表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
100/130

新しい三人、そして帝都の夜明け

 葉萌月三十日目、午前十時。

 ハーゲン帝国、元老院議場。

 昨日の神崎の退任の儀の翌朝。──六十の議員たちが、議場の椅子に座っていた。──しかし議員たちの表情は、昨日の午前と別の深さを持っていた。──昨日の儀式の後、議員たちはそれぞれの屋敷で長く考えたはずだった。──二十年の宰相の退任。──皇太子から皇帝への即位のご準備の宣言。──そしてヴィスカルトとセレネの結婚の公的な宣言。──全てが、議員たちの内面の最も深い層を揺さぶり続けた夜。

 議席の奥の上座に、ヴィスカルト皇太子。──黒の礼服、胸に銀の翼のブローチ。──議席の中央の演説台に、ヘルマン新宰相四十五歳。──青い礼服。──宰相の印を、両手で持っていた。

 二階の傍聴席。──最前列に、セレネ・アウレリア・アルヴェリア王女十六歳。──白絹のドレス。──そしてエリカ議員と神崎前宰相。──神崎は宰相の青い礼服ではなく、簡素な白いシャツに紺の外套。──プライベートの姿。──二十年ぶりの参謀の姿勢。

 稜は議場の奥の立席で、長く議場を見つめていた。──昨日の儀式の後、稜は長く考えていた。──過去二ヶ月半の帝都の瞬間が、ようやく結実しつつあった。──そして最終的な章の刹那が、もうすぐ来る。

 ヘルマン新宰相が深く息を吸った。

 「議員、皆様」

 ヘルマンの声は、議場の円形の空間に深く響いた。──十年の副宰相としてのご経験の深さが、声に宿っていた。

 「──昨日の神崎前宰相の退任の儀の後、過去十二時間議員皆様は、それぞれの屋敷で長くお考えいただいたと思います」

            ─── ─── ───

 ヘルマンは長く議員たちを見渡した。

 「──皆様。──本日、私は新しい宰相として議員皆様に最終的なご決断をお伺いいたします」

 ヘルマンは一度息を吐いた。

 「──皆様。──千年の計画の構造の開示。──そして千年の計画の書き直しの最終形——民への公開——の設計の本格的な進行へのご賛同。──元老院としての最終的なご決断の瞬間です」

 議員たちが深く息を吸った。──昨日の儀式の後の最初の公的な決断の時。

 ヘルマンは続けた。

 「──皆様。──ご投票をいたします」

 保守派の議員リーダー、ハインツ・フォン・グラフが立ち上がった。

 「ヘルマン宰相。──保守派の議員としてお話いたします。──昨日の儀式の後、私は保守派の議員二十八人と長く対話いたしました」

 ハインツは長く議場を見渡した。

 「──ヘルマン宰相ヴィスカルト殿下、神崎前宰相稜・タカギ殿、セレネ殿下。──保守派の議員二十八人の内十二人が千年の計画の骨格の開示の本格的な進行に、ご賛同いたします。──残り十六人はまだ深く迷っております」

 ヘルマンは無言で頷いた。

 「ハインツ殿。──保守派の議員たちの徐々の揺れ、深く受け止めます」

 ハインツは続けた。

 「ヘルマン宰相。──そして改革派の議員二十人と、中間派の議員十二人。──ご投票のご決断を進めます」

            ─── ─── ───

 ヘルマンは頷きを返した。

 「皆様。──ご投票を開始、いたします」

 六十の議員たちが、それぞれの椅子でご投票の白い玉と黒い玉を両手に持った。──白い玉が、賛成。──黒い玉が、反対。──二百年の議場のご投票の慣習。──議員、たちはそれぞれの椅子の横のご投票の箱に自分の選択の玉を丁寧に入れた。

 約、五分のご投票の場面。

 書記官たちが、ご投票の箱を議場の中央に運んだ。──そしてヘルマンの前で長く玉を、数えた。

 マルセル書記官長が、深く息を吸った。

 「皆様。──ご投票の結果を、お伝えいたします」

 マルセルの声は、低かった。──しかし議場の空間に、深く響いた。

 「──賛成、三十二票。──反対、二十八票」

 議場が、瞬間止まった。──六十の議員たちが、深く息を吸った。──三十二対、二十八。──僅差。──しかし賛成が、過半数を超えた瞬間。──二百年の議場の歴史で、千年の計画の構造の開示の本格的な進行が初めて公式に承認された瞬間。

