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『俺を嵌めた相棒が、異世界で敵国の宰相になっていた ─ 戦略コンサルタント、銀貨五枚で王国を買う』  作者: MU
【第二部】【第五章】セレネとヴィスカルト、皇宮の地下深部
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帝都、再びセレネの到着

 夏萌月、十六日目の夕刻。

 稜と、クロヴィスとセレネの三人を乗せた馬車が帝都ヴェルデンの城門の前で止まった。

 十日の街道の旅。──若葉月、半ばの稜の最初の帝都の旅と同じルート。──しかし今度は、二人の十六歳の若者を伴っていた。──そして街道の警備が、明らかに強化されていた。──ヘルマン副宰相が、稜の密書を受け取ってヴェロニアとハーゲン帝国の街道沿いの警備を徹底していた、ためだった。

 城門の近衛兵が、馬車を止めた。──セレネの王宮の紋章入りの通行証を、深く確認した。──そして深く一礼、して通行を許可した。

 馬車が、ゆっくりと城門を抜けた。

 セレネは、馬車の窓から帝都の街並みを見つめた。

 巨大な、街。アウリオンの三倍の規模。──稜が、語ってくれた街並みの描写よりも遥かに圧倒的だった。──広い、石畳の大通り。四階建て、五階建ての石造りの建物。──そして街の奥の丘の上に、聳える皇宮の白い塔。

 セレネは深く息を、吸った。

 「師。──ここが、帝都」

 稜は無言で頷いた。

 「殿下。──ここが帝都ヴェルデンです。──そして皇宮の奥にヴィスカルト殿下が、お待ちです」

 セレネの目が、長く皇宮を見つめた。──そして深く息を、吐いた。

 クロヴィスも、馬車の窓から街並みを見つめていた。──書記官、二年目の若者の目に深い好奇心が宿っていた。──そしてその奥に深い緊張も。──祖父の手稿の入った、革の鞄を両手でしっかりと握っていた。

            ─── ─── ───

 馬車は、大通りを進んだ。──皇宮の麓の貴族の邸宅の並ぶ、地区。──その中に、神崎の宰相公邸があった。

 馬車が、神崎の公邸の正門の前で止まった。

 正門の近衛兵が、深く一礼した。

 「稜殿王女殿下、書記官殿。──お待ち申し上げて、おりました」

 正門が、開いた。

 稜と、クロヴィスとセレネの三人が馬車を降りた。──護衛のジャスパーが、馬車の横に立った。──馬車と、馬は公邸の厩舎に預けることになっていた。

 三人は、公邸の中庭に入った。

 神崎が、中庭の中央で立っていた。──四十一歳。──宰相の青い、礼服ではなく簡素な白いシャツに紺の外套。──そして神崎の横にブラン、ヘルマン副宰相エリカ議員マルセル書記官長の四人が立っていた。

 稜は深く一礼した。

 「玲。──ご無沙汰、しております」

 神崎は頷きを返した。

 「稜。──ようこそ。──そして王女殿下、書記官殿」

 神崎は、セレネに深く一礼した。

 「セレネ・アウレリア・アルヴェリア王女殿下。──ハーゲン帝国宰相神崎玲と、申します。──遠路ありがとう、ございました」

 セレネは深く一礼を、返した。

 「神崎閣下。──お初にお目に、かかります。──書簡で何度もお話しておりました神崎閣下とこうして直接お会いできて深く光栄、です」

            ─── ─── ───

 ブランが、頭を下げた。

 「殿下、クロヴィス。──お久しぶり、です」

 セレネは黙って頷いた。

 「ブラン。──元気そうで、よかった」

 クロヴィスも深く一礼した。

 「ブラン殿。──帝都でのお務め、お疲れ様です」

 神崎は、続けてヘルマンエリカマルセルをセレネに紹介した。

 「殿下。──私の三人の弟子、です」

 ヘルマン副宰相が、一礼した。

 「殿下。──ハーゲン帝国副宰相、ヘルマン・フォン・クラウスと申します」

 セレネは深く一礼を、返した。

 「ヘルマン副宰相。──お初に、お目にかかります」

 マルセル書記官長が、丁寧に一礼した。

 「殿下。──帝都書記官長マルセル・ヴォルフです。──書記官殿、お会いできて光栄です」

 マルセルは、クロヴィスにも何度か頷いた。

 クロヴィスは腰を折った。

 「マルセル書記官長。──お会いできて光栄です。──ご経験を、お聞かせいただける機会があれば嬉しいです」

 マルセルは頷いた。

 最後に、エリカ議員がセレネの前に来た。──三十八歳。──長身。栗色の髪を、後ろで束ねていた。緑の鋭い目。──しかし今夕のエリカの目にはいつもの議員の鋭さではなく深い温かさが、宿っていた。

