98式噴進砲 その13(「摂津」から「エンプラ」への道)
ポチです。
連休中の連続投下、いかがだったでしょうか?
そう言えばPVが50,000超えたなぁ~(3年かかった 笑)と3週間前に思ってたら、いつの間にか1,000増えてました。
新しい読者様感謝です。
ではお楽しみください。
ガダルカナル島は静かにそこに存在していた。
騒がしくしたのは、日米の陣取り合戦のためである。
やがて、その北側の海には名前までついた。
『アイアンボトム・サウンド』
日本では「鉄底海峡」と呼ばれた。
それは一方的に日本側だけが消耗していったわけではない。アメリカ側もまた、ガダルカナルへ戦力を送り込み、そのたびに損害を出した。
小さな島が、日米双方の戦力を少しずつ吸い込んでいったのだ。
かの「第一次ソロモン海戦」だけではない。この時期、日本潜水艦もガダルカナル南東海域へ展開していた。あまり知られてはいないが、十月に入ると能力の限定されている甲標的までもがこの海域へ持ち込まれた、それも複数。目的はアメリカ軍の補給・増援を断つことである。
同8月の30日にアメリカの護衛空母「ロング・アイランド」はガダルカナル島のヘンダーソン飛行場への航空機輸送を終了し、後はエファテからエスピリトゥ・サントへ向かおうとしていた。二日前から空母を探し続けていた遊弋中の日本潜水艦伊15が発見する。
「あれ?小さいけれど空母? もしかしたらタンカー?」
一日の追尾の中でやっと自艦を射点に付ける。雷撃、ロング・アイランドは沈没した。
確かにガダルカナル島に航空機は届いた、が、それを運んだ船は帰ってこなかった。
そして次の日、伊26が正規空母の「サラトガ」を雷撃する。サラトガは戦列を離れ、真珠湾へと戻った。
航空機を運ぶために空母が来た。その空母を狙って潜水艦が来た。
空母が傷つけば、別の艦がその穴を埋めた。
ついには戦艦までが、この小さな島のために夜の海へ出てきた。
「小さな島が双方の主力艦まで吸い込んだ」
戦後の書籍にはそのような記述もある。
全てが日米両方の、鉄と、油と、命。それを消耗するだけの戦いでしかなかった。
その流れが始まる少し前、日本では国内のドック、そして艤装・整備用の桟橋は大賑わいであった。定期の点検・整備、東南アジアからの帰還艦、そしてミッドウェーからの損傷艦。最後は大破・中破など、大規模な作業が必要なものも多かった。その中で飛龍・蒼龍は比較的軽い点検・整備を受けることになっていた。
乗員はドッグ入れする前であり、航空隊は陸上基地へと、フネの兵らは半舷上陸でその体と心を養っていた。まあ、酒と女としかし、士官らはそこまでのんびりとはできない。報告書と会議…その連続である。特に上に行けば行くほど…
「次の戦いのために?」
第二航空戦隊司令部、幕僚と艦長らの反省会はもう終わっていた。次の戦いの話になっていた。
話し合いは進む。
一つは防空体制。
「高角砲、機銃、そして今回搭載した噴進砲。結局のところは数が少ないのです」
「使えなかった?」
「いや使えましたが、よく分かりました。落とす必要はない。近づけさせない、投弾を邪魔することでフネを守る。魚雷をなくした攻撃機、爆弾を失った爆撃機はもはや戦力ではない。ならば?」
「なるほど…うん、艦本に相談しよう、増設を。高角砲は難しいだろうが、機銃はどうにかできるだろう」
「噴進砲もです」
ここで会議は少し和やかになる。提案として出すことの一つが決まった。コーヒーが配られ、多少雑談も始まる。
「飛行機にも使えるか?」
