14.国民の総意
その頃王都では、社交パーティーが開かれていた。
王家主催のパーティーは2年ぶりとなる。
王太子妃となって初めての公務にハリエットは張り切っていた。
生家のメルヴィル侯爵家の支援もあり、国力を示すに相応しい規模の会となっていた。
王太子妃の首には大ぶりの宝石が輝くネックレスと、それと同じ宝石を使ったイヤリング、そして、手元には最上級の指輪が輝いていた。
「殿下はお美しいですわね。こうやって王太子殿下がお披露目したくなるお気持ちも理解できますわ」
「いえ、そんなことはございませんわ」
「だって、以前はこのような機会がございませんでしたでしょ?愛する人をお迎えになられた王太子殿下はお幸せですわね」
「私こそ幸せですのよ?こちらの宝石も最上級のものを取り寄せていただきましたの。国内ではここまで大きな宝石なんて手に入りませんでしょう?」
「ええ、ええ。そうですわね……」
「殿下。こちらのワインは大変美味ですな。どちらのワインですかな?王家御用達のものですか?」
「ああ、こちらのワインは隣国から輸入したものですよ。国内の契約先が不作続きでね。味も落ちていたものですから、取り寄せしたんです。いかがです?好評なようだから、今後取引をしようかと考えてるんだ」
「そうだったのですね。確かに、上質ではありましたな……」
◇◇◇
「ほおぅ?」
新聞を薄目で眺めているアイザックがつぶやいた。
「いかがなさったのですか?」
軍事の事務処理に追われているアイザックは執務室にこもっていたが、もちろんそこにはアルマの姿があった。
「新聞は読んだか?」
「いえ、まだです。拝見しても?」
アルマは受け取り、読み始めた。
「あら、まぁ……」
アルマは口元に手を当て、開いた口を隠した。
『豪華な挙式と披露宴に続き、二年ぶりとなる王家主催のパーティーが開催された。
この日の王太子妃殿下の首元には、大粒の宝石が輝きを放っていた。
この日のために国外から取り寄せたものだという。
また、輸入ワインの披露も行われ、こちらの取引を進めていくという。
王太子夫妻が中心となり、安定した経済力を今後の国交に活かすとみられる。
西部の大規模地割れの修復が完了した。
ブラニング公爵が指揮する国軍は、復興に尽力した。
半年の遠征期間中の復興に向けた活動は、国内の5カ所にも及ぶ。
南部の長きにわたり続いていた大雨が止んだ。
今では晴天に恵まれている。
国軍により被災箇所の修復が行われた。
今回の復興には、ブラニング公爵夫人となった聖女アルマ様が同行し、安寧の祈願をされた。アルマ様は復興の第一歩として、苗木の植樹を手ずから行った。
アルマ様にお会いした町民らは、とても愛らしく、まるで女神のように神々しかったと話す。
神殿の発表では、聖女アルマ様の加護の発現が確認されたとし、アルマ様の意向で、ブラニング公爵と共に、国難を改善するべく国内を巡る予定だという』
紙面の大半は、アイザック・ブラニング公爵と聖女アルマの話題だった。
「新聞は情報操作の手段に使われるが、今回の記事は民意だな」
「?」
「これが次期国王か……なぜ、国民を守らずして国を守れると思うのか……」
アイザックは眉間に皺を寄せた。
「妃殿下も、メルヴィル侯爵家の令嬢としてならば正しい振る舞いだろう。だが、王太子妃として見れば話は別だ」
アルマはもう一度新聞に目を通す。
「そして、メルヴィル侯爵は財力を以て支えていくつもりだったようだが、今の国には悪手だ」
「社交界とはこういう場ではありませんでしたか?」
「貴族の社交場ならな。侯爵家を誇示するのであれば、それで十分だ。だが、王家は違う。国民の安心に繋げねばな」
アイザックは大きく一息ついた。
「苗木を植えたのはなぜだ?」
発案者はアルマだった。
「加護の力を感じる指標が欲しかったのです。天候だけでは不十分です。なぜなら、干ばつ地からすれば、雨は恵みとなりますから。私が植えた木です。何かしらの力が宿っているといいですね」
「君は、すばらしいな……」
「そうでした、お守りは何か効果が得られましたか?あちらにも願いを込めましたが……」
「ああ、俺にとっては十分にな」
アイザックは穏やかに微笑み、いつものようにアルマの頭をぽんぽんと撫でた。
一方その頃王城では、国王が大きくため息をついていた。
「どうしたものか……」
新聞を眺めてはため息をつく。
「民も、女神も、見る目がおありだ。聖女の加護が発現したということはそういうことだろうな」
国は安寧に向かって着実に歩みを進めている。
国民に寄り添い足並みを揃え未来へと歩んでいるのは誰か、明らかだった。
「いい加減、覚悟を決めよ、アイザックよ……」
女神はなぜこのタイミングで聖女を誕生させたのか。
その答えにたどり着いた男は、遙か先の雲の切れ間を見つめていた。
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