共同の提案、三者の同盟
葉萌月十九日目、午前九時。
ハーゲン皇宮、ヴィスカルトの私室。
四人が私室の机の周りに、座っていた。──ヴィスカルト、三十四歳。──稜、四十二歳。──神崎、四十一歳。──セレネ、十六歳。
昨夜ヴィスカルトとセレネの私室での深い対話の後、二人の関係の新しい層が確立した。──そして今朝ヴィスカルトは稜と神崎に密書を送っていた。──「稜殿、神崎。──午前九時、私の私室で四人でお会いしたい。──昨夜の私とセレネ殿下のご決断を共有いたします」。
四人は机の周りに、対等な姿勢で座っていた。──ヴィスカルト、皇太子。──しかし皇太子の椅子ではなく、対等な椅子。──四人の新しい関係の骨格。
ヴィスカルトは静かに息を吐いた。
「稜殿、神崎、セレネ殿下」
ヴィスカルトの声は低かった。──しかし奥に深い決意が宿っていた。
「──昨夜セレネ殿下と私の間で深い対話をいたしました。──そして二人の間で、結婚の希望を確認いたしました。──二年後セレネ殿下十八歳の瞬間、結婚の儀を迎える覚悟」
稜は長くヴィスカルトを見つめた。──そして静かに頷いた。
「殿下。──ご決断、深い」
神崎も頷いた。
「ヴィスカルト。──私の十年の師としての観察。──そして過去二週間のお前の内面の再構成。──セレネ殿下との新しい関係の確立、深い瞬間です」
ヴィスカルトは静かに頷いた。
セレネも一度頷いた。
「師神崎閣下。──私も二年後、十八歳の瞬間ヴィスカルト殿下との結婚をお受けする覚悟です」
─── ─── ───
稜は長く二人を見つめた。
「殿下セレネ殿下。──二人のご決断、深くお預けいたします。──そして二人の結婚は政略結婚ではなく同じ喪失を抱える者としての同盟、という形ですね」
ヴィスカルトはゆっくりと頷いた。
「稜殿。──そうです。──二百年の両国の対立の構造の表面の奥の深い絆を結ぶ結婚」
セレネも無言で頷いた。
稜は黙って頷いた。
「殿下セレネ殿下。──そして二年後、結婚の儀の場面。──千年の計画の書き直しの第三段階または第四段階の進行の時と重なる可能性が、ある」
神崎が、頷きを返した。
「稜。──そうだ。──二年後書き直しの第二段階——議会と改革派の共有——が徐々に完了しつつある、はず。──そして第三段階——アウレリア王国の議会と改革派の共有——も進みつつある、はず。──結婚の儀は両国の改革の進行の瞬間に行う可能性が、ある」
稜はゆっくりと頷いた。
「玲。──そして結婚の儀の瞬間二人のご結婚はただの皇太子と王女の結婚、ではない。──二国の千年の対立の仕組みの表面の奥の深い絆の公的な確認の瞬間と、なる」
ヴィスカルトは小さく頷いた。
「稜殿。──そうです。──そして二人の結婚の瞬間、ハーゲン帝国の皇太子の立場とアウレリア王国の女王の立場が同盟の形で、結ばれる」
セレネはわずかに頷いた。
「殿下師、神崎閣下。──私は十八歳の刹那女王として即位する、覚悟です。──そして女王として結婚の儀を、迎える」
─── ─── ───
神崎が、長く息を吐いた。
「殿下セレネ殿下、稜。──そしてもう一つお伝えすることが、ある」
ヴィスカルトの目が、長く神崎を見つめた。
神崎は続けた。
「殿下。──昨夜私はヘルマン副宰相と長く対話、いたしました。──宰相からの退任の本格的な設計」
ヴィスカルトはゆっくりと頷いた。
神崎は続けた。
「殿下。──十日後葉萌月二十九日目私は元老院で宰相からの退任の公式な宣言を、いたします。──そしてヘルマン副宰相が宰相として就任する、儀」
ヴィスカルトは静かに頷いた。
「神崎。──十日後のご退任の公式な、宣言。──そしてヘルマン副宰相のご就任の儀」
神崎はわずかに頷いた。