 エリカは、長くセレネを見つめた。

 そして深く頭を下げた。

 「殿下」

 エリカの声は、震えていた。

 「──ハーゲン帝国元老院議員エリカ・ライヘンバッハと、申し上げます。──二十年お会いしたかった、です」

            ─── ─── ───

 セレネは、長くエリカを見つめた。

 二十年、というエリカの言葉。──エリカが、十八歳の時母を失って二十年。──そしてセレネが、五年前母を失って十一年。──二人とも、母を失った女性。──しかしエリカの二十年と、セレネの五年。──エリカは、二十年一人で戦ってきた。

 セレネは深く腰を折った。

 「エリカ議員」

 セレネの声は、静かだった。

 「──二十年お一人で戦ってこられたこと稜殿から伺い、ました。──私は五年母を失って、おります。──しかし母の死の真相を知ったのは最近です。──エリカ議員と、お会いできること深く光栄です」

 エリカの目に、涙が滲んだ。──しかし流さなかった。──二十年、自分の戦いを誰にも共有できなかった女性。──十六歳の王女が、目の前で深く一礼している。──二十年の孤独が、徐々に解けつつあった。

 神崎が、黙って頷いた。

 「殿下エリカ。──公邸の中で、ゆっくりとお話ください。──夕食の用意が、できております」

            ─── ─── ───

 夕食は、公邸の応接間の長机で行われた。──七人——稜、神崎ブランヘルマンエリカマルセルセレネクロヴィス。──そして長机の上には七人分の食事と温かい、ハーブティー。

 夕食の前半、神崎が稜の最近の調査の進捗を簡潔に報告した。──予言書の断片の発見、アレクの真の遺書エリナ前王妃の毒殺の真相トレスト家のハインリヒと、息子エヴァルトの状況。

 稜も、補足した。──セレネ殿下の女王候補としての宣言、二年の文通の設計エリカ議員との対面の希望。

 ヘルマンが、わずかに頷いた。

 「殿下。──ご決断の深さ、深く敬意を表します」

 マルセルも無言で頷いた。

 「殿下。──十六歳での女王候補としてのご決断は、千年の王家の歴史で最も若い決断の一つです」

 セレネは黙って頷いた。

 夕食の後半。──エリカが、セレネに自分の二十年の調査の概要を語った。──過去、五十年のトレスト家の二十一件の毒殺事件リスト。──エリカの母、アンナ・ライヘンバッハの死の実体。──そしてライヘンバッハ家の千年の家系——エルフラム・ヴァランディン(第二の弟子セレウスの双子の弟)の血統。

 セレネは長く聞いて、いた。──エリカの二十年の孤独な、戦いの深さ。──そしてエリカの家系の千年の計画を止める、側に立つ血統の重み。

 夕食が、終わった。

 神崎は、エリカとセレネに深く頭を下げた。

 「お二人で、応接間の奥の小さな部屋でお話を続けください。──夜はまだ長い」

 エリカと、セレネは深く頷いた。──二人は、応接間の奥の小部屋に移動した。

            ─── ─── ───

 応接間の奥の小部屋。

 壁の暖炉に、橙色の火が燃えていた。──小部屋は、二つの椅子と小さな机だけの簡素な空間。──しかし二人だけの時間を過ごす、ための温かい空間だった。

 エリカと、セレネは向かい合いに座った。──二人の間の机の上に、温かいハーブティーの二杯。

 しばらく、二人は沈黙した。

 暖炉の火が、静かに爆ぜていた。──夜の帝都の遠い、喧騒が窓の外から微かに聞こえていた。──しかし小部屋の中は静かだった。

 エリカが、ようやく口を開いた。

 「殿下」

 エリカの声は、震えていた。

 「──二十年私は一人で戦って、参りました。──夫を十二年前に失い娘アリアを女手一つで育て、ながら。──二十年の間私の母の死の真実を誰にも共有、できませんでした。──父にも妹にも、夫にも」

