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霧峰の古戦場、フィオナの巡礼

 夜明け前、アルデス公の私邸のフィオナの病室の扉をアルデス公は静かに開けた。

 部屋の中は暗かった。窓の鎧戸が少しだけ開いていた。その隙間から、春の最初の光が薄く差し込んでいた。

 北の砦から昨日の夕刻、馬車で帰還していた。アウリオンの王宮ではなく、アウリオンの北の郊外のアルデス公の私邸に直接戻った。私邸は王宮から馬車で一時間。フィオナは三ヶ月、ここで病に伏していた。三日間の北への旅で、フィオナの体は限界に近かった。

 ベッドの上で、フィオナは目を開けていた。痩せた顔。三ヶ月の病の痕跡。頬の骨が浮いていた。唇の色が薄かった。しかしその目はまだ強い光を持っていた。三十五歳の女性の目。十五年夫を愛し、二十年父を弔い三年前から二十年の悲しみの根源を知って生きてきた女性の目。

 アルデス公はベッドの横の椅子に、腰を下ろした。フィオナの手を両手で握った。痩せた、しかし温かい手。アルデス公の指が、フィオナの指の細さを感じた。

 「アルデス」

 フィオナが静かに口を開いた。

 「昨夜父が夢に出てきたの」

 アルデス公は息を呑んだ。

 フィオナの父。マルティン・ヴィレーヌ。二十年前、霧峰の戦いで二十二歳で死んだ兵士。フィオナは続けた。

 「父が私に言ったの。『霧峰の古戦場を見に来なさい』。そこに私の最後の場所がある、って」

 アルデス公は長く沈黙した。オルヴァン将軍の昨日の告白が、まだ胸の中で回っていた。霧峰の真の敗因。内部からの情報漏洩。クルビット家先代の罪。──その真相を今フィオナに告げるべきか。

 しかしアルデス公はフィオナの目を見て、すぐに悟った。

 告げる必要はなかった。

 フィオナは既に知っていた。三年前から。

            ─── ─── ───

 「フィオナ」

 アルデス公の声は震えていた。

 「霧峰の古戦場、一緒に行こう。今日これから出発する」

 フィオナは一瞬、目を閉じた。そして開けた。

 「──病の体で、長旅は無理よ」

 「馬車を最も優しく整える。医師も同行させる。稜殿とオルヴァン将軍も共に行く」

 フィオナは深く頷いた。目に小さな光が宿った。

 「──ありがとう、アルデス」

 アルデス公は、フィオナの手を両手で強く握った。涙が、滲んだ。しかし流れなかった。アルデス公は、その涙を後で流すと決めていた。今はまだ夫としてフィオナの最後の願いを叶えるための力を保たなければ、ならなかった。

 扉が、ノックされた。

 ミラベル医師が、入ってきた。五十代の痩せた、女性。三十年の王宮医師の経験。三ヶ月、フィオナの病に寄り添ってきた医師。

 「アルデス公」

 ミラベル医師は静かに告げた。

 「──奥様のお体は、今日の長旅に耐えられる限界です。明日では、間に合わない可能性があります」

 アルデス公は小さく頷いた。

 「ミラベル殿。──今日出発、する」

 ミラベル医師は、一礼して退いた。準備を始めるため、だった。

            ─── ─── ───

 最上の馬車が、午前九時に出発した。

 四頭立て。ゆっくりとした、歩み。揺れを、最小限にするため。車内にはフィオナアルデス公、ミラベル医師。馬車の奥の特別な、寝台が設えられていた。フィオナは、その寝台に横たわっていた。クッションと、毛布で体を支えられて。

 稜と、オルヴァン将軍が馬で馬車の横を進んだ。

 ジャスパーが、後方を警備した。

 アウリオンから、霧峰の古戦場までは馬車で半日の距離。北の街道を、登っていく。アルデス公の私邸を、出てすぐに街道は徐々に高度を上げ始めた。セイラン地方への街道。三日前、稜とアルデス公が北の砦に向かった同じ街道。しかし今日は、もっと近い。霧峰の古戦場は、北の砦より手前に位置していた。

