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見限る理由しかありません  作者: 高杉零
何がしたいのか分かりません
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10/26

そこじゃない

 うーん……。


 俺は1人、画面とにらめっこをしていた。


 別に遊んでいる訳ではない。


「いきなり中間報告って言われてもなぁ……」


 あれから3回目、4回目と議論は進んでいる。

 ちょくちょく脱線したりあらぬ方向に進みそうにはなるけれど。


 俺は、鷲頭課長から定期的な状況報告を求められて、議論の進み具合を逐一報告していた。


 そんな中で、不意に出てきた一言。


『中間報告はないの?』


 さも当然のように伝えられたそれ。


 ……またいつもの後出しか。


 一連のストーリーをもって最終的な結論を出すつもりで、その後にレポートとしたいと言ってはみたが。


『いやまぁ、管理職側も安心したいんだよ』


 安心って何だよ、と思う。


 管理職はワーキンググループに参加しない。

 誘導したくないからなるべく関与しない。


 そう言ってなかったっけかとため息をつく。


 そんな訳で俺は今、中間報告用のレポートをでっち上げている真っ最中なのだ。


 かなりギリギリのタイミングで言われた為、他のメンバーに任せている余裕がなかった。


 ……任せてまとまるのか、という疑問もある。


「あーもう。報告用にレポート作るって作業自体が無駄なんだよ」


 画面に並べた見出しを、上から順に眺めてみる。


 ――部の存在意義定義が見当たらず、会社のビジョンと繋がっていない

 ――事業としてのゴールが不明確

 ――DXの解釈が統一されていない

 ――各課の役割定義が曖昧


 書いている内容自体は、間違っていないはずだ。


 だが、中間報告として切り出した途端に、どうにも収まりが悪くなる。


 本来は、全部繋がっている話だ。

 順を追って積み上げていかないと、意味が通らない。


 それを、途中で切り出して見せろと言われている。


「……いや、無理だろ」


 思わず小さく呟く。


 じゃあ管理職は何かを検討中に教えてくれと言ったら教えてくれるのか。

 たぶん答えはNOだ。


 俺達と管理職とで何が違うんだろうとどうしても気になってしまう。


 だが、無理だと言った所で始まらない。

 見せられる形に整えるしかない。


 いくつかの文を削り、順番を入れ替える。


 本来なら前提として置いておくべき部分を、後ろに回す。

 説明を省いて、結論だけを先に置く。


 ――分かりやすくする為の作業のはずなのに、むしろ歪んでいく気がした。


 誰にも聞こえない声を惜しげもなく上げながら、ページ数を稼いでいった。





 そうして何とかでっち上げた――ワーキンググループのメンバーにも念の為確認して貰った――中間報告のレポートを部長と課長達に送付してから1週間。


「……うわー……」


 目の前に並ぶ、4通のメール。


 須藤部長。

 久利生課長。

 鷲頭課長。

 後……名前を見てもピンと来ない、どこかの課長。


 それぞれ俺が送付したレポート提出メールへの返信だ。


 まず何よりも。


「わざわざ報告させといて、1週間経っても返信してこない管理職がいるんかい」


 ……まぁ、最初から期待してないけど。

 管理職はさぞお忙しいのだろう。


 そんな事を思いながら、1通ずつ開いてみる。


 まずは、須藤部長からのメール。


『レポートありがとうございます。方向性は良いと思います』


『デジタルデベロップメント課では会社の事業として成り立たせる為に技術力の底上げが急務と考え、施策を講じてきました』


『課から参加しているメンバーもいますので、是非参考にしてみてください』


『それから質問についてですが、DXについては皆さんの方が余程詳しいものと思います』


『最終報告を楽しみにしています』


 ……うーん。


 レポートについて触れられているのは最初だけ。


 いや、技術力云々の前の話だよねってレポートにしてるはずなんだけど。


 方向性はいい、か。


 部の存在意義の定義もないし、誰も彼もそれを理解しないまま仕事してますって書いてるんだけど、本当にいいんだろうか。


 まぁ、いいと言うなら別にいいか。


 次に、久利生課長のメール。


『レポート見ました。面白い着眼点だと思います』


『課の事業としては特定の業界のお客様の課題を、AIなどを駆使して解決するものと承知しています』


『DXはそれをもって、お客様の業務に変革をもたらすのが目的だと考えます』


『最終報告を楽しみにしています』


 …………うーーん。


 着眼点についてはありがたい評価だけど。


 事業とDXについては、議論の中で『それだとあまりにも定義として足りない』となった所で止まっている。


 そこまでは読み取れなかったって事か?


