14 拍子木と丸太の台座と
十月の賑やかな大収穫祭を、大鉄鍋のちゃんこ鍋と萬寿丸の神がかり的な胃腸薬、そしてパフェを完璧に護った「蝿帳」の絶対領域という不条理な日常道具コンボで食べ尽くし、胃袋の限界(プロットの果て)まで満喫してから一か月。
大陸を渡る風はさらに冷たさを増し、世界樹の葉も深い冬の訪れを予感させるように散り急ぐ十一月。ルミナス魔法学院は、十月の収穫祭とはまた毛色の異なる、
しかし別の意味で生徒たちのプライドと魔力が激しく火花を散らす、一年で最も熱い学内行事――『秋季ルミナス学園祭・クラス対抗魔導体育祭』の熱気に支配されていた。
「……うう、足が、私の一般女子高生スペックの細い足が、すでに物理的な限界を超えて悲鳴を上げてるよ……。魔神の呪いよりも、この『太腿の筋肉痛』の方が、確実に私の召喚士としての寿命を削りにきてるって……」
学院の広大な第一グラウンドの片隅。
天照ひよりは、芝生の上に大の字になってひっくり返りながら、魂が口からずるりと這い出そうな顔をして天を仰いでいた。十六歳の女子高生(兼・見習い召喚士)に、ついに異世界の「学園祭・クラス対抗戦」という名の、あまりにも体育会系な過酷な現実が襲いかかっていたのである。
「何を情けない声を上げているのだ、ひより。お主は世界樹の街を救い、収穫祭の暴食魔獣を蝿叩きの一撃で吹き飛ばした、生ける生神なのだろう? クラスの仲間と息を合わせてたったの一〇〇メートルを全力疾走するくらい、小説のプロットを三行付け足すよりも簡単なはずだが」
私は人型の姿で、グラウンドの木陰に愛用の文机を小さく実体化させ、優雅にインクの出具合をチェックしながら応えた。
私の名は『硯水』。千年の歴史を持つあの超ど田舎の神社の蔵で、人間の様々な熱狂、運動会の徒競走や村の祭りでの力のぶつかり合いを見つめ続けてきた文机の付喪神だ。
「全然違うよ、硯水さん! 世界を救うのは実家のみんな(付喪神)が不条理なチート能力でドカーンってやってくれるからで、私の地記というか身体能力は、呉のド田舎にいた頃から、一〇〇メートル走で一六秒を切ったことがない、いたって平凡な帰宅部スペックなんだから! あーあ、呉の休山にでも登って、瀬戸内海の穏やかな海を眺めながら、冷たいラムネでも飲んで現実逃避したいなぁ。
なんで異世界にまで来て『クラス対抗・魔導5人6脚高速障害物競走』なんていう、名前からして頭の悪い種目に出なきゃいけないの!?」
「それは、お主が所属する一学年A組が、今回の学園祭の総合優勝を飾り、副賞である『大陸最高級の購買部特製・幻のいちご大福』を山分けするためだろう?」
ひよりの影から、ひょっこりと顔を出したのは、おみくじ箱の付喪神である『吉凶』だった。六角形の木箱の体をからからと小気味良く鳴らす。
「そうだよ、ひよりの姉ちゃん。ルファスもミーナも、他のクラスのやつらにだけは絶対に負けたくないって、さっきから魔導グラウンドの真ん中でめちゃくちゃ気合い入った顔で待ってるぜ!」
「そうなの! 幻のいちご大福! なんでも世界樹の最上層で採れる、魔力を内包した奇跡のいちごと、ドワーフ族が百年かけて磨いた最高級の白あんが融合した、この世の天国みたいなスイーツ! ……そのためなら、私はこの5人6脚という名の不条理な魔獣を討伐してみせる!」
ひよりが「シャキーン!」と効果音が聞こえそうな勢いで立ち上がった、その時だった。
第二章:クラス対抗戦の絶望と「揃わない足並み」
「おい、天照! いつまでそこで寝転がっているんだ! もうすぐ僕たちの出番だぞ!」
グラウンドの向こうから、ツンツン頭の少年――ルファスが、いかにも焦った様子で走ってきた。彼の後ろには、狼の耳と尻尾をパタパタと忙しなく揺らす小柄な獣人の少女――ミーナ、そして同じクラスの魔法剣士の少年と、治癒術師の少女の二人が、お互いの足を魔法の紐でぐるぐる巻きに縛られた状態で、ガタガタと不格好に足並みを乱しながら付いてきている。
そう、今回の学園祭のメインイベント『魔導5人6脚』は、ただのムカデ競争ではない。
