17.王に相応しい者とその愛
アイザックとアルマは、国王からの招集により登城した。
馬車から降りると丁重にもてなされた。
アイザックはアルマにピタリと寄り添う。
「ここへ来るのは君を連れ出した時以来だろう?不快なことはないか?」
「はい。旦那様がいますから」
アイザックは目を細めると、アルマの腰に回していた手をぐっと引き寄せた。
アルマはその力強い温もりに、心が満たされた。
案内された部屋に入ると、二人はその光景に驚いた。
そこには、国王と王妃、王太子フランシスと王太子妃ハリエット、そして重鎮らに加え、神官だけでなく大司教までいた。
「皆さんおそろいで……待たせてしまいましたか?」
アイザックは慎重に告げた。
「いや、気にするでない。忙しいところ呼び出して悪かった」
二人が着席すると、国王はこの集まりの趣旨について話し始めた。
「聖女殿の加護の発現が確認されて以降、国難は改善に向かった。この2年の苦難を乗り越えた民たちを労ると共に、尽力した国軍およびそれを率いたブラニング将軍に敬意を表す」
一同は拍手を以て賛同した。
「そこで、この国の伝承について改めて考えることにする。実際に聖女殿の誕生から加護の力によって国が安寧へと向かった。この伝承はやはり引き継いでいくべきだと考える」
国王の言葉に一同固唾を呑んで待つ。
「結論から言おう」
国王は正面を見据えた。
「本日を以て、フランシスを廃太子し、王位継承権を剥奪する。そして、王位継承第一位を王弟であるアイザック・ブラニング公爵とする」
一同は息をするのも忘れ固まった。
真っ先に動き出したのは他でもない、フランシスだった。
「な、なにをおっしゃっているのですか!なぜ私を王位継承からお外しに!?」
フランシスは顔を真っ赤にして反論した。
「なぜ?今言っただろう?伝承は引き継ぐべきと」
「で、伝承?王を継ぐ者と聖女が結婚するというものですか?ですが、それは、王の血を継ぐ者という意味だったのですよね?だから叔父上が聖女を引き取ったのでしょう?」
(引き取った?)
フランシスの言い分に、アイザックの頬が引きつる。
国王もわずかに顔をゆがませた。
「私も伝承が正しく伝わっていないのかと思った。だが、これは正しいのだよ。なあ、大司教?」
「はい。王家での伝承。それは『王を継ぐ者と聖女が結ばれることで加護は発現する』というものです。聖女様の加護を発現させるためには、聖女様が王を継ぐ資格のある者と結ばれるということが条件となりますから」
「王を継ぐ資格のある者?」
理解していない様子のフランシスのために、国王は言い換えた。
「ああ、単純に王位継承権があるかないかではない。王の資質があるかないかだ」
「……え?」
「ここを私も勘違いしていたからな、国民には苦労を強いてしまった。本来ならば、聖女殿が誕生した際に、正しい相手を宛がったならこんなことにはならなかった。だが私は心のどこかで、自分の息子であるお前に期待したのだ」
国王はひとつ息を吐くと、寂しげな顔を見せた。
「ところが、お前の頭には王太子としての義務感も責任感もなかった。それを見極めるのにここまで時間をかけてしまった。むしろ、気づかせてくれたのは他でもない、ブラニング公爵だ。彼が申し立てに来なければ、今でも国難は続いていただろう。聖女殿の加護も発現することはなかった」
その言葉に、アイザックはフランシスに視線を向ける。
フランシスは顔を青ざめさせていた。
「それは、私との婚姻中に聖女が力を発現しなかったからですか⁉力を発現していれば私が次期王だったということですか⁉」
国王は冷ややかな視線を向ける。
そして大司教へと視線をうつした。
「それはありませんな、フランシス殿下。ただ婚姻を結べば良いとお考えのあなたに、女神が力をお伝えになるはずがありません。女神は、王の血を継ぐ者に祝福を与えた。その祝福とは、聖女の加護を発現させるという力です」
「え?」
「あなたは一人の女性だけを愛しておられた。ですが王とは、一人を愛するだけでは足りません。民を愛し、国を愛し、その責任を背負う覚悟を持つ者でなければならない。女神がお与えになる祝福は、その覚悟を持つ者にのみ宿るのです。そして、その者が聖女と結ばれたとき、初めて加護は国へ巡ります」
「……そういうことだ」
国王は立ち上がっていたフランシスを一言で制した。
フランシスはゆっくりと腰をおろした。
「さて、アイザックよ」
名前で呼ばれたアイザックは顔を上げた。
「いい加減、覚悟を決めよ」
すっと目をそらすとアイザックは両手を広げる。
「いや、何のことでしょうか?」
「お前は昔からそうだったな。興味のないふりをして……」
「兄上がやったらよろしいではないですか」
「お前は昔から、自分が前に立つより私を立ててくれた」
「それは、あなたが兄なのだから当然でしょう」
「政は私が、現場はお前が。それでようやく、私は王でいられた」
「いえ、俺は兄上を支えることこそ、己の務めだと……」
「気を遣わんでもいいんだぞ」
「気なんか遣って――」
「お前の方が何でもできた」
「……」
「昔から何をやっても、どんなに努力してもお前が勝る。だが……私が王になった。兄だからという理由で。アイザック、時期が来たぞ。こればかりはどうしようもない」
「兄上……」
「兄はもう代わってやれん」
「!」
「フランシスでは、この国は背負えぬ。だから女神は今をお選びになったのだろう」
アイザックは息を呑んだ。そして横にいるアルマを見た。
「民も、神も、そして聖女も、お前を認めている」
アルマはその言葉に顔を上げると、横を見る。
アイザックと目が合うと優しく微笑んだ。
「覚悟を決めろ。さあ、アイザック。──王になれ」
アイザックは一同を見回す。
目を伏せている王太子夫妻。
しかしそれ以外は、期待の籠もった瞳で、アイザックを見つめていた。
アイザックは大きく息を吐く。
「王位継承の件、謹んでお受けいたします……」
ただし、条件があるとし、「来るべき時が来るまでは兄上が責任を持って務めよ」とアイザックは強く求めた。
聖女アルマとの歴訪は、まだまだ志半ばであったからだ。
国王は苦笑しながら頷いた。
「まったく……最後までお前らしい」
王位を受けると決めてもなお、アイザックの視線は王城ではなく、国全体へ向けられていた。
そして国王は、アイザックが王位に就くまでの間、王都を守る約束を交わした。
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