主の袴の生地を、一ミリのズレもなくスーッ、スーッて、まるでバターを切るみたいに綺麗な音を立てて切り分けていた、あの黒くて大きくて、もの凄く神々しい……!」

「そうだ。彼女の『裁断の刃』は、ただの工具ではない。存在してはならない空間の切り刻み(バグ)を、その絶対的な『美しき一線の切断(シャープ・キャンセル)』によって歴史から完全に抹消する、至高の空間修正ハサミだ。……ひより、彼女を呼び出して、お主らの目の前に、世界一番の滑らかなディナーロードを再記述してやれ!」


第六章:宴壇修正と「ラシャ切ハサミの絶対裁断」


ひよりはルファスの手を再びギュッと握り締め、遠心力を利用して、切り刻まれるゼリー状の空間に向けて、自らの本体リンクから黄金の神聖な魔力を一気に解き放った。


「デッドストック!! 我が家の工作小屋に眠る、すべての不規則な切り刻みをなかったことにしちゃうお宝、出てきて私たちのディナーフロアを完璧な一線で切り揃えちゃってぇぇぇーーーッ!!」


シュキィィィィン!!!と、空間にどこまでも涼やかで、一分の狂いもない研ぎ澄まされた鋼鉄の香りが立ち込め、格子模様の四角い魔法陣が床一面に展開した。


光の中から出現したのは――重厚な最高級の東郷鋼(とうごうはがね)を鍛え上げ、表面には美しい黒漆が塗られ、二つの刃が合わさる中心のネジには完璧な噛み合わせが施された、あの伝統的な職人用の『特大ラシャ切ハサミ(裁ちばさみ)』の姿だった。


「あらあら。随分とお行儀の悪い、空間の切り刻み(バグ)が、お嬢様方に美しい美味しい八月の青春(プロット)を邪魔していますねぇ。……我が刃の前に、綺麗に切り揃えられぬ空間など存在いたしませんよ」


ハサミの表面から立ち上る、深い椿油の香りと、一瞬で空間を切り分ける鋼鉄の火花の煙の中から現れたのは、全身に目の覚めるような漆黒の着物を小粋に纏い、手に持つ巨大なハサミの刃を、ひよりたちの足元の切り刻まれた空間に向けて、


シュキィィィィン!!と、

力強く水平に噛み合わせた、いかとも凛とした極道の姐さんのような姿をした

………付喪神――名を『裁子(たちこ)』という。千年の間、神社のあらゆる衣装の仕立てや、絶対に間違えてはならない「神域の境界の注連縄の切り揃え」の現場に担ぎ出され、どんなに激しい魔法の切り刻みであっても「我が二つの刃が交わる一線は、すなわち絶対不変の『美しき境界線』である」という、強烈な『絶対裁断』の執念から神格を得た、ラシャ切ハサミの付喪神だ。


「シュキシュキシュキシュキ! これでも喰らいやがれってんだ!!」

裁子が美しく微笑むと、手に持った巨大なラシャ切ハサミの刃を、暗殺伯爵の放った【次元破断の呪い】に向けて、躊躇なく、チョキィィィィン!!!!!と力任せに噛み合わせた。


ジュゥゥゥゥゥゥッ!!!


凄まじい神聖な摩擦の光と、清々しい椿油の香りが大講堂全体に立ち込む。

なんと、暗殺伯爵が放った不規則な空間破砕の切り刻みの波が、裁子の放った真っ黒な『絶対裁断』の刃に触れた瞬間、まるでハサミで綺麗に切り落とされた一枚の「布の端切れ」のように、ハラハラと丸まりながらシステムから完全に切り取られ、跡形もなく消滅してしまったのである。


切り刻まれていた大理石のテーブルと極上スペアリブは、一瞬にして元の、一分の狂いもない完璧な『黄金の鏡面皿』へと再記述された。


「さぁ、お嬢様、坊ちゃま。遮るものは何もございません。八月の美しい合同晩餐会を、最高の食欲で楽しんでくださいませ」

裁子が優雅に一礼する。


「いくよ、ルファス君! ――最高の、合同バーベキュー(グランド・フィニッシュ)だぁ!」

「おう、天照! ――僕たちの、最高の八月の夏休みプロットをここに刻むぞ!」


二人は完璧に平坦化され繋ぎ合わされた鏡のテーブルの上を、一糸乱れぬステップでフォークを走らせ、最後の最高難度の特上スペアリブの特等席へと、見事に滑り込んだのだった。


ドンッ!!!!!


