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20 彫刻刀と修正液

 七月のルミナス魔法学院は、まるで焦熱の魔導炉の底に沈められたかのように、容赦のない夏の太陽に炙られていた。

先月、ジューンブライドの強制マリッジ・システムという異世界の不条理なバグを、蔵の奥から呼び出したペーパーナイフと台鉋のコンボで物理的に削り倒した天照ひよりだったが、今度はファンタジーな怪物や魔王の呪いではなく、すべての学生に平等に、そして冷酷に突き付けられる現実の壁――『第一学期・魔導学力総合大試験』の通知表プロットに完全敗北していた。


「……あー、もう本当に無理。完全に頭の脳細胞がストライキを起こしてるプロットだよ、これは。見てよ、この机の上に並んだ、まるで特製激辛チリソースをぶちまけたみたいに真っ赤な文字で大きく描かれた『4』とか『7』とか『2』っていう数字のパレードを! 私のいたって平凡かつ一般的な広島県立女子高生スペックの頭脳が、この世界の『古代ルーン幾何学』とか『精霊流体力学算術』に耐えられるわけないじゃん!


全科目赤点って何!?

逆に狙って取る方が難しい確率でしょ! これじゃあ、これから始まる楽しい七月の夏休み海開きライフが、地獄の『居残り強制魔力監獄塔・特別補習合宿』に完全上書きされちゃうよ!」


放課後の夕日が赤々と差し込む二年生A組の教室。ひよりは自分の席で完全に真っ白な灰のようになり、机の上にベッタリと突っ伏しながら、涙でふやけた答案用紙の束を恨めしそうに指で突いていた。


「何をそこまで因果の法則に逆らった絶望のト書きを記述しているのだ、ひより。お主は世界樹の結界をヤスリで削り落とし、王宮の絶対契約を様々な文房具で叩き潰してきた、学園内でも『規格外の特異点』として恐れられる存在なのだぞ。

それなのに、単なる紙の上の筆記試験で、これほど綺麗に『ゼロの領域』へと収束してしまうとは……。以前に活躍した砂消しゴムの砂恵や、文鎮の鎮五郎たちも、お主のその『実戦最強・座学最弱』というあまりにも極端なプロットの偏りには、蔵の奥であきれ果てて言葉を失っておるぞ」


私はひよりの机の横、夏の強い日差しを遮るために降ろされたカーテンの影に、依り代である文机を精神体として小さく実体化させ、滑らかな万年筆のインクを走らせながら応えた。私の名は『硯水(けんすい)』。

………千年の歴史を持つあの蔵の奥で、人間の様々なる「試験の落第」「大失敗の成績」「親に見せられない通知表」「引き出しの奥底に隠された不合格通知」という、いつの時代も変わらない人間の不条理な喜劇を見つめ続けてきた付喪神だ。


「簡単に言わないでよ、硯水さん! 前に出てきてくれた砂恵さんや鎮五郎さんの力は凄かったけど、今回はテストの『点数』そのものがシステムに登録されちゃってるんだから、上から擦ったり押さえつけたりするだけじゃ、私の頭の悪さは誤魔化せないんだよ!

私は呉のれんが通りでたい焼きの買い食いの計算くらいしかしてこなかった、普通の天照ひより! 異世界の数式なんて、私の頭の消しゴムじゃ消すこともできないんだから!

あーあ、七月の呉の宇品港にでも行って、夏の潮風を浴びながら冷たいラムネでも飲んで現実逃避したいなぁ。なんで新学期になって、こんな『全科目赤点パーティー』なんていう不名誉なプロットで全校生徒の晒し者にされなきゃいけないの!?」


「いや、ひよりの姉ちゃん。オイラ、さっき職員室の裏のゴミ箱をからからと覗いてきたんだけどさ……。今回の赤点は、単なる補習じゃ済まなくなってるみたいなんだぜ」


ひよりの新しい筆箱の隙間から、おみくじ箱の付喪神である『吉凶(きっきょう)』が顔を出し、木箱の体をガタガタと慌ただしく鳴らした。


「購買部や廊下での噂によるとさ……今回の試験で全科目赤点を取った生徒は、学園の最高学習管理システム『聖なる断罪の自動採点魔導書(グラマティカ・バグ)』のセキュリティに『学習不適格デリート対象』として誤認されて、今日の夕方、その生徒の持つ全魔力と……実家の蔵へのゲート(リュック)を丸ごと『強制白紙化(リセット)』するって、教頭のカタブツどもが決定しちゃったらしいんだ!」