5人の生徒が足を結び合わせ、グラウンドに設置された「火炎のエリア」「重力のぬかるみ」「突風の乱気流」といった無数の魔法障害物を突破しながら、一〇〇メートルのコースを駆け抜けるという、恐るべき難関種目だったのだ。
「ル、ルファス君! みんなの足並み、全然揃ってないじゃない!」
「うるさい! 僕の【身体強化魔法】の出力が強すぎるのと、このミーナの獣人としての野生のステップ、そしてそっちの魔法剣士の歩幅が全部バラバラなんだ! お互いが自分の最高速度で走ろうとすればするほど、紐が食い込んで一歩も前に進めない!」
「ひゃぅっ!? ル、ルファスさん、引っ張らないでくださいぃぃ! 尻尾が絡まっちゃいますぅぅ!」
ミーナが涙目を浮かべてジタバタと暴れる。5人の息が全く合っていないため、一歩動くたびに右へ傾き、左へ倒れ、お互いの魔力が干渉し合って小さな爆発(魔力クッション)を起こす始末だった。
「なるほど。個人の能力(魔力)が優秀であればあるほど、お互いの『我』が衝突し、一つの方向へと進むプロットが完全に崩壊しているわけか」
セリア生徒会長が本部席から心配そうに見守る中、私はひよりのリュックの奥から静かに思考を巡らせた。
「ひより、これは単なる運動神経の問題ではない。5人の異なる肉体と精神の『波長』を、完璧に一つへと同調させる必要がある。……我が神社の西の第十二蔵の棚の奥、千年の間、人間のバラバラな『歩調』や『呼吸』を、その絶対的な音律によって強制的に一つの完璧な集団へと変えてきた、あのシンプルながら最も厳しい道具を呼び出すのだ」
「西の第十二蔵の厳しい道具……? あ! おじいちゃんが秋祭りの行列とか、村の消火訓練の時に、冷たい風の中で『いーち、にー、さーん!』って言いながらカチカチ鳴らしてた、あの四角くて頑丈な……!」
「そうだ。あれは、ただの木切れではない。人間の乱れた呼吸と歩幅を、完璧な『規律』へと叩き直す、至高の指揮道具だ」
第三章:特訓開始と「拍子木の絶対音律」
ひよりはグラウンドの芝生を力強く踏みしめると、自らの膨大な魔力タンクから、波紋のように広がる純粋な銀色の魔力を足元へ流し込んだ。
「デッドストック、起動! 我が実家の蔵の奥、千年の間、みんなの足並みと呼吸を一つに揃えてきた、お祭り一番の指揮官、おいで!」
カァァァン!!! と、
グラウンド全体の喧騒を一瞬で突き破るような、どこまでも高く、澄み渡った木の打撃音が響き渡った。
光の中から出現したのは――
…………最高級の紅葉の木を四角く削り出し、長年の摩擦によって美しい飴色に光り輝く、一組の伝統的な『拍子木』だった。
「おやおや、随分と元気な若造どもが、足元を散らかしているねぇ。……これじゃあ、お神輿を担ぐどころか、自分の足に躓いてドブに落ちちまうよ」
拍子木から立ち上る、秋の落ち葉の香りがする煙の中から現れたのは、真っ赤な法被を小粋に羽織り、きりりとした一本眉が特徴的な、いかにも江戸っ子気質で厳格な兄貴分の姿をした付喪神――名を『拍子丸』という。
千年の間、神社の秋祭りの行列や、村の火の用心、火消し(消防組)の先頭に立ち、何百人もの人間のバラバラな足並みを、その「カチ、カチ」という小気味良い音だけで一糸乱れぬ芸術へと統制し続けてきた、拍子木の付喪神だ。
「拍子丸さん! 私たち、あの5人6脚でどうしても優勝して『幻のいちご大福』を食べたいの! でも、みんなの魔力と足並みがバラバラで、全然前に進めなくて……力を貸して!」
「おう、任せときな、ひよりのお嬢ちゃん! ワシの身体(拍子木)が刻む音はな、ただの音じゃねえ。人間の心臓の鼓動と魔力の波長を、根こそぎ一つの『大きなうねり』へと強制同調させる、至高の祭り囃子よ! ――【神気一統・足並み揃えて(しんきいっとう・あしなみそろえて)】!」
拍子丸が、自らの本体である拍子木を両手に構え、胸の前で思い切り、カァァァン!!!と打ち鳴らした。
その瞬間、ルファスやミーナ、そしてひよりたちの脳内に、直接「完璧なテンポ」の拍子が、心地よい魔力の振動となって直接打ち込まれた。
