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『俺を嵌めた相棒が、異世界で敵国の宰相になっていた ─ 戦略コンサルタント、銀貨五枚で王国を買う』  作者: MU
【第二部】【第五章】セレネとヴィスカルト、皇宮の地下深部
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皇宮の地下への道

 翌朝、夏萌月十七日目午前八時。

 神崎の宰相公邸の応接間。

 机の上に、一通の密書が置かれていた。──夜明け前、五時に皇宮から届いた。──稜と神崎は二時間、その密書を黙って見つめていた。

 内容は簡潔。──ヴィスカルト皇太子からの返信。

 「神崎。──王女殿下に本日午後三時、私の私室にお越しいただきたい。──二人だけの対面を希望する。──通訳も書記官も不要。──私と王女殿下の二人の対話を希望する。

 ヴィスカルト・バスタン・ハーゲン」

 稜は深く息を吐いた。

 「玲。──ヴィスカルト殿下が、二人だけの対面をご希望と」

 神崎は頷きを返した。

 「稜。──私も驚いた。──通常、皇太子と外国の王女の対面は複数の立会人が必要だ。──しかしヴィスカルトは二人だけの対話を希望している」

 稜は長く考えた。

 (──十年神崎の弟子であった男が、政治の慣習を敢えて捨てた。──セレネ殿下との対話を、政治の外で行いたい)

 稜は神崎を見た。

 「玲。──これはヴィスカルト殿下にとっても、危険な選択だ」

 神崎は一度頷いた。

 「稜。──彼は今朝、自分の十六歳の客人と二人で何かを賭けようとしている」

 午後三時。──セレネが、ヴィスカルトの私室に一人で入る。

 時計の針が、八時を指したばかりだった。──しかし応接間の空気は既に、午後三時の重さを帯びていた。

            ─── ─── ───

 稜は応接間の奥の扉の前で、立ち止まった。──その奥に客室。──セレネが起き始めたはずの時間。

 稜は深く息を吸った。──そして扉をノックした。

 「殿下。──稜です」

 扉が、開いた。──セレネが、立っていた。──白い、礼服。──首に、母の真珠のネックレス。──昨夜のエリカ議員、との対話の後ゆっくりと休まれたようだった。──しかし目には深い緊張が、宿っていた。

 「師。──ヴィスカルト殿下から、ご返信が届きましたか」

 稜は頷きを返した。

 「殿下。──届きました。──本日、午後三時ヴィスカルト殿下ご自身の私室にお越しいただきたいと。──通訳も書記官も不要。──二人だけの対話を、ご希望です」

 セレネの息が、わずかに止まった。

 「師。──二人だけの対話」

 「はい殿下。──通常の対面の形式、ではありません。──ヴィスカルト殿下のご決断深い」

 セレネは静かに頷いた。

 「師。──分かり、ました。──午後、三時皇宮のヴィスカルト殿下の私室に向かいます」

 稜はゆっくりと頷いた。

 「殿下。──私と、神崎は私室の外までお送りいたします。──しかし対話の間、私たちは別の場所で行動いたします」

 セレネは、稜を長く見つめた。

 「師。──別の場所」

 稜は無言で頷いた。

 「殿下。──同じ皇宮の地下深部に向かいます。──神崎、ブランクロヴィスと私の四人で。──千年前のアドレアンの時代の地下空間が皇宮の奥にある可能性があると神崎の調査で判明しております」

 稜は続けた。

 「殿下のヴィスカルト殿下、との対話の間私たちは皇宮の地下に潜入します。──神器の正体と、千年の計画の最深の層を探すため」

            ─── ─── ───

 午前、十一時。

 神崎の公邸の地下室。

 稜、神崎ブランクロヴィスの四人が地下室に集まっていた。──地下室は、神崎が長年密かに使ってきた戦略会議室。──壁に、皇宮の詳細な地図が貼られていた。

 ブランが、地図の前で長く立っていた。──二十八歳。──過去、二ヶ月帝都に潜伏して皇宮の構造を徹底的に調査した男。──彼の十年の傭兵の勘が、最も活きる調査だった。

 「師匠、神崎閣下、クロヴィス」

 ブランの声は、低かった。

 「──皇宮の地下深部の入り口。──三つ、見つけました」

 ブランは、地図の特定の場所を指さした。

 「一つ目。──皇宮の東棟のワイン蔵の奥。──最も安全。──しかし皇宮の衛兵の巡回が、頻繁。──二つ目。──皇宮の北棟の古い井戸の底。──衛兵の巡回は、ない。──しかし井戸の底の降下が難しい。──三つ目」

