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トルメアスの予言書、二人の異邦人の絵

 翌朝、午前九時。

 稜は、王宮の書斎で革の手帳を開いていた。

 昨日四人の弟子と、マテウス院長の五人で裏の冥書庫の第五層の扉の前まで行った。──白い、大理石の扉。トルメアス時代の文字。五人の訪問に、反応していくつかの文字が銀色に光った。──しかし扉は、開かなかった。

 稜は、夜長く考えていた。──扉が、開く条件は何か。

 扉のノックの音が、した。

 「稜殿。──マテウス院長から、密書お届けいたしました」

 書記官の若い声。稜は、扉を開けた。書記官が、両手で密書を差し出した。

 稜は、密書を受け取った。書記官は深く一礼して、退いた。

 稜は、扉を閉めた。机の前に戻った。密書を開いた。

 密書には、たった一行だけ書かれていた。

 「──扉が開きました。今朝夜明け、五時私が第五層の前で瞑想していたその瞬間に。──稜殿お早くお越しください。お一人で」

 稜の目が、鋭く光った。

 (──扉が、開いた)

            ─── ─── ───

 稜は、すぐに書斎を出た。

 冥書庫への地下の階段を、降りた。表の書架の広間。マテウスが、最初の扉を既に開けていた。──稜は、長い通路を進んだ。第二層、第三層第四層を抜けた。

 第四層の奥の白い、大理石の扉の前で稜は立ち止まった。

 扉は、開いていた。

 わずかに、開いた隙間から青白い光が漏れていた。──昨日まで、暗く閉ざされていた扉。──今朝開いて、いた。

 マテウス院長が、扉の前で立っていた。深い青い目に深い感慨が、宿っていた。

 「稜殿」

 マテウスの声は、低かった。

 「──扉が自ら開きました。──夜明け、五時私が瞑想していたその瞬間。──六十年誰も開けてこなかった扉が」

 稜は深く頷いた。

 「マテウス殿。──昨日の五人の訪問が、扉に影響したとお考えですか」

 マテウスは長く考えた。

 「稜殿。──そう思います。──昨日皆様の訪問で、扉の文字がわずかに光りました。──昨夜私は第五層の入り口の前で瞑想を続けました。──そして夜明けの五時、扉が自ら開きました。──六十年の私の瞑想と皆様の訪問の両方が扉の条件を満たしたのです」

 稜はわずかに頷いた。

            ─── ─── ───

 マテウスは、扉をゆっくりと押し開けた。

 完全に開いた。

 扉の向こう側に、第五層の空間が広がっていた。

 稜は深く息を、吸った。マテウスと、共に第五層に入った。

 部屋は、狭かった。最初の訪問で、見た最深部の部屋と同じくらいの大きさ。──しかし空気が、違っていた。古い、紙の匂い。インクの固まった、匂い。──そして何かもう一つ説明できない、空気。──六百五十年、誰も入っていなかった空間の空気。

 部屋の中央に、古い石造りの机。机の上に、一つのガラスケースが置かれていた。

 ガラスケースは、先日見たものと似ていた。──しかし形が、もっと古かった。装飾もより、簡素。──六百五十年前のトルメアスの時代のガラスの技術で、作られたケースと思われた。