「……っ!? な、何だこれは!? 僕の体の中の魔力回路が、あの木の音に合わせて、勝手に規則正しく脈打ち始めたぞ!?」
ルファスが驚愕して自らの手を見つめる。
「ひ、ひよりさん……! 頭の中のゴチャゴチャした怖いの(緊張)が消えて、ルファスさんやひよりさんの足の動きが、まるで自分の足みたいにハッキリ分かりますぅ!」
ミーナの耳がピコピコと立ち上がり、尻尾が楽しげなリズムを刻み始める。
「よし、いくぞ若造ども! ワシの音に合わせて足を動かしな! トントン、カァン! トントン、カァン! 右足! 左足! それ、右足! 左足!」
拍子丸がリズミカルに拍子木を鳴らすたびに、5人の足は、まるで一つの巨大な多脚魔獣であるかのように、完全に均一な歩幅、均一な速度、そして完璧な魔力の同調を保ちながら、グラウンドの芝生を驚異的なスピードで滑るように進み始めた。それは、個人の身体能力の限界を遥かに超えた、まさに「規律の美」そのものだった。
第四章:本番開始と「魔導B組の汚い罠」
そして迎えた、学園祭のメインイベント『クラス対抗・魔導5人6脚』の決勝戦。
グラウンドのスタートラインには、ひよりたちの一学年A組の他に、代々エリートの黒魔術師ばかりを集めたライバル、一学年B組の5人が並んでいた。B組のリーダーである傲慢な魔術師の少年は、ひよりたちの足元を見下しながら、冷酷な笑みを浮かべていた。
「フン、A組の落ちこぼれどもが、付け焼き刃の特訓で僕たちに勝てると思っているのか? このレース、勝つのは僕たち魔導エリートのB組だ!」
『位置について、よーい……。――スタート!!』
ドォォォン!!と、開始の魔導信号が鳴り響いた瞬間、ひよりたちの班は、拍子丸の脳内リズムに合わせて、凄まじいスタートダッシュを決めた。
「それ、右! 左! 右! 左!」
5人の足並みは完璧な一糸乱れぬ美しさで動き、最初の障害物である「火炎のエリア」を、ルファスの前方展開防御魔法で一瞬にして掻き消しながら、猛烈な速度でコースを駆け抜けていく。
「な……何というスピードだ! 5人6脚でありながら、まるで一人の韋駄天が走っているかのように滑らかだ!」
実況の教授がマイクに向かって絶叫する。
しかし、中間の五十メートル地点、最大の難所である「重力のぬかるみエリア」に差し掛かったその時だった。
先行するひよりたちの足元に向けて、隣のレーンを走るB組のリーダーが、詠唱なしで極悪な暗黒魔法を地面へと叩き込んだのだ。
「死ね、A組! 【奈落の底なし沼】!!」
ズズズズズズ……ッ!!!
なんと、競技用の安全な重力魔法を遥かに超越した、触れるものの魔力と肉体を引き裂き、底なしの暗黒へと引きずり込む、本物の禁忌の呪い沼が、ひよりたちの走るレーンの目の前に突如として出現したのだ。
お祭り(学園祭)のルールを完全に無視した、あまりにも卑劣な「クラスの勝利への執念」の暴走だった。
「大変です! B組が暴走し、競技用の結界を書き換えて本物の呪い沼を設置しました! このままではA組の5人が沼に飲み込まれ、大怪我を……いや、時空の狭間に吸い込まれてしまいます!」
本部席のセリアが立ち上がり、顔を真っ青にして叫ぶ。しかし、ひよりたちの突進速度はあまりにも速く、今から急ブレーキをかければ、5人の足が紐で結ばれているため、お互いの肉体をへし折りながら沼へと真っ逆さまに突っ込んでしまうことは確実だった。
「おのれ……。僕たちの、僕たちの神聖な『いちご大福』へのランウェイ(プロット)を、そんな汚い泥水で汚されてたまるかぁぁぁーーーッ!!」
ひよりの怒りが、グラウンドの芝生を一瞬で焦がすほどの密度で爆発した。
「ひより、その通りだ。あのような不浄な泥沼、一滴の飛沫すらも靴に触れさせることなく、完璧に、かつ優雅に『飛び越える(あるいは渡る)』プロットだな。……ならば、我が神社の東の庭の物置の奥――千年の間、雨上がりの大きな水たまりや、ドロドロになった境内の参道を、参拝客や巫女たちの白い足袋を汚すことなく、完璧に、かつ安全に『橋渡し』し続けてきた、あの質素な木製の道具を呼び出すのだ!」
