閑話1 おみくじと針と三角お結びと団扇
閑話1 おみくじと針と三角お結びと団扇
世界の時間と空間を揺るがす「混沌の時空魔神」を、お神酒と神楽鈴のコンボで大満足させて天へ送り返してから数週間。
ルミナス魔法学院を包む空気は、これまでの命がけの戦場から一転して、別の意味で張り詰めた、しかし平和な熱気に支配されていた。
「……うう、死ぬ。魔神の自爆よりも、この『古代魔法歴史学・後期中間記述式形式』の方が、確実に私の精神の核を消滅させにきてるよ……」
学院のいつもの図書室。天照ひよりは山のように積まれた分厚い魔導書と、異世界の羊皮紙のノートの間に埋もれながら、魂が口から這い出そうな顔をして机に突っ伏していた。十六歳の女子高生(兼・見習い召喚士)に、ついに異世界の「期末試験」という名の冷酷な現実が襲いかかっていたのである。
「何を情けない声を上げているのだ、ひより。お主は世界を何度も救った、生ける生神なのだろう? 古代の魔法陣の基礎術式を三つ暗記するくらい、小説のプロットを三行考えるよりも簡単なはずだが」
私は人型の姿で、愛用の文机の前に腰掛け、優雅にインクを補充しながら応えた。私の名は『硯水』
。千年の歴史を持つあの超ど田舎の神社の蔵で、人間の様々な執念や物語を見つめ続けてきた文机の付喪神だ。
「全然違うよ、硯水さん! 世界を救うのは実家のみんな(付喪神)が不条理なチート能力でドカーンってやってくれるからで、私の脳みそは呉のド田舎にいた頃から、数学の赤点といつも背中合わせの一般女子高生スペックなんだから! あーあ、呉の港で潮風に吹かれながら、冷たいメロンパンでも食べて現実逃避したいなぁ。なんで異世界にまで来て『エルフの古代文法』なんて解かなきゃいけないの!?」
「それは、お主が来週からの『夏休み』を、最高の気分で迎えるためだろう?」
ひよりの影から、ひょっこりと顔を出したのは、おみくじ箱の付喪神である『吉凶』だった。六角形の木箱の体を揺らしながら、からからと小気味良い音を立てる。
「そうだよ、ひよりの姉ちゃん。セリアの姉ちゃんが言ってたろ? 期末試験で全科目の平均点を超えたら、夏休みの特別研修(という名のバカンス)で、大陸で一番美しいって言われる『エルフの隠れ里・世界樹の街』への旅行に連れていってくれるってさ!」
「そうなの! 世界樹の街! 美味しい特産品の果物とか、綺麗な泉とか、本物のエルフの美少女やイケメンがいっぱいいるっていう、あの憧れの観光地! ……そのためなら、私はこの試験という名の魔王を討伐してみせる!」
ひよりが「シャキーン!」と効果音が聞こえそうな勢いでペンを握り直した、その時だった。
図書室の扉が、静かに、しかしどこか緊張感を持って開けられた。
「ひよりさん、勉強の進み具合はいかがですか?」
入ってきたのは、生徒会長でありエルフの王女でもあるセリアだった。手には、試験の最終チェック用と思われる、恐ろしく分厚い特製の問題集が握られている。
「セリア様! 一応、暗記科目は硯水さんたちに手伝ってもらって、なんとか形にはなってきたんですけど……どうしても最後の『実技:魔力精密コントロール試験』の感覚が掴めなくて」
「なるほど、実技ですね。ひよりさんは『デッドストック』で規格外の付喪神様を呼び出すパワーは凄まじいのですが、現代魔法が求める『魔力を絹の糸のように細く、均一に出力する』という繊細な作業が、少し苦手なようです」
セリアが問題集を机に置き、心配そうにひよりのノートを覗き込む。
「このままだと、筆記が満点でも実技で赤点になってしまい、世界樹の街への旅行(研修)の許可が、学院長から下りなくなってしまいます……」
「そんなの嫌だーーーッ! エルフの街で美味しいエルフパフェを食べるって、私の魂に深く刻み込んだのに!」
「ふむ。魔力の精密コントロール、かつ『均一な細さの維持』か」