 ガラスの中に、古い羊皮紙の束が入っていた。

 羊皮紙は、黄ばんでいた。表紙には、何も書かれていなかった。──しかし稜は、すぐに感じた。これは、トルメアスの予言書だと。

 稜は、ガラスケースの前に立った。

 マテウスが、ガラスケースの蓋をゆっくりと開けた。古い、蝶番が微かに軋んだ。

 稜は、両手で羊皮紙の束をゆっくりと取り出した。指先に、六百五十年の紙の感触。震える、ほど薄かった。──しかし丁寧に保管されて、きた紙。

 稜は、机の横の椅子に座った。羊皮紙を、机の上に静かに広げた。

 マテウスは、稜の横で立っていた。蝋燭を、持ち直した。橙色の炎が、羊皮紙を淡く照らした。

            ─── ─── ───

 稜は、表紙をゆっくりと開いた。

 最初の頁。

 「──二人の異邦人へ」

 稜の息が、止まった。

 六百五十年前のトルメアスの筆跡。──そしてその最初の一行が、二人の異邦人——稜と神崎——への宛先だった。

 稜は長くその一行を見つめた。

 マテウスが、稜の横で深く息を吐いた。

 「稜殿。──六百五十年前のトルメアスは稜殿と、神崎閣下の訪れることを予知していたということですね」

 稜は一度頷いた。

 稜は、続きを読んだ。

 「──私の名はトルメアス。アウレリア王国の千年前の独立戦争の後、四百年生きていた男。──いや私は四百年生きたわけではない。私は、六百五十年前九十二歳で亡くなった。しかし私の思考は千年前のトルメアス本人の思考と同じものを受け継いでいる。──私は、トルメアスの思考の継承者の一人」

 稜は長くその文を読んだ。

 (──トルメアスの思考の継承者)

 稜の頭の中で、何かが繋がっていた。──六百五十年前、九十二歳で亡くなったトルメアス。しかし彼の思考は、千年前のトルメアス本人の思考と同じものを受け継いでいる。──三人の弟子の系譜。第一の第二の第三の弟子。それぞれの血が、千年伝承されてきた。──そして九十二歳で、亡くなったトルメアスは千年前のトルメアス本人ではない。彼は、千年前のトルメアスの思考を継承した誰かだった。

 稜は、続きを読んだ。

 「──二人の異邦人よ。私は千年前のトルメアスの最後の思考を継承した男。九十二歳で、私の人生を終える前に最後の予言書を書く。──予言書は千年の計画の設計図。アドレアンから、始まり私が予言し二百年前のアルベリクが崩壊を実行し現在の二人の異邦人——稜と玲——が書き直す千年の計画」

 稜の目が、止まった。

 稜の名前。玲の名前。──六百五十年前のトルメアスが、二人の名前を書いていた。

            ─── ─── ───

 稜は深く息を、吐いた。

 長く長くその頁を見つめた。

 マテウスが、稜の横で静かに口を開いた。

 「稜殿。──六百五十年前のトルメアスは稜殿の名と、神崎閣下の名を知っていたということですか」

 稜は静かに頷いた。

 「マテウス殿。──六百五十年前から、稜と玲の二人の異邦人が千年の計画を書き直すために現れることが予知されていた」

 稜は、頁を捲った。

 次の頁。──予言書の本体が、始まっていた。

 「──千年の計画の概要。

 千年前アドレアン王の独立戦争の勝利の後私トルメアスの千年前の本人はアドレアン王と深く議論しました。──独立戦争の勝利は、表面的なものに過ぎず千年の構造的な歪みはまだ終わっていないと。

 私はアドレアン王に千年の計画を提案しました。──千年の計画の目的は、大陸全体の千年の調整。アウレリア王国の独立を守りつつハーゲン帝国との構造的な調整を千年続ける」

 「私の計画の特徴は三つの弟子の血の系譜の構想でした。──第一の弟子の血を、アウレリア王家に託す。第二の弟子の血をハーゲン帝国の皇太子家とトレスト家に託す。第三の弟子の血を書記官の家系に、託す」

 稜は頷いた。

 (──エリカ議員の家系のことが、ここで出てくる)

 稜は、続きを読んだ。

 「──しかし私の計画にはもう一つの要素があった。──第二の弟子、セレウス・ヴァランディンの双子の弟エルフラム・ヴァランディン。エルフラムは計画に反対した。──私は、エルフラムの反対を計画の内部に組み込んだ。──いつか千年の計画が最終段階に達した時エルフラムの子孫が計画を止める側に立つ」

 稜は深く頷いた。

 (──エリカ・ライヘンバッハ。──彼女は、計画の内部に最初から組み込まれていた)