その瞬間、宴会場のすべての魔導キャンドルから、祝福の紙吹雪と黄金の光の粉が一斉にフロアへと降り注ぎ、王宮と魔界の自動採点システムは、歴史上誰も見たことのない『無限大(両陣営完全和解、しかし最高の食いしん坊)』の超高得点を叩き出したのである。


大講堂全体からは、割れんばかりの拍手と、種族を超えた何万もの人々(および魔物たち)からの歓声が沸き起こり、ひよりたちの二年生A組の、完全なる歴史的大勝利が確定したのだった。


終章:至高のレモンソルベと、呉の夜空を想う


八月の最大の危機と、「同時に届いた不条理な二者択一の招待状」を、セロハンテープ(吸着丸)とラシャ切ハサミ(裁子)という、異世界のどんな超常魔法の系譜にも存在しない不条理な日常道具コンボで完全解決したひよりたち。


夜会が終わり、夏の夜風が優しく涼しい虹を月光に浮かび上がらせた深夜。学園の最高級テラス席には、約束通り、勝利したひよりたちの班のためだけに用意された、大陸最高峰の『八月限定・瀬戸内風レモン魔導ソルベ特大タワー』が、まばゆい光を放ってそびえ立っていた。


「おいしーーーい!!! 何これ、レモンの爽やかな酸味が口の中でジュワッて弾けて、ソルベのシャリシャリ感が上品で、呉のれんが通りのどんな高級ケーキ屋さんで食べる夏のスイーツより美味しいよ!」


ひよりは制服の袖をすっかり捲り上げ、ソルベをこれでもかと頬張り、頬をリスのようにパンパンに膨らませながら、最高の笑顔を浮かべていた。


「フ、フン、当たり前さ! 僕のヴァルカン家が買い付けてきた特製チケットが、元の自由な状態に戻ったからこそ、この最高の味に辿り着けたんだからね。……まぁ、その、天照さん。今回の合同晩餐会では、君のその……『よく分からない実家の透明なテープと大きなハサミの力』に、もう一度だけ感謝してあげてもいいよ」


ルファスはすっかりネクタイを緩め、自らの分のソルベを大事そうに口に運び、どこか幸せそうに微笑んでいる。

「ひよりさん、ルファスさん! このレモン、食べると体の中からポカポカと温かい魔力が溢れてきますぅ! 最高の八月の夜ですぅ!」


ミーナも、お皿をピカピカになめる勢いでソルベを平らげ、尻尾を千切れんばかりに激しく振って笑っていた。ちなみに、不正なハッキングを試みた不敬貴族と魔王軍の残党たちは、システムの強制ペナルティによって「一ヶ月間のマナー再履修・および会場のハサミでの草刈りの刑」に処され、今頃泣きながら雑巾を握らされているとのことだった。


「ふむ。強制的な二者択一を貼り合わせ、理不尽な切り刻みを美しく切り揃えて最高の報酬を掴み取る。これ以上ない見事な大団円のプロットだな、ひより」


私は文机に向かい、この『第二十一幕・八月の同時招待状編』の最後の一ページに、満足のいく文字を刻み終え、万年筆を静かに置いた。


「仕上げは終わった、硯水さん?」

ひよりがテラスから差し込む、王都と魔界が美しく融合した夜景を見つめながら覗き込んでくる。私は微笑み、表紙に力強い文字でこう書き込んだ。


『名もなき神社のデッドストック・第二十一幕~八月の同時招待状ハッキングを、セロハンテープの絶対接着とラシャ切ハサミの絶対裁断により、二つの世界を繋ぎ出してレモンソルベを堪能してみた~』


「ふふ、完璧な大団円だ。さあ、ひより。八月での甘酸っぱいハプニングもこれにて一段落。明日からはまた、学院都市ルミナスへ戻る新しい日常のプロットの始まりだ」


「うん! よーし、九月になったら、今度は秋の収穫祭で美味しい日常をたくさん作っちゃうぞ!」


窓の外では、静かに、優しく八月の星空が世界を包み込み、王宮の暖かい魔導の光がひよりの黒い髪を美しく照らし出す。


「パパ、ママ。私ね、異世界のすっごく豪華な空中宴会場で、実家のセロハンテープとおハサミさんのお宝の力を使って、二つの理不尽な招待状をペタッと貼り合わせて、世界一美味しいレモンのソルベを食べちゃったよ。だから……いつか本当に私が呉の家に帰れた時は、パパの奢りの屋台の唐揚げとフライドポテト、絶対に家族みんなで、お腹がパンパンになるまで食べさせてね!」


少女のどこまでも明るい笑い声と、千年の時を超えてリュックの中で賑やかに笑う付喪神たちの声は、ぬくもりに包まれた学園都市の夜空へ、遠い、遠い故郷の空へと、どこまでも、どこまでも響き渡っていった。

みなさま、どんな風に感じてもらったのでしょうか?

少しでも面白いかもと思って頂けましたら幸いです。

励みになりますので、☆☆☆☆☆をチェックしてもらえると嬉しく存じます。

これからもお付き合いのほどよろしくお願いいたします。

今回は女子高生のお話です。

よろしくお願いします。

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