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見限る理由しかありません  作者: 高杉零
何がしたいのか分かりません
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8/26

この部って、何する部なんですかね

 それから1週間としない内に、ワーキンググループの顔合わせと称した打ち合わせに参加した。


 部長はいなかったものの、課長達が勢揃いしていて、何だかとても重苦しい雰囲気だった。


 特に情報が増える事はなかったが、1つだけ新たに分かったのは。


『一応主催って事になってますので、事業企画課の鷲頭課長、説明をお願いします』

『え、主催って俺なの?』


 ……というやり取りから、一応事業企画課が主催課らしい。


 っていうか事業企画課って何だっけ。

 課長1人だけの課っていうのは覚えてるんだけど。


 顔合わせというくらいだからその場でメンバーの説明とかがあるのかと思っていたがそういう訳でもなかった。


 そして相変わらず、どう進めるとかどう終わるとかの説明は一切ない。


 仕方なく、その場の参加者リストから課長達を除いてグループチャットを作り、とりあえず自己紹介と進め方を決めませんかと聞いてみた。


『そうですね、私も皆さん誰だろうって思ってました』

『とりあえず何するかだけでも決めないと何も進めませんしね』


 そんな通知が3つくらい返ってきたが、それ以外は返答がない。


 少なくとも何か話をしないとと思ってくれている人だけでもいいと思い、予定を調整して日時を決めた。


 そして迎えた、今日。


「お疲れさまです。アナリティクスイノベーション課の大竹です」


 画面上にズラッと並ぶ名前のテキスト達。

 俺を含めて全部で9名。グループチャットの全員が参加している。


 ……返事はしないのに、参加はするんだな。


「えっと、とりあえずまずは簡単に所属とお名前をお願いします」


 1つ1つ気になってたら切りがないと、とりあえず自己紹介を促す。


『あ、じゃあ自分から。デジタルデベロップメント課の田村です』

『田村さんの下で仕事してます、三澤です』

『プロダクトイノベーション課の上田です。大竹さんとは以前からお話させて貰ってます』

『同じくプロダクトイノベーション課の濱野です』

『アナリティクスイノベーション課の藤崎です』

『ヒューマンイノベーション課でエンジニアや顧客向けの講師をしてます、橋谷です』

『橋谷さんのレプリカになれと言われている大野です』

『ヒューマンイノベーション課でエンジニア派遣営業をしてます、溝井です』


 各課から来てるのか。事業企画課を除けば、全部だな。


 1人、営業がいるけれど。

 まぁ事業部なのだから営業だって仕組みの1つだ。


 ……人が、多い。

 こんな人数で何を話せと言うんだか。


『……』


 一通り自己紹介が終わった所で、途端に音が消える。


 仕方ない。今回は俺がやるか。


「さて。今回は私の方で打ち合わせを入れさせて貰いましたので、進行させて頂きます」

『よろしくお願いします』

「えーっと。部の未来を考えると言っても、そんなふわっとしたまま話すのも難しいと思うので、少しテーマを絞りたいと思います。何か、話したい事がある方はいますか?」

『……』


 静寂。


 ……もしかして俺の回線が切れてるのだろうか。


「何でもいいですよ。普段他の課の人と喋る事なんて滅多にありませんから質問でもいいですし」

『……』


「普段気になってる事があるとかでもいいですし」

『……』


「それぞれの課で課題だと思われている事とか――」

『……』


 時々『うーん』とか『話したい事……』とか、考え込んでいる意思表示だけはなされる。


 それ以外に、発言はない。


 画面を見てみるが、マイクをミュートにしている人はいない。


 ……何をしに来たんだ、この人達は。


『部の未来って言われてもねぇ……』

『今もよく分からないのに未来って……』


 この瞬間、理解する。


 そうか。この人達も俺と同じなんだ。


 ふわっとしたテーマだけを渡されて。

 やり方も話す事も何もかも、全部自分達で決めろと言われて。


 何を発言したらいいのか、分からない。


 今日に至るまでの間に何か考えてくればいいのにとは思うけれど。

 それはそれで、難しい事なのかもしれない。


 それなら。


「もし他にないようであれば、私が入社以来ずっと気になっている疑問がありまして」

『疑問ですか?』

「はい」


 入社からかれこれ2年。

 面接の時に聞いていたはずなのに、実態があまりにも違い過ぎてよく分からなくなっていた問い。


「――この部って、何する部なんですかね?」

『……』


 ……無音。


 1。2。3。


 5秒経っても返答はない。


 カメラがついていないから表情も分からない。


 ……せめて会話してくれ……。


 そう思って、もう一度口を開こうとした。


 その時だ。


『そう言えば……何する部なんでしょう? 定義とか見た事ないな』

SIシステムインテグレーションじゃないんですか?』

『何する部……確かに考えた事なかったかも』


 少しずつ、メンバーの口が開いていく。


『会社としては元々技術者派遣の会社ですよね』

『その中で請負事業やる為の部かと思ってました』