 稜は、続きを読んだ。

 「──そして千年の計画の最終段階。──六百五十年前から、千年前の計画の最終段階に何が起こるかを予知するために私は四十年瞑想を続けました。──そして千年前の計画の最終段階に、二人の異邦人が現れることを確認しました」

            ─── ─── ───

 稜は長く息を、吐いた。

 マテウスは、稜の横で静かに見守っていた。

 稜は、次の頁を捲った。

 頁の上に、絵があった。

 二人の男の絵、だった。

 古い、墨で描かれた絵。しかし丁寧に描かれて、いた。

 左の男は、稜だった。

 稜の息が、止まった。

 絵の中の稜は現代日本のスーツを、着ていた。革の手帳を、手に持っていた。──六百五十年前の羊皮紙の上で、稜の姿が現代日本の服装で描かれていた。

 右の男は、神崎だった。

 神崎は、現代日本の紺のコートを着ていた。──稜が、二十年前神崎と最後に酒を飲んだ夜神崎が着ていたコート。稜は、そのコートを覚えていた。

 稜は長く絵を見つめた。

 六百五十年前のトルメアスは二人の現代の姿を、絵で描いていた。──不可能な、ことだった。物理的に、不可能なことだった。──しかし絵は、稜の目の前にあった。

 稜は深く息を、吐いた。

 絵の横にトルメアスの文字が、書かれていた。

 「──二人の異邦人。左の男稜。右の男、玲。──二人は異世界の現代の十五年相棒として共に戦っていた。──しかし玲は、稜を嵌めた。稜は会社を追われた。──そして二人は、共に転生した。アウレリア王国の参謀とハーゲン帝国の宰相として」

 稜は長くその文を見つめた。

 (──二十年前の玲の罪も、千年前の計画の一部)

 稜は深く息を、吐いた。

 しかし稜は、感じた。──これは、計画の内部の一部ではあった。しかし玲の自由意志の罪、でもあった。──二つの層が、同時に存在していた。先日、神崎と議論した構造。「私たちは、駒ではない。踊っている、踊り手」。

            ─── ─── ───

 稜は、続きを読んだ。

 次の頁。──千年の計画の時間軸の概要が、書かれていた。

 「──千年の計画の時間軸。

 千年前:アドレアンの独立戦争。──私トルメアスの千年前の本人が計画を設計。

 九百年前:第一段階——アウレリア王家の独立の確立。

 七百年前:第二段階——ハーゲン帝国の属国化政策の徐々な、進行。

 六百五十年前:私九十二歳の私の最後の予言書の執筆。

 五百年前:第三段階——千年の計画の半ばの点検。三人の弟子の血の確認。

 二百年前:第四段階——アウレリア崩壊。アルベリクと、グラシアスとアレクの三者の計画的な自己犠牲。

 百五十年前:ルドヴィクの属国化受諾。千年の計画の最終段階の入り口。

 現在:第五段階——二人の異邦人の転生。千年の計画の書き直し」

 稜は長くその時間軸を読んだ。

 (──二百年前のアウレリア崩壊が、計画的な自己犠牲だった)

 稜は深く息を、吐いた。

 「マテウス殿。──二百年前のアルベリク一世とグラシアスとアレクの三者の関係。──私は、これまで表の歴史で知っていた。──しかし計画的な自己犠牲という解釈は初めて聞いた」

 マテウスは頷きを返した。

 「稜殿。──二百年前のアウレリア崩壊は、表面的には敗戦とされています。──しかしトルメアスの計画の内部では、それは自己犠牲として設計されていた可能性があります」

 稜は頷きを返した。

 (──アレク王弟のことを、もう一度調査する必要がある)

            ─── ─── ───

 稜は、頁を捲り続けた。

 予言書の本体は、約三十頁。──しかし稜が、頁を捲るごとに徐々に文字が薄くなっていった。

 最後の十頁は、ほとんど何も書かれていなかった。──消えて、しまったわけではなかった。最初から、書かれていないようだった。

 最後の頁。

 頁の上に、トルメアスの最後の文字が書かれていた。

 「──二人の異邦人よ。

 この断片は全体の一部に過ぎない。

 完全版は、千年の計画のさらに深い場所に封じられている。

 君たちが計画の全貌を知る時が来たら完全版は自ずから姿を現す。

 ──六百五十年前、私トルメアスの思考の継承者の一人」

 稜は長くその文を見つめた。

 (──完全版はまだ見えて、いない)

