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聖女の加護は、恋心を隠せない。~王弟殿下の愛は、国中にだだ洩れです~  作者: 茉莉花


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10.寂しくなんてない

「閣下。西の地割れが思いのほか深く、なかなか整備が進まない状況が続いております」



この日は隊員が現場の報告に訪れていた。


「人員は?」


「不足気味です。疲労の蓄積が大きいですね。半年以上遠征先に滞在している者もおりますし」


「うむ」


アイザックは考え込む。


かつて、自身は一年以上屋敷を空けていたこともあった。

将軍であるがゆえ、仕方のないことでもあると。

だが、そんな自分でも今ではそんな生活など考えられない。


そして、被災地復興のために、軍人とはいえ国民を犠牲にしていいのだろうかとも考えた。



「どうしたのですか?旦那様が考え込むなどめずらしいですね」


「アルマ」


「……一度留守にするが良いか?」


「?」


「現場に戻ろうかと思う。現状を直接見てこようかと。把握したらまたこちらに帰ってくる」


「はい。旦那様は将軍様ですから」


「悪いな……」





明日の出立となり、今宵の晩餐は豪華であった。


「しばらく、共にできないからな。はい、あーん」


いつものようにアルマの口に料理が運ばれる。


「……あの、旦那様こそ召し上がってください」


「私のことは気にするな」


「ですが、食べられるときに食べるとおっしゃっていましたし、明日からお忙しくされるのでは?」


「アルマ……」


アルマはカトラリーを手に取ると、肉を切り分けた。

フォークに刺すと、アイザックの前に差し出した。



「旦那様。はい、あーん」



「む?」



アイザックは一瞬目を見開いたが、すぐにそれは細められた。

口を大きく開けると受け入れた。


「これは……ずいぶんと満たされるな……」


「まだ、一口目ですよ?」


「ああ、そうだったな。食べられるだけ食べておくとしよう」



この日は、アルマから餌付けがなされた。







アイザックは寝ているアルマの髪をとく。


(よく寝ている……)


安らかな寝顔に、アイザックは笑みをこぼす。


(早く、安寧を取り戻したいものだ。そのためには……)




――伝承通りですね。



アイザックの脳内にも神官の言葉がこだました。


再びアルマの寝顔を見つめる。

この日は、そのまま朝を迎えた。





(!?)


アルマは、目覚めると身動きがとれないことに驚いた。

アイザックがアルマを包み込むように眠っていた。



(旦那様!?)



スースーと寝息が聞こえる。

だが、その穏やかな寝息に誘われ、アルマは目を閉じるとその温もりに身を寄せる。

気がつけばまた眠気に襲われた。





「アルマ」


(?)


「そろそろ準備を始めたいのだが」


(?)


アイザックが、困ったように微笑んでいた。


「あっ……旦那様……おはようございます」


「ああ、おはよう」


アイザックは頬にかかる髪をどかしてやる。


「よく眠れたか?」


「……はい。二度寝をしてしまいました」


「そうか、それは何よりだ」


「あの、旦那様も眠れましたか?」


「ああ、そうだな」


「それならよかったです」


アルマはほっとしたのもつかの間。



「はっ!」



アルマはアイザックに抱きつき、彼をぎゅっと固定していることに気がついた。


「すっ、すみません」


「いや、可愛くて困っただけだ」




――キュン




熱を帯びる顔を悟られまいと、アルマはシーツで顔を隠した。


「時間がないのが惜しいが仕方ない。朝食にしよう」


「……はい」


アイザックはアルマの頭にぽんと大きな手を置くと、私室へと戻っていった。







いよいよアイザックが出立する。



「旦那様」


アルマは呼び止める。


「どうした?」


アルマは小袋を一つ差し出した。


「あの、こちらをお持ちください」


「ん?」


「効果があるかはわかりませんが、少しでもお役に立てればと……願掛けをいたしました。どうかご無事でお戻りください」


「お守りというところか?」


アルマはこくりと頷いた。


「聖女の守りならば効果がありそうだな。では肌身離さず持つとしよう」


アイザックはその小袋を胸元に忍ばせた。


「では、行ってくる」


「はい。いってらっしゃいませ」


アイザックは馬にまたがると、部下を引き連れ出発した。







アイザックの背中を見送ったアルマは、振っていた手をゆっくり下げた。


(寂しいなんて思っちゃいけないわ。だって、国のためですもの)


アイザックの姿が見えなくなるまで、その場に残った。




見上げると、空は雲に覆われているものの、以前よりは明るさを感じた。


(うん。大丈夫。大丈夫よ)


アルマは自分に言い聞かせるように、胸に手を当てた。




ここまでお読みいただきありがとうございます。

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