 ヴィスカルト皇太子が、長く議場を見渡した。──そしてわずかに頷いた。

 「皆様。──ご決断、深く感謝いたします」

 ヴィスカルトは続けた。

 「──皇太子、として私はハーゲン帝国の皇室として元老院のご決断を深く受け止めます」

 ハインツが、長くヴィスカルトを見つめた。──そして無言で頷いた。

 「ヴィスカルト殿下。──保守派の議員として私は過半数の賛成のご決断を、深く受け止めます。──そしてこれからの本格的な進行に徐々にご協力、いたします」

 ヴィスカルトの目に深い感慨が、宿った。

 「ハインツ殿。──ご決意、深い」

            ─── ─── ───

 午後、二時。

 ヘルマンの宰相公邸(昨日まで、神崎の宰相公邸)の応接間。

 九人が、長机の周りに座っていた。──ヴィスカルト、三十四歳。──稜、四十二歳。──神崎、四十一歳。──セレネ、十六歳。──ヘルマン、四十五歳。──エリカ、三十八歳。──マルセル、五十二歳。──ブラン、二十八歳。──そしてクロヴィス、十六歳。──九人の共同の組成者、の骨格。

 午前の元老院のご投票の結果の共有の後、九人は長く対話を続けていた。──ご投票の結果——三十二対、二十八——の深さ。──そしてヴィスカルトと、セレネの結婚の公的な発表の設え。

 ヴィスカルトは深く息を、吐いた。

 「九人の皆様。──そして本日の午後、五時皇宮の正面玄関の広場でヴィスカルトとセレネの結婚の公的な発表の儀式を行う」

 ヘルマンは静かに目を伏せた。

 「殿下。──皇宮の正面玄関の広場での儀式。──帝都の市民、の前で初めて公的に発表される瞬間」

 ヴィスカルトは小さく頷いた。

 「ヘルマン宰相。──そうです。──そして儀式のとき、ハーゲン帝国とアウレリア王国の両方の国旗を皇宮の塔の上に並んで掲げる」

 稜の目が、長くヴィスカルトを見つめた。

 「殿下。──両国の国旗を並んで掲げる、瞬間。──二百年の両国の歴史で初めて」

 ヴィスカルトはゆっくりと頷いた。

 「稜殿。──そうです。──二百年の属国の関係の表面の形を超える、瞬間。──両国の国旗を同等の高さで皇宮の塔の上に並んで、掲げる」

 セレネが、長くヴィスカルトを見つめた。

 「ヴィス。──ご決意、深いです」

 ヴィスカルトはわずかに頷いた。

 「セレネ。──二人の結婚の公的な発表の瞬間。──両国の千年の属国の関係の表面の形を超え、対等な同盟の関係に転換する瞬間」

            ─── ─── ───

 午後、五時。

 ハーゲン皇宮の正面玄関の広場。

 帝都の市民、約五千人が広場に集まっていた。──昨日と、本日の元老院の儀式の噂が徐々に帝都に広がりつつあった。──そして本日、午後五時の結婚の公的な発表の儀式の噂も。

 広場の奥に皇宮の白い、塔。──塔の上に、二つの国旗の設置のためのロープが用意されていた。──しかしまだ両方の国旗は、地上に置かれていた。

 ヴィスカルト皇太子が、皇宮の正面玄関の階段の上に立っていた。──黒の礼服、胸に銀の翼のブローチ。──そしてヴィスカルトの横に、セレネ・アウレリア・アルヴェリア王女十六歳。──白絹のドレス。──首に、母の真珠のネックレス。

