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背神機関――人間兵器の少女と俺の一年間に及ぶ戦いの記録――  作者: 町屋雨琳
第一部 Look@me

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第九話 みる

カクヨムにも投稿しているものを、こちらにも投稿いたします!


是非高評価やブックマーク、感想などもよろしくお願いいたします。

 極彩色の光の束が収束し、ほんの僅かな浮遊感のあとで、俺はそこに降り立った。

 ルーパ・マーラの『因果乖離位相境界』。

 つい数時間前に見たばかりのその寒々しいほど幻想的な光景を、俺は少しの間眺めていた。

 きっと、別の人が俺の顔を見たのならば、それはもう険しい表情にお目にかかれたに違いない。


『先輩。顔がしわだらけですよ』

「真邏、顔怖いよ」


 どうやら見られていたようだ。

 俺は両手で顔をもんで、その深く刻まれたしわを伸ばす。


「これでいいか?」

「ましになった」


 まし、か。

 まあいいだろう。

 俺は切り替えて、みくにへと向き直る。


「で、だ。ここからどうすればいい?」


 目の前にルーパ・マーラの姿は無い。

 戦いながら弱点を探せばいいなんて単純な話しではないのだろうということは推測ができた。


「うん。私ができるのはこの世界の『再現』だけ。あれをそのままここに出すってことはできない」


 みくにからの回答は想定通りだった。

 がっかりもしなかった。


『じゃあ、どうすれば』


 妙典が苦々しい声で言う。


「わたしもどうすればいいかはわからない。でも、ここで『探せばいい』ということはわかる」

「なあ、聞いていいか?」

「なあに?」


 真っ直ぐなみくにの目が俺を射貫く。

 無駄であるという確信があった。

 それでも俺はみくにに聞いた。


「何故、解るんだ?」


 みくにには確かに確信をもって答えている。

 けれどもその確信には根拠がない。

 例えるならば、算数の問題で答えだけは知っていて、けれどもその途中式を書けと言われたらそれは答えられないような。

 みくにの示す答えには過程がない。

 カンニングに近いモノに見える。

 『電脳種子』に頼りきりになってしまっている人間の言動と、どこか近しい。


「考えても仕方ない、か」


  俺は切り替えて言う。

「とりあえず、グダグダしていても仕方ないな。うろついてみるか」


 散歩でもするような気楽さで俺は周囲の探索をはじめた。


『先輩。気を付けてくださいね? いくらそこが仮想の空間であっても危険がないとは言い切れません』

「おう。援護は任せた」

『……はい!』


 妙典の声にもハリが戻ってきた。

 どうせあいつのことだから、自分が先の戦闘で役に立たなかったと思い悩んでいたのに違いない。

 あいつは元気すぎるくらいがちょうどいい。

 普段はできる女を気取ってはいるが、俺から言わせればそんな事気にする必要はないのだ。

 絶対本人には言わないけれども。


「しっかし、気持ちの悪いくらい『記憶の通り』だな」

「うん。『再現』したからね」


 『電脳種子』の登場によって、『覚える』という言葉の意味は様変わりした。

 記憶は『電脳種子』にインプット出来るものとなり、大脳皮質の役割に代替している。

 そして、自由に共有することも可能となった。

 だからこそ、こうして『電脳種子』に保管された記憶と、今、目の前にある光景を重ね 合わせて整地に照合することも容易いのだ。


「私にはよくわからないけれど」


 みくにが呟くのを、俺は聞き逃さなかった。

 みくにには『電脳種子』が無い。

 それなのにこれほど精緻に再現ができている。 

 俺は思う。

 みくににはこの世界がどう見えているのか、と。

 みくには、ある意味では今この日本において最も人間らしい存在と言える。

 まだ出会って数日しか経っていないこの少女のことを、俺は識りたいし、知りたい。 

 いつか、俺は彼女のことを知れるのだろうか。


「ねえ、真邏」

「なんだ」


 一瞬の物思いを、みくにの声が遮った。


「あれ」


 みくにの指さす先。そこには俺がいた。みくにがいた。そして、美しい女性(化け物)がいた。


「あれは」


 俺は言葉を失う。そこにあったのは、あの苦い記憶の再演だった。


「こんなこともできるのか」


 無様に吊り下げられている俺の姿を、どこか他人事のように見つめながら呟く。

 悪趣味極まりない光景だったが、目をそらしても居られない。


「俺、こんな状態だったんだな」

『冷静すぎません?』

「今更恥もへったくれもないからな」


 嘘だ。正直もう見たい景色ではない。

 特に自分の醜態というのは、これほどまでに見るに堪えないものなのだなと改めて知った。

 それでも直視しなければいけないと思うのだ。

 この屈辱の借りは、必ずあのルーパ・マーラをぶっ倒して返す。

 見るごとに固まっていく決心に、「臥薪嘗胆ってやつだなと」独り言ちる。


「巻き戻しも出来るよ」

「頼む」


 便利な力だ。みくににとって負担でなければいいが。

 目の前で逆再生されるのはどこか滑稽な景色で、少し笑いそうになる。


「「きれid@」」

『『先輩?』』


 なんて場違いな言葉だろう。

 

「もう一回、頼めるか?」

「うん。でも次が限界かも」

「無理させて悪い」

「大丈夫だよ」


 改めてみると、みくにの表情には疲れの色が見えた。

 経過時間は一時間。この空間に居られる時間なのか、それともみくにの体調に左右されるのか。

 無理をさせすぎて彼女が壊れてしまうのだけは避ける必要がある。

 ここに関しては、今後の検討事項としよう。

 目の前の光景を焼き付けつ、俺は『電脳種子』の『みくにのためにやるべきことリスト』に書き加える。


「真邏」


 みくにが俺に声をかける。

 ちょうど、俺たちが離脱したときのシーンだった。


「ごめん。今日はもう、無理」

「十分だ。負担かけたな」


 みくには無言で首を横に振る。すこし息が上がっていた。


「きついときは正直に言え」

「……うん」


 不承不承と言った様子で了解の意を示すその姿に、変なところで子供みたいなやつだと感心する。一つみくにを知れた気がした。

 

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