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聖女の加護は、恋心を隠せない。~王弟殿下の愛は、国中にだだ洩れです~  作者: 茉莉花


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19.愛されたい

王城からの帰り道以降、アルマの心には靄がかかるようになっていた。



(旦那様が、王の資質をお持ちであることはすぐにわかったわ……)


常に民を思い、国のために、自分を差し置いても行動できる人。

だからこそ、聖女を愛そうとしてくれた。


(やはり、はじめから伝承を正しく理解されていたのね……)


国難を解消するために。

聖女の加護の発現のために。


そのために必要な『王の血を継ぐ者の愛』を与えようと努めてくれた。



――君も覚悟をしておいてくれ。



国を治める、そしてそれを支える聖女としての覚悟をしろということだろうか。



(聖女の加護が発現したのだから、旦那様の愛はきっと本物なの。でもそれは、聖女への愛。聖女を慈しんでくれているだけだわ)



ずっとアルマは満たされていた。

アイザックが与えてくれる安心感と、その温もりに、ずっと満たされていた。


でも、ふと気がついてしまった。

彼にとってそれは、責任からなのではないかと。







寝支度を整えたアルマは、窓の外を眺めていた。



「あっ……」



所々雲があり、月が隠れていた。


ここ最近、雲など浮かんでいなかったのに。

月が夜を照らしていたのに。



今日もいつものように頭をなでられた。

でも、心が満たされるのではなく、切なさを感じてしまった。



──これも務めなのでは。



その疑問が心に靄をかける。



(まさか、私の心が反映されているの?)



だが、必ずしも天気に反映しているとは言い難い。

良い天気というのは、その時々で条件が変わるからだ。





「アルマ?どうした?」


寝室に入ってきたアイザックに呼ばれる。


「何でもありません」


そう答えると、アルマはベッドに上がった。


「今日は疲れただろう?ゆっくり休むといい」


二人横になると、アイザックはいつものように頭を撫でた。




――ズキン




アルマは胸の痛みを感じた。

心に靄がかかる。



(なんで、これ以上近づいてくれないのでしょう……)



兄でさえ額や頬に口づけてくるのだ。

夫からされたことがないということを、今更ながら気づいてしまう。



「ん?どうした?」


「いえ、なんでもありません。おやすみなさい」



アルマは背を向けて眠りにつく。





気づいてしまった。




(旦那様に、愛されたいって思ってしまった……)




アルマは気づいてしまったのだ。

自分の欲深い感情に。



両手で顔を覆う。



アイザックは出会ったときからずっと変わらない。

大切にしてくれている。

それはわかっている。


でも、女性として愛されたい。

聖女として大切にされるのではなく、女性として。




急に悲しさが襲ってきた。




とたんに部屋が暗くなる。





ゴロゴロゴロ





遠くから雷鳴が聞こえた。



「……え?」



「……っ!アルマ!?」



二人は起き上がった。


そして、アイザックはアルマの肩を掴むと振り向かせた。




「どうしたというんだ……アルマ……」




アルマの瞳からは、涙がぽろぽろと溢れていた。


次の瞬間には、外は雷雨となっていた。





(私の心は……隠せない……)