 一応それも書いたんだけどな。


 今度は鷲頭課長のメール。


『よく議論されていると思います』


『会社のビジョンと直結する事業定義が見当たらないという点はハッとさせられました』


『この際、DXにこだわらなくても良いかもしれませんね』


『最終報告が楽しみです』


 ……えーと。


 まぁ鷲頭課長にはこういうストーリーで議論してますって言っているから。


 そこで伝えた内容がそのまま書かれている。


 ……DXにこだわらなくてもいいって、部の名称に思い切り入ってるのよ。


 だとしたら部名を変えるかって話になるんだけど……分かっているのだろうか。


 最後に、見覚えのない名前の課長のメール。


『デジタルデベロップメント課ではエンゲージメントサーベイと勉強会を積極的に行っています』


『目的は須藤部長の書かれた通り、技術力の底上げです』


『勉強会のスケジュールを添付しますので、良かったら是非参加してください』


 ………………うん。


 これは、もう何に対するメールなんだろう。


 添付ファイルを開いてみると、週に1回のペースで勉強が開かれているようだ。


 ――Dockerの積極的な活用について

 ――VSCodeの便利なショートカットキー

 ――AWSでサーバレスアーキテクチャを構築した話


 俺は、そのファイルを静かに閉じる。


 内容自体は、悪くないのだと思う。


 便利なツールの使い方や、新しい技術の話。

 知らない人にとっては役に立つだろうし、知っていても復習にはなる。


 実際、こういう積み重ねが技術力の底上げに繋がるのだという話も理解はできる。


 だが――


「……今、その話か?」


 思わず、そんな言葉が頭に浮かぶ。


 目の前で議論しているのは、そういう話ではなかったはずだ。


 一通り目だけは通し、当たり障りのない返信をしておいた。


 もう一度、メールを眺めてみる。


 課題を解決。

 業務を変革。

 事業定義が見当たらない。


 レポートに書いた言葉は出てきている。


 ただ、そこじゃないという感覚が拭えない。

 同じ言葉を使っているのに、どうしてこうも薄っぺらく感じるのか。


 技術力の底上げ。

 エンゲージメントサーベイ。

 勉強会。


 それも大切な事ではある。


 だが、それもそこじゃない。

 もっとその前の話だ。


 ……根本的な所が、ズレている。

 バラバラな事を言っているのに、肝心な所を揃って外している。


「……くくく」


 思わず笑いが込み上げてきた。


 間違っている、とは言えない。

 それも1つの答えかもしれない。

 その可能性はある。


 けれど、その手前を完全にすっ飛ばしていると思えて仕方がない。


 つまり。


 ――管理職ですら(・・・・・・)自分達の仕事に(・・・・・・・)向き合えていない(・・・・・・・・)


 ――そして、それを課題だと(・・・・・・・)認識していない(・・・・・・・)


 少なくとも、顧客の課題を解決する事を仕事だとは認識しているはずなのに。

 課題をどう見ているかが、どうにも浅い。


 ――そこじゃない。


 メールを眺めながら感じた違和感。

 それが、全てを物語っている気がした。


 この人達は、自分達の課題に向き合えていない。

 俺には、そうとしか見えない。


 そんな人達が、顧客の課題に向き合う仕事をしている。


 これが笑わずにいられるか。


「……だめだな」


 この部は、これではだめだ。


 未来を考えたいのなら、現在をしっかり見据えないといけない。


 既にできあがってしまっているものを、少し手を入れるくらいで何とかなるものではない。


 ――一度、壊すくらいの覚悟で臨まないと、変える事はできないような気がする。


「……うん、この方向性でいってみるか」


 今、ワーキンググループはそちらの方向に寄ってきている。


 根本的に何がしたいのか。

 それをするには何を満たす必要があるのか。


 それから少し話が進み、何でそれができないのかという所に至っている。


 だとするならばその後は当然――それをできるようにする為にはどうなっていないといけないか、が来るはずだ。


 その方向で少し誘導してみよう。


 これを聞くのか聞かないのかは上層部次第。

 それを、俺に変える術はない。


 だが、言わなければ何も始まらない。

 上層部は自身で気付いていないのだから。


 言って変わるのならよし。


 変わらないのなら――そこまでだ。


 自分の役目は定まった。

 後はこれをやり通すだけ。


 それが終わった時、自分に選択肢を設けられるように、準備だけは進めておこうか。


 俺はスマートフォンでとあるサイトを開いた。

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