 稜は深く息を、吐いた。

 マテウスが、静かに口を開いた。

 「稜殿。──予言書は、断片に過ぎないとトルメアスは書いております。──完全版は、別の場所に封じられていると」

 稜は黙って頷いた。

 「マテウス殿。──完全版は、どこにあるのか」

 マテウスは長く考えた。

 「稜殿。──私は知らない。──しかしトルメアスの文章では、『君たちが計画の全貌を知る時が来たら完全版は自ずから姿を現す』とある。──つまり稜殿と神崎閣下の調査が進むごとに完全版に近づいていく可能性がある」

 稜は無言で頷いた。

            ─── ─── ───

 稜は長く予言書を見つめた。

 断片である、しかし断片の中に決定的な証拠があった。──二人の異邦人の絵。トルメアスの千年の計画の設計。──そして最後のメッセージ。

 稜は深く息を、吐いた。

 胸の中で、新しい決意が宿っていた。

 稜は低く呟いた。

 「玲」

 神崎の名を呼んだ。──しかし神崎は、帝都にいた。稜の声は、第五層の石壁に静かに反響しただけだった。

 「──俺たちは、千年前に選ばれた」

 稜は続けた。

 「しかし計画の全貌はまだ見えて、いない。──完全版は、どこに封じられているのか」

 マテウスは、稜を長く見つめた。

 稜は、立ち上がった。

 予言書を、丁寧にガラスケースの中に戻した。マテウスが、ガラスケースの蓋を閉めた。

 稜と、マテウスは第五層を出た。──しかし扉は、閉めなかった。マテウスが、四人の弟子も招き皆で予言書を確認する必要があった。

 第五層から、第四層へ第三層第二層第一層を抜けた。──表の書架の広間に戻った時、稜は四人の弟子を呼びに行くことを決めた。

 「マテウス殿。──四人の弟子を呼びます。──予言書を、皆で確認します」

 マテウスは一度頷いた。

            ─── ─── ───

 午後、二時。

 稜、セレネロッテ、クロヴィスマテウスの五人は再び第五層に入った。──そしてガラスケースの中の予言書を、五人で確認した。

 最初の頁の、「二人の異邦人へ」の宛先を四人の弟子は長く見つめた。

 セレネが、深く息を吐いた。

 「師。──六百五十年前のトルメアスが稜殿と神崎閣下のことを予知していたと」

 稜は静かに頷いた。

 「殿下。──そうです。──予言書は、断片です。しかし断片の中に、決定的な証拠がある」

 稜は、頁を捲った。──二人の異邦人の絵を、四人の前に見せた。

 ロッテが、長く絵を見つめた。

 「師匠。──稜殿と、神崎閣下の現代日本の姿が六百五十年前の羊皮紙に描かれている」

 ロッテの声は、震えていた。

 稜は頷いた。

 「ロッテ。──六百五十年前のトルメアスは何らかの形で、二人の未来を予知していた」

 クロヴィスが、長く絵を見つめた。

 「師匠。──祖父様の手稿の最後のメッセージ『沈黙は時に罪を覆う。しかし沈黙は、時に愛を守る』。──祖父様も何らかの形で千年の計画の構造を感じていた可能性がある」

 稜は小さく頷いた。

 「クロヴィス。──そう、だ」

 稜は続けた。

 「皆様。──千年の計画の時間軸を、お見せします」

 稜は、頁を捲った。──千年の時間軸の頁。──四人の弟子は長くその頁を見つめた。

 千年の組み立て図。アドレアンから、始まりトルメアスが予言しアルベリクが崩壊を実行し稜と玲が書き直す千年の計画。

 セレネが、深く頷いた。

 「師。──千年の計画は、設計の上に立っていた。──そして私たちは、その設計の最終段階の当事者として立っている」

            ─── ─── ───

 しばらく、五人は予言書の前で長く立っていた。