『DXでしょ? 部の名前についてるんだし』


 ……おぉ。

 ちょっと驚いた。


 それは、こっちから示せば喋れるんだという驚きと。


 部の未来を考えるなんていう高尚なワーキンググループに参加させられるメンバーでも、知らないんだという驚きと。


 色んな驚きがせめぎ合って思わず呆けてしまった。


 いけないいけない。進行しないと。


「……なるほど。やっぱりそれぞれの課が独立して違う事をやってる事もあって、認識がバラバラみたいですね」


 データ分析の案件だったり、データ蓄積基盤の構築だったり、業務管理システムの開発だったり。


 それぞれでやっている事が全然違うから、全体像が見えないんだな。


 バラバラな認識を組み合わせて結論を導くってやり方もあるだろうけど、今回はそうしない方が良さそうだ。


 前提が違い過ぎて、たぶんそのまま繋げると取り留めがなくなる。


 ――だとしたら。


「もし良かったらなんですけど、会社のビジョンから繋げて整理してみません?」

『いいかもですね。今私達がやってる事って、会社のビジョンに何かしら繋がってるはずですし』

『えーと、会社のビジョンって何でしたっけ?』

『企業ホームページにありますね』


 横の画面で自社のホームページを開いてみる。


 えーと。ビジョンは。


『……テクノロジーと人の力で価値を創出し、社会の変化に対応し続ける、ですね』

『広いですねー……』


 ……何だろう。


 格好いい事言ってるけど、中身がスカスカって気がしてくるのは気のせいだろうか。


 ホームページを見てみても、創り出す価値というものの定義はない。


 うーむ。


「価値を創出って言うくらいだから……新たな価値の創出ってのがイノベーション本部かもしれないですね」

『あ、名前的にそれっぽいかも』

『技術者派遣って労働力の提供ですし、価値を創るのはあくまで顧客側って感じしますよね』

『あー、それなら新たな価値ってのを生み出しますってのは請負事業っぽいですね』


 本当はそれっぽいじゃ意味ないんだけど。

 定義が見当たらないんだから仕方がない。


『だとすると部は何だろう。DXイノベーション事業部だから……』

『……既存事業や社内業務の変革により新たな価値を創出する、とか?』

『お、DXっぽいワード出ましたね』


 ……ふむ。


 既存事業や社内業務の変革により新たな価値を創出する、か。


 確かに、変革っていうのは最近DX関連でよく聞くワードではある。


 ふと、入社面接に臨んだ時にDXについて調べた時の事を思い出す。


「……あの」

『どうしました、大竹さん?』

「ちょっと気になったんですけど……DXって何したらDXしたって言うんでしょう?」

『……』


 ……無音。


 1。2。3。


 5秒経っても返答はない。


 いやまたか。


 誰かが答えようとする気配はある。

 だが、それが言葉になる前に止まっている。


 何か言おうとして、やめる。

 そんな空気だけが、画面越しに伝わってくる。


 ……さっきと同じだ。


 部が何をするのかも分からない。

 DXが何なのかも分からない。


 それでも、部の未来を考えろと言われている。


 ――流石に、それは無理がある。


 結局のところ。


 前提が何も共有されていないのだ。


 何を目的としていて、何をする組織なのか。


 それが決まっていないままでは、どれだけ言葉を重ねても、意味は持たない。


 ……なら。


 やる事は一つか。


「このワーキンググループなんですけど、部がどうあるべきかっていう所から、今できていない事を洗い出して、どう変えるのがいいだろうって考えて終わりにするのはどうですか?」


 本当なら、課題を見つけるだけじゃなくて解決まで持っていくべきなんだろうけど。

 部を変えるなんて権限がないとできないし、そもそも期間も全然ないし。


 実際に変える所までなんて不可能だ。


 与えられた期間でやれるのは、この辺りが関の山だと思った。


『レポートとか作るって事です?』

『それいいかも』

『それでいきましょう』


 数人が応えてくる。

 さっきまでの沈黙が嘘みたいに、今度は返答が早かった。


 全員ではないけれど、特に反論や異論もなさそうだ。


「では、本日の結論としては――」


 ――部がどうあるべきかを定義して、今できていない課題を洗い出し、改善案を考えた上でレポートにまとめて提出する。


 それを、このワーキンググループの目的に据えた。


 会議を終え、主催――という事に一応なっているらしい――鷲頭課長に、定めた目的と進め方を報告した。


 俺が報告役になったせいか、何となくリーダーのような扱いになった。


 もうそれならそれでいいと思いながら、ふと思い付く。


 ――管理職がどのぐらい事業やDXについて知ってるのか試してみよう。


 俺は鷲頭課長に、質問を投げかけた。


 自分達の事業は誰にどんな価値を生むものなのか。

 何がなされていないとDXしたと言えないのか。


 自分達の考えがどれくらいズレているのか確認したいので、部長や各課長にも回答を貰えないかと伝えた。


 ……これで、はっきりするだろう。


 俺が、ここにいる意味があるのかどうか。

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