「殿下。──そうです。──ヘルマンは深く頷いてくださりました。──彼は、十年副宰相として私の傍で仕えて参りました。──そして過去、五年改革派の議員たちを徐々に育ててこられた男。──ヘルマンが宰相として率いることが書き直しの第二段階の本格的な進行のための最も強い軸となる」
稜は小さく頷いた。
「玲。──二十年の宰相からの退任の公式な、宣言。──そして参謀の立場への回帰」
神崎は頷いた。
「稜。──そうだ。──そして参謀の立場で、お前と共に書き直しの第二段階の本格的な進行を率いる二十年ぶりの参謀の二人組」
稜は黙って頷いた。
─── ─── ───
ヴィスカルトは長く神崎を見つめた。
「神崎。──十年私の師であった、お前。──そして二十年ハーゲン帝国の宰相であった、お前。──二つの立場を超える、瞬間」
神崎は無言で頷いた。
「ヴィスカルト。──しかしお前の師であった立場は、変わらない。──宰相からの退任後も私はお前の深い相談相手であり、続ける」
ヴィスカルトの目に深い温かさが、宿った。
「神崎。──ありがとう、ございます」
稜はゆっくりと頷いた。
「玲殿下。──そして四人の新しい、関係の骨格。──稜と神崎、二人の参謀。──ヴィスカルト殿下皇太子。──そしてセレネ殿下、女王候補。──四人の共同の設計者の骨格が十日後の神崎の退任の公式な宣言のひととき本格的に確立、する」
ヴィスカルトは一度頷いた。
「稜殿。──そうです。──そして四人の関係の骨格を、千年の計画の書き直しの最終形の設計のための軸として活用いたします」
セレネも静かに頷いた。
「殿下師、神崎閣下。──四人の共同の設計者の骨格。──そして二年後結婚の儀の局面五人の骨格、に変わる」
稜は何度か頷いた。
「殿下。──四人とお母様エリナ前王妃のご活動の続きを引き受ける殿下と合計、五人の軸。──新しい章のための構造」
─── ─── ───
しばらく、四人は深く沈黙した。
葉萌月、十九日目の午前の温かい光がヴィスカルトの私室の窓辺から机の上を淡く照らしていた。──そして皇宮の中庭の若葉が、夏の初めの温かさで緑色に輝いていた。
稜は深く息を、吐いた。
「玲殿下、セレネ殿下。──十日後葉萌月二十九日目神崎の退任の公式な、宣言。──そしてその後第二段階の本格的な、進行」
稜は続けた。
「玲殿下、セレネ殿下。──そしてもう一つの軸。──ハインリヒ・フォン・トレストの家の内部の改革。──そしてエヴァルト・フォン・トレスト十八歳の家への復帰の可能性」
ヴィスカルトの目が、長く稜を見つめた。
「稜殿。──ハインリヒ。──彼の内面の再構成も過去約二週間徐々に進んで、おります。──昨日彼は私に密書を送って、来ました。──『殿下。──家の内部の若いメンバーの抵抗が徐々に減りつつ、あります。──そして私は家の千年の闇の構造を徹底的に清算する覚悟、です』」
稜は静かに頷いた。
「殿下。──ハインリヒ殿のご決意の深さ」
ヴィスカルトはわずかに頷いた。
「稜殿。──そしてエヴァルト十八歳。──ヘルマン副宰相が、過去約二週間彼と密かに対話を続けております。──エヴァルトは、家への復帰を徐々に検討しておる可能性があるとヘルマンの報告」
稜は黙って受け止めた。
「殿下。──エヴァルト殿の家への復帰、徐々に近づきつつある可能性」
セレネが、静かに目を伏せた。
「殿下師。──エヴァルト殿、十八歳。──私とほぼ同じ、年齢の若者。──家の罪と家の未来の改革の両方を引き受ける、覚悟の若者。──私はエヴァルト殿とお会いしたいと深く思って、おります」
ヴィスカルトの目が、長くセレネを見つめた。
「セレネ殿下。──エヴァルト、との対面深いご希望です」
─── ─── ───
稜は小さく頷いた。
