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見限る理由しかありません  作者: 高杉零
出来ないものは出来ません
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13/26

俺には無理です

 ワーキンググループの最終レポート提出から数日が経った。

 虚しさだけが残りつつも、徐々に普段の仕事に戻りつつあった。


 直属上長やチームメンバーには俺達が提出したレポートを展開し、こんな事をやりましたと報告した。


 反応は様々だった。


 自分達も感じていた違和感が表れてて称賛してくれる人。

 特に興味もなさそうに、何の反応もない人。

 問題そのものと言うよりも、DXについての理解を深めようと質問してくる人。


 色んな考え方があって、色んな捉え方がある。


 別にそれでいいと思う。


 仕事への向き合い方は人それぞれだ。

 俺がそこにどうこう言う事はない。


 徐々にそんな反応も見えなくなっていったある日のこと。


「お疲れさまです」

『おー、お疲れー』


 俺は、鷲頭課長から話があると呼び出されていた。

 と言っても、オンラインの打ち合わせではあるが。


 そう言えば、最終レポートに対しては鷲頭課長からだけ返信があったなと思い出す。


 何て返って来てたっけ。

 あまり興味がなくて、スルーしていた気がする。


「どうされました?」

『いやー、ホントお疲れさま。結構大変だったでしょ、あれ』

「まぁ……大変ではありましたね」

『正直、あそこまでちゃんと形にしてくれるとは思ってなかったよ。結構攻めてたね』

「そうですか?」


 別に攻めたつもりはない。


 与えられたテーマに対して、現状を整理して、そこから未来に繋げただけだ。

 ……そもそものテーマはあまりにも分かりづらかったけど。


 ただそれだけだ。


『攻めてたと思うよー。特に、何をやる部なのかを誰も分かってないってのと、課をなくしてしまえばいいんじゃないかってのは』


 いや、前者は事実だし。


 後者は、考えられる可能性の1つというだけだ。

 分かれている事に意味を感じないというのは、ワーキンググループでの総意だ。


 それ以外の方法だってない訳ではない。

 役割で課を分けるのだっていいし、完全に交わらないようにするのだって選択肢としてはあるだろう。


 いずれにせよ、課を連携して売上を上げていく事を考えるなら、今の状態では上手くいかない。


『まぁねー。事業を行う仕組みがないってのは、ホント俺もそう思ったよ』


 ……思ってるなら、直せばいいんだよ。


 そんな言葉が溢れそうになって、口を噤む。


 もう、言わない。


『あ、それでね。1つ連絡があって』

「……連絡、ですか?」

『そう警戒するなよー』


 無理だって。


 この会社での連絡ってのは大体俺に面倒事を持ってくるんだから。


『――役員が、ワーキンググループのメンバーにヒヤリングしたいんだとさ』


 ……ほら、やっぱり。


「ヒヤリング? あのレポートについてですか?」

『そうそう』

「……言いたい事は全部書きましたし、あそこからまだ話す事はあんまりない気がしますけど』

『まーそう言うなって。直接言葉で聞きたい事もあるんじゃない? 内容は目を通したらしいけど、まぁ一応って感じでさ』


 何をヒヤリングしたいのか、という話は出てこない。

 内容を見ているなら、尚更だ。


 何となく、疑いの目線で見てしまう。


 ――話だけは聞いたって実績だけ残したいんじゃないのか?


 結局、あのレポートは役員にも向けて送付されていたから。


 だから、少なくとも話は聞いたのだと、そういう事にしたいのではないのだろうか。


 話は聞いた。それでも動かない。


 そこに越えられない溝があって、その手前で歯がゆい思いを何度もしてきた。


 またそんな思いをするのなら――そんな所に時間を割きたくない。


「……役員って本社にいらっしゃるんでしたっけ?」

『ん? あーそうだね。うちの部の事務所じゃなくて、本社の方』


 本社は事務所と場所が違う。


 手元で地図を出す。

 会社名で調べると、すぐにヒットした。


 うちから――普通に行けば1時間半。

 事務所に行くのとそう変わらない。


「もし本社に行くって話なら、俺には無理です」

『え? 何で?』

「久利生課長から聞いてませんか?」

『いや何も?』


 ……伝えといてくれよ、そのぐらい。


 俺は、自分の事情と制限、課で適用されているルールについて説明する。


 そして、今回のワーキンググループに関連して出社はしないという前提での許可を課長から得ている事も。


『はー、そうなんだ。なるほどなるほど』

「調べてみると、本社に行くのも事務所と大して変わりません。コアタイム開始までに辿り着くのは物理的に無理でして」

『ん-、そんなルール、俺も聞いた事ないけどな』


 それはそちらの課にメンバーがいないからだと思う。


 いずれにしろ。


「対面で、という事であれば俺は参加できません。オンラインなら参加できますが」

『ん、いーよ。オンライン参加で』


 偉くあっさりと答えが返ってきた。


 もっと面倒な確認が入るかと思っていた。

 誰の許可を取るのかとか、前例はあるのかとか、そういう話になるものだと。

 だが、返ってきたのは拍子抜けするくらい軽い了承だった。


 少なくとも、主催課長の中では問題にならないらしい。


 驚きに固まっていると、鷲頭課長が続ける。


『今までの報告聞いてると、大竹くんはワーキンググループの中心人物だし。いてくれた方が盛り上がるでしょ?』

「盛り上がるかどうかは分かりませんが」

『いやー、何か他の子らってさ。こう……静かになっちゃいそうじゃん』


 ……そうかも。


 始めましょうとなっても何を話したら良いか分からなくて静まり返る様子がありありと想像できる。


 上田さんがいるとは言え、真っ向から役員に意見できるかと言われれば、首を捻らざるを得ない。


「……オンライン参加で良い、という事でいいですか?」

『うん、いいよ。じゃないと無理なんでしょ?』

「はい」


 少なくとも、俺の中ではこれで筋は通った。


 事情は説明した。

 参加できる条件も伝えた。


 その上で主催課長が認めたのなら、後はその前提で話が進むはずだ。


 ……もっとも、相手側にどう伝わるのかまでは分からないけれど。


 ここで黙って曖昧に済ませるよりはましだ。


 少なくとも、俺は明確に許可を得た。


「それでいいなら、俺は大丈夫です」

『ホント? オーケー、そしたら打診しておくねー』


 こちらの返事を聞く間もなく、通話は切れた。


 打診と言っていたから、これから役員側にも調整を入れるのだろう。

 思っていたよりも、足回りの軽い人なのかもしれない。


 ……結局何をヒヤリングされるんだか分からないけど。


 まぁ、オンラインで話すくらいなら――別にいい。


 たぶん何も変わらないような気はする。

 そこに期待を持つ気は、もうない。


 無駄な時間になるかもしれない。

 だが、オンラインで参加できるならそこまで大きなダメージはない。


 けれど、役員と直接話す機会というのは滅多にない。


 俺はまだ、チームの中、課の中、部の中しか見た事がない。


 もしかしたら、現場で起きている事を上がどう見ているのかくらいは分かるかもしれない。


 以前丸川さんと交わしたやり取りが、不意に頭をよぎる。


 ――部長を選ぶのは役員でしょ?

 ――あー、それは確かに。


 あの人を部長職に据えた役員がどんな考え方の人なのか。


 ――見てみるのも面白いかもしれない。

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