「東の庭の物置の奥の、泥道を渡る道具……あ! おじいちゃんが雨の日の後に、境内のぬかるみの上に『これでお足元も安心じゃよ』って言いながら、ぽんぽんって並べてた、あの厚くて頑丈な……!」
「そうだ。あれは、ただの古びた板ではない。人間の行く手を阻むあらゆる『ぬかるみ(障害)』を無効化し、その上に絶対的な安全の足場を確立する、至高の架橋兵器だ。……ひより、彼女を呼び出して、お主らの前に完璧な『進撃の橋』を架けてやれ!」
第五章:奈落突破と「足場板の絶対架橋」
ひよりは全力疾走を続けながら、迫り来る暗黒の呪い沼に向けて、自身の巨大な魔力タンクから黄金の神聖な魔力を一気に解き放った。
「デッドストック!! 我が家の物置に眠る、汚い泥道を全部綺麗な廊下に変えちゃうお宝、出てきて私たちの行く道を完璧に繋いでぇぇぇーーーッ!!」
バシィィィン!!! と、
空間に頑丈な木材が組み合わさるような、あまりにも頼もしい音がグラウンドに響き渡り、格子模様の四角い魔法陣が出現した。
光の中から出現したのは――
………厚みが十センチ以上、長さが数十メートルはある、建築現場や神社の修繕で使われる、非常に頑丈な杉の『足場板』、そしてそれを支える頑丈な『丸太の台座』の一組だった。
「はいは~い、お足元が大変なことになっていますねぇ。ワシの杉の身体の前には、どんな底なし沼も、ただの『乾いた畳の廊下』も同然ですよぅ」
足場板の木目の隙間から立ち上る、清々しい杉の香りの煙の中から現れたのは、頭に手ぬぐいを姉さん被りにし、汚れてもいい丈夫な前掛けを締めた、いかにも力強くて頼りになる、大工の棟梁のような大人の女性の付喪神――名を『板代』という。
千年の間、神社の本殿の建築や、大雨のあとのぬかるんだ参道に敷かれ、何万人もの参拝客の足元を支え続け、「我が敷かれた場所の上は、すなわち絶対不変の『安全な大地』である」という、強烈な『足場確保』の執念から生まれた、足場板の付喪神だ。
「板代さん! あの黒い沼を飛び越えなきゃいけないの! 私たちの足元に、絶対に落ちない橋を架けて!」
「お安い御用ですよ、ひよりの嬢ちゃん。……さぁ、ワシの背中の上を、一糸乱れぬ足並みで、堂々と駆け抜けなさい!――【神域架橋・金剛足場】!」
板代が、自らの本体である巨大な足場板を、ひよりたちの足元から暗黒の呪い沼の上に向けて、ズドォォォン!!と、地響きを立てて水平に放り投げた。
その瞬間、不気味に渦巻いていた奈落の底なし沼の真上に、幅数メートル、長さ数十メートルの、一切の振動も受け付けない完璧な『黄金の杉の木橋』が完成した。
「よし、若造ども、ビビるんじゃねえ! 板代の姐さんが架けてくれた最高の足場だ! ワシの音に合わせて、一気に駆け抜けな! それ、右! 左! 右! 左!」
拍子丸の拍子木が、さらに一段と激しく、高く、カァァァン!!!と鳴り響く。
ひより、ルファス、ミーナたち5人は、恐怖を完全に忘れてその杉の足場板の上へと飛び乗った。
ズドォォォォォォッ!!!!!
普通なら、禁忌の呪い沼の魔力によって足場ごと底なしの闇へと沈むはずだった。
しかし、板代の絶対的な「足場確定の結界」に触れた瞬間、沼の暗黒の呪いは一滴の飛沫すらも立ち上げることができず、ただの『絵の具の汚れ』のように完全に押し潰され、無効化されてしまった。
ひよりたち5人は、完璧な一糸乱れぬ5人6脚のステップで、その足場板の上を、まるで滑走路を飛び立つ戦闘機のような凄まじい加速で駆け抜けていったのである。
「な……何だってぇぇぇーーーッ!?!? 禁忌の暗黒呪い沼の真上に、ただの『大工の足場板』が敷かれ、その上をA組が時速一〇〇キロメートル近い速度で激走していくぞぉぉぉーーーッ!」
実況の教授が興奮のあまりマイクを叩き壊している。
「へへん、ワシの背中の上は、世界で一番歩きやすいんだからね!」
板代が豪快に笑う。ひよりたち5人は、呪い沼を完全に空中(橋の上)で踏み越えると、そのままの勢いでゴールラインへと飛び込んだ。
びりりりりりーーーッ!!!