私は万年筆の先を顎に当て、少しだけ思考を巡らせた。
「我が神社のデッドストックの中には、戦闘には全く向かないが、人間の『手先の器用さ』と『細部への凄まじい執念』だけで千年間使われ続けてきた、西の第十四蔵の引き出しの奥に眠る『あの非常に繊細な道具』がいるな。ひより、彼女を呼び出して、お主の魔力の通り道を『矯正』してもらうといい」
「西の第十四蔵の繊細な道具……? あ、まさか、おばあちゃんが毎日、虫眼鏡を見ながら使ってた、あの……!」
「そうだ。あれは、一本の細い糸に人間の魂を込めて、美しい世界を織り上げてきた至高の芸術道具だ」
## 第二章:期末試験と「裁縫針の針仕事」
ひよりはノートを横に退けると、図書室の床に向かって、非常に集中した魔力を細く流し込んだ。
「デッドストック、起動! 我が故郷の蔵の奥、千年の間、一本の糸を真っ直ぐに通し続けてきた、一番小さな職人さん、おいで!」
チカァン……と、これまでにないほど小さな、しかし純度の高い銀色の魔法陣が床に描かれた。
光の中から出現したのは――長さわずか数センチの、ピカピカに磨かれた一本の『裁縫針』だった。その小さな針穴からは、虹色に輝く不思議な糸が長く伸びている。
「……あら、随分とモダンな建物ですねぇ。お呼びですか、新しいお嬢様」
針の先端から立ち上る銀色の煙が、眼鏡をかけ、綺麗な着物を着た、いかにも物静かで几帳面そうな大人の女性の姿を形作った。彼女の名は『お針』。
千年の間、歴代の神主の妻や娘たちに愛用され、破れた着物を修復し、美しい刺繍を施し続けてきた、裁縫針の付喪神だ。
「お針さん! 私ね、この魔力を『細くて均一な糸』のようにコントロールする試験に合格しなきゃいけないの! 力を貸してください!」
「なるほど、糸のコントロールですか。それは我が『針仕事』の最も得意とするところ。お嬢様、魔力というのは、力任せに押し出すものではありません。布の目を一つ一つ通すように、優しく、 息を整えて、背筋を伸ばすのです。――【百花繚乱・魔力刺繍】」
お針がひよりの背後に立ち、その細い指先をひよりの手首へとそっと添えた。
その瞬間、ひよりの体から溢れ出ようとしていた荒削りな魔力が、お針の身体を通じて、驚くほど細く、滑らかな「光の糸」へと変換された。
「……えっ!? 私の魔力が、勝手に真っ直ぐな糸になって、空間を縫っていく!?」
ひよりが目を見開く。
お針の誘導に従ってひよりが指先を動かすと、空間に広がった魔力の糸が、まるで見えないキャンバスに刺繍を描くように、複雑で美しい幾何学模様(魔法陣の基礎)を、一ミリの狂いもなく正確に構築していったのである。
「す、素晴らしい……! これほど完璧な魔力の均一性と、精密な構築は、学院のベテランの教授でも不可能です!」
セリアが手を叩いて感動の声を上げる。
「ホッホッホ、これくらい、千年の着物の綻び(ほころび)を直してきたワシらにとっては、お茶の子さいさいじゃよ。ひよりの嬢ちゃん、この感覚を脳の奥にしっかりと『縫い付け』なさい」
お針の丁寧な指導を受け、ひよりは数時間のうちに、魔力の精密出力を完全にマスターしてしまった。
そして迎えた期末試験当日。
筆記試験は硯水(私)の徹夜の詰め込み勉強のおかげで余裕の合格点。そして、問題の実技試験において、ひよりが指先から放った完璧な「魔力糸の構築」を見た試験官の教授たちは、全員が「こ、これは……美の極致だ……!」と涙を流して絶賛し、ひよりに文句なしの『特A判定』を叩き出したのである。
こうして、天照ひよりは無事にすべての赤点を回避し、念願の夏休み旅行・世界樹の街への切符を手に入れた。
## 第三章:世界樹の街と「旅の道連れ(おにぎり)」
試験が終わった翌々日。ルミナスの街から特別の魔導馬車に揺られること数日、ひより、セリア、そしてリュックに収まった私の一行は、ついに目的地である『エルフの隠れ里・世界樹の街』へと到着した。