 馬車の中で、フィオナはアルデス公の肩に頭を預けていた。

 アルデス公が、フィオナの手を握っていた。

 しばらく、二人は何も話さなかった。

 馬車の車輪が、街道の石畳をゆっくりと回る音だけが聞こえていた。

 「アルデス」

 フィオナが、静かに口を開いた。

 「──十五年の思い出を、少し話していいかしら」

 アルデス公は深く頷いた。

 「もちろんフィオナ」

 フィオナは、目を閉じた。そしてゆっくりと語り始めた。

            ─── ─── ───

 「十五年前。セイラン地方の教会の裏の小さな、庭で私あなたに出会ったわ」

 フィオナの声は、低かった。

 「あの日私教会の下働きで井戸の水を汲んでいたの。井戸の水が、冷たかった。手が赤くなった。──そこに、あなたが立っていた。父王ヴィルフレッド王の息子として初めて教会を訪ねた若い王子として」

 「あなたは私を見て最初何も言わなかった。私は、王子に井戸の水を汲ませることになって慌てた。──しかしあなたは私の手を見てこう言ったの。『──井戸の水で、手が赤くなるね』。それだけだった」

 フィオナは、微かに笑った。

 「あの一言で、私あなたに恋を、したの」

 アルデス公は、フィオナの手を強く握った。

 「フィオナ。──僕も、あの日あの井戸の前で君に恋をした。──君の赤くなった、手を見た瞬間何か温かいものが僕の胸の中に流れた」

 フィオナは続けた。

 「八年前。──アウリオンの王宮の小さな礼拝堂で私たち結婚したわ。父王、ヴィルフレッド王とレオン様が立ち会ってくれた。父王は私の手を両手で握ってこう言ったの。『フィオナ殿。──息子を、よろしくお願いいたします。──そして許してほしい。父王、ヴィルフレッドの独立戦争の勝利の代償を』」

 アルデス公の息が、止まった。

 (──父王は、フィオナに最初からそれを告げていた)

 「父王は結婚式のその瞬間に私に許しを求めていた。──私は、父王にこう答えた。『父王ヴィルフレッド様。──私は、許す権利はありません。父も母ももういません。私が、許せるのは。──ただ私自身の人生だけです。私は私の人生を許してアルデス殿下と結婚いたします』」

 アルデス公は、長くフィオナを見つめた。

 「フィオナ。──君は、八年前既に千年の歪みの構造を理解していた」

 フィオナは、微かに笑った。

 「アルデス。──私は十五歳で父を失った。十五年で、母も失った。二十歳であなたに出会った。──私は、ずっと考えてきたの。誰を憎むべきか。何を許すべきか。──答えは最後に見つかった。私は、誰も憎まない。──ただ千年の構造を見つめ続ける」

            ─── ─── ───

 馬車は、続けて進んだ。

 「半年前」

 フィオナは続けた。

 「──三人目の子を、亡くしたわ」

 アルデス公の目に、涙が滲んだ。流さなかった。

 「私たち三人の子を亡くした。最初の子は、十年前。流産だった。二番目の子は五年前。生まれて、三日で亡くなった。そして半年前三人目」

 「半年前の子は五ヶ月のお腹の中だった。私の病が、分かったのはその後。──医師は私の肝臓の病が子に影響したかもしれないと言った」

 フィオナは深く息を、吐いた。

 「私三年前から自分の母のことを考えていたの。母も、夫を失って次の子を流産した。私はその母の悲しみの後生まれた二番目の子。──母は、夫の死と流産で心を壊した。──私は母と同じ道を辿るのが怖かった」

 「しかし半年前三人目の子を亡くした後。──私、初めて母を完全に理解できた。母の悲しみの深さを母の心の壊れ方を。──母は、私を十五歳まで育ててくれた。十五年心を壊しながら私を育ててくれた。──母の強さを、半年前私初めて知った」