幕僚の一人として参加していた航空隊の将校が呟く。その一言は、その場では半分ほど冗談として流された。
「あたるかどうかは別にして、対空砲の邪魔はできるだろう?」
「反対から見た時か…なるほど」
休憩であった時間はその瞬間なくなった。
「昔、似たようなことをやってますよ、確か爆弾にロケット推進で加速させるとか…」
かの『委員会』の参加者の一員であった高角砲担当が言う。
「爆弾?」
「徹甲爆弾です、加速させればそのぶん厚い甲板を打ち抜けないかと…ただ加速がイマイチだったので止めてます」
「聞いたことがあるな」
「止めたのでしょ?使えないのでは?」
誰かが言った。
「徹甲爆弾みたいに、船そのものを抜かなくてもいいんじゃないですか?」
そして別の誰かが言い、雑談から始まった会議は次第に進路を決めた。
「甲板の上です、壊すだけ、焼くだけでそのフネは戦列を外れる可能性がある」
甲板の上、艦橋、アンテナ、副砲、対空砲、機関銃、そして兵。
「主力艦は難しくても、空母の上の航空機、駆逐艦や輸送艦ならば?」
「雷撃機、急降下爆撃機が一番嫌なのは?」
「対空砲火です」
「なら、それを先に撃てばいい。頭を下げさせるだけだ」
少し静かになった。
「噴進弾で船を沈めるんじゃない、沈めるのは爆弾か魚雷」
二つ目の提案書は航空技術廠へと伝えられた。
『敵艦対空火器制圧ノ為、航空機搭載噴進弾ノ研究ヲ要ス』
陸軍との技術交流の中で、既に横須賀でも航空機へ噴進弾を搭載するための基礎試験が始まっていた。
とりあえず作る。で…、何に使う? 何を目的とする?
が、未だ確定していない。
しかし、航空技術廠の研究員は、その頃の秀才と言われる上澄みの中でも「飛行機バカ」と呼ばれる。そんな人々の集まりであった。好きな仕事だから…そんな中で第二航空戦隊からの提案書が来た。喜んだ、何を作るべきかが確定した。でも、また仕事が増えた。
十回やった、そして一回、点火しなかった。
「……やって良かったですね」
また調べる。電気接点の不足、ならば直す、そしてまた撃つ。
飛行試験になり、九九艦爆の左右にまずは一発ずつ。機体が離陸する。旋回し、高度を取り、射場へ入る。無線から、ザラザラとした肉声が届く。
「速度二百四十」
「目標確認」
海面には目標となる浮標が並べられていた。
発射、二本の白煙が翼下から伸びる。片方は目標の右へ、そしてもう片方は――左。
地上から見ていた者が双眼鏡を下ろし、不安な目の見せる。
原因はすぐには分からなかった。発射架か?翼の振動?弾体?羽根?推進薬?そして、機体そのもの。
「地面から撃つのと違うな」
速度が変われば着弾位置が変わった。降下角を変えても変わる。発射距離を変えれば当然変わる。
何度も飛ばす。やがて地上攻撃を続けている陸軍側の資料も回ってくる。
標的艦「摂津」が瀬戸内海をゆっくりと走っていた。戦前から、艦爆や艦攻の標的を何度も務めてきた船だった。もちろん実弾はないが、それでも何度も爆弾と魚雷を受け続いていた。
「艦を自体は狙うなよ,絶対だぞ」
「分かってますって」
九九艦爆が旋回を終え、事故の爆撃コースに乗る。
「摂津」、標的自体は動いている。海も動いていて「摂津」も多少は影響を受ける。もちろん飛行機も動いている。
地面より面倒だった。
九九艦爆の機首が下がる。ここからが降下地点。しばらくすると翼から白煙。二発。一発はかなり遠く、もう一発は「摂津」の少し前。そして九九艦爆は胴体下の模擬弾を落とす。水柱が二つ、「摂津」に白煙。