「うわぁぁぁぁ……すごい! 本当に、大きな木の中に街がある!」
馬車を降りたひよりは、目の前に広がる光景に大興奮していた。
そこは、天空を隠すほどに巨大な巨木『世界樹』の幹や枝をくり抜いて作られた、自然と魔法が完璧に調和した幻想的な都市だった。通路は美しい緑の葉で覆われ、あちこちに透き通った湧き水の滝が流れ落ちている。行き交う人々は、誰もが耳の長い、息をのむほどに美しいエルフやハーフエルフたちばかりだ。
「ようこそ、我が故郷へ、ひよりさん。試験の頑張りへのご褒美です。今日は、この街で一番人気のカフェで、世界樹の果実をふんだんに使った特製スイーツを御馳走しますね」
セリアも、故郷に戻ってきた安心感からか、いつになく嬉しそうな笑顔を見せている。
しかし、世界樹の街の美しさに感動しているひよりの前に、突如として「ギルルルル……!」と不気味な鳴き声が響き渡った。
見上げれば、世界樹の遥か上空、普段は亜人が立ち入らない『魔の枝』と呼ばれる危険エリアから、体長五メートルを超える怪鳥『ストーム・グリフォン』の群れが、街の観光エリアに向かって急降下してきているではないか。
「大変です! 世界樹の結界が、地脈の乱れで一瞬だけ薄くなった隙を突いて、上層の魔物が降りてきてしまいました!」
周囲のエルフの観光客たちが悲鳴を上げて逃げ惑う。セリアがすぐに杖を構え、迎撃の魔法を唱えようとした。
「ダメだよ、セリア様! こんな綺麗な街の中で派手な爆発魔法を使ったら、世界樹の枝やお店が壊れちゃう!」
「で、ですが、あのグリフォンたちの鋭い爪を止めなければ、街の人たちが……!」
「ひより、落ち着け」
私はリュックの隙間から声をかけた。
「街を傷つけず、かつあの獰猛な怪鳥たちの『戦意と食欲』を同時に満たして、大人しくお家に帰すプロットだな。ならば、我が神社の台所の奥、お祭りの度に何千人もの氏子たちの小腹を満たし、その温かい満足感で誰もを笑顔にしてきた『あの超実用的な道具』の出番だ」
「台所の奥の、みんなの小腹を満たす道具……あ! お祭りでお母さんたちが、大きな割烹着を着て、一斉にガチャンガチャンってやってた、あの……!」
「そうだ。あれは、ただの白米を、一瞬にして最高の『旅の道連れ』へと変える、最強の配給兵器だ」
ひよりは世界樹の通路に立ち、グリフォンの群れを見上げて、デッドストックの魔法陣を展開した。
「デッドストック! 我が家の台所に眠る、みんなのお腹をいっぱいにさせるお宝、出てきて!」
ガチャコン! と、小気味良い金属音が響き、現れたのは――三角形の形をした、古びたアルミ製の『おにぎり型(お握り型)』の道具だった。一度に何十個ものおにぎりを綺麗に成形できる、業務用に近い頑丈な道具だ。
「よっしゃあ! お腹を空かせた迷子たちの時間だな! ワシの作った飯を食って、みんな仲良くお昼寝しやがれ!」
おにぎり型の中から現れたのは、頭に真っ白な三角巾を巻き、元気いっぱいに腕まくりをした、活発な少年の姿をした
付喪神――名を『結び丸』という。
千年の間、神社の秋祭りや炊き出しで、何万個ものおにぎり(御結び)を握り続け、その「お腹がいっぱいになれば、すべての争いは消える」という温かい執念から生まれた付喪神だ。
「結び丸くん! あの大きな鳥たちが、お腹を空かせて暴れてるの! 特大のご飯を、あの鳥たちの口に放り込んで!」
「おうよ、任せとき! 世界樹の綺麗な水と、ワシの持ってきてやがった『日本の極上米』のコラボレーションを見せてやるぜ! ――【神徳満腹・大おにぎり爆弾】!」
結び丸が巨大なおにぎり型をガチャコン!と動かすと、世界樹の湧き水を吸い上げた空間から、なんと直径一メートルはあろうかという、ホカホカの湯気を立てる『超巨大おにぎり(特製鮭入り)』が、十数個も同時に大砲のように射出された。
シュゴォォォーーン!!!
