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見限る理由しかありません  作者: 高杉零
何がしたいのか分かりません
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7/26

何をするんでしょうね

「いや、流石にそれだと意味分からないですって」

『そうなんですけどねぇ……もう少し上に情報出させますわ』


 紆余曲折があった案件を2つ乗り越えた2月の初め。

 ようやく、仕事の時間だけは少し落ち着きを見せ始めていた。


 いつものチーム定例会議。


 チームの会議は課などのものと違い、制度ややり方など気になる事をじっくり議論する場になりつつある。

 定期アンケートの成果か、あるいは普段から作り上げている空気感か。


 高嶺さんが上からのお達しを告げ、俺がそれにツッコミを入れる。

 そこから少しずつ皆が口を開き始めて議論になっていく。


 俺は、この時間が好きになっていた。


 別に議論でバトルをしたい訳ではない。


 ただ、自分以外の人が物事をどう捉えているのか、それが分かるのが楽しかった。


『――さて、そろそろ時間ですね。それでは、今週もよろしくお願いします』

「お願いしまーす」


 さぁ今日もお仕事頑張りますか。


 そう言って、通話を切ろうとした時。


『あ、大竹さんちょっとだけ残れます?』

「はい、いいですよ」


 高嶺さんに呼び止められた。


 何だろう。


 ……さっき、ちょっと強く言い過ぎたか?


『すんませんね、ちょっと伝えないといけない事がありまして』

「……お説教的なやつですかね?」

『ちゃいますよ』


 ほっ。どうやら違うらしい。


『えーと。たぶん大竹さんの事やから、めっちゃツッコまれるとは覚悟してるんですけど』


 何だ?

 何だか高嶺さんの言葉に煮え切らないものを感じる。


『何か、課横断でワーキンググループやるらしくて』

「へ?」


 ワーキンググループ?

 この会社でそんな事やってるの、ほとんど見た事ないけど。


「へぇ。何するんです?」

『それがねぇ、いまいちよー分からんのですよ』


 何だそれ。


 ワーキンググループって、普通は何かしらテーマがあって集まるもんじゃなかったか?


 何をやるかは分からないのに、誰を参加させるかは決まっている。


 何をやるか分からない時点で、それはもうワーキングでも何でもない気がした。


『それでですね。これもよー分からんのですけど』

「はい」

『それに、大竹さんを参加させて欲しいって言われてまして』


 ……えーと。


 何で?


「俺ですか?」

『そうなんですよ。久利生さんがえらく押しよったみたいで』


 課長が?


 あの人が、わざわざ?


 ますます何で?