 ブランは、地図の別の場所を指さした。

 「皇宮の西棟の礼拝堂の地下。──衛兵の巡回は、午後三時から午後五時の二時間空白。──しかも、礼拝堂の地下は千年前の構造を最も保存している場所と推定されます」

 稜は黙って頷いた。

 神崎は長く考えた。

 「ブラン。──三つ目礼拝堂の地下を選ぶ。──午後、三時の衛兵の巡回の空白の瞬間。──そしてその時刻ヴィスカルトとセレネ殿下の対面も行われる」

 稜は静かに頷いた。

 「玲。──二つの行動が、並行する」

 神崎は深く頷いた。

 「稜。──ヴィスカルトの私室の衛兵の関心は、対面の間私室に集中する。──私たちの礼拝堂の地下への潜入は、相対的に注目されにくくなる」

 稜は頷きを返した。

 ブランも一度頷いた。

 「師匠神崎閣下。──午後、二時半私たち四人礼拝堂に入ります。──午後三時地下への降下を開始します」

            ─── ─── ───

 午後、二時半。

 皇宮の西棟の礼拝堂。

 稜、神崎ブランクロヴィスの四人が礼拝堂の入り口で集まっていた。──皇宮の礼拝堂は、千年前のアドレアン王の時代から続く最も古い建造物の一つと言われていた。──白い、石造りの外観。──塔は、低い。──しかし内部は、深い歴史を感じさせる空間。

 四人は、礼拝堂の中に入った。

 礼拝堂の内部は、薄暗かった。──祭壇の周りに、いくつかの蝋燭が灯されていた。──しかし午後、二時半の時間誰もいなかった。──昼のミサが、終わって夕方のミサが始まるまでの間の空白の時間。

 ブランが、祭壇の奥の小さな扉を指さした。

 「師匠、神崎閣下クロヴィス。──こちらです。──地下への降下口、です」

 四人は、祭壇の奥の扉に近づいた。──扉は、古い樫の扉。──鍵は、かかっていなかった。──ブランが、長年の調査で礼拝堂の責任司祭の信頼を得ていたためだった。

 ブランは、扉をゆっくりと開けた。

 扉の奥に石造りの長い、階段が続いていた。──下に向かって、急な傾斜。──階段の両脇の壁に、灯火はなかった。──ただの暗闇。

 ブランは、懐からランプを取り出した。──橙色の火を、灯した。──ランプを、両手で持って階段の最初の段に足を踏み入れた。

 「師匠、神崎閣下クロヴィス。──気を、つけてお降りください」

 四人は、ゆっくりと階段を降りた。

            ─── ─── ───

 階段は、長かった。

 約、五十段。──下に降りる、ごとに空気が徐々に湿っていった。──そして温度が、下がっていった。──夏萌月の地上の温かい、空気から地下深部の冷たい空気へ。

 階段の底に、達した。

 四人の目の前に長い、通路が広がっていた。──石造りの通路。──幅は、二人分しかない。──天井は、低い。──大人の男の頭のすぐ上。──そして通路の空気が、明らかに違っていた。

 千年の空気。

 稜は深く息を、吸った。

 (──これは、千年前の空気だ)

 神崎も一度頷いた。

 「稜。──ここから、千年前の構造です」

 ブランが、ランプを両手で持って先頭で進んだ。──稜と、神崎が続いた。──クロヴィスが、最後尾で進んだ。──クロヴィスの革の鞄に、祖父の手稿が入っていた。──そして書記官の調査の道具も。