 稜と、神崎とヘルマンエリカマルセルブランクロヴィスの七人がヴィスカルトとセレネの後ろに立っていた。──九人の共同の設計者の骨格。

 ヴィスカルトは長く広場を見渡した。──五千人の帝都の市民たちが、ヴィスカルトとセレネを見つめていた。

 ヴィスカルトは深く息を、吸った。

 「帝都の市民、皆様」

 ヴィスカルトの声は、広場に響いた。──そして五千人の市民、たちの空気が瞬間止まった。

 「──本日、皇太子として皆様にご報告することがある」

 ヴィスカルトは続けた。

 「──私ヴィスカルト・バスタン・ハーゲン皇太子。──そしてアウレリア王国の王女、セレネ・アウレリア・アルヴェリア殿下。──二人は二年後結婚することを本日皆様の前で公式に発表、いたします」

            ─── ─── ───

 広場が、瞬間深く揺れた。──五千人の市民、たちの息が瞬間止まった。──ハーゲン帝国の皇太子と、アウレリア王国の王女との結婚の公的な発表。──二百年の両国の歴史で、初めての瞬間。

 ヴィスカルトは続けた。

 「──皆様。──そして二人の結婚は政略結婚では、ありません。──同じ喪失を抱える者としての同盟としての結婚、です」

 ヴィスカルトは深く息を、吐いた。

 「──皆様。──二人の結婚は、両国の千年の対立の仕組みの表面の奥の深い絆の公的な確認のくだりとなる」

 セレネが、ヴィスカルトの横で深く息を吸った。

 「帝都の市民、皆様」

 セレネの声は、静かだった。──しかし広場に、深く響いた。

 「──私の名はセレネ・アウレリア・アルヴェリア。──アウレリア王国の王女、女王候補です」

 セレネは続けた。

 「──皆様。──ヴィスカルト殿下と、私の結婚の刹那私たちは両国の千年の闇の開示の最終形を両国の共同の責任として迎える覚悟、です」

 セレネは黙って頷いた。

 「──皆様。──ご清聴、ありがとうございます」

 広場が、徐々に深い感慨で満ちていた。──五千人の市民、たちの目に深い感慨が宿っていた。──二百年の両国の歴史で、初めての瞬間。──そして二人の若い、皇太子と女王候補の結婚の公的な発表。

            ─── ─── ───

 ヴィスカルトは、皇宮の塔の上を見上げた。──そして塔の上の衛兵、たちに頷きを返した。

 衛兵たちが、ロープをゆっくりと引いた。──そして皇宮の塔の上に、二つの国旗が徐々に掲げられていった。

 左のロープ。──ハーゲン帝国の国旗。──双頭の鷲、剣半月。──黒地に、金の紋章。

 右のロープ。──アウレリア王国の国旗。──金の鷲と、銀の剣。──白地に、金の紋章。

 二つの国旗が、ゆっくりと塔の上に向かって登っていった。──そして同等の高さまで達した、瞬間。──広場の五千人の市民たちが、深く息を吸った。──千年の歴史で、初めてハーゲン帝国とアウレリア王国の両方の国旗が皇宮の塔の上で同等の高さで並んで掲げられた、瞬間。

 二百年の属国の関係の表面の形が、こうして対等な同盟の関係に転換した瞬間。

 稜は長く塔の上の二つの国旗を見つめた。──胸の中で、二百年前のアウレリア崩壊の瞬間が響いていた。──そして初代バスタンの墓碑のグラシアスの遺言。「──二百年後異邦人が、我らの物語を書き直す。──その日まで国を、保て」。──二百年の待ちの後、異邦人がようやく物語を書き直しつつあった。

 神崎が、稜の横で長く塔の上を見つめていた。──そして無言で頷いた。

 「稜。──二百年の属国の関係の表面の形が、対等な同盟の関係に転換した瞬間」

 稜は深く頷きを返した。

 「玲。──そうだ。──二百年前のグラシアス殿の遺言が、ようやく結実した瞬間」

            ─── ─── ───

 夜、午後九時。

 帝都の月の下。

 九人が、ヘルマンの宰相公邸の英国風の庭で丸い円形の配置で座っていた。──皇宮の正面玄関の儀式の後、九人で長く夕食を共にしていた。──そして夕食の後、庭に出て月の下で深い対話を続けていた。

 円形の中央に、簡素な机。──机の上に、九つのグラスとハーゲン帝国の伝統の白いワイン。──マルセル書記官長が、丁寧に九つのグラスに白いワインを注いでいた。

 九人。──稜、神崎ヴィスカルトセレネヘルマンエリカマルセルブランクロヴィス。

 夏萌月の満月から、葉萌月の満月まで約二ヶ月。──しかし本日は、葉萌月三十日目。──月は、新月に近づきつつあった。──しかし月光はまだ淡く英国風の庭を照らして、いた。