 セレネはわずかに頷いた。

 エリカは続けた。

 「殿下。──二十年の孤独の後神崎閣下と十年前出会い、ました。──そして過去十年神崎閣下と稜殿の視野の中で私の孤独は徐々に解けつつあり、ました。──しかしそれでも私の母の死の真相を共有できる女性には、出会えませんでした」

 エリカの目から、初めて涙が流れた。

 「殿下。──十六歳のあなたが目の前にいて母を失った痛みを共有できる女性として立って、いる。──二十年の私の孤独が今夜初めて別の形に変わりつつ、ある」

 セレネの目にも、涙が流れた。

 「エリカ議員」

 セレネの声は、震えていた。

 「──私は五年母を失って、おります。──しかし私の五年と議員の二十年。──四倍の孤独の深さ。──私の五年は、議員の二十年の深さに比べればまだ浅い」

 エリカは、首を横に振った。

 「殿下。──孤独の深さは年月ではない。──孤独の本当の深さは、共有できなかった人の数です。──私は、二十年共有できなかった。──しかし殿下は五年稜殿と神崎閣下を通じて共有できる可能性があった」

 セレネは小さく頷いた。

 「議員。──私の母の死の真相を知ったのはつい、先月です。──それまで私も五年母の死の本当の意味を知らずに生きて、参りました。──知らない孤独と知っている、孤独。──両方辛いはず、です」

 エリカは小さく頷いた。

            ─── ─── ───

 二人は、長くハーブティーを飲んだ。

 暖炉の火が、徐々に強くなっていた。──夜が、深まっていた。

 セレネは深く息を、吸った。

 「議員。──私の母エリナ前王妃は二十年ヴィスカルト皇太子家の傍系の男性フリードリヒ・フォン・ヴァランディン様と密かに文通して、いました。──二人は千年の計画の内部の改革派の活動を続けて、いました。──そしてトレスト家が両方を五年前毒殺、しました」

 エリカは無言で頷いた。

 「殿下。──稜殿から、伺いました」

 セレネは続けた。

 「議員。──そして議員のお母様、アンナ様は二十年前トレスト家の毒で亡くなられました」

 「はい」

 セレネは長く考えた。

 「議員。──二人のお母様の死は同じトレスト家、によるもの。──そして二人とも千年の計画の内部の改革派の活動をしておられた可能性が、ある」

 エリカの目が、深く光った。

 「殿下。──私の母アンナの活動の全貌は私もまだ完全には把握して、おりません。──しかし母はライヘンバッハ家の千年の口伝を深く調べて、おりました。──そしてエルフラム・ヴァランディンの血統の計画を止める側の活動を再開しようとして、いました」

 「殿下。──エリナ前王妃と私の母、アンナ。──二人は別の家系ですが同じ千年の計画を止める側の活動をしておられた可能性が、ある」

 セレネは一瞬の沈黙の後、頷いた。

 「議員。──二人のお母様の活動が繋がっていた、可能性。──そしてトレスト家は二人のお母様の活動を別々に察知して別々に毒殺、した」

 エリカは深く頷いた。

 「殿下。──私たち十六歳と三十八歳の女性は母の活動の続きを引き受ける立場に、ある。──二人のお母様の活動が繋がっていたなら私たち二人の活動も繋がるはず、です」

            ─── ─── ───

 二人は深く頷き合った。

 暖炉の火が、二人の間で静かに揺れていた。

 エリカは、長くセレネを見つめた。

 「殿下」

 エリカの声は、静かだった。

 「──私はこれから殿下の十六歳の戦いを深くお支え、します。──二十年の私の経験をお預け、します。──元老院での戦い方トレスト家の調査ヴィスカルト派との政治的な、対峙。──全てを共有、します」

 セレネは深く頷きを返した。

 「議員。──ありがとうございます。──私も、議員の戦いを深くお支えします」

 セレネは続けた。

 「議員のお母様アンナ様は女性議員第一号を目指して、おられました。──そして議員ご自身がその夢を引き継ぎ十年唯一の女性議員を続けて、おられます。──私はいつか女王となり議員と共に二国の改革派の女性として千年の歪みを止める活動をする覚悟、です」