 フィオナは、目を閉じた。

 「アルデス。──私もう母に会いたい。父にも、会いたい。──二十年私一人で二人を弔ってきた。今日最期に、二人と再会する」

 アルデス公は、フィオナを強く抱きしめた。

 馬車の外で、稜が馬を進めていた。馬車の中の二人の対話を、稜は聞いていなかった。しかし馬車の揺れと、その奥に流れる深い沈黙を稜は感じていた。

 窓の外の風景が、徐々に変わっていた。アウリオンの平らな、街道から徐々に丘陵地帯へ。そして谷間へ。馬車は、霧峰の街道に入っていた。

 フィオナは、窓の外の風景を見た。

 「アルデス。──この風景を、父も二十年前に見たのね」

 アルデス公は黙って受け止めた。

 「──そうだ。お義父上も、この風景を見ていた」

            ─── ─── ───

 正午、馬車は霧峰の古戦場の入り口で止まった。

 夏至の日の強い光が、空から降りていた。空は高く澄んだ、青だった。雲は、ほとんどなかった。空気は、熱くしかし乾いていた。風が、北から静かに吹いていた。草の濃い、緑の匂いが漂っていた。夏の最も強い、光の日。

 稜と、オルヴァンが馬を降りた。

 ジャスパーが、馬車の扉を開けた。

 ミラベル医師が、先に降りた。そしてアルデス公が、降りた。最後に、フィオナがミラベル医師とアルデス公の二人に支えられてゆっくりと降りた。

 フィオナは、立った。

 しかし自分の脚で、立つのは限界だった。アルデス公が、フィオナの腰を支えた。フィオナは深く息を、吸った。そして目を開いた。

 古戦場が、目の前に広がっていた。

 二十年前、霧峰の戦闘の舞台だった谷間。二十年が、経ち今は静かな草原。緑の草が、谷間を広く覆っていた。野の花が、所々咲いていた。白い紫の淡い黄色の小さな花。風が、草を静かに揺らしていた。

 そしてその草原の真ん中、谷間の最も開けた場所に。

 五百の白い石碑が、並んでいた。

 手のひらほどの大きさの白い大理石。一つ一つに、兵士の名前と年齢が刻まれていた。アルデス公が、二十年一つずつ建てた石碑。最初は、父ヴィルフレッド王と共に。父王の死後は、アルデス公が一人で続けた。二十年で、五百三十七全ての戦死者の石碑が整列していた。

 夏至の日の強い光が、白い大理石を白く照らしていた。

 石碑の列は静かに広がっていた。何の装飾も、ない。しかしその静けさが、何より深く五百人の死を語っていた。

 フィオナは長くその光景を見つめた。

 そして静かに呟いた。

 「──父さん、母さん私の半分の兄弟たち。──私、来ました」

            ─── ─── ───

 フィオナは、アルデス公に支えられて石碑の列をゆっくりと歩いた。

 石碑の一つ一つに、名前が刻まれていた。フィオナは、いくつかの名前を読みながら進んだ。マルクス・ベネデット、二十五歳。レオン・カワン、十九歳。ハインリヒ・ファーブル、三十一歳。──全て、二十年前霧峰で死んだ兵士たち。

 草原を、ゆっくりと進んだ。

 石碑の列の中ほどで、アルデス公が止まった。フィオナをある、一つの石碑の前に導いた。アルデス公は、十五年前フィオナと結婚する前からその石碑の位置を知っていた。父王から、託されたフィオナの父の名前。アルデス公が、二十年前まだ二十一歳の王子の頃父王と共に最初に建てた石碑の一つ。