「殿下。──そしてもう一つの軸。──アウレリア王国の第三段階の組み立て。──私は、近いうちアウリオンに戻り第三段階の本格的な設計を進める必要があります」
神崎は同意の表情を浮かべた。
「稜。──そうだ。──第二段階のヘルマン副宰相とエリカ議員と共の設計と第三段階のお前とカスパル宰相とマテウス院長と、共の設え。──両方が並行して、進む」
稜は深く頷きを返した。
「玲。──そして両国の第二段階と、第三段階の進捗の共有を月に一度私とお前で密書で続ける」
神崎は何度か頷いた。
ヴィスカルトが深く息を吐いた。
「稜殿。──そして私はハーゲン帝国の皇太子の立場で第二段階の本格的な進行を率いる。──そして二年後、皇太子から皇帝への即位の可能性を見据えて徐々にご準備いたします」
──ヴィスカルトの右手が、無意識に胸の銀の翼のブローチに触れた。──兄ヴァレンの形見。──十九年前、十二歳のヴィスカルトが兄の死から受け継いだもの。──そして二年後、ヴィスカルトはこの兄の形見と共に、皇帝として即位する。
稜の目が、長くヴィスカルトを見つめた。
「殿下。──皇帝へのご即位のご準備」
ヴィスカルトは無言で頷いた。──しかし灰色の目に、過去には見られなかった種類の重みが宿っていた。──皇太子としての三十四年の重みではなく、皇帝として千年の歪みの書き直しを率いる者の重み。
「稜殿。──父フリードリヒ二世皇帝のご逝去、五年前。──そして現在、ハーゲン帝国の玉座は空席です。──私は皇太子の立場で、過去五年、玉座の空席を保ちつつ政務を進めて参りました」
ヴィスカルトは続けた。
「稜殿。──しかし千年の計画の書き直しの第二段階、第三段階の本格的な進行のためには、ハーゲン帝国の皇帝としての私の即位の可能性が徐々に近づきつつあると感じます」
稜は静かに頷いた。
「殿下。──ご即位のご準備と結婚の儀。──二つの軸が、二年後に向けて徐々に結実しつつある」
ヴィスカルトは黙って頷いた。
──ヴィスカルトの指先が、まだ銀の翼のブローチの上にあった。──兄ヴァレンが十九歳で死んだ年齢。──そしてヴィスカルトは三十四歳で皇帝として即位する可能性を、口にした。──兄の年齢を、十五年越えた弟が、兄の形見を胸にして、新しい時代の皇帝として立つ。
─── ─── ───
しばらく、四人は深く沈黙した。
窓の外で、皇宮の中庭の葉萌月の温かい空気が徐々に深まりつつあった。
神崎は深く息を、吐いた。
「殿下、稜、セレネ殿下。──そして十日後私の退任の公式な宣言の場面四人の新しい関係の骨格が、本格的に立ち上がる」
神崎の目に深い感慨が、宿った。
「殿下、稜、セレネ殿下。──二十年私はハーゲン帝国の宰相として孤独に戦って、参りました。──しかし過去二ヶ月半稜と共に書き直しの組み方を進めて、参りました。──そして過去二週間ヴィスカルト殿下の十九年の自責の解放とセレネ殿下、との関係の確立。──全てが四人の新しい関係の骨格として結実しつつ、あります」
稜は小さく頷いた。
神崎は続けた。
「殿下、稜、セレネ殿下。──私の二十年の宰相の立場の終わりは新しい章の始まり、です」
稜は無言で頷いた。
「玲。──そしてその章で、私たち二人の参謀の二十年ぶりの関係の新しい形が本格的に進む」
神崎は一度頷いた。
─── ─── ───
午前、十一時近く。
四人の会議は、徐々に終わりに向かいつつあった。
稜は深く息を、吐いた。
「殿下玲、セレネ殿下。──十日後神崎の退任の公式な宣言の瞬間私とセレネ殿下も元老院の場に立ち会うことをご希望、いたします」
神崎は何度か頷いた。
「稜。──そうだ。──四人の関係の骨格を元老院の議員たちの前で公的に表明する、瞬間。──そしてヘルマン副宰相のご就任の儀と共に進む」
ヴィスカルトは静かに頷いた。