 稜は深く息を、吐いた。

 「皆様」

 稜の声は、低かった。──しかし奥に深い感慨が、宿っていた。

 「──過去二ヶ月半私は帝都に何度も訪れ皆様と共に千年の計画の書き直しの設計を進めて、参りました。──そして過去二週間最も深い人間ドラマの瞬間が結実、いたしました」

 稜は続けた。

 「皆様。──九人、それぞれの過去の層を共有いたしましょう」

 稜は小さく頷いた。

 「──私から、お伝えいたします」

            ─── ─── ───

 稜は長く月を見上げた。

 「皆様。──私は前世の世界では、コンサルタントでありました。──そして神崎と十数年の参謀の相棒、でした。──しかし二年前神崎が私を、嵌めた。──私は会社を追われた」

 稜は深く息を、吐いた。

 「──そして二年半前私と神崎は共に転生、した。──最初の二年半私は神崎を敵と見て、いた。──しかし契約更新日の月の庭で私たちは和解、した」

 稜は続けた。

 「──そして過去二ヶ月半神崎と共に千年の計画の書き直しの組み立てを進めて、来ました。──十数年の参謀の関係の新しい章が本格的に立ち上がりつつ、ある」

 神崎が、深く目を伏せた。

 「稜。──私の番、だ」

 神崎は深く息を、吐いた。

 「──皆様。──私は二年前稜を嵌めた、男です。──十五年共に戦った相棒の稜から十年分の仕事の成果を、奪った」

 神崎は続けた。

 「──皆様。──そしてその後私は罪の意識で酒に、溺れた。──私の人生は徐々に崩壊していった。──そして二年半前、転生してハーゲン帝国の宰相になった」

 神崎は深く息を、吐いた。

 「──皆様。──二十年私は稜への罪を抱えながら宰相の立場で孤独に戦って、来ました。──そして過去二ヶ月半稜と共に書き直しの設計を進めて私の孤独が、徐々に解け始めた」

 神崎の目に深い感慨が、宿った。

 「──皆様。──そして十年前奥様のご逝去。──二重の孤独。──しかし本日、二十年の宰相からの退任と参謀の立場への回帰の後孤独が徐々に新しい形に変わりつつある」

            ─── ─── ───

 ヴィスカルトが、溜息をついた。

 「皆様。──私の番、です」

 ヴィスカルトは長く月を見上げた。

 「──皆様。──私は十二歳の時兄ヴァレンを失い、ました。──そしてその兄の最後の場面十二歳の私は一瞬躊躇、しました。──兄の伸ばされた手に私は手を伸ばさ、なかった」

 ヴィスカルトは続けた。

 「──皆様。──十九年私はその躊躇を罪として抱えて、参りました。──そして過去十日稜殿と神崎とセレネ殿下の深いお言葉でようやく十九年の自責の層が解放、されました」

 ヴィスカルトの目に深い温かさが、宿った。

 「──皆様。──そして本日過去、二ヶ月半の結実の局面。──二人の結婚の公的な発表。──両国の国旗の対等な、掲揚」

 セレネが、小さく頷いた。

 「皆様。──私の番、です」

 セレネは長く月を見上げた。

 「──皆様。──私は五年前母エリナ前王妃を失い、ました。──公式には心臓発作。──しかし最近、母の毒殺の真相を知りました」

 セレネは続けた。

 「──皆様。──そして母の二十年の文通の活動の続きを引き受ける、覚悟を確認いたしました。──十六歳の女王候補として」

 セレネは静かに頷いた。

 「──皆様。──そして本日二人の結婚の公的な、発表。──二年後十八歳のひととき女王として即位と、結婚の儀」

            ─── ─── ───

 クロヴィスが、深く息を吐いた。

 「皆様。──私の番、です」

 クロヴィスは長く月を見上げた。

 「──皆様。──私は書記官、二年目の若者です。──しかし過去半年深い層を開示、いたしました。──祖父ルクレティウスの手稿の発見。──そして私自身が、二百年前のアレク王弟の子孫であることの確認」