 フィオナは、石碑の前で立ち止まった。

 石碑の表面に、刻まれていた。

 「マルティン・ヴィレーヌ、二十二歳、アウレリア第三歩兵隊」

 フィオナの息が、止まった。

 長くその名前を見つめた。

 二十二歳。父が、死んだ年齢。フィオナが、まだ生まれていなかった頃。父の二十二年の人生。母と、結婚して半年。妻のお腹に、子がいた。──そして霧峰で、死んだ。

 夏至の日の強い光が、石碑を白く照らしていた。

            ─── ─── ───

 フィオナは、ゆっくりと石碑の前に座り込んだ。

 アルデス公が、フィオナの体を支えた。しかしフィオナは、首を横に振った。

 「アルデス。──少し、離れて。父と、二人にして」

 アルデス公はゆっくりと頷いた。

 稜、オルヴァンミラベル医師と共に五歩後ろに下がった。

 フィオナは、石碑に手を触れた。

 石の冷たさと、夏至の日光の温かさが同居していた。フィオナの痩せた、指が石碑の上に置かれた。指先で、父の名前を撫でた。「マルティン・ヴィレーヌ、二十二歳」。

 フィオナは静かに口を開いた。

 声は、小さかった。しかしはっきりしていた。

 「父さん。──二十年ぶり、ね。私、三十五歳になったわ」

 フィオナは続けた。

 「父さんが死んだ時私はまだ母のお腹の中だった。母は、父さんの死の知らせを受けて流産した。──私はその二年後に生まれた二番目の子。母は、私を十五歳まで育ててくれた。それから私は父さんを一人で弔ってきた」

 フィオナの声が、少し震えた。

 「十五年前私はアルデス公に出会ったわ。独立戦争の指揮者、ヴィルフレッド王の長男。私はその人と恋に落ちた。最初、私は自分を許せなかった。父を殺した戦争の指揮者の息子を愛するなんて」

 「しかし十年前アルデスは私に告げた。『僕は、父王の独立戦争の本当の代償を知っている。僕は君の父の死に責任を感じている』と」

 「私はその時分かったの。父さんを、殺したのはアルデスでもヴィルフレッド王でもない。──千年の大陸の歪みだった」

 フィオナは深く息を、吸った。そしてゆっくりと続けた。

 「父さん。──今私分かっているの。三年前、私昔の王宮の図書室のある女性書記官から霧峰の情報漏洩の真相を偶然聞いたの。父さんの死は戦争の戦死ではなく内部からの情報漏洩による計画的な『駒の消耗』だったって」

 アルデス公の息が、止まった。

 (──フィオナは、三年前書記官の女性から聞いていた)

 稜は、その対話を五歩後ろから聞いていた。書記官の女性。──稜の頭の中に、一瞬ある女性の顔が浮かんだ。しかし稜は、その顔をまだ誰にも告げなかった。後で確認する、ことだった。

 フィオナは続けた。

 「父さん。──私、怒らない」

 長い沈黙が、流れた。

 夏至の日の風が、フィオナの髪を静かに揺らした。

 フィオナは続けた。

 「許さない、けど、怒らない」

            ─── ─── ───

 アルデス公の目に、涙が流れた。

 稜は深く息を、吸った。

 オルヴァンの目にも、涙が滲んだ。

 ミラベル医師は、両手を口元に当てた。

 フィオナの声は、続いた。

 「許さない。──父さんの死をもたらした漏洩は許せない。五百人の死は、許せない。──しかし私は怒らない。怒り、では千年のねじれは解けない。──私は父さんの死を憎しみではなく受容で背負う」