「神崎、稜殿、セレネ殿下。──十日後私は皇太子として神崎のご退任の儀とヘルマン副宰相のご就任の儀を公式に認める立場で立ち会い、ます」
セレネも黙って頷いた。
「殿下師、神崎閣下。──私はアウレリア王国の女王候補として神崎閣下のご退任の儀とヘルマン副宰相のご就任の儀にお祝いのご挨拶を、いたします」
稜は深く頷いた。
「殿下玲、セレネ殿下。──そしてその儀の後私はアウリオンに戻る、ご準備を進めます」
─── ─── ───
四人は、立ち上がった。──そしてヴィスカルトは、ゆっくりと扉に向かった。──稜と、神崎とセレネを見送るためだった。
扉の前でヴィスカルトは、長くセレネを見つめた。──そして深く一礼、した。
「セレネ殿下。──今夜もう一度私の私室に、お越しいただけますか」
セレネの目が、長くヴィスカルトを見つめた。
「ヴィス。──何かお話したいことがおあり、ですか」
ヴィスカルトは深く頷いた。
「セレネ。──昨夜お話、した兄ヴァレンの最後の瞬間の続きの話ではなくもう一つの層」
セレネは無言で頷いた。
「ヴィス。──必ず伺います。──夜、八時お訪ねいたします」
ヴィスカルトはゆっくりと頷いた。
稜と、神崎は長く二人を見守っていた。──そして稜は一度目を伏せた。
「殿下セレネ殿下。──お二人の深い、対話のご機会。──私と神崎は宰相公邸に戻り、ます」
セレネは何度か頷いた。
稜と、神崎とセレネはヴィスカルトの私室を出た。──ヘルマン副宰相が、廊下で待っていた。──皇宮の正面玄関の馬車に向かった。
─── ─── ───
午後、二時。
神崎の宰相公邸の応接間。
稜と、神崎が長机の向かい合いに座っていた。──午前の四者会議の後、二人で長く対話を続けていた。
神崎は深く息を、吐いた。
「稜。──十日後、宰相からの退任の公式な宣言。──そしてヘルマン副宰相のご就任の儀」
稜は深く頷いた。
「玲。──二十年、ぶりの参謀の二人組の関係の新しい章」
神崎は黙って頷いた。
稜は深く息を、吐いた。
「玲。──そして私も、十日後神崎のご退任の儀の後アウリオンに戻るご準備を進めます」
神崎の目が、長く稜を見つめた。
「稜。──アウリオンに戻る、ということは私たちはまたしばらく別れる」
稜はゆっくりと頷いた。
「玲。──そうだ。──しかし過去二ヶ月半お前と共に過ごした、瞬間。──そして過去二週間ヴィスカルト殿下とセレネ殿下の関係の新しい、章。──全てが私たちの参謀の関係の新しい形を確立、した」
神崎はわずかに頷いた。
「稜。──そうだ。──別れている間私たちは密書で月に一度進捗を共有、する。──そして徐々に第二段階第三段階第四段階と書き直しの骨格が進んで、いく」
稜は頷きを返した。
神崎は深く息を、吐いた。
「稜。──そしてある日書き直しの第六段階——両国の民への最終公開——の瞬間が来る。──その瞬間、私たちは再びお互いの傍で共に立つ覚悟です」
稜は小さく頷いた。
「玲。──おそらく五年またはそれ以上、後の時。──私たちはそれまで別の首都でそれぞれの軸を進めつつ月に一度の密書で共有、を続ける」
─── ─── ───
しばらく、二人は深く沈黙した。
応接間の空気が、二人の間で静かに流れていた。──十数年の参謀の相棒の関係。──二年前の嵌めの罪と、和解。──そして過去、二ヶ月半の千年の計画の書き直しの共同作業。──そして二週間後、別れてそれぞれの軸を進める新しい章。
神崎は深く息を、吐いた。
「稜。──ふと思った、ことがある」
稜は頷いた。
「玲。──何だ」
神崎は長く考えた。
「稜。──二十年前お前と相棒になった最初の夜私たちは二人で深く議論、した。──若い二十二歳の二人の参謀の最初の夜」
稜はわずかに頷いた。
神崎は続けた。
