↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
聖女の加護は、恋心を隠せない。~王弟殿下の愛は、国中にだだ洩れです~  作者: 茉莉花


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
10/20

9.加護の力の発現

ほどなくして、お茶が用意された。

落ち着きを取り戻したアルマは、チーズタルトと共に紅茶を嗜んでいた。



「あの、奥様?いつもお側でなにをされているんですか?」


「特別なことは何も……」


「えーと、お部屋にいるだけですか?」


「ええ。時々お話しするくらいよ」



ところが、そのことを口にした途端、アルマの顔はみるみる赤くなっていく。



「でも、その、頭をポンポンされたり、なでられたりというのが……最近は、多くて……」


また両手で顔を覆ってしまった。


「ですが、奥様は、よく若様にもしてもらっていたじゃないですか。慣れていらっしゃるのでは?」


「ルーシー、私はあの時も慣れてないと言ったじゃない。ドキドキするって」


「若様の時は口づけでしたものね……」



それを聞きジーンは目を見開いている。



「ジーン、誤解しないで、おでこよ」


アルマは冷静に突っ込む。


「それに比べたら、旦那様のポンポンはかわいらしいものでは?」


「そう……思える?」



ルーシーは想像し、首を振る。



「申し訳ありません。思えませんでした」


「とにかく、お側にいたいけど、いるといるで苦しくて……でも胸がいっぱいで……」


満たされている。アルマは毎日満たされていた。




すると、外が明るくなった気がした。


三人が窓の外を見ると、空から一筋の光が差し込んでいる。




「え?」




空には雲の切れ間が出来ていた。わずかながらの青が見える。そこからは光が漏れていた。


「晴れ間が……」


「何ヶ月ぶりでしょうか……」


このあたりで青空が見えたのは久しぶりだった。





この空に気づいたのはもう一人いた。


「え?」


執務室の窓から外を眺める。

アイザックは、雲の切れ間の光に目を疑った。


「フレッド」


「はい、旦那様」


「ここではどれくらいの期間雲に覆われている?」


「かれこれ半年は青空を見てはいないかと……」




(……アルマ!?)