 クロヴィスは続けた。

 「──皆様。──祖父の二十年の沈黙と五十五歳から十年の心臓を蝕まれた、十年の重み。──そして私が祖父の選択の上に立って、おります」

 クロヴィスは軽く首を傾けた。

 「──皆様。──そして本日、九人の共同の設計者として立つ瞬間」

 ブランが、深く息を吐いた。

 「皆様。──俺の番、です」

 ブランは長く月を見上げた。

 「──皆様。──俺は十年傭兵として生きて来た、男。──十年の間千年の計画の内部の駒として使われて、来ました」

 ブランは続けた。

 「──皆様。──しかし過去二ヶ月稜殿、神崎閣下の傍で俺の十年の解放の刹那が訪れ、ました。──そして過去二週間皇宮の地下深部の調査で俺の十年の傭兵の勘がようやく別の形に、活きた」

 ブランはわずかに頷いた。

 「──皆様。──そして本日、九人の共同の組み方者として立つ瞬間」

            ─── ─── ───

 ヘルマンが、深く息を吐いた。

 「皆様。──私の番、です」

 ヘルマンは長く月を見上げた。

 「──皆様。──私は十年副宰相として神崎閣下の傍で仕えて、参りました。──十年私は改革派の議員たちを徐々に育てて、参りました。──しかし徐々の進行しか、できませんでした」

 ヘルマンは続けた。

 「──皆様。──しかし過去十日神崎閣下のご演説とヴィスカルト殿下のご立場の表明と、セレネ殿下のご挨拶。──三つのくだりの後改革派の議員たちの深さが徐々に結実、いたしました」

 ヘルマンは黙って受け止めた。

 「──皆様。──そして本日、新しい宰相としてハーゲン帝国の千年の計画の書き直しの本格的な進行を率いる覚悟です」

 エリカが、深く息を吐いた。

 「皆様。──私の番、です」

 エリカは長く月を見上げた。

 「──皆様。──私は二十年母アンナの毒殺の正体を追って、参りました。──そして二十年の孤独な戦いの後十年前神崎閣下と出会い、ました」

 エリカは続けた。

 「──皆様。──十年私はハーゲン帝国の唯一の女性議員として徐々に改革の軸を進めて、参りました。──しかし過去二週間セレネ殿下とお会いして二十年の孤独が徐々に新しい形に変わりつつ、あります」

 エリカは静かに頷いた。

 「──皆様。──そして本日、九人の共同の設計者として立つ瞬間」

 マルセル書記官長が、小さく息を吐いた。

 「皆様。──私の番、です」

 マルセルは長く月を見上げた。

 「──皆様。──私は三十年書記官としてハーゲン帝国の内部の文書を見守って、参りました。──そして千年の計画の構造の内部の文書を丁寧に整理、して参りました」

 マルセルは続けた。

 「──皆様。──過去二ヶ月半稜殿と神崎閣下の傍で千年の計画の書き直しの組成のために過去の文書を整理、して参りました。──そして本日九人の共同の設計者として立つ、瞬間」

            ─── ─── ───

 九人の過去の層の共有が、終わった。

 しばらく、九人は深く沈黙した。──月光が、英国風の庭を淡く照らしていた。──そして皇宮の白い、塔のシルエットが月光の下で淡く輝いていた。

 稜は、九つのグラスを長く見つめた。──そして深く息を、吐いた。

 「皆様。──九人、それぞれの過去の層共有いたしました」

 稜は続けた。

 「皆様。──そして千年前アドレアン王とザラフ参謀の二人で立った、瞬間。──二百年前グラシアスアルベリク一世アレク王弟の三人で立った、瞬間。──そして本日九人で立つ、瞬間」