「稜。──二十年後の今私たちはまた同じような夜を迎えて、いる。──しかし二人の姿勢は二十年前と根本から違って、いる。──二十年前は若い二人の野心と、希望」
神崎は深く息を、吐いた。
「──しかし今私たちは深い罪と和解の後の姿勢で座って、いる。──そして千年の計画の書き直しの最終形を共に率いる、参謀の二人組」
稜はゆっくりと頷いた。
「玲。──二十年の年月、を超えた参謀の関係の深さ」
神崎は何度か頷いた。
稜は続けた。
「玲。──そして私たち、二人の関係の奥にもう一つの層がある」
神崎の目が、長く稜を見つめた。
稜は深く息を、吐いた。
「玲。──ザラフ殿の千年前のメッセージ。──『二人の異邦人は我らと、繋がっている。──我らの意志の最後の形が彼らに、宿る』。──私たち二人の参謀の関係の奥に千年前の二人の参謀の関係の最後の形が宿っている可能性が、ある」
神崎は無言で頷いた。
─── ─── ───
夜、午後十一時近く。
ヴィスカルトの私室で、セレネがヴィスカルトと長く対話を続けていた。──午前の四者会議の後、ヴィスカルトがセレネにもう一つの層をお伝えする覚悟を確認していた夜。
しかし稜と、神崎はその対話の内容を知らなかった。──二人だけの私室での夜の対話。──そしてヴィスカルトが、セレネに十九年のもう一つの層をお伝えする瞬間。
稜は、宰相公邸の客室で机の前に座っていた。──そして革の手帳を開いた。最初の頁の裏に、新しい紙を添えた。
書いた、一行。
「──葉萌月十九日目。四者会議。──ヴィスカルト殿下と、セレネ殿下の結婚のご決意の共有。──二年後十八歳のひととき、結婚の儀。──そして神崎の十日後の宰相からの退任の公式な宣言。──ヘルマン副宰相のご就任の儀。──四人の新しい、関係の骨格の確立」
稜は、紙を革の手帳に挟んだ。
窓辺に、立った。
葉萌月、十九日目の夜空。──月は、徐々に満ちつつあった。──そして星が、無数に輝いていた。──皇宮の白い、塔のシルエットが月光の下で淡く輝いていた。──皇宮の奥のどこかに、ヴィスカルトとセレネの深い対話。
稜は長く皇宮を見つめた。
胸の中で、午前の四者会議のくだりがまだ残っていた。──そして神崎の十日後の退任の公式な、宣言の設計。
稜は深く息を、吐いた。
扉が、ノックされた。
「師。──セレネ、です」
稜は、扉を開けた。──セレネが、立っていた。──皇宮から、戻って来たばかりの姿。──しかし目に深い感慨が、宿っていた。
「殿下。──お入り、ください」
セレネは、客室に入った。──稜の机の向かい合いに、座った。
「師。──夜、ヴィスカルト殿下の私室で長くお話いたしました」
稜は静かに頷いた。
「殿下。──いかがで、ございましたか」
セレネは長く考えた。
「師。──ヴィスカルト殿下ご自身の内面の再構成の深さの共有。──そしてヴィスカルト殿下の皇帝への即位のご準備と、結婚の儀の設計の共有。──深い対話、でした」
─── ─── ───
稜は、長くセレネを見つめた。
セレネは続けた。
「師。──そしてもう一つヴィスカルト殿下から、お話いただいたことがあります」
稜は頷いた。
「殿下。──何でしょうか」
セレネは長く考えた。
「師。──ヴィスカルト殿下は私にこうおっしゃい、ました。『──セレネ。──私は皇太子から皇帝への即位の後ハーゲン帝国の千年の計画の体系の内部のすべての闇を徹底的に開示する覚悟、です』」
稜の目が、長くセレネを見つめた。
セレネは続けた。
「師。──ヴィスカルト殿下は続けてこうおっしゃいました。『──父フリードリヒ二世皇帝の罪を含めて。──そして祖父ヴィルヘルム皇帝の罪を含めて。──ハーゲン皇室の千年の内部のすべての闇を、皇帝として私自身が民にお伝えする覚悟です』」