「……え? 強制白紙化!? ――って、それって、私のリュックの中に隠してある、今日の放課後に内緒で贅沢に食べる予定だった『七月限定・極上ひんやり白桃魔導マンゴープリン(特大サイズ・生クリーム添え)』が、システムのエラーで文字通り『無(白紙)』に消え去るってことじゃん!」


ひよりの瞳の奥に、再びあの「食欲による世界の変革」を告げる猛烈な炎がパッと灯った。


「吉凶君、そんな理不尽なシステムの大暴走、私は絶対に認めないわよ! 私の頭がちょっとファンタジーな数式に対応してないのを良いことに、私の神聖なマンゴープリンを消去しようなんていうなら、その偉そうな自動採点システムごと、赤点の文字を力任せにブチ抜いてみせるわよ!」


「ひゃぅっ!? ひよりさん、自分の勉強不足を完全に棚に上げて、システムへの逆恨みだけで魔王顔負けの戦闘モードに入ってますぅ!」


いつの間にか教室に入ってきたミーナが、犬の耳をパタパタさせながら怯えた声を上げる。しかしひよりはすでに、赤点だらけの答案用紙の束をハチマキのように頭に巻き付ける勢いで、試験管理システムが設置されている中央大講堂へと、堂々の第一歩を踏み出した。


第二章:断罪の自動採点書と「赤点の拘束」


中央大講堂の厳かな空間は、すでに冷酷な青白い魔力の光で満たされていた。


「おい、天照! 大変なことになった! 君のその『全科目赤点』という恐るべき記録が、学園の自動採点書に『完全に修正不可能な学術のバグ』として登録され、大講堂全体が封鎖されてしまったんだ!」


ツンツン頭の少年――ルファスが、顔を真っ青にして魔法杖を構えながら走ってきた。彼の手にある魔導通信機からは、カチカチカチ……と、ひよりの成績データを処理しきれずにエラーを起こしているシステムの警告音が、不気味に響き渡っていた。


「ルファス君! 私のプリンは!? 私のマンゴープリンは無事なの!?」


「プリンの心配をしてる場合か! 上を見てみろ! あの学園が誇る絶対の真理システム――『聖なる断罪の自動採点魔導書(グラマティカ)』が、君の全科目赤点の因果関係を『学園の魔力秩序を汚す悪性のエラー』とみなし、大講堂の中のすべての物質を白紙のデータへ分解しようとしているんだ!」



ルファスの言う通り、講堂の中央の空中には、巨大な鋼鉄の装丁が施された古い魔導書が浮かび上がっており、そのページがバリバリと狂ったように捲れていた。書物の表面からは、真っ赤な『赤点(✕マーク)』のレーザー光線が何千本も触手のように伸び上がり、ひよりの足元の地面や、彼女の持つリュック(実家のゲート)をジワジワと締め付け、その存在を世界の記述から削り取ろうと白く塗りつぶし始めていたのだ。


「そしてそしてぇ! 直線を引いただけじゃ、間違った赤点は消えないからね! ボクの出番だよ、ひよりちゃん!」


竹千代の影から、ピョンと飛び出してきたのは、手袋をはめた両手に小さな鋼鉄の彫刻刀のような刃を持ち、すばしっこく宙を舞う少年の姿をした付喪神――名を『カリカリ丸(かりかりまる)』という。

彼は、インクが普及し始めた時代から、間違って書かれた帳簿の誤字や、偽造された手形のサインを、その鋭い刃先で紙の表面を傷つけることなく「インクの分子だけをカリカリと削り取る」という、驚異的な『精密修正』の執念から生まれた、修正刃の付喪神であった。


