18.俺が……
王城を後にする際、アイザックは大司教に告げられた。
「神は聖女様を誕生させました。そしてフランシス殿下をお試しになったのでしょう。その結果、二年の時を経て、証明させたのです。国のために必要な君主はブラニング公爵閣下であると」
「あなたも覚悟しろと?」
「あなたは選ばれた。そしてその運命を背負っている、と後押ししようかと……」
「……」
「迷うことはないのです。あなたの愛は本物でしょう。全ては証明されています」
アイザックは腰に手をあてると、大きくため息をつく。
「……全てお見通しというわけですね?」
「全ては伝承通りと言うことです」
アイザックは頬をポリポリと掻いた。
「肝に銘じます……」
大司教に別れを告げ、アルマの待つ馬車に乗り込む。
「お話は終わりましたか?」
「ああ」
「どんなお話だったのですか?」
「……運命を、背負っているとな」
「運命、ですか……」
「ああ……だから、君も覚悟をしておいてくれ」
アイザックはいつも以上に優しく、アルマの頭を撫でた。
◇◇◇
遡ること半年前。
国難の改善のために重要であろう伝承について調査しようと、アイザックは神殿を訪れた。
伝承通りならば、聖女が誕生した今、国は安寧だったはずだからだ。
(聖女は今なにをしている?)
「……その伝承と記録とやらを見せてもらってもいいか?」
アイザックはその記録を読み込む。
(神殿の伝承は王家のものと違う……?)
そこに書かれていたのは、
――聖女は、王の血を継ぐ者の愛を受け、その加護を国へ巡らせる
(愛を受け、その加護を巡らせるだと……?)
今、王を継ぐ者と聖女は婚姻を結んでいる。
王位継承権第一位の王太子フランシスだ。当然王の血を継いでいる。
(王家の伝承と合わせるならば、加護の発現のためには、婚姻を結んだフランシスの愛を受けていることが条件になると?)
「なんだ……原因は、あいつか……」
(フランシスは今何をしている? いや、この2年間何をしていた?)
政は国王が動かしている。
軍は自分が動かしている。
では王太子は何をしている?
聖女と結婚することが役割ではなかったか。
国の安寧のための伝承通りの結婚ではなかったか?
アイザックは、疑問と共に王城へ向かった。
国王に会うとすぐにアイザックは問いただした。
「陛下、この国難をどうするつもりだ?聖女が現れたというのにこの有様はなんだ?」
「そうはいっても、聖女の加護が発現せんのだ。発現する素振りもない」
「当たり前だろう。王を継ぐ者と聖女が結ばれることで加護は発現するのだぞ?王太子殿下はこの2年何をした?国王となる者としての活動を何かしていたか?」
「むむ……あいつは……」
「それに……愛が必要だぞ?」
アイザックと国王が視線を交えた次の瞬間だった。
「失礼します」
その声に、アイザックは振り向いた。
そこにいたのは、愛らしい容姿の女性だった。
(聖女……殿?)
アイザックは思わず見惚れた。
しかし、その顔には何の感情も浮かんでいない。
(愛は、どうした……?こんな顔をさせて……あいつは、いったい、何をしている?)
アイザックの胸中は穏やかではなかったが、何でもないかのように挨拶をした。
「これは、聖女殿。お目にかかれて光栄です」
そして、国王と聖女の話や様子、さらにはフランシスの呆れた発言により、伝承は守られていなかったことを知った。
(これじゃ、国難にもなる。さらには、聖女の加護が発現するわけもないのだから、改善されるわけもない)
聖女の顔を見る。
(彼女だって、望んでここにいるわけではないだろうに……)
王太子に嫁がせられた結果、愛されることなく存在しているだけ。
その心の内は、彼女の表情が物語っていた。
(どうにかしてやらんと……)
国のためにここにやってきた。
国難が改善されないことにしびれを切らし乗り込んだはずだが、今は違うことを考えている。
(条件は、俺も同じか……)
――王を継ぐ者
――王の血を継ぐ者
(現国王の実弟、つまり先代国王の血を継ぐ。そして、現在、継承の権利は持っているものな……)
「ならば、俺がもらい受けよう。俺でも良いだろう?」
運命は動き出す。
「閣下は私を、愛してくださいますか?」
「もちろん」
ふと、アルマが微笑んだ。
ほんの一瞬だったが、その笑顔をアイザックは見逃さなかった。
(なんだ、笑えるじゃないか……)
──ああ。
俺が満たしてやろう。
俺が君を守ってあげよう。
俺が……。
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