15.満ちる、湧き出る
次は干ばつが続いている地域にやってきた。
「ここは……名産地だったはずですよね……」
新しい帽子を身につけたアルマは、干からびてひび割れている土壌に心を痛めた。
「ああ。ぶどうの産地だったはずだ。ワインは特上だったがな……」
ぶどうの木は傷んでいた。
空を見上げてみれば、雲一つなく晴れ渡っている。
「今までとは逆の現象が必要ですが……」
「うむ。そこだな。南の地方と距離がありすぎて、あちらを水源に出来なかったのが惜しいな」
「雨乞いって出来るのでしょうか?」
「やってみるか?」
「どのようにです?」
「アルマがお願いしてみれば良いんじゃないか?」
「……」
アルマは半信半疑で空を見上げる。
そして目をつむり手を組むと、天に向かって祈った。
「どうか、この地に恵みを!雨を降らせてください!」
「……」
「……」
空は変わらず雲一つない。
「何も起こらんな……」
「これで変わるのなら、今までもっと早く解決してますよ!もうっ!」
「何をやらすんですか」とアルマはポカポカとアイザックの胸元を殴る。
「はははっ。そりゃそうだ!」
真っ赤になっているアルマが拳を当てるが、全く効いてなどいない。
「ああ、かわいいかわいい。全然痛くないぞ」
アイザックは、がははと笑っていたがピタリと止まった。
急に真剣な顔になったかと思ったら、アルマの拳を捕まえた。
アルマの手を見るなり、慌てた様子でその手を擦った。
「ああ、ほら。赤くなってる。俺の胸の方が硬いんだ。痛くなかったか?」
――キュン
アルマの怒りはどこへやら。急に心が満たされた。
すると――
ゴゴゴゴゴゴゴ
「え?」
「む?」
不穏な様子に、アイザックはすぐにアルマを自身の体に引き寄せる。
地鳴りがすると思った瞬間だった。
プシャー!!!!
割れた地面から水が一気に噴き出した。
天高くそびえ立つ水柱に、一同は唖然とする。
吹き上がった水は広がって、今度は一気に降り注いだ。
「やったぁ!恵みだ!水だ!」
「すごい!すごい!聖女様のおかげだ!」
「ああ、聖女様の祈りだ。聖女様の加護の力だ!」
隊員たちは大騒ぎした。
しかし、歓声の中心にいるはずの二人は、別の意味で動けずにいた。
(違うんです……)
(またか……)
アイザックの胸元で顔を埋めるアルマと、片手で顔を覆い天を仰ぐアイザックがいた。
水は湧き続け、止まることはなかった。
そこで、隊員たちにより水源の整備を行った。
水路も作り、畑に水が行き渡るように整えていった。
「この地も改善へと向かったか」
アイザックはほっと胸をなでおろした。
この日の指示をし終えたアイザックはアルマを探した。
「アルマ?何をしている?」
漸く見つけたアルマは、町民とブドウ踏みをしていた。
「あ、旦那様。今、わずかに収穫できたぶどうのワインづくりをさせてもらってるんです」
アルマは膝の上まで裾をたくし上げており、その足は赤く染まっていた。
「もう終わりにしなさい」
「え?」
ひょいとアルマを抱えると、野営まで連れ戻った。
「だ、旦那様……」
アイザックは濡らした布でアルマの足をきれいにふき取っていく。
「あの……」
「女性だけだったからいいものの……」
「え?」
「君は公爵夫人だ。肝に銘じるように」
「あっ……申し訳ございません」
(はしたなかったわよね……)
シュンとしてしまったアルマに、アイザックはため息をついた。
「楽しかったか?」
「え?」
「いい笑顔をしていた」
「あ、はい……楽しかったです」
「君は、慣れているようだったな」
「ええ。生家ではハーブ畑のお手伝いをよくしていましたから」
「そうか……」
すっとアイザックは立ち上がると、侍女らに声をかけ、去っていった。
アイザックのいつもと違う様子に、アルマは不安げに眉根を寄せた。
「奥様……」
「どうしよう……旦那様を怒らせちゃったわ……」
ルーシーとジーンは顔を見合わせた。
「奥様、旦那様は怒ってなんかいらっしゃいませんよ」
「はい。ただ、心配されただけです」
「え?」
「独占欲をお持ちのようですよ?」
「とても大切にされていらっしゃるようですね」
二人の侍女がニコニコしている中、アルマは意味が分からず、ぱちぱちと瞬きをした。
しかし、素足に触れたアイザックの熱を思い出し、急に恥じらいが襲ってきた。
(あんな距離で……私ったら……!)
アルマは顔を両手で覆った。
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