稜は無言で頷いた。
「殿下。──ヴィスカルト殿下、皇帝として即位の後、ハーゲン皇室の千年の闇を徹底的に開示するご決意」
セレネは静かに頷いた。
セレネの目が、稜を長く見つめた。
「師。──私はそのお言葉を伺った瞬間、自分の中で答えが返ってきました。──私もまた、女王として即位の後、アウレリア王家の千年の闇を徹底的に開示する覚悟だと」
セレネの声は静かだった。──しかし奥に、十六歳の王女が二十歳離れた皇太子と並び立つ覚悟の重みが宿っていた。
「ヴィス」
セレネは続けた。
「──私もです。父祖父の代から、王家が民に告げなかった闇のすべて。──私が女王として即位の後、徹底的に民にお伝えします」
稜の息が、止まった。
(──二人の十六歳と三十四歳の皇族が、それぞれの千年の闇の開示を覚悟した)
セレネはわずかに微笑んだ。──しかしその微笑みの奥に、深い決意が宿っていた。
「師。──ヴィス様は私のその答えを聞かれて、長く沈黙されました。──そして低く呟かれました。『セレネ。──私たち二人は、二人で千年の歪みを書き直す皇帝と女王になる』」
セレネの声が、わずかに震えた。
「私もそう答えました。『ヴィス。──二人で書き直しましょう』、と」
稜は黙って受け止めた。
「殿下。──そして結婚の儀の場面、二人の新しい皇帝と女王の結合の形で、両国の千年の闇の開示の最終形を迎える」
セレネは深く目を伏せた。
「師。──結婚の儀は、ただの政略結婚ではありません。──二人の千年の闇を引き受ける皇帝と女王の、共同の即位の儀です」
稜は深く息を吐いた。
「殿下。──二人のご決意の深さ。──私と神崎、二人の参謀の立場で深くお支えいたします」
セレネは黙って頷いた。
「師。──ありがとうございます」
しばらく、二人は深く沈黙した。──稜の机の上のランプの炎が、静かに揺れていた。──夜の冷たい空気が、窓の隙間から微かに流れ込んでいた。
稜は深く息を、吐いた。
「殿下。──そして十日後神崎の退任のご儀のとき。──四人の新しい、関係の骨格を元老院の議員たちの前で公的に表明する」
セレネはゆっくりと頷いた。
稜は続けた。
「殿下。──そしてその後、私はアウリオンに戻るご準備を進めます」
セレネの目が、長く稜を見つめた。
「師。──私も、師と共にアウリオンに戻ります」
稜は頷きを返した。
「殿下。──そうです。──そしてアウリオンで、第三段階の本格的な設計を進めます」
─── ─── ───
夜、午前零時近く。
セレネは、客室を出ていった。──稜は、再び机の前で長く考えた。
窓の外で、葉萌月十九日目の夜空が徐々に深くなっていた。──月光が、宰相公邸の白い石壁を淡く照らしていた。
稜は長く夜空を見つめた。
胸の中で、葉萌月十九日目の瞬間が徐々に整理されつつあった。──午前の四者会議。──四人の新しい、関係の骨格の確立。──ヴィスカルト殿下と、セレネ殿下の結婚のご決意の共有。──そして神崎の十日後の退任の公式な、宣言。──さらに、夜のヴィスカルト殿下とセレネ殿下の二人だけの深い対話。
稜は深く息を、吐いた。
新しい三人の関係の最も深い層が、葉萌月十九日目の夜、徐々に結実しつつあった。──そして十日後、神崎の退任の公式な宣言の時、四人の新しい関係の骨格がハーゲン帝国の元老院の議員たちの前で公的に表明される瞬間。
葉萌月、十九日目の夜が徐々に深まりつつあった。
稜は長く夜空を見つめて、いた。
最終的な局面が、徐々に近づきつつあった。──大きな旅の終わりと、次の段階への橋渡しの瞬間が、徐々に見えつつあった。
結婚のご決意の正式な共有。
二年後十八歳での結婚の儀。
神崎の十日後の宰相退任の公式な宣言の設計。
第二部の最終局面、ここまで来ました。