次の機体。さらに次。九機の九九艦爆は単機攻撃でそれぞれの役割を果たす。
当然、外れた機もあった。水柱を上げただけの方が多かった。
けれど、噴進砲と爆弾の組み合わせに何かを感じた者もいた。
「これ、命中を狙わなくてもいいんじゃないか?」
もちろん爆弾や魚雷は命中を狙う、が、
「陸軍の砲兵が言ってたよ、散るなら、散るように使えって」
誰も笑わなかった。
「数秒でいいんです」
その言葉で、何人かが顔を上げた。対空用の砲も機関銃を壊さなくていい。数秒止まればなんとかなる。完全に沈黙させる必要はない。艦隊の対空砲火の密度を、一瞬だけ薄くする。その後ろを、本命の艦爆と艦攻が通る。なんとかするのが海軍の航空隊だ。その腕を持っている。
「使えるかもしれない」
「使えないかもしれません」
全員が薄笑いを浮かべた。
戦場の方は待ってくれなかった。
昭和十七年も秋となった。
あのガダルカナル島の南にフネが、多数のフネが進む。
ガダルカナル島を守ろうとするアメリカ海軍。そしてそれを阻止しようとする日本海軍。それぞれに自分の戦力、その頃に揃えることができるせいいっぱいの艦隊、そして航空隊を揃えた。
『実戦試験用として送付可能なる数量を知らせ』
担当者が紙を見た。
「あるだけ、全部…ということですが…」
「またそれか」
呆れながらも送り先を見る。第二航空戦隊。
「……あそこか」
少し考える。
「十二組ならば…今すぐに、試作品ですからそのくらいしか…」
悩む。すぐには言い返せなかった。担当者は最後まで迷った。それでも答えを出すしかない。
「とりあえず全部、十二組? 倍あるだろう? こっちで使う試射分も全部だ」
そしてぽつりと呟く。
「まあ……撃ってもらうしかないか」
木箱は南へ送られた。
昭和十七年十月二十六日、その日はよく晴れていた。
「南太平洋海戦」
と呼ばれる戦いが始まる。
アメリカ側空母は「エンタープライズ」と「ホーネット」、その頃のアメリカ太平洋艦隊が出せる全航空力である。もちろん使える基地航空隊も全て使った。
そして日本側も空母部隊を全て投入する。損傷艦を別にする全てだ。「飛龍」と「蒼龍」ももちろんいた。ミッドウェーを生き残った第二航空戦隊である。
その搭載機の一部に、見慣れないものが吊られていた。噴進弾だった。まだ制式の航空兵器というほどのものではないが、敵艦へ突入する攻撃機にとって、最後に邪魔になるもの、対空砲と機銃を少しだけ戸惑わせる。
戦闘は始まった。噴進弾は何発も飛び交い、あるものは敵艦周辺の海面へ落ち、あるものは艦上構造物の近くで爆発した。戦果はよく分からない。ただ、その直後に急降下爆撃隊が入った。雷撃機が飛び込んだ。そこに敵の対空砲火が消えたわけではなく、機関銃も撃っていた。しかしそれでも、噴進弾が飛び込んだ一角では、一時的に射撃が乱れた。
南太平洋海戦は終わった。日本側も多数の航空機と搭乗員を失う結果となる。空母の損失はその結果である。アメリカ艦隊の対空体勢はどんどん進んでいる。試製噴進弾についても、華々しい戦果は記録されなかった。
報告書には、簡単に記された。
『命中率低シ』
『効果判定困難』
ただ、その下にもう一行あった。
『制圧射撃用兵器トシテ、実用試験継続ノ価値アリ』
「外しても怒られない兵器ですね」
アメリカは、『ホーネット』をまず失った。暫くは沈まずにダラダラと海域を漂っていた。おかげで艦内の死者は比較的少ない。
「あれ、持って帰れないかな?」
などと言う日本軍側の言葉も残っているくらいである。(どの距離を言っているんだ?)