アルマは俯き、つぶやいた。



「ごめんなさい……私、欲深くて……」



「何のことだ……?」





「……どうして、口づけてくださらないんですか?」





アイザックは目を見開いた。




「聖女として愛されてきたのは知ってます。わかってます。旦那様の愛は国を救うための責務だからって……。私……聖女としてじゃなくて、妻として愛されたい……」



「何を言って……。ずっと、伝わっていると思っていた。俺の愛はずっと……」



「でも、それは責任で……」



「そんなわけないだろう!」



「え……?」



「口づけなんかしたら、我慢できるわけないじゃないか」



「……」




「ずっと、君が欲しかったのに……」




「……!」





「加護が発現するたびに、喜ばしいことなのに恥ずかしくてたまらなかった。──俺の愛が、伝わってしまったと思って……」



アルマは目を見開いた。



「君も、わかっているものだと思っていた」



「そ、そんなの……私こそ、それどころじゃないんですもの……」



アルマは真っ赤な顔で俯く。




「だって……私が、旦那様の愛に満たされたことが、みんなに知られてしまうと思って……」




「……」




「……」




「ああ……まあ、うん」




アイザックは片手で口元を覆う。




「だからこそ……君が満たされたことがわかるたびに、俺の愛も伝わったのだと思っていたのだよ……」




アルマはアイザックの手を掴むと、顔から剥がした。



「旦那様……お顔が真っ赤です……」



「今は暗がりでわからんだろう」



「……それでもです」



「君はいつも可愛いことをする……」





アイザックはアルマの手を握り返すと、軽く引き寄せた。


そして、アルマの額に口づけを落とした。



「!」



アルマは驚きから目を見開いた。



「ふっ」



アイザックは思わず笑った。





「こういうときは、目を閉じるものだ」





手を離すとゆっくりとアルマの顔を包む。


そして、大切に壊さぬようにとその唇に口づけた。




「……もう、いいか?アルマ……」





外はいつの間にか雨が上がり、月明かりが二人を照らしていた。











アルマは朝日の眩しさに目を開ける。



「……」


「おはよう、アルマ」



アイザックはアルマの頬に口づけた。




――キュン




「おはようございます……旦那様……」


アルマは胸元を押さえた。

目の前の、美しい顔をした夫を前に、胸が高鳴った。



「あ、あの……」



「満たされたか?」



「……っ!」



「君も覚悟しておけと言ったろう?」



「え?」






「俺に、本気で愛される覚悟だ」






「ほえっ!?」


(そ!そういうことだったの!?)




すると、アイザックが何かに気づいた。


「……あ」


そして片手で口元を覆った。




「……?どうされたのですか?」




アルマが振り返り窓の外を見ると、そこには”虹”が広がっていた。




(こ、こんなの……愛の公開処刑よ!!)




アルマは両手で顔を覆った。









朝食を終えた二人は、神殿を訪れた。

泉の様子を見るためだ。



神官はニコニコと出迎えてくれた。




「……」




「……」




その様子に、二人は顔を見合わせる。




「あー、……泉に変化はあったか?」


アイザックが質問すると、待ってましたとばかりに神官が答えた。




「ええ、ありました! それもすごいのですよ。今朝から泉が光を放っているのです!」




アイザックは片手で顔を覆い、天を仰いだ。


アルマは真っ赤な顔を両手で隠し、俯き、小刻みに震えていた。








神殿に収められているこの国に関する伝承の本には、伝承についての解釈が書き加えられていた。




王となるべき者の愛により聖女が満たされたとき、加護は国全体へ巡る。


国を愛し、人を愛し、その責任を背負える者こそが王である。


聖女を妻に迎え、その血を未来へ繋ぐことで、王の血を継ぐ者にまた、その祝福が受け継がれる。








最後までお読みいただき、ありがとうございました。


アルマとアイザックの物語、楽しんでいただけましたでしょうか。


ブックマークや評価で応援していただけると、とても励みになります。





◇◇◇


また、現在、商業作品も各電子書店にて配信中です。


『婚約破棄され傷物になった不遇な令嬢は、隣国の王子の静かな愛で満たされる』(LYR文庫)

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Web版とは異なり、電子書籍版では新たなエピソードや登場人物も追加されています。


こちらも、出会いから二人が心を通わせ、結ばれていくまでを描いた、穏やかで愛に満ちたお話です。


この作品を気に入ってくださった方には、きっと楽しんでいただけると思いますので、よろしければこちらもぜひお手に取っていただけましたら嬉しいです。


改めまして、最後までお付き合いいただき、本当にありがとうございました。



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― 新着の感想 ―
読んでいるこちらが恥ずかしくなるような、微笑ましい良いお話でした。
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