 エリカの目から、涙がまた流れた。

 「殿下。──私の母アンナの夢の続きを十六歳の王女と共有できる、瞬間です。──二十年待ってきた、瞬間」

 セレネは深く頷いた。

 「議員。──私たちは、同じ喪失を抱える者です」

 エリカは静かに頷いた。

 「殿下。──そして議員の帝国での戦いは、私の母へのお別れの言葉です」

 二人は、長くハーブティーを飲んだ。

            ─── ─── ───

 夜、午後十一時。

 エリカと、セレネの対話は約三時間続いた。──二十年と、五年の女性たちの深い共感の対話。──そして二人のこれからの共有の活動の設計。──エリカが、元老院での戦いの技術をセレネに伝えセレネが王宮での戦いの技術をエリカに伝える。──月に、一度密書の交換を続けることを決めた。

 最後に、エリカが深く腰を折った。

 「殿下。──夜深まり、ました。──公邸の客室にお休み、ください」

 セレネは頷いた。

 「議員。──ありがとう、ございました」

 二人は、応接間の外に出た。──稜と、神崎が応接間の入り口で長く待っていた。──三時間、二人の女性の対話を邪魔しないよう応接間の外に控えていた。

 稜は頷きを返した。

 「殿下エリカ議員。──お話、お疲れ様でした」

 神崎も静かに目を伏せた。

            ─── ─── ───

 セレネは、客室に戻った。

 客室は、神崎の公邸の二階の奥。──白い、石造りの簡素な部屋。──木の寝台、木の机木の椅子。──窓は、北を向いていた。──窓の外に、皇宮の白い塔が月光の下で淡く輝いていた。

 セレネは、窓辺に立った。

 夏萌月、十六日目の夜。──月は、欠けつつあったがまだ半月近くの明るさを保っていた。──月光が、皇宮の塔のシルエットを淡く照らしていた。

 セレネは長く皇宮を見つめた。

 (──皇宮の奥にヴィスカルト殿下が、住んでいる。──三十四歳の皇太子。──私の十八歳、年上の男性。──明日の午前、お会いする)

 扉が、ノックされた。

 「殿下」

 稜の声、だった。

 セレネは、扉を開けた。──稜が、立っていた。

 「師。──お入り、ください」

 稜は、客室に入った。──しかしセレネと、長く対話するためではなかった。──短い、報告のためだった。

 「殿下。──神崎が夜半ヴィスカルト殿下に殿下のご到着のご報告の密書をお送り、いたしました。──明朝ヴィスカルト殿下からご返信が届くはず、です」

 セレネは深く頷きを返した。

 「師。──ありがとう、ございます」

 稜は続けた。

 「殿下。──明朝ご返信を確認した後対面の時期と場所を、決めます。──恐らくヴィスカルト殿下ご自身の私室に招かれる可能性が、あります」

 セレネは無言で頷いた。

 「師。──覚悟、いたします」

 稜は深く一礼した。

 「殿下。──お休み、ください」

 扉が、閉まった。

 セレネは、再び窓辺に戻った。

            ─── ─── ───

 夜、午後十一時半。

 セレネは長く窓辺に立って、いた。

 月光が、皇宮の塔を淡く照らしていた。

 セレネは深く息を、吐いた。

 胸の中で、母エリナ前王妃の最後の書簡の言葉が響いていた。「娘セレネ。──私の二十年の文通の書簡の写しを、ここに隠します。──いつか、あなたがこの書斎に入る瞬間書簡を見つけるはず。──私の活動の意味を理解して、ほしい」。

 セレネは低く呟いた。

 「殿下」

 ヴィスカルト殿下に、向けて心の中で呟いた。

 「──明日お会いします。──私、怯えません。──母の死と殿下のお兄上の死が私たちを結びつけて、います」

 セレネは深く息を、吸った。

 月光が、セレネの横顔を淡く照らしていた。──十六歳の王女の覚悟の瞬間。──二年半、ぶりに稜が神崎と再会した月の庭の夜と似た深さの瞬間だった。

 セレネは長く皇宮を見つめた。

 (──殿下。──怖さの奥に希望が、あります。──同じ、喪失を抱える者として出会う瞬間への深い希望)

 夜が、徐々に深まっていた。

 しかしセレネの目の奥にはもう迷いは、なかった。──母の活動の続きと、エリカ議員との連帯の深さが彼女の覚悟を支えていた。

 夏萌月、十六日目の夜が静かに深まりつつあった。

 明朝、ヴィスカルト殿下からのご返信が届く。──そして対面の時期が、決まる。

第五章開始、二度目の帝都。

セレネとエリカの最初の対面。

二十年と五年、母を失った二人の女性の三時間の対話。

「殿下、私たちは、同じ喪失を、抱える者です」

この一行が、第二部後半の核心です。

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