余裕ではなく、単なる感想にしか過ぎないが、アメリカ艦船のダメージコントロールのすごさが分かるところでもある。
エンタープライズはなお航行していた。攻撃を受け少なくない被害を受けていた。飛行甲板は損傷しながらも、なお発着艦能力を残していた。ただ残っている航空機は少なくなり、残存の日本機動部隊に1隻で向かうような無駄な努力を諦めた。逃げよう。
多少の浸水はあり、速度は全速力は出すことができない。
「まだ助かる」
そのはずであった。艦の傾斜は排水することで改善した。火も消した。速度を上げるとまた浸水することで速度を再度落とす。
そこに、日本機動艦隊からの何度目かになるか分からない攻撃が来た。
退艦命令。
それは、艦を失うことだけではない。太平洋の前線から、作戦可能なアメリカ正規空母が一時、姿を消すことになる。
南太平洋海戦は終わった。
それでも、ガダルカナル島の飛行場は残っていた。
それを巡る戦いは終わらない。
今度は戦艦が出た。ヘンダーソン飛行場を砲撃し、輸送船団を島へ送り込む。そのために、夜の海へ。そして戦艦には戦艦を。比叡が沈み、二日後には霧島も沈んだ。
それでも兵は島へ渡った。
食糧も、弾薬も送られた。ただ、必要な量には足りなかった。
上陸した部隊に補給が続く。低速の輸送船はもう役目に就けなくなった。駆逐艦、潜水艦。島伝いに大発も走った。輸送専門の艦や機材が開発され、間に合った物から次々と投入される。ドラム缶さえ物資を詰めて海へ落とした。
まず食料、医療品。そして火器、弾薬。
届く物は届いた。届かなかった物の方が多かった。
「弾だ、弾。なかったら戦えん」
『筒』と『箱』は特に喜ばれた。ジャングルの中でも持ち運びできる。人力でなんとかなる。火力が高い。派手だ。特に『箱』が多数揚陸されて実戦に使われた時にはアメリカ軍自体がしばらくその方面への守備を固めた。
駆逐艦・潜水艦でもある程度の数を補給できる。数が揃ったところで部隊を動かす。ただ、その補給量は少なくなる一方であった。
そうして前線では弾より先に、まず医療品、次に食糧が減った。
病人が増え、歩けない兵が増えた。
それでも、ガダルカナル島を、飛行場を奪回するという方針は、すぐには変わらなかった。被害を受けながらも補給は続いた。その補給線はどんどん細くなっていく。
十二月末。ようやくその判断が変わった。
島の兵がそれを知ったのはもう少し後だった。
「西へ」
命令は簡単である。
地図の上では小さな島だった。四国の約三割。本土からはそれくらいの島。歩く兵にとっては、愛知県ほどの広さがあった。それでも…
撤収。
やっと出た命令であった。
「西?どこまで?」
「知るか」
投げ捨てるような言葉、聞いた兵もそれ以上は訊かなかった。
ガダルカナル島へ来てから、そういう命令には慣れていた。慣れたのだ。
「前へ出ろ」と同様、今度は「西へ行け」
それだけの違いだった。
朝から雨が降っていた。この地域にしては珍しい細い雨だった。それは葉に当たり、枝を伝い、少しずつ大きな滴になって落ちてくる。
軍服は濡れていた。乾く暇はない。晴れれば汗で濡れる。雨が降れば雨で濡れる。
軍靴を泥から抜く。前を歩く兵の背嚢が揺れていた。以前よりはるかに小さい。背嚢だけではなく、全ては軽くなっていた。軽装になったのではない。単になくなっただけだった。
「休め、小休止だ」
その号令に列は止まる。兵はその場へへたり込みそうになった。濡れた倒木と、泥。どこへ座ろうにも濡れている。だから立ったままで身体を休ませる。
また歩いた。道の脇に砲があった。山砲だった。泥が車輪の半分近くまできている。
ちらりと見る。
「持ってかないのか」
前を歩いていた下士官が振り向いた。
「持てるなら持ってけ」
誰も手を出さなかった。今はその時間がなかった。
少し先には車があった。さらに先には何やらが入っているドラム缶。木箱、雨除け用の天幕。缶詰。何ヶ月もかけて島へ運び込んだものが、道の両側に少しずつ残っている。
「お前、持って帰るか?」
「嫌だよ」
少しだけ笑った。久しぶりに聞いた笑い声。
さらに歩く。
途中、小さな陣地があり、土嚢と丸太で構築していた。未だ掘りかけの壕でしかない。
その脇に『箱』が置かれていた。
夕方になった。雨は止んだが、空気は重い。軍服はまだ湿っている。
西の空だけが少し赤く見えた。その下に海があった。
列が止まった。暗くなってから薄い粥状の飯が配られた。
少しずつ食べた。早く食べれば、すぐなくなる。だからゆっくり食べた。
「船が来るらしい」
暗闇の中で、中隊長が言った。
「飯、来るかな」
何人かが顔を上げた。だが、誰も続きを言わなかった。
夜が深くなった。
「起きろ」
声がした。うとうととしていた兵らはゆっくり体を起こす。周辺の雰囲気から、いつの間にか人数が数倍になったことを知る。いつのまに?