アイザックは執務室を飛び出した。







「アルマ!」


急に扉が開かれ、窓の外を眺めていた三人は振り返る。


「旦那様?どうされたんですか?」


「何か変わったことはないか?……そういえば、先ほど顔が赤かったな。熱は?」


アイザックはまたずんずんとアルマに近づいたかと思えば、顔をのぞき込んだ。

アルマはふるふると首を振る。


「あの、旦那様、空から、光が……」


「ああ、やはり、珍しいのか?」


「はい。このあたりはずっと雲で覆われておりましたから……」



アイザックとアルマは窓の外を見る。



「改善の兆候か?」


「だと、良いのですが……」


「アルマ。本当に変わったことはなかったか?問題はないか?」


「は、はい。問題はありません」


「なら、良いのだが……。変化があるとしたら、君だろうから……無理はするなよ?」


「……はい」



アルマはゆっくりと胸に手を当てた。






翌朝、この日もアイザックによって、アルマの口に料理が運ばれていた。


「はい、あーん」


ぱくっ、もぐもぐ。

もうアルマも、これに関しては慣れたものだった。


「あの、旦那様」


「どうした?」


「今日、神殿に行こうと思います」


「神殿に?」


「はい。今朝も空に雲の切れ間がありましたし、報告と神殿の泉の様子も確認したくて……」


「なるほどな。わかった」


アイザックは次の料理をフォークに乗せた。


「はい、あーん」


朝食を終え、支度を整えると、二人は屋敷の玄関へ向かった。







アルマは馬車を前に立ち止まった。


「旦那様?」


「ん?」


「何をなさっているんですか?」


「出発するのだろう?」


「はい。旦那様もどちらかにお出かけですか?」


「あ?神殿だが?」


「え?」


「ん?私も行くが?一人で行くつもりだったのか?」


「いつも一人でしたから、一緒に行くという発想がありませんでした……」


「……なるほど」



アイザックはアルマの手を取ると、馬車に誘導する。


「俺は君の夫だからな。一緒に確認に行きたい。いいか?」


「あっ。はい……」


アイザックも馬車に乗り込むと神殿へと出発した。





◇◇◇


「ああ、聖女様。ようこそお越しくださいました。ちょうどご連絡差し上げようと……」


神官たちはアルマの到着を待ちわびていた。


「こちらでもなにか変化が?」


神官の様子に、アイザックはこちらでも何かを掴んでいると感じた。


「はい。ほんのわずかではありますが、泉の色が薄くなったように思います。それから、空にかかる雲が薄くなりましたよね?」


「ああ。こちらも、雲の切れ間に気づいたものでな。泉を確認しても良いか?」


「はい、お願いします」


二人は神殿の泉に案内された。





「どうだ?」


「たしかに、以前より色が薄くなったような気がしますが……」


アルマが泉に手を浸したその時。




ピリッ



「痛っ!」



慌ててアルマは手を引っ込めた。


「アルマ!?」


アイザックはすかさずアルマの手を握った。

そして手元を確認する。


「大丈夫か!?」


「ええ。でも旦那様!今一瞬、私が触れたところだけ濁りが消えたのです!私が触れたところだけ……」


「なに?」


泉をのぞき込むがもう元に戻っていた。

アイザックが神官に視線を向けると、神官は頷いた。


「私も見ました。聖女様のおっしゃった通りです。一瞬だけでしたが……」


アルマは恐る恐る泉をのぞき込むと、再び手を伸ばそうとした。




がしっ




(!)



その手はアイザックに捕まれた。


「何をしている!?」


「もう一度やってみようかと……」


「いや、もういい。痛い思いをしてまで試すことではない」


アイザックは先ほどの痛みを逃がすように、アルマの手を擦る。


「旦那様……」


二人のやりとりを、神官は穏やかに見つめていた。





部屋に通された二人は神官と共に現象について考察した。


「これは、聖女が加護の力を発現している兆候と見て良さそうか?」


「そうですね。発現し始めていると言って良いかと思います」


アイザックとアルマは互いを見つめる。


神官は二人の様子に微笑んだ。


「伝承通りですね」


「え?」


「お二方を見て、安心しました」


「……そうか」


「……」


「しばらくは様子を見ていく形でよろしいかと思います。これから、より力を強めていかれることでしょう。今はまだ、大きく何かを変えることはなさらなくてよろしいかと」


神官は再びにっこりと微笑んだ。





帰り道、馬車に揺られながら、アルマは隣に座るアイザックに礼を述べた。


「今日は一緒に来てくださってありがとうございました」


「いや、礼を言われるようなことではない。それよりも、体はなんともないか?」


「はい。大丈夫です」


「国の安寧も大切だが、君が犠牲になることはないからな」


「……はい」


アルマはアイザックに目を向ける。


(あっ……)


アイザックはずっとアルマを見ていたようで、すぐに目が合った。



アイザックの手が伸び、アルマの頭にそっと手が置かれた。



ぽんぽん



アルマは目を閉じ、その温もりを受け入れた。




――伝承通りですね




神官の言葉が脳内に響き渡る。



アルマが知る伝承通りだとすれば、この変化は自分自身にある。

満たされている。

毎日、横にいるこの人によって。


アルマは強い意志を瞳に宿した。


(加護は発現した。私は、本当に聖女だったのね……)




2年間、疑いながら過ごしていた。

通過儀礼は間違いだったのではないかと。


加護の発現がなく、国難は悪化していくのを見ているしかなかった。


自分は聖女だと言われたのに、誰も自分を責めなかった。

責められるような位置にもいなかった。

いや立てなかった。ずっと王城に匿ってもらっていたようなものだ。


でも、今なら、堂々と立てる気がする。

自分は聖女なのだと。




雲の間の光というわずかな変化だが、自分の中では大きな変化がある。


アルマは確信めいたものを感じた。


ここまでお読みいただきありがとうございます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。