 あの顧客対応の一件以来、一言も話したりしてないのだけれど。


「うーん……何するのかもよく分からない仕事するのはちょっとなぁ……」

『って言うと思いましたわ』


 高嶺さんが苦笑する。


 かれこれ半年近く話し続けているから、どうも最近俺の思考が読まれている気がする。


『ただねぇ……課長から、ワーキンググループに参加する分の工数捻出するように言われてまして』

「そう言うと思いました」


 そしてそれは、逆もまた然りというやつで。


 高嶺さんとして飲まざるを得ないと判断したから、今俺に伝わってきているのだろう。


『一応、参加の要請自体は課長からするって言うてたんで、細かい事はその時に聞けるかもです』

「分かりました。とりあえず話だけは聞いてみます」


 ……ワーキンググループ、ねぇ。


 参加してみないかとかではなく、参加する前提で話が進んでいる。

 高嶺さんの口振りでは、そんな風に聞こえる。


 どうにも気が進まないが、高嶺さんの手前話を聞かない訳にもいかない。


 せめて何の目的で行われるのかが分からないと、何をしていいのかも分からないままだ。

 意味のある仕事ならいいんだけど。





 課長から話があると声をかけられたのはその2日後。


 ……まさか、課の全体定例で先に名指しされるとは思っていなかった。


 その時に分かった内容としては、部全体でのワーキンググループであるという事。

 それから、俺ともう1人が参加予定であるという事だ。


 参加予定って……まだ参加すると決めた訳ではないんだけど。


 まぁ、高嶺さんと違って課長の面子なんて守る意味は俺にはない。

 話を聞いて、無理だと判断したら断ろう。


 そう思っていたら、終わり際に直接説明する時間をくれと言われて、俺は今画面の前にいる。

 同じく参加を発表されたもう1人――藤崎さんも既に揃っている。


 ……声をかけてきた当の本人は、いない。


『何をするんでしょうね?』

「さぁ……正直、さっきの定例以上の情報は何も」

『私もです』


 藤崎さんも特に何の情報も聞いていないらしい。


 この会社はいつもそうだ。

 直前にならないと連絡すら来ないし、来たとしてもまともな情報すらない。


 藤崎さんの口調から、あちらも多少なりうんざりしている感じがした。


 共に漠然とした不安に苛まれていると、ようやくその通知が来た。


『すみません。あ、もう揃ってますね』


 いや、予定時刻からもう5分過ぎてますからね。


 そんな言葉が口から零れそうになったが、何とか押し留める。

 管理職が遅れてくるのはよくある事だ。


『えーと、それじゃあ始めたいんですけど、お願いできそうですか?』

「……いや、流石にそれだけだと何も分からないです」


 説明したいんじゃなかったのかよ。


 部全体のワーキンググループをやります。

 参加して欲しいです。


 それだけでやれますと言えるほど、俺も藤崎さんも暇ではない。


「そのワーキンググループって、何の目的でやるんですか?」

『えっとですね。テーマとしては、『部の未来を考える』というものでして』

「部の未来?」


 えらくふわっとしたテーマだな。


「具体的な課題感とかはあるんでしょうか?」

『それを考えるのも、ワーキンググループの内容です』


 おぉ……何だそれ。


 とりあえず大枠のテーマだけはあるから、その為に何を考えるのかを自分達で考えろって言ってるのか。


 ……恐ろしい話だな。


『どれくらいの頻度でやるかとかは決まっていますか?』

『それも、参加メンバー間で話してください。こちらからは特別指定はないです』

『どうなったら終わり、とかもでしょうか?』

『そうですね』


 藤崎さんが尋ねる。

 たぶん、今やっている仕事にどれくらい影響するかを気にしたんだろう。


 だがこれも、自分達で考えろで一蹴される。


 本当にことごとく何も決まってない、って事か。


 議題も進め方も終わり方もない。

 定まっているのは、ワーキンググループという名前だけ。


 中身が空でも、名前だけ付いていれば仕事らしく見える。

 そんな雑な見切り発車に付き合わされる側はたまったものじゃない。


 ……これは一体、何の場なんだろう。


「……あの」


 このままこの場を終わらせると大変な事になるかもしれない。


 ここだけは死守しておかないとまずい。


「以前もお伝えしましたが、私には事情があります。コアタイム内に自社事務所に移動は認められないというルールに当てはめると、私は出社できません。このワーキンググループに関連して、出社しないという前提で良いですか?」

『はい。やり方については参加メンバーに一任します。そちらでオンラインのみでやると決まるのであれば問題ないです』


 ふむ。許可は出た、か。


 いまいちテーマについては具体性がまったく感じられないけど。


 とりあえず説明の為に来いとか言われないなら、何とかしようもあるか。


 少なくとも、前提条件を無視されたまま話が進むよりはましだ。

 そこだけ守られるなら、後は中で調整する余地もある。


「期限の定めはありますか?」

『一旦、3月中旬で考えてます。そこまでに何らか結論を出して貰って、それを受けて後続をやるかは別途判断する事になるかと』


 後1ヶ月半もないじゃないか。


 ……ワーキンググループってそんなに短期間でやるものだっけ?


『あ、そうだ伝え忘れてたんですけど』

「はい?」

『今回のワーキンググループは、管理職やマネージャー職は参加しません。若手に部の今後を自分事として考えて欲しいという意向です』


 ……若手。


 俺、もうまもなく40代になるんだけど。


 まぁ、今の管理職って定年越えの部長筆頭に決して若くはないし、それに比べたら若手に分類されるのか。


 部の未来を考えて欲しいと言う割に、今の部を動かしている側は最初から席にいないらしい。


 自分達は、あくまでも報告を受けて承認する立場にいたい、という事か。


『それで、お願いできますか?』

「……」


 ――少し、返答を躊躇う。


 正直な話、判断できるだけの情報が出揃っているかと言うとそんな事はない。


 そんな状態でワーキンググループが始まったとして、まともに進行するのだろうか。


 課長の話を聞く限り、これを推進したいと思っている人はメンバーに入ってこないように思う。

 俺がそうであるように、他のメンバーも先に参加だけ決まってしまっている人が多そうだ。


 ……まぁそれでも。


 以前の案件であったように出社を求められて、未だに明文化されない妙なルールに抵触する事さえ起こらないのなら。


 まぁ、いいか。


「……分かりました。ただし、くれぐれも出社できない事だけはお忘れなく」

『……私も。それで大丈夫です』

『よろしくお願いします』


 仕方ない。やるとなったなら、まっとうに進めるとしよう。


 俺が参加するのなら、自分なりにそこから何らかの価値を生もう。


 それが、俺にとっての仕事だから。


 ――もしも、今度こそ実害が及ぶのなら、その時こそ。

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