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さらにそこから二百年が経ち、諍いから隣国と戦争が始まった。

もちろん神々は国の勝利に関与することは行ってはいけないが、『選ばれた者』には加護が与えられる。

それは軍を指揮する者であったり一般の兵であったりする。


「どうよ隣の女神。誰が加護に選ばれた?」


隣国の神が女神を訪ねてきた。

神々は自分の『間』を持っている。

ふだんはこの『間』にいるのだが、こうして他の神の『間』を訪れることもできる。


「隣の神ちょっと見て!!この人間!」

「これがお前のとこの『選ばれた人間』か?」

「違う。推し。」

「え?」

「加護を与えているのはこの人間。ていうか見てほしいのはこっちの人間なの!!」

「え!?どういうこと!?ていうかお前しばらく見ないうちに性格変わった?」


加護を与える人間は神々が選んでいるわけではない。

すべて全能なる者から伝達される。

つまり、神々は『選ばれた人間に加護を与えているだけ』なのである。


「ふわぁ〜〜この鋭い目つき見て〜〜。子どもはもちろん泣くけど大人も泣きそうになるの。でもじつはそれにちょっと傷ついてるところがたまらんのよ〜〜。一人になったあとにしゅん…ってなってるの〜〜〜。かわいい〜〜。基本的に無表情なんだけどたまにやわらかい表情になる時があってそれが笑ってるようにも見えてもう…ハァ〜〜〜〜!!もう無理一生推す。」

「一生って…」

「いや私のじゃなくて推しの一生ね!寿命を迎えて穏やかな最期を迎えるまで見守る所存です。」

「どうしたのこれ…」

「僕たちが聞きたいです…」


従者たちは隣の神に始まりから説明をした。

説明された神は「なるほど、わからん。」と答えるしかなかった。


「推しが死んだあとは次の推しが見つかるまでなんかもう、『無』って感じになります。」

「えぇ…」

「もう国を見守るっていうより眺めてるって感じですね。無の顔で膝を抱えている姿とか全能様が「怖…」って伝達飛ばしてきたくらいですもん。まぁ、仕事はしてくれるからいいですけど。」

「お前らも大変だな……」


おもに従者たちに向けて「がんばれよ」と伝えたあと、隣の国の神は自分の『間』へと戻った。


その三日後、またも女神の推しが死んだ。

彼は分隊の隊長を任されていた。

前日の戦いで負傷者が多数出てしまい、隊の薬や包帯が足りなくなった。

次に攻め込まれれば全滅すると読んだ彼は夜の内に負傷者を医療班がいる隊へと運び出すよう指示をした。

しかし夜の内に全員運び出すことはできず、日が昇った。

「自分のことは置いて逃げてほしい」と訴える部下や「残るなら自分も戦います」と懇願する部下を説き伏せ、隊長は時間を稼ぐためにただ一人で敵を足止めた。

敵には鬼のようだと恐れられたが、隊長のおかげで負傷者はすべて医療班の治療を受けることができた。

ちなみに、その医療班のひとりが『選ばれた人間』である。


「また推しが死んだ!!」


そして先ほどの叫びはここに繋がる。


「私はただ推しに寿命をまっとうして穏やかな最期を迎えてほしいだけなのに……」

「じゃあ『選ばれた人間』を推せばいいじゃないですか?」

「わかってないなぁ〜〜。推しって与えられるものじゃなくて心に刺さるものなの。」

「わかんねーよ。」

「右の!!」


はぁ〜、と重く息を吐いたあと女神は膝を抱えた。

推しが死んだ時にする例の体勢になったのだ。


「私、もう、誰かを推すのが怖い…」

「誰も推してって言ってるわけではないんですけどね。」


それからまた月日は過ぎていった。

『選ばれた人間』は幾人も現れたが、女神に『推し』は現れなかった。

あの言葉通りに『推す』ことが怖くなったのか、それとも心に刺さる存在がいないだけなのかはわからなかった。

なぜなら従者たちには女神の無の表情からは何も読み取ることはできなかった。

全能なる者からはまた「だからそれ怖いって」と伝達が届いた。

実際に膝を抱えてる女神の姿を見に来た隣の国の神も「うわホントだ怖っ!!」と声を上げた。


女神の『間』はただ静かな時間が流れた。


そんなある日、突如女神が勢いよく立ち上がった。

全能なる者から『選ばれた人間』の伝達を受けて加護を与え始めてしばらくしてのことだった。


「きた……」

「女神様?どうなされたので…」

「私の時代がきた!!!!」


女神は両手を拳にし、高く突き上げた。

これほど昂ぶった女神を見るのは従者たちにとって初めてだった。


「『選ばれた人間』と『推し』が一致した!!」

「なんと。」

「おめでとうございます、女神様!」


左の従者が女神の手を取り、ふたりはその場でくるくると回り始めた。


「どんな方なんですか?『選ばれた人間』、いや『推し』?」

「はい見て!この子!」


女神が示した指を辿った従者二人の目に映ったのは一人の青年であった。

小さな芝居小屋で端役を演じている彼は先日初めて(一言ではあるが)台詞のある役をもらったのだ。


「この子はね、化けるわよ。いまは下っ端のチンピラを演じてるけど、この間は【森が焼かれて悲しむ妖精その1】を演じてたの。いやもう演じてたというか本当に森焼かれてたわよ彼の中では!それほどまでに悲しみを内から発してた。台詞が無くても悲しさが伝わってきたわ。それがいまどうよ?!妖精?知るか踏み潰すわってくらいの気性の荒さ。粋がってるけどまぁそんなもん強者の前では意味もないわってほどの小物感。え?同じ役者?嘘でしょ?え?ピーマルヌ[※この世界の野菜。ピーマンに似ている]が嫌いなの?食べると目がギュッてなるの?かわいい〜〜〜!」

「こんなに饒舌な女神様久しぶりに見た。」


右の従者はもとよりだが、先ほどまで手を取りあっていた左の従者も引き攣った顔で女神を見ていた。


「あれよね?!何かと戦って死ぬとかないわよね??!いま平和だものね!?うぉ〜〜〜今度こそ穏やかな最期を迎えるまで推しよ生きてくれ〜〜〜!!」


従者のふたりはやれやれと顔を見合わせた。


そして加護を受けている彼はのちに伝説の役者と呼ばれることになる。

手や顔にいくつもの皺を携えた彼が家族に看取られながら静かにこの世を去るのはまだまだ先の話である。



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