 通路は、緩やかに湾曲していた。──十歩、ほど進んだ所でブランが立ち止まった。

 「師匠、神崎閣下クロヴィス。──壁を、ご覧ください」

 四人は、ランプの橙色の光で壁を照らした。

 壁の表面に、無数の文字が刻まれていた。──古い、文字。──読めない、文字。──しかし明らかに、計画的に刻まれた文字だった。

 稜の目が、長く文字を見つめた。

 「クロヴィス。──読めるか」

 クロヴィスは、ランプを両手で受け取って壁に近づいた。──書記官、の目で文字を黙って見つめた。

 「師匠。──これは古代アウレリア語です。──しかし現代のアウレリア語と、違う形。──千年前またはそれ以前の形」

 クロヴィスは続けた。

 「読み、ます」

 クロヴィスは、ゆっくりと壁の文字を声に出して読んだ。

            ─── ─── ───

 「──ここから、先トルメアスの計画の中核に至る」

 クロヴィスは、最初の一行を読んだ。

 稜の息が、止まった。

 「クロヴィス。──確かか」

 クロヴィスは何度か頷いた。

 「師匠。──確かに書かれて、おります。──『ここから、先トルメアスの計画の中核に至る』」

 神崎は深く頷いた。

 「稜。──予言書の断片の最後のメッセージと、繋がる。──『完全版は、千年の計画のさらに深い場所に封じられている』」

 稜は何度か頷いた。

 ブランは、ランプを再び両手で持った。──四人は、再び通路を進んだ。

 通路は、徐々に深くなっていった。──地下深部、への緩やかな降下。──そして空気が、徐々に変わっていった。──最初の千年の空気から、さらにもう一つの層の空気へ。

 二十歩、ほど進んだ所でブランが再び立ち止まった。

 「師匠、神崎閣下クロヴィス。──また壁の碑文。──しかし内容が、違うようです」

 四人は、ランプの光で壁を照らした。

 壁の表面に、また文字が刻まれていた。──しかし最初の碑文と、形が違っていた。──最初の碑文は、説明的な文字だった。──この二つ目の碑文は、リストのような形。──多くの短い、文字の塊が整列していた。

 稜の目が、長く文字を見つめた。

 「クロヴィス。──これは、何だ」

 クロヴィスは長く文字を見つめた。──そして深く息を、吐いた。

 「師匠。──これは、人の名前のリストです」

 稜の息が、止まった。

 「人の名前」

 「はい、師匠。──古代アウレリア語の人名。──多くの人名が、整列して書かれております」

            ─── ─── ───

 クロヴィスは、ランプを両手で持って文字を丁寧に調べた。

 「師匠。──最初の人名を読みます。──『アウグスト・フォン・グレーフェ。三十二歳。九百八十年前』」

 稜の目が、止まった。

 九百八十年前。──千年前のアドレアン王の独立戦争の後、すぐの時代。

 クロヴィスは続けた。

 「次の人名。──『マリア・フォン・ヴァイス。二十八歳。九百八十年前』。──次の人名。──『ヨハン・ベッカー。四十二歳。九百八十年前』」

 稜の心臓が、強く打った。

 「クロヴィス。──全て、九百八十年前か」

 クロヴィスは、ランプをリストの別の部分に当てた。

 「師匠。──いえ。──このリストは、年代の順で整列しています。──最初の人名から、最後の人名まで約千年の年代にわたっております」

 稜は深く息を、吐いた。

 「クロヴィス。──全部で、何人書かれているか推定できるか」

 クロヴィスは、リストの長さをじっと見つめた。──壁の文字の密度を、計算した。

 「師匠。──リストは、この壁から次の壁まで続いているようです。──全部の長さを、測らなければ確定できませんが概算で約五百名ほどかと」

 稜の息が、止まった。

 五百。

 「クロヴィス。──五百名」

 クロヴィスは頷いた。

 稜は長く壁を見つめた。

 (──五百名。──千年の間、トルメアスの計画のために命を失った人々のリスト)

            ─── ─── ───

 神崎が、長く息を吐いた。

 「稜。──このリストは、千年の計画の犠牲者のリストです。──過去、千年トルメアスの計画のために駒として使われて命を失った人々の名前」

 稜は小さく頷いた。

 神崎は続けた。

 「稜。──そして興味深い、ことにリストの最後の年代の人名を読んでみて欲しい」

 クロヴィスは、ランプをリストの最後の部分に当てた。──壁の最も、新しい年代の文字。──その刻まれ方が、最初の文字よりわずかに新しかった。──しかしそれでも、明らかに何十年前または百年前の刻み。

 クロヴィスは、最後の人名を読んだ。

 「師匠、神崎閣下。──最後の人名、です」

 クロヴィスは深く息を吸って、ゆっくりと声に出して読んだ。

 「──マルティン・ヴィレーヌ。二十二歳。二十年前」

 稜の息が、止まった。

 マルティン・ヴィレーヌ。──二十二歳。二十年前。──三ヶ月前、霧峰の古戦場のフィオナの父の石碑の前で、フィオナが巡礼したその父の名前と年齢と年代と、完全に一致していた。

 稜は長く壁を見つめた。

 ──三ヶ月前の春の霧峰の古戦場。──病に痩せ衰えた三十五歳のフィオナが、父マルティンの石碑の前で祈った姿。──「父さん。──私、怒らない。許さない、けど、怒らない」。──そして葬儀の後、フィオナはこの父の石碑の隣に葬られた。