 稜は無言で頷いた。

 「──皆様。──乾杯、いたしましょう」

 九人は、それぞれのグラスを両手で取った。

 稜は長く月を見上げた。

 「──千年の闇を、我々の代で民の光に変える」

 稜は続けた。

 「──乾杯」

 九人のグラスが、月光の下で深い音を立てた。──カチン、カチンカチン。──九つの深い、音。──そして九人は、ゆっくりと白いワインを飲んだ。

 夏の初めの温かい、夜。──そして月光の下の九人の共同の設計者の絆の深さ。──二百年の両国の歴史で、最も深い瞬間の一つ。

 ヴィスカルトが、長く九人を見渡した。

 「──皆様。──ありがとう、ございます」

 ヴィスカルトの目に深い温かさが、宿っていた。──過去、十九年抱えて来た孤独の層がようやく新しい形に変わりつつあった。──そして九人の共同の設計者の絆の中で、新しい章を迎える瞬間。

            ─── ─── ───

 夜、午後十一時。

 九人の夜の対話が、徐々に終わりに向かいつつあった。──そしてヴィスカルトと、セレネは皇宮に戻る馬車に乗り込むご準備を進めていた。

 しかし稜と、神崎は長く庭で立っていた。

 神崎は深く息を、吐いた。

 「稜。──二十年ぶりの参謀の二人組の関係の新しい、章。──しかし明日または近いうちお前は、アウリオンに戻る」

 稜は何度か頷いた。

 「玲。──明朝出発、する。──十日の街道の旅。──そして第三段階の本格的な設計を、進める」

 神崎の目が、長く稜を見つめた。──そして視線を返した。

 「稜。──月に、一度の密書で続ける」

 稜は黙って受け止めた。

 「玲。──そしてある日再会の瞬間が来るまでお互い生きて、いよう」

 神崎はわずかに頷いた。

 二人は長く月を見上げた。──十数年の参謀の相棒の関係の新しい、章。──そして二人の参謀の関係の奥にもう一つの層。──ザラフ殿の千年前のメッセージ。「我らの意志の最後の形が、彼らに、宿る」。

 稜は深く息を、吐いた。

 「玲。──いつか千年の計画の書き直しの最終形——民への公開——の瞬間神器が、もう一度起動する。──千年前のアドレアンとザラフの対話の最後の層が開封、される」

 神崎は頷きを返した。

 「稜。──おそらく五年またはそれ以上、後のとき。──しかしその瞬間まで私たちは、共に進む」

 稜は小さく頷いた。

            ─── ─── ───

 葉萌月最終日、午前六時半。

 帝都ヴェルデンの城門の前。

 稜と、クロヴィスを乗せた馬車が城門の前で止まっていた。──そして馬車の前で神崎と、ヴィスカルトとセレネが稜とクロヴィスを見送っていた。──ヘルマン、エリカマルセルブランも共に来ていた。──九人、最後の対面の局面。

 稜は、馬車から降りた。──そして深く一礼、した。

 「皆様。──過去、二ヶ月半深くお世話になりました」

 神崎は頷きを返した。

 「稜。──月に、一度密書で続ける」

 稜は無言で頷いた。

 ヴィスカルトが、稜の前で深く一礼した。

 「稜殿。──過去二ヶ月半私の十九年の自責の解放と結婚のご決意深くお預け、いたしました。──ありがとうございました」

 稜は深く一礼を、返した。

 「殿下。──ご即位のご準備と結婚の儀。──二年後の刹那まで、深くご支援いたします」

 ヴィスカルトは深く頷いた。

 セレネは、ヴィスカルトの横で長くヴィスカルトを見つめた。

 「ヴィス。──二年後、お会いする瞬間まで文通と公式の訪問の機会で関係を深めましょう」

 ヴィスカルトは一度頷いた。

 「セレネ。──そして半年、後または一年後ご滞在の機会を設計いたします」

 セレネは小さく頷いた。

 ヴィスカルトは、ゆっくりとセレネの手を取った。──そしてゆっくりと頷いた。

 「セレネ。──二年後、お会いする瞬間まで」

 セレネの目に深い温かさが、宿った。

 「ヴィス。──二年後、お会いする瞬間まで」

            ─── ─── ───

 稜と、クロヴィスは馬車に乗り込んだ。──しかし馬車に乗る、前稜は最後にもう一度ノエルを撫でた。──ノエルは、葉萌月最終日の朝の温かい光の下で稜の横に立っていた。──十二歳の犬の深い、目。