飛んでいった大おにぎりは、襲いかかろうとしていたストーム・グリフォンたちの大きなクチバシの中に、ピンポイントでスッポリと収まった。
「ギルッ!?……モグ……モグモグ……」
突如として口の中に放り込まれた、日本の最高級米の旨味と、絶妙な塩加減、そして神社の神聖な結界の温もり。それを味わった瞬間、獰猛なグリフォンたちの目が、一瞬にして「ふにゃぁ……」と蕩けた。
「モグモグ……美味い……美味すぎるぞ、この白い塊は……。人間を襲ってる場合じゃねえ……」
グリフォンたちは、口におにぎりを咥えたまま、完全に戦意を喪失して翼をパタパタとさせ、嬉しそうに世界樹の上層の巣へと、大満足で帰っていってしまったのである。後に残されたのは、お米の香ばしい匂いと、街を一切傷つけることなく解決された、信じられないほどの平和な静寂だけだった。
## 第四章:エルフの隠れ泉と「湯上がりの団扇」
「す、すごいです……。あの獰猛なストーム・グリフォンが、おにぎりを食べただけで、あんなに大人しく帰っていくなんて……」
セリアはもはや、驚くのすら忘れておにぎりの残りの香りを嗅いでいた。
「へへん、ワシの飯を食って怒り続ける奴なんて、この世にいやしねえよ!」
結び丸は満足そうに鼻を擦り、おにぎり型の姿に戻ってひよりのリュックへと収まった。
街の危機を(おにぎりで)未然に防いだひよりは、エルフの長老たちからも大変な感謝を受け、セリアの案内で、一般の観光客は絶対に立ち入ることができないという、世界樹の最深部にある『エルフの隠れ聖泉(秘湯)』へと招待されることになった。
「わぁぁぁ……! 綺麗な泉! これ、本当にお風呂として入っちゃっていいの!?」
そこは、世界樹の根元から湧き出る、エメラルドグリーンに輝く神秘的な天然の温泉(泉)だった。
周囲には美しい光の精霊が舞い、浸かるだけであらゆる疲労や魔力の乱れが完全に回復するという、大陸最高の秘湯だ。
「はい。ひよりさんには、これまでの数々の功績、そして今日の街の救出への感謝として、我が王家が誇るこの聖泉を貸し切りにさせていただきます。……さぁ、試験の疲れを、ここで綺麗に洗い流しましょう」
セリアが嬉しそうにローブを脱ぎ、ひよりと共に泉へと身体を沈める。
「ふはぁぁぁ~~~……。極楽、極楽。日本の温泉も最高だけど、世界樹の温泉は、なんか体がシュワシュワして、魔力がどんどん満たされていくのが分かるよ……」
ひよりは泉の縁に頭を乗せ、すっかり骨抜きになっていた。
しかし、エルフの聖泉というものは、その回復効果(魔力濃度)があまりにも高すぎるのが、一般の人間の肉体にとっては少々「効きすぎる」という難点があった。
「あ、あれ……? セリア様、なんか体が……ものすごく熱くなって、頭がのぼせて、クラクラしてきた……」
数十分後、ひよりは顔を真っ赤に染め、湯あたり(魔力酔い)を起こして泉の横の岩場に倒れ込んでしまった。
セリアもエルフの体質とはいえ、長風呂が祟ったのか、同じように顔を赤くして「あうぅ……、体が熱くて、指一本動かせません……」と、のぼせてしまっていた。
「やれやれ、異世界の秘湯の熱量(魔力)を、少々甘く見すぎたな」
私は岩陰で人間の姿になり、困ったように首を振った。
私の現実改変で『涼しくなった』と書こうにも、ここは世界樹の最深部であり、強力な地脈の力が働いているため、迂闊に文字を刻むと温泉の効能そのものを破壊してしまう恐れがある。
「ひより、お主のポケットの中に、我が神社の本殿の裏庭で、千年の間、夏の暑さに苦しむ参拝客や神主たちに『至高の涼』を送り続けてきた、あの竹製のお宝が眠っているはずだ。彼女を呼び出して、その熱を優しく冷ましてもらうといい」
「本殿の裏庭のお宝……あ! おじいちゃんがいつも、縁側でパタパタやってた、あの大きな……!」
「そうだ。あれは、ただの風を起こすのではない。人間の身体の余分な熱と、張り詰めた『のぼせ』を、優しく外へと追い出す、最高の癒やし道具だ」
ひよりは意識が朦朧とする中で、最後の魔力を指先に集め、デッドストックの術式を発動した。
「デッドストック……。我が家の縁側に眠る、優しい風のお宝……おいで、涼しくして……」
パタ、パタ……と、心地よい音が響き、現れたのは――和紙に美しい金魚の絵が描かれた、古びた竹製の『団扇』だった。