 そのフィオナの父の名前が、千年の計画の犠牲者リストの最も新しい一人として、皇宮の地下深部の石壁に刻まれていた。

 稜の胸の中で、フィオナの最期の声がもう一度蘇った。

 (──父さんを殺したのは、アルデスでもヴィルフレッド王でもない。──千年の大陸の歪みだった)

 フィオナは三ヶ月前、すでにこの真実を予感していた。──父の死が単なる戦争の犠牲ではなく、千年の歪みそのものの犠牲だったと。──そしてその予感は、今、皇宮の地下深部の壁に刻まれた名前として、具体的な形を持って稜の前に現れていた。

 稜は、壁のマルティンの名に指先で触れた。

 古い、千年前の石。──しかし二十年前にこの名が刻まれた時、誰がこの名を刻んだのか。──なぜ、霧峰で死んだ二十二歳のアウレリアの兵士の名が、ハーゲン帝国の皇宮の地下深部の壁に刻まれたのか。

 (──マルティン殿。──あなたの名は、千年の計画の最も新しい犠牲者として、ここに刻まれていた。──そしてあなたの娘フィオナ殿は三ヶ月前、その真実を予感したまま、亡くなった)

 稜は深く頭を下げた。──壁のマルティンの名に向かって。

 神崎も無言で頭を下げた。

 クロヴィスもブランも、頭を下げた。

 地下深部の青白いランプの光の中で、四人の影が壁のマルティンの名の前で深く沈黙していた。

            ─── ─── ───

 しばらく、四人は壁のリストの前で長く立っていた。

 神崎が深く息を吐いた。

 「稜。──霧峰の五百三十七人の戦死者の一人。──そしてクルビット家先代、フェリクスの漏洩の犠牲者の一人。──しかしここのリストでは、千年の計画の犠牲者として数えられている」

 稜は黙って頷いた。

 (──マルティン・ヴィレーヌ。──二十年前、霧峰で死亡。──そして千年の計画の犠牲者として、ここの壁に刻まれている)

            ─── ─── ───

 稜は長く壁を見つめた。

 「玲。──このリスト、五百名。──そしてフィオナ殿の父、マルティンが最後の犠牲者の一人」

 神崎は同意の表情を浮かべた。

 「稜。──しかし五百名という数字。──霧峰の五百三十七人と、ほぼ一致する。──偶然ではないはず」

 稜は深く息を、吐いた。

 クロヴィスが、長く壁を見つめていた。

 「師匠。──クロヴィスです。──壁の文字の刻まれ方をより丁寧に調べました。──このリストは、五百三十七人の霧峰の戦死者とほぼ同じ人数です。──正確には五百三十二名」

 稜の目が、広がった。

 「クロヴィス。──五百三十二名。──霧峰の五百三十七人と、ほぼ同じ」

 クロヴィスはゆっくりと頷いた。

 「師匠。──そしてリストの年代の分布を調べました。──最も、古い犠牲者は九百八十年前。──最も新しい犠牲者は二十年前。──千年の間、平均して二年に一人のペースで犠牲者が加わっている計算です」

 稜は深く息を、吐いた。

 「玲。──千年で、五百三十二名。──そして霧峰の五百三十七人と、別の犠牲者なのか」

 神崎は長く考えた。

 「稜。──いや。──おそらく霧峰の五百三十七人の内、五百三十二名がここのリストに含まれている可能性がある。──残りの五人は、千年の計画の犠牲者ではなく霧峰の戦闘の別の犠牲者の可能性がある」

 神崎は続けた。

 「稜。──しかし確認は、後でできる。──今は、リストの後の空間が何であるかを確認したい」

 稜は頷いた。

 ブランが、再びランプを両手で持って先頭で進んだ。

 四人は、リストの刻まれた壁を過ぎてさらに奥へ進んだ。

            ─── ─── ───

 通路は、徐々に広くなっていった。

 二十歩、ほど進んだ所で通路が終わった。──しかし終点は、行き止まりではなかった。──大きな、扉が見えてきた。

 四人は、扉の前で立ち止まった。

 扉は、古い青銅の扉。──直径、二メートル。高さ、二メートル半。──表面に、千年前の文字と紋章が刻まれていた。──そして扉の中央に、円形の穴が開いていた。──鍵穴、ではない。──何か丸いものを嵌め込む、ための穴。