「移動する」
海岸へと歩く、この数日の移動でヘトヘトだがそれでも脚を前へと。海岸に目を移すとそこにはフネがいた。あれは…
灯りがない中で、前の兵の背中だけを見ていた。見失えば、足音を聞く。そして脚を前へと。
波の音が近くなった。
海岸へ出ると、そこには人がいた。人たち?思っていたより、ずっと多かった。
暗い砂浜に何百人、何千人いるのか分からない。皆、声を落として待っている。
歩ける兵。肩を借りる兵。杖代わりの棒を使う兵。担架に乗った者。担架を担ぐ者。海軍の兵もいた。暗いので階級章までは見えない。
海岸に大発が複数乗り上げていた。
「できるだけ部隊ごとに」
そう言った大発の兵は暗闇の中でも分かるくらい真っ黒な顔で、白い歯で。
「押すな!」
「そこ、止まれ!」
「担架を先に!」
「待て、まだ艇へ行くな!」
小さな声が飛び交う。誰も大声を出さない。
大発から駆逐艦へ…この海岸に集まっている部隊が全て撤収する。その予定である。
人数を数える声。
「まだ乗る!」
「前へ詰めろ!」
「担架一本!」
艇が少しだけ重くなる。波に揺れる。低音で動いていたエンジンが回り、そのスクリューが回った。
岸が離れ、兵は振り返った。暗い、空に比べれば島は暗い。大発は沖へ進む。黒い駆逐艦が大きくなる。自分を運んできたフネである、補給を支えていたフネである。何ヶ月も見てきたフネだった。
そして今夜は…。縄梯子が下りてきた。
「上がれ!」
兵は掴む。一段、二段、腕が震える。足を掛けるが、滑る。上から駆逐艦の水兵の手が伸びてきた。
「つかまれ!」
腕を掴まれた。引き上げられる。甲板へ膝をついた。その膝の感触、鉄だ、硬い、冷たい。その場へ座り込んだ。
「邪魔になる、奥へ!」
水兵の言葉に少しイラッとしたが、それ自体はどう考えても間違いがない。
ゆるゆると立ち、移動する。甲板にはすでに多くの兵がいた。皆が濡れ、痩せ、黙っていた。
少しして振動が変わり、艦が動き始めた。船尾に白い波が立つ。黒黒としていた岸が次第と遠くなる。遠ざかるガダルカナル島は黒かった。あれほど広かった島が、夜の海から見ると単なる影だった。
水兵が湯の入ったアルミのコップを持ってきた。
「少しずつ飲め」
兵が受け取った容器は熱いくらいで、南にいるにもかかわらず湯気が出ていた。口へ運ぶ。温かかった。久しぶりに味わう温度であった。喉の奥が痛くなる。
兵は湯を持ったまま島を見た。島影が重なり、自分が今までいた島はもう分からなくなっていた。
「本当に帰るんだな」
隣の兵が言った。喜んでいるようにも聞こえた。ただ悔しがっているようにも聞こえた。たぶん、そのどちらでもあった。
日本軍は、ようやくこの島を捨てた。
決断するまでに、あまりにも多くを失ってしまった。
いかがだったでしょうか?
ガ島放棄まで上手く描けたかはよく分かりません。
次は、
ダンピール
そして…
もうしばらくお付き合いください。
ではでは。