 第五層の空気が、五人の頭の上で静かに止まっていた。

 稜は長く深く息を、吐いた。

 そして四人の弟子と、マテウスを見た。

 「皆様。──予言書は断片です。完全版は、別の場所に封じられている。──しかし断片で十分私たちの覚悟を確認できます」

 稜は続けた。

 「皆様。──千年前のトルメアスは二人の異邦人が千年の計画を書き直すと予知しました。──しかし書き直す、内容をトルメアスは設計していません。──書き直す内容は私たちが決める」

 四人の弟子と、マテウスは同意の表情を浮かべた。

 「皆様。──私たちは、千年前の設計の駒ではない。──私たちは、千年の設計の内部で自分たちの足の運びを自分で選ぶ踊り手です」

 稜は長く息を、吸った。

 「──書き直す。俺と、玲は千年の計画をこの時代に合わせて書き直す」

 セレネ、ロッテ、クロヴィスが何度か頷いた。

 マテウスも深く頷きを返した。

 稜は、予言書の最後の頁を静かに閉じた。

 そしてガラスケースの中に戻した。マテウスが、蓋を閉めた。

 第五層の青白い、光の中で五人の決意が静かに響いていた。

            ─── ─── ───

 夕刻。

 稜は、王宮の書斎に戻っていた。

 窓辺に、立った。若葉月、半ばの夕陽が王宮の白い壁を金色に染めていた。──稜の胸の中で、予言書の断片の内容が繰り返し回っていた。

 稜は、革の手帳を開いた。

 最初の頁の裏に、いくつもの紙が挟まっていた。──稜は、新しい紙を添えた。

 書いた、一行。

 「──トルメアスの予言書断片発見。二人の異邦人の絵、確認。完全版は別の場所に封じられている。──次の調査の方向:完全版の場所」

 稜は、紙を革の手帳に挟んだ。

 稜は、机の前で長く座っていた。

 胸の中で、神崎の声が響いていた。──帝都でのある夜の神崎の言葉。「私たちは、千年の計画の駒ではない。──しかし千年の計画の上で、踊っている踊り手」。

 稜は低く呟いた。

 「玲。──予言書の断片を見つけた。──二人の異邦人の絵も、見た。──完全版はまだ見つかって、いない」

 稜は続けた。

 「──しかし玲。──書き直す内容は俺たちが決める。──千年前のトルメアスは書き直す、内容を設計していない。──だから私たちは自由だ」

 窓の外で、夕陽が徐々に沈んでいた。

 空が、紫に変わりつつあった。最初の星が、空に現れた。

 稜は深く息を、吐いた。

 胸の中で、新しい決意が宿っていた。──千年の計画の書き直しは、断片の発見だけでは終わらない。完全版を見つける、調査がこれから始まる。──そしてその過程で、稜と玲は自分たちの足の運びを自分で選ぶ。

 帝都ヴェルデンの神崎にも、密書を送る必要があった。──予言書の断片の発見の報告。

 稜は、机に座って羽ペンを取った。

 神崎への密書を書き始めた。

 「玲。──予言書の断片を発見した。──二人の異邦人の絵を、確認した。──完全版は別の場所に封じられている。──次の調査の軸は、完全版の場所だ。──いつか再会する時共に議論しよう」

 稜は、密書を丁寧に折り畳んだ。封蝋を押した。

 窓の外で、若葉月半ばの夜が深まりつつあった。

 千年の予言書を巡る調査が、今日本格的に始まっていた。

トルメアスの予言書、ついに描けました。

六百五十年前の予言書に、現代日本の服装の二人の絵が描かれている衝撃。

この場面、構想段階から最も書きたかった場面の一つです。

「二人の異邦人」が、ここで完全に物語の中心に立ちます。

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