 稜は長く扉を見つめた。

 神崎も頷いた。

 「稜。──ここが、地下深部の本格的な入り口と思われる」

 稜は黙って受け止めた。

 クロヴィスが、扉の中央の円形の穴を長く見つめた。

 「師匠神崎閣下。──この穴は、何かを嵌め込むための穴です。──そしておそらく嵌め込むものがないと扉は開かないはず」

 ブランが、頷きを返した。

 「師匠。──私の傭兵の勘でも、同じです。──この扉は、特別な鍵がないと開かない」

 稜は長く扉を見つめた。

 (──特別な、鍵。──ここは、千年の計画の最深部の入り口。──鍵は、何か特殊なもののはず)

 稜は、神崎を見た。

 「玲。──この扉の鍵、の心当たりはあるか」

 神崎は長く考えた。

 そしてわずかに頷いた。

 「稜。──予言書の断片のメッセージ。『完全版は君たちが計画の全貌を知る時が来たら自ずから姿を現す』。──おそらくこの扉も、同じ構造です。──私たちが計画の全貌をより深く知る瞬間に扉の鍵が姿を現す可能性がある」

 稜は黙って頷いた。

 神崎は続けた。

 「稜。──今日はここまでとしよう。──扉の存在を、確認できたことが最大の収穫。──次の訪問の時扉の鍵を持って来る可能性がある」

            ─── ─── ───

 四人は、扉の前で長く立っていた。

 ランプの橙色の光が、千年の青銅の扉を淡く照らしていた。──そして四人の影が、千年の石壁の上に長く伸びていた。

 稜は深く息を、吐いた。

 時計を、確認した。──午後、四時二十分。──予定では、四十分後に皇宮の衛兵の巡回が再開される。

 「玲、ブランクロヴィス。──戻ろう」

 ブランは小さく頷いた。──ランプを、両手で持って先頭で戻り始めた。

 四人は、来た道を戻っていった。──犠牲者のリストの壁を、もう一度過ぎた。──そして最初の碑文の壁、を過ぎた。──階段に、達した。──ゆっくりと階段を、上った。

 地上の礼拝堂に戻った時、午後四時五十分だった。──衛兵の巡回が、再開する十分前。──ブランの計画、通りだった。

 四人は、礼拝堂を出て皇宮の外に向かった。──そして街道、を通って神崎の宰相公邸に戻った。

 午後、五時半。

 稜は、応接間に戻った。──そして長く考えた。

 神崎が、稜の横に来た。

 「稜」

 神崎の声は、低かった。

 「──地下深部の入り口の扉、確認できた。──次のステップは、扉の鍵を見つけること」

 稜は頷いた。

 稜は続けた。

 「玲。──そしてもう一つ。──セレネ殿下と、ヴィスカルト殿下の対面が終わったはず。──結果が、気になる」

 神崎は深く頷いた。

 「稜。──セレネ殿下が、戻られたらすぐにお話を伺おう」

            ─── ─── ───

 稜と、神崎は応接間で長く待った。──セレネが、皇宮から戻る瞬間を待っていた。

 午後、六時十分。──公邸の正門の近衛兵が、深く一礼した。──馬車が、戻ってきた。──セレネを、乗せた馬車。

 稜は深く息を、吐いた。

 胸の中で、皇宮の地下深部の青銅の扉と千年の犠牲者の五百三十二名のリストとフィオナ殿の父マルティンの名前が回転していた。──そしてもう一つの懸念——ヴィスカルト殿下と、セレネ殿下の最初の対面の結果。

 稜は、応接間の入り口に向かって歩き始めた。──セレネを、迎えるために。──しかし稜の頭の中で、千年の枠組みの深さが徐々に立ち上がりつつあった。

 (──千年で、五百三十二名の犠牲者。──そして霧峰の五百三十七人の戦死者。──そしてフィオナ殿の父、マルティン。──全てが、繋がっている)

 夏萌月、十七日目の夕方が深まりつつあった。

 稜は、応接間の扉を開けた。──公邸の廊下に出た。──正門に向かって、歩き始めた。

 胸の中で、地下深部の青銅の扉の円形の穴の形が繰り返し回転していた。──何が、その穴に嵌まるのか。──稜はまだ知らなかった。──しかしその答えが、近いうちに姿を現すことを感じていた。

皇宮の地下深部への潜入。

千年の計画の犠牲者リスト五百三十二名。

最新の名前——マルティン・ヴィレーヌ、22歳。フィオナの父。

霧峰の五百三十七人とほぼ同じ人数の暗号的な一致。

書きながら、千年の構造の重みに自分も呑まれそうでした。

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