A組の5人の胸が、B組を遥か数十メートル引き離し、圧倒的な『学園祭新記録』の電光掲示板と共に、ゴールのテープを美しく引き裂いた。
その瞬間、B組の卑劣な罠は完全に暴かれ、彼らはその場で失格処分(および停学処分)となり、一学年A組の、歴史的な大勝利(総合優勝)が確定したのである。
終章:幻のいちご大福と、呉の秋を想う
秋季ルミナス学園祭の最大の危機を、「拍子木」と「足場板」という、異世界のどんな魔導書の系譜にも存在しない不条理な日常道具コンボで完全勝利したひよりたちの班。
グラウンドには、勝利を祝うA組の生徒たちの歓声が響き渡り、ひより、ルファス、ミーナの3人は、お互いの足を縛っていた魔法の紐を解きながら、芝生の上に気持ちよくひっくり返っていた。
その日の夕方。学園祭の賑やかな後片付けが始まった、いつものルミナス魔法学院の図書室。
ひよりは文机の上で、ついに勝ち取った副賞――大皿に盛られた、まばゆい光を放つ『幻のいちご大福』を前にしていた。
「おいしーーーい!!! 何これ、いちごが口の中でシュワって融けて、白あんの甘さが上品で、呉の和菓子屋さんで食べる高級な大福より美味しいよ!」
ひよりは大福を頬張り、頬をこれでもかと膨らませながら、最高の笑顔を浮かべていた。
「ふ、ふん、当然さ。僕たちの完璧なチームワーク(?)と、僕の華麗なステップが勝ち取った栄光の味だからね。……まぁ、その、天照さん。今回の学園祭では、君のその……『よく分からない大工道具の力』に、もう一度だけ感謝してあげてもいいよ」
ルファスはすっかり尖っていた角が取れ、自らの分の大福を大事そうに味わっている。
「ひよりさん、私……走っているとき、みんなの心が一つになって、とっても、とっても温かかったです! 大福、最高に美味しいですぅ!」
ミーナも、すっかりひよりの親友となり、尻尾をプロペラのように激しく振りながら、大福の粉を鼻につけて笑っていた。
「ふむ。バラバラだった者たちが一つの音律で繋がり、最高の栄光(美味)を掴み取る。これ以上ない見事な学園祭のプロットだな、ひより」
私は文机に向かい、この『第八幕・学園祭5人6脚編』の最後の一ページに、満足のいく文字を刻み終え、万年筆を静かに置いた。
「硯水さん、今回の本のタイトルは?」
ひよりが図書室の窓から差し込む、夕暮れのオレンジ色の光を見つめながら覗き込んでくる。私は微笑み、表紙に力強い文字でこう書き込んだ。
『名もなき神社のデッドストック・第八幕~十一月の学園祭クラス対抗戦を、拍子木の絶対音律と足場板の架橋パワーで走り抜けて優勝してみた~』
「ふふ、完璧な大団円だ。さあ、ひより。学園祭は終わったが、明日からはまたルミナス魔法学院での、新しい楽しい日常の始まりだ」
「うん! よーし、明日からはまた、みんなで美味しいものを探すお散歩に出発だぁ!」
窓の外から、心地よい十一月の秋風が吹き込み、ひよりの黒い髪を優しく揺らす。
「パパ, ママ。私ね、こっちの世界の運動会で、男の子や獣人の女の子と足を結んで、ものすごい泥沼を大工さんの板で飛び越えて、世界一美味しいいちご大福を食べたよ。だから……いつか呉の家族みんなで秋のお祭りに行く時は、私の大好きな三色のいがもちとラムネ、絶対にパパの奢りで、お腹いっぱい食べさせてね!」
少女のどこまでも明るい笑い声と、千年の時を超えてリュックの中で賑やかに笑う付喪神たちの声は、学園祭の余韻に包まれた学園都市の夕暮れの空へ、遠い、遠い故郷の空へと、どこまでも、どこまでも響き渡っていった。
みなさま、どんな風に感じてもらったのでしょうか?
少しでも面白いかもと思って頂けましたら幸いです。
励みになりますので、☆☆☆☆☆をチェックしてもらえると嬉しく存じます。
これからもお付き合いのほどよろしくお願いいたします。
今回は女子高生のお話です。
よろしくお願いします。