 稜は、ノエルの頭を優しく撫でた。

 「ノエル。──また会おう」

 ノエルは、目を閉じて深く息を吐いた。──そしてゆっくりと目を開けて、稜を長く見つめた。──十二年の犬の深い、姿勢。

 神崎が、稜の横に来た。

 「稜。──ノエルが、お前に別れを告げている」

 稜は深く頷きを返した。

 「玲。──ノエル十二歳。──次の再会の瞬間まで、生きていてほしい」

 神崎は黙って頷いた。

 「稜。──ノエル、私と共にお前を待つ」

 稜は静かに頷いた。

 稜は、馬車に乗り込んだ。──クロヴィスも、馬車に乗った。──馬車の扉が、ゆっくりと閉まった。

 馬車が、徐々に動き始めた。──そして城門を、抜けた。──稜と、クロヴィスを乗せた馬車が街道に出た。

 稜は、馬車の窓から振り返った。──神崎、ヴィスカルトセレネヘルマンエリカマルセルブランノエル。──九人と、一匹。──全員、稜を見送っていた。

 稜は長く見送りの姿を見つめた。──そして小さく頷いた。

 馬車が、徐々に街道を進んだ。──そして見送りの姿が、徐々に小さくなっていった。

            ─── ─── ───

 馬車が、街道をゆっくりと進んだ。

 葉萌月、最終日の夜明けの光が街道の両脇の若葉を緑色に輝かせていた。──そして稜の馬車の後ろで、帝都ヴェルデンの白い塔のシルエットが徐々に小さくなりつつあった。

 稜は、馬車の窓から長く街道を見つめた。──そして深く息を、吐いた。

 クロヴィスが、稜の横で長く稜を見つめた。

 「師匠」

 クロヴィスの声は、低かった。

 「──過去、二ヶ月半深い瞬間の連続でした」

 稜は無言で頷いた。

 「クロヴィス。──そう、だ」

 クロヴィスは続けた。

 「師匠。──そしてこれから、第三段階——アウレリア王国の議会と改革派の共有——の本格的な設計を進める」

 稜はわずかに頷いた。

 「クロヴィス。──そうだ。──アウリオンに戻り、カスパル宰相マテウス院長ロッテアルデス公レオン王と共に第三段階の設計を進める」

 クロヴィスは一度頷いた。

 しばらく、二人は深く沈黙した。──馬車の車輪の音と、馬の蹄の音が街道の空気の中で響いていた。──そして葉萌月、最終日の夜明けの光が徐々に強くなりつつあった。

 クロヴィスは長く稜を見つめた。

 「師匠。──そして第三段階の後、第四段階。──第五段階。──第六段階——民への最終公開」

 稜は静かに頷いた。

 「クロヴィス。──そう、だ」

            ─── ─── ───

 クロヴィスは長く稜を見つめた。

 「師匠。──次は、民への公開ですか」

 稜は長く考えた。──そして一度頷いた。

 「クロヴィス。──次は、民への公開だ」

 クロヴィスは続けた。

 「師匠。──それが、最終段階ですか」

 稜は長く考えた。──そしてゆっくりと答えた。

 「クロヴィス。──最終段階の最初の一歩、だ」

 クロヴィスの目が、長く稜を見つめた。

 稜は続けた。

 「クロヴィス。──民への公開は最終形、ではない。──民への公開の後民自身が新しい秩序を設計する、瞬間。──それが千年の計画の書き直しの本当の最終形」

 クロヴィスは深く頷いた。

 稜は続けた。

 「クロヴィス。──そしてその瞬間まで私たちは長く進む。──おそらく五年、またはそれ以上の年月。──しかしその年月を九人の共同の設計者と、共に進む」

 クロヴィスは黙って頷いた。

 「師匠。──私も、参謀の副官としてご一緒いたします」

 稜は無言で頷いた。

 「クロヴィス。──ありがとう」

            ─── ─── ───

 馬車が徐々に街道を進んだ。

 葉萌月最終日の夜明けの光が、徐々に強くなりつつあった。──朝日が街道の両脇の若葉を金色の光で照らしていた。──夏の初めの温かい光。

 稜の目に深い感慨が宿っていた。

 胸の中で、過去二ヶ月半のくだりが徐々に整理されつつあった。──契約更新日からの戦時体制の骨格作り。──霧峰の二十年の真相、フィオナの最期。──帝都での神崎の弟子団との出会い、ブランの解放。──千年の予言書の断片、エリナ前王妃の毒殺の真相、セレネの女王候補としての宣言。──皇宮の地下深部の初代バスタンの墓室、神器との接触、九人の会議。──ヴィスカルトの十九年の自責の解放。──元老院の演説、神崎の退任の儀、結婚の公的な発表。