「竹千代さん、カリカリ丸君! あの自動採点書の赤点のレーザーが、私のリュックとマンゴープリンをデータごと消去しようとしてるの! あの嫌な✕マークの歪んだ数式を、正しい形に直して、間違った赤点をカリカリに削り取って!」


「おう、任せときな、ひよりのお嬢さん! 僕の身体(竹定規)が描く直線はね、魔法のプログラムだの真理の文字だの、そんな小賢しい歪みに揺らぐほどヤワじゃないのさ!……ただ『ここに直線をあてがい、歪んだ空間を無理やり真っ直ぐな規格にはめ込む』。――【神域直律・鯨尺竹結界(しんいきちょくりつ・くじらじゃくたけけっかい)】!」


竹千代が、自らの本体である巨大な竹定規を両手で力強く構え、自動採点書が展開していた【赤点の断罪陣(✕マークの光)】に向けて、空中を一閃するように振り下ろした。


その瞬間、自動採点書が放っていた「あらゆる防衛を無効化する白紙化のレーザー」が、竹千代の定規の側面に直接命中した。普通なら、どんな物質であっても一瞬でデータへ分解されるはずだった。

しかし、竹千代の竹定規は、魔法防御ではなく『千年の人間の寸法の狂いを正してきた、絶対的な規格の物理結界』そのものであったため、白紙化のプログラムは定規の目盛りの前で「強制的に真っ直ぐな光の線」へと屈折させられ、攻撃としての意味を失って大講堂の天井へと虚しく跳ね返っていってしまった。


「な……何だと……!? 我が学園の真理システム、世界の記述からバグを消去するはずの断罪の光が、ただの『竹の物差し』によって、軌道を強制的に真っ直ぐに曲げられたというのか……!?」


自動採点書の背後でシステムを管理していた教頭たちの表情が一瞬にして崩れ、その目を驚愕に大きく見開いて後ずさりした。


「それだけじゃないよ! はい、ボクの番! カリカリカリカリ、カリカリカリカリッ!! ――【神域修正・微粒子鋼鉄刃(しんいきしゅうせい・びりゅうしこうてつば)】!」


カリカリ丸が、驚異的なスピードで自動採点書の表面へと肉薄し、その鋼鉄の刃先で、書物に描かれていたひよりの『全科目赤点(✕マーク)』の魔導記述を、もの凄い勢いでカリカリと削り取り始めた。


不思議なことに、カリカリ丸が刃を動かすたびに、自動採点書の鋼鉄の装丁は一切傷つかないにもかかわらず、その上に刻まれていた「天照ひより:0点」という冷酷な魔法の文字だけが、サラサラとした黒い砂のようになって虚空へと削り落とされていく。


「ああっ!? バカな、我が自動採点書の、絶対に書き換え不可能なはずの『真理の記録(成績)』が、ただの小さな刃物でカリカリと物理的に削り取られて消えていく……!? 止めてくれ、それ以上削られたら、学園のシステム全体のデータベースが『未記述の白紙』に戻ってしまう!」


教頭たちが悲鳴を上げるが、カリカリ丸の手の動きは止まらない。赤点の記述が完全に削り取られた大講堂には、一瞬にして元のうららかな七月の光が差し込み、パニックに陥っていた生徒たちからは「おお……! A組の天照先輩が、今度は定規と彫刻刀みたいな付喪神で、真理のシステムを無理やり真っ直ぐにして削り取っちゃったぞ!」と、割れんばかりの歓声が沸き起こったのだった。


第四章:因果の激突と「解答用紙の強制上書き」


だが、自動採点書のシステムは、自らの放ったレーザーを曲げられ、文字を削り取られただけで折れるほど生易しくはなかった。


「くっ、力で文字を修正するというなら、この学園の『成績管理規律(システム)』そのものを最高出力で稼働させ、君の全科目の答案用紙を、世界から完全に隔離された『永久落第の黒歴史(バグコード)』へと強制的に登録・ロックしてくれるわ!」


教頭たちが大講堂の壁のレバーを操作すると、空中を舞う自動採点書が不気味に明滅し、そのページから、かつて学園の歴史の中で落第していった者たちの絶望の怨念を封じ込めたという、不気味な黒いインクの波――『落第の深淵(フェイラー・バグ)』が、津波のように大講堂の床一面へと噴き出し始めた。


カチ、カチ、カチ、チキィィィン!!!