「はいは~い、お熱いお嬢様方、お困りですねぇ。ワシの風で、そののぼせを綺麗に吹き飛ばしてあげましょうねぇ」
団扇の柄から現れたのは、涼しげな浴衣を纏い、手に氷の入ったグラスを持った、いかにも涼しげで優しいお姉さんの姿をした付喪神――名を『団扇千代』という。千年の間、神社の縁側で人間たちの夏の汗を拭い、心地よい昼寝の風を送り続けてきた、団扇の付喪神だ。
「団扇千代さん……あつい……、頭がぐるぐるするの……」
「よしよし、可哀想に。エルフの聖泉の魔力に当てられてしまったのですね。……さぁ、ワシの風を浴びて、ゆっくりとお休みなさい。――【清風明月・極楽涼風】」
団扇千代が、自らの本体である団扇を優しく、パタ……パタ……と、ひよりとセリアに向けて仰ぎ(あおぎ)始めた。
その瞬間、団扇から放たれたのは、ただの冷たい風ではない。人間の体内の熱のバランスを完璧に整え、余分な「魔力酔い」だけを、まるで夕暮れ時の川辺の涼風のように、優しく外側へと引き出す、至高の癒やしの波動だった。
「あぁぁぁ……。涼しい……、頭のなかのモヤモヤが、一瞬で消えていく……」
ひよりの顔の赤みがスーッと引き、全身に心地よい充実感だけが残った。
セリアも「ふはぁっ、生き返りました……。なんて、なんて心地よい風なのでしょう……」と、すっきりと目を覚まし、立ち上がることができた。
「ふふ、ワシの風はな、ただ涼しいだけじゃなく、魂の熱狂を落ち着かせる力もあるんだよ。さぁ、お嬢様方、湯上がりにはこの『特製の冷たいお水』をどうぞ。
団扇千代が淹れてくれた冷たい湧き水を飲み、ひよりとセリアは、これまでにない最高の「夏休みのデトックス」を完了したのである。
## 終章:世界樹の特製スイーツと、呉の夏を想う
期末試験の危機をお針の技術で乗り越え、世界樹の街の危機を結び丸のおにぎりで解決し、最後は団扇千代の風で最高の癒やしを得たひより。
その日の夕方。平穏と活気を取り戻した世界樹の街の、一番景色の良いテラス席で、ひよりたちはついに念願の『世界樹特製・果実パフェ』を前にしていた。
「おいしーーーい! 何これ、エルフの果物、日本の高級メロンより甘くてジューシー! 中に入ってるクリームも、全然しつこくなくて、いくらでも食べられちゃう!」
ひよりはスプーンを握りしめ、目をキラキラと輝かせながらパフェを口に運んでいた。
「ふふ、喜んでいただけて何よりです。ひよりさんが街を救ってくださらなければ、このカフェもグリフォンに壊されていたかもしれませんからね。最高の夏休みの始まりです」
セリアも、自分のパフェを上品に味わいながら、幸せそうに微笑んでいる。
私は文机の前に座り、この『閑話:夏休み旅行記』の最後のページに、満足のいく文字を刻み終えたところだった。
「硯水さん、今回のタイトルは何にしたの?」
ひよりが口の周りにクリームをつけたまま覗き込んでくる。
私は苦笑しながら、表紙に美しい文字でこう書き込んだ。
『名もなき神社のデッドストック・閑話~期末試験の針仕事と、世界樹の街のおにぎりバカンス~』
「ふふ、戦いの合間の、実によい息抜きの章になった。さあ、ひより。パフェを食べ終えたら、明日はエルフの隠れ市場へ買い物にいこうか。お主の夏休みは、まだ始まったばかりなのだから」
「うん! よーし、明日はお針さんや団扇千代さんも一緒に、みんなでお買い物しようね!」
世界樹の巨大な葉の隙間から、美しい夕焼けの光がテラス席へと差し込み、ひよりの黒い髪を黄金色に染めていく。
「パパ、ママ。私ね、こっちの世界の学校の試験、ちゃんと赤点なしでクリアして、エルフのめちゃくちゃ綺麗な街でパフェ食べてるよ。だから……呉のれんが通りでやってるはずの、夏祭りの屋台の青空色のかき氷、また一緒食べようね!」
少女のどこまでも明るい笑い声と、千年の時を超えて集まった付喪神たちの賑やかな話し声は、世界樹の街を渡る爽やかな夏の風に乗って、どこまでも、どこまでも響き渡っていった。
みなさま、どんな風に感じてもらったのでしょうか?
少しでも面白いかもと思って頂けましたら幸いです。
励みになりますので、☆☆☆☆☆をチェックしてもらえると嬉しく存じます。
これからもお付き合いのほどよろしくお願いいたします。
今回は女子高生のお話です。
よろしくお願いします。