 稜は吐息を漏らした。

 二ヶ月半。──しかし全人生を賭けた二ヶ月半。

 稜は窓の外を見つめた。

 馬車が小さな丘を超えた瞬間、街道の前方に広く開けた草原が広がっていた。葉萌月最終日の朝。──そして地平線の遥か向こうに、太陽がついに地表から完全に昇った。

 (──夜明けだ)

 稜の目が大きく開いた。

 過去二ヶ月半、稜の心の中ではずっと夜が続いていた。──千年の闇との対決の夜。──過去二年半、神崎との和解までの夜。──さらに遡れば前世の十五年、神崎を相棒として共に戦った夜。──そして三十年、コンサルタントとして孤独に判断し続けた夜。

 しかし今、地平線の向こうから昇ってくる朝日が、稜の目に直接届いていた。

 (──四十二年生きて、初めて見る種類の夜明けだ)

 稜の胸の中で、千年前のザラフ殿の声が響いた。

 「──二人の異邦人は我らと繋がっている。──我らの意志の最後の形が、彼らに宿る」

 稜は深く頷きを返した。

 (──ザラフ殿。──私は、あなたが千年前に託したものを、ようやく形にし始めています)

 クロヴィスが稜の横顔を見ていた。

 「師匠」

 クロヴィスの声は静かだった。

 「──朝日が、綺麗ですね」

 稜は微かに笑った。

 「クロヴィス。──ああ。──綺麗だ」

 馬車の車輪の音と、馬の蹄の音が街道の空気の中で続いていた。──朝日が徐々に稜とクロヴィスを温かく照らしていた。──夏の初めの空気が、馬車の窓から流れ込んでいた。

 稜は最後にもう一度、振り返った。

 帝都ヴェルデンが遠くに小さく見えていた。──皇宮の白い塔の上に、ハーゲン帝国の双頭の鷲の旗とアウレリア王国の金の鷲と銀の剣の旗が、同等の高さで並んで掲げられていた。──朝日の中で、二つの旗が金色に輝いていた。

 二百年の歴史で初めての光景。

 稜の目に、わずかに涙が滲んだ。

 (──皇宮の塔の上に、二つの旗。──ここから、千年の歪みの書き直しの第二段階が始まる)

 稜は前を向いた。

 稜の胸の中で、二年半前の朝の市場の場面が静かに蘇った。──異世界に転生した最初の朝、王都の市場で見つけた銀貨五枚。──「銀貨五枚で、王国を買う」と心の中で呟いた、若い覚悟の朝。──二年半が過ぎた今、銀貨五枚の証は、千年の歪みの書き直しという、遥かに大きな形へと姿を変えていた。

 馬車は徐々に北へ進んだ。──アウリオンへの長い街道。──そしてその奥に、九人と一匹ノエルが待つ未来。──さらにその奥に、第三部「民への公開」への道。

 稜は黙って頷いた。

 「──行こう、クロヴィス」

 クロヴィスは深く頷いた。

 「はい、師匠」

 馬車は朝の光の中を、ゆっくりと進んでいった。

 大きな旅の、ひとつの章が、ここで閉じる。

 ──そして遥か向こうで、新しい朝が、静かに始まろうとしていた。

第二部、ここで閉じます。

50話、長い道のりでした。

元老院の最終投票、五千人の帝都市民の前での結婚の公的発表、両国旗が同等の高さで掲げられる二百年で初めての瞬間。

そして月の下の九人の夜——稜・神崎・ヴィスカルト・セレネ・クロヴィス・ブラン・ヘルマン・エリカ・マルセル。

「千年の闇を、我々の代で、民の光に、変える」の白いワインの乾杯。

第二部、ここまで読んでくださった皆様、本当にありがとうございました。

第三部「民への、公開」でまたお目にかかれることを、楽しみにしております。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