大講堂全体の空間が、まるで水面に投げ込まれた石のように、グニャグニャと激しく波打ち始めた。


「な、何てことだ! あいつら、あの呪われた本のインクを使って、大講堂の中の『歴史の因果関係』を強制的に書き換え、天照(ひより)の存在そのものを『二年生の先輩』から『学園の歴史上最も不名誉な永久追追放囚』へと無理やり上書きしようとしているんだ!」

ー

ルファスが激しい空間の歪みに耐えながら、声を枯らして叫ぶ。ひよりの足元からは、見たこともない古代の不気味な黒い✕の紋章(落第の呪い)が次々と触手のように伸び上がり、彼女の制服を、古い囚人のボロ布へと無理やり書き換えようと締め付け始めていた。


「うわっ、ちょっと待って! 制服が、制服が変なボロきれに変わっちゃう! 私の、私の二年生としての思い出が、全然知らないお化け屋敷みたいな落第の記憶に侵食されていく……! 頭がぐるぐるして、自分が何点のテストを取ったのか分からなくなりそう……!」


ひよりが頭を抱えてステージの上に膝をつく。彼女の脳裏に、夕焼けに染まる呉の灰ヶ峰の景色と、赤黒い炎に包まれて崩壊していく見知らぬ落第の景色が、激しく衝突しながら火花を散らしていた。


「不味いな。相手は文字の消去や修正ではなく、歴史の因果そのものを『強制的な落第の上書き(パラドックス)』によって捻じ曲げようとしている」


私は文机の前に立ち、万年筆を強く握りしめた。私の現実改変で『歴史は変わらない』と記述するには、自動採点書が命を賭して発動している学園数百年の怨念の質量が大きすぎる。


「ひより、自分を見失うな! 世界がどれほど頑固な古代のルールによってお主の今を上書きしようとも、人間の『一度間違えて汚れてしまった紙も、上から強固な白い膜で覆い隠してしまえば、そこは完全に新しい真っ白な世界として再出発できる』という日常の再生の規律の前には、歴史の歪みなど一歩も侵入できない。……我が神社の東の第五蔵の引き出しの奥――

………千年の間、地域の寺子屋の子供たちの盛大な墨汁の汚れや、代々の神主たちが書き間違えた重要な儀式のスケジュールの汚点を、その絶対的な『白い塗膜による空間遮断』という一念の物理重量によって、一瞬で何もない綺麗な白へと塗りつぶし続けてきた、あの小さき文房具を呼び出すのだ」


「引き出しの奥の、白く塗りつぶす道具……あ! 私が小学生の時、習字の宿題で名前の漢字を間違えちゃったとき、おじいちゃんが『これを使えば、神様だって見落とすくらい真っ白になるぞ』って言いながら、小さな筆で白くてドロッとした液体を塗ってくれた、あの……修正液(しゅうせいえき)ボトル!」


「そうだ。あれは、魔法の消滅呪ではない。だが、人間の『間違えた過去は、白く塗りつぶして上から新しく書き直せばいい』という、あまりにも力強い生活の知恵から生まれた兵器だ。……ひより、彼女を呼び出して、お主の『永久落第の呪い』の上に、絶対的な白の結界をブチまけてやれ!」



第五章:過去遮断と「修正液の絶対白膜」


ひよりは混濁しかける意識の奥底から、自らの「七月の美味しいマンゴープリンへの執念」を爆発させ、足元の不気味な黒い紋章に向けて、渾身のデッドストックの光を放った。


「デッドストック!! 我が家の書斎に眠る、すべての間違いを白紙の無に還すお宝、出てきて私の『今』を、白いお布団で包み込んじゃってぇぇぇーーーッ!!」


パカッ!!! シャカシャカシャカ……!!!