 「それが、私の父さんへの最後の贈り物、です」

 フィオナの声が、徐々に小さくなった。

 しかし声は、止まらなかった。

 「父さん。──二十年私一人であなたを弔ってきた。今日最期に、あなたと五百人の仲間たちと再会できた。──父さん母さん私の半分の兄弟たち。──私、もう行くね」

 フィオナは、石碑の上に両手を置いた。

 そしてアルデス公が、事前に用意した小さな花束を石碑の隣に置いた。

 白い、忘れな草の束。

 夏至の日の強い光の中で、白い花が震えた。

 フィオナは、立ち上がろうとして力が抜けた。

 アルデス公が、駆け寄った。フィオナの体を、支えた。フィオナは、アルデス公の肩に頭を預けた。

 「アルデス。──ありがとう」

 フィオナの声は、小さかった。

 「あなたが今日私をここまで連れて来てくれた。──あなたが、十五年私を愛してくれた。──あなたが私の人生の半分を与えてくれた」

            ─── ─── ───

 アルデス公は、フィオナを強く抱きしめた。

 涙が、止まらなくなった。三十八歳の男の涙。深い深い、涙。

 「──二十年」

 アルデス公の声は、震えていた。

 「父王の独立戦争の代償を、今日ようやく僕は、理解した」

 稜が、アルデス公の肩に静かに手を置いた。アルデス公は、稜の手の温かさを感じた。

 「アルデス公」

 稜の声は、静かだった。

 「──あなたの二十年の遺族訪問は、計画の中の駒ではなかった。あなたの善意は、計画を超えていた」

 アルデス公は、頷きながら涙を流し続けた。

 オルヴァンは、少し離れた位置で一人五百の石碑の列を見渡していた。低く呟いた。

 「──五百人。私の指揮で、死んだ五百人。──今日ようやく彼らの魂の一つと、再会できた」

 オルヴァンの目にも静かな涙が、流れた。

 夏至の日の強い光が、四人の男と女を白く照らしていた。

 風が、五百の石碑の間を静かに流れていた。

 二十年の悲しみの根源と、二十年の愛の深さと二十年の執念の結実が夏至の白い光の中で一つの静かな巡礼として結ばれていた。

            ─── ─── ───

 午後五時。

 夕暮れの光が、霧峰の古戦場を金色に染め始めた。

 フィオナは、アルデス公に支えられて馬車に戻っていた。古戦場を、去る前フィオナはもう一度石碑の列を見渡した。

 夕陽が、五百の石碑を金色に染めていた。白い、大理石が夕方の光の中で温かい金色に変わっていた。

 「アルデス」

 フィオナは静かに呟いた。

 「──父さんは、今五百人の仲間たちと一緒にいるのね」

 アルデス公は深く頷きを返した。

 「──そうだ。お義父上は、一人じゃない」

 フィオナは、微笑んだ。

 二十年の重みから、解放された静かな微笑み。痩せた、頬が夕日の金色に染まっていた。

 「──父さん。もう行くね」

 フィオナは、馬車に乗った。アルデス公が、フィオナの横に座った。窓の外の古戦場を、フィオナは最後に見つめた。

 馬車が、ゆっくりと動き始めた。

 古戦場の夕暮れが、徐々に遠ざかった。五百の石碑の列が、夕日の金色の中で徐々に小さくなっていった。

 フィオナは、アルデス公の肩に頭を預けた。

 「──アルデス。私、もう疲れた」

 フィオナの声は、小さかった。

 「でも、幸せよ。──父さんと、会えた」

 アルデス公は、フィオナを強く抱きしめた。

 涙が、また流れた。しかしその涙は、悲しみだけではなかった。深い、深い感謝でもあった。十五年、共に生きてくれた女性への。十五年、彼の独立戦争の勝利の影を許してくれた女性への。十五年、千年のひずみを共に背負ってくれた女性への。

 稜と、オルヴァンが馬で馬車の後ろに続いた。

 夕陽が、古戦場の地平線に沈んでいった。

 空が、金色から紫へ静かに変わっていった。

 フィオナの最期の巡礼が、夏至の日の夕暮れの中で静かに終わった。

 しかしそれは、終わりではなかった。──二十年の悲しみの根源が、フィオナの巡礼で一つの形を得て五百人の兵士の魂とフィオナの父の魂が夏至の白い光の中で共に安らぎを得た。

 その後ろに、新しい何かが生まれていた。

 千年の歪みを見つめ続ける、女性の最後の贈り物として。

フィオナの霧峰巡礼。

第二部の中で、書くのが一番怖かった回かもしれません。

「怒らない、けど、怒らない」「憎しみではなく、受容で、背負う」のセリフ、何度も書き直しました。

夏至の白い光に包まれる四人を書きながら、自分も浄化されるような感覚でした。

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