大講堂の空間に、小さなボトルのキャップが開けられ、中の金属球が小気味よく混ざり合うような、あまりにも軽快で、だが同時にあらゆる黒い汚れを恐怖させるような音が響き渡り、純白の魔法陣がステージの床一面に展開した。

光の中から出現したのは――最高級のチタンホワイトの顔料をふんだんに使用し、長年の使用によってボトルの周囲にうっすらと白い膜が固まりながらも、圧倒的な隠蔽力と速乾性を保っている、伝統的な『事務用・特大修正液ボトル(しゅうせいえき)』だった。


「……あらあら、随分と泥遊びが好きな、真っ黒いインクばかりの本(システム)が、お嬢さんの純白の答案用紙を汚そうとしているのねぇ。……我が『白姫』の前に、塗りつぶせない暗闇など、ただの一滴も存在しないのよ」


修正液のボトルの先端から立ち上る、独特の有機溶剤のツンとした匂いと、一瞬で乾燥していく白い塗膜の煙の中から現れたのは、全身を雪のように真っ白な格調高いドレスで包み、瞳の奥に絶対的な『純白』の拒絶を湛えた、大変に美しくも冷徹な女王の姿をした

………付喪神――名を『白妙(しろたえ)』という。千年の間、神社のあらゆる重要な書き損じや、絶対に人に見せてはならない呪いの文字の上にドロリと純白の液体を落とし続け、どれほど濃い墨汁の汚れがあろうとも「我が覆い隠した場所は、すなわち世界から完全に隔離された『未記述の空白』である」という、強烈な『過去遮断』の執念から神格を得た、修正液の付喪神だ。


「白妙さん! あの自動採点書のせいで、私の歴史が永久落第の罪人に上書きされちゃうの! 私の『今の存在』を、絶対に汚れないように真っ白に塗りつぶして守って!」


「お安い御用よ、ひよりの坊や。我が身体(修正液)が刻む純白の隠蔽力はね、時間の逆流なんぞに侵食されるほど薄くはないのさ。……さぁ、お嬢さんの『二年生』としての歴史の周りに、絶対の白い壁を降ろさせてもらうわよ!――【神域遮断・万物白紙化修正液(しんいきしゃだん・ばんぶつはくしかしゅうせいえき)】!」


白妙が、自らの本体である巨大な修正液ボトルを逆さに構え、ひよりの足元と、空中を舞う『聖なる断罪の自動採点魔導書』の真上に向けて、


ドボドボドボォォォォォッ!!!!!と、


大講堂全体を純白の液体で染め上げるほどの圧倒的な隠蔽力で撒き散らした。


その瞬間、ひよりを締め付けていた古代の黒い触手(落第の呪い)が、白妙の放った「純白の結界」に触れた途端、まるで強力な漂白剤をぶちまけられたかのように「シュワシュワシュワッ!」と白い煙を立てて完全に中和され、彼女の制服は元の綺麗なルミナス魔法学院の二年生の黒い制服へと一瞬で再固定された。


それどころか、自動採点書のページ全体が、白妙の絶対的な「白紙化」の液体の前に真っ白に塗りつぶされ、自らの記述していたルールを見失い、過負荷(エラー)を起こして「パァァァン!」と派手な音を立てて木っ端微塵に爆発してしまったのである。


「な……何ということだ……! 我が学園が誇る絶対の真理システムが、ただの『白い修正液』の隠蔽力の前に、自分の名前すら忘れて自壊したというのか……!?」


教頭たちは爆発の衝撃でステージの上に崩れ落ち、すべての魔力を失って呆然とした涙をこぼした。

「ふふ、これでよし。……どんなにド派手な暗黒の歴史(魔法)であっても、上から『白』のインクで塗りつぶされてしまえば、ただの書き直せる未来ですからね」



白妙は静かに微笑むと、一組の文房具の姿に還ってひよりの新しい筆箱へと綺麗に収まったのだった。


第六章:二年生の夏休みと、呉の海を想う


第一学期の最大の危機と、「全科目赤点の白紙化エラー」を、竹定規(竹千代)、修正刃(カリカリ丸)、そして修正液(白妙)という、異世界のどんな超常魔法の系譜にも存在しない不条理な日常道具コンボで完全解決したひよりたちのニ学年。


自動採点システムが爆発した結果、学園の成績データは一時的に「全員が合格(判定保留)」という奇跡的なお祭り状態となり、ひよりの赤点パーティーも『夏休み明けの再試験まで持ち越し』という、実質的な大勝利(日常の死守)を収めることになったのだった。



その日の夕方。夏の心地よい夜風が吹き始めた、いつもの大食堂のテラス席。


ひよりはテーブルの上で、ついに守り抜いた最高の報酬――自分のリュックから無傷で救出された、まばゆい光を放つ『七月限定・極上ひんやり白桃魔導マンゴープリン』を前にしていた。


「おいしーーーい!!! 何これ、マンゴーの濃厚な果汁が口の中でジュワッて弾けて、生クリームのまろやかさが上品で、呉のれんが通りのどんな高級洋菓子屋さんで食べるスイーツより美味しいよ!」


ひよりはプリンをこれでもかと頬張り、頬をリスのようにパンパンに膨らままがら、最高の笑顔を浮かべていた。


「フ、フン、当然さ。今回は君のその『よく分からない実家の定規や白い液体の力』に、またしても学園全体が救われちゃったわけだからね。……まぁ、その、天照さん。夏休み明けの再試験の時は、僕が付き合って勉強を教えてあげてもいいぞ」


ルファスはすっかり胸元の二本線章を誇らしげに揺らしながら、自らの分のお肉を大事そうに口に運び、どこか幸せそうに微笑んでいる。


「ひよりさん、ルファスさん! このプリン、食べると頭がすっきりして、次の試験は全部満点が取れそうな気がしますぅ!」

ミーナも、お皿をピカピカになめる勢いでプリンを平らげ、尻尾を千切れんばかりに激しく振って笑っていた。


「ふむ。理不尽な成績システムを修正し、正しい日常のステップで最高の報酬を掴み取る。これ以上ない見事な七月編のプロットだな、ひより」


私は文机に向かい、この『第二十幕・七月の赤点パーティー編』の最後の一ページに、満足のいく文字を刻み終え、万年筆を静かに置いた。


「推敲は終わった、硯水さん?」

ひよりがテラスから差し込む、夕暮れの学園都市の美しい夜景を見つめながら覗き込んでくる。私は微笑み、表紙に力強い文字でこう書き込んだ。



『名もなき神社のデッドストック・第二十幕~七月の全科目赤点ハプニングを、竹定規の直線結界と修正刃のカリカリ、修正液の絶対白膜により、システムを粉砕してマンゴープリンを堪能してみた~』


「ふふ、完璧な大団円だ。さあ、ひより。七月でのささやかな成績騒動もこれにて一段落。明日からはまた、このルミナス魔法学院で、新しい美味しい夏休みのプロットの始まりだ」

「うん! よーし、八月になったら、今度は夏のお祭りと海で美味しい日常をたくさん作っちゃうぞ!」


窓の外では、静かに、優しく七月の星空が世界を包み込み、王宮の暖かい魔導の光がひよりの黒い髪を美しく照らし出す。


「パパ、ママ。私ね、二年生になって最初のテストで、実家の竹定規さんとカリカリ丸君、白妙さんのお宝の力を使って、全科目赤点のシステムを真っ白に消し去って、世界一美味しいマンゴープリンを食べちゃったよ。だから……いつか本当に私が呉の家に帰れた時は、あの2軒の冷麺屋、パパの奢りで絶対に家族みんなで、お腹がはち切れるくらい食べさせてね!」


少女のどこまでも明るい笑い声と、千年の時を超えてリュックの中で賑やかに笑う付喪神たちの声は、ぬくもりに包まれた学園都市の夜空へ、遠い、遠い故郷の空へと、どこまでも、どこまでも響き渡っていった。

みなさま、どんな風に感じてもらったのでしょうか?

少しでも面白いかもと思って頂けましたら幸いです。

励みになりますので、☆☆☆☆☆をチェックしてもらえると嬉しく存じます。

これからもお付き合いのほどよろしくお願いいたします。

今回は女子高生のお話です。

よろしくお願いします。

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