98式噴進砲 その8(『筒』と『箱』、そして空へ)
やあやあポチです。
空対地ロケットはどこで出そう…?
ネタバレですが、対艦ロケットもかなり後で出す予定です。
進めていたら、
あれ? 海軍をまとめてないなぁ~
ええい、ここに入れちゃえ!
ちょっとごちゃごちゃしてますが
お楽しみください。
昭和十七年一月。
フィリピン、バターン半島。
上陸と共にいくつもの飛行隊も海を渡った。
第十独立飛行隊、独立飛行第五十二中隊もその一つだった。もともとは師団や連隊の指示を受けて偵察を仕事にする中隊である。部隊内ではキ51と呼ばれる九九式軍偵察機を使い敵の位置を見つける。写真を撮り地上へと知らせる。キ36、九八式直協と共に歩兵部隊にとっては戦闘機や爆撃機よりも大切な「仲間」であった。さらに、キ51には別の顔がある。
九九式襲撃機と呼ばれる、低く飛び、地上を直接殴る方である。ソビエトが考えたコンセプト、「シュトゥルモヴィーク(襲撃者)」が似ている。
独立飛行第五十二中隊にその九九式襲撃機が二機、試験用として回されてきた。
翼の下には、見慣れない物がぶら下がっていた。爆弾というには細長い。操縦者はしゃがみ込み、翼下を覗いた。左右二発ずつ。四発。簡単な支持架へ噴進弾そのものを取り付け、電気で点火する。
「撃つのか?落とすのではなく…」
パイロットは中国戦線からこちらへと来た。たどり着くまでにとりあえず説明は受けた、説明書も読み込んだ。実物を見るのは確か初めてだった。
何年も地面を見て飛んできた。道路。集落。河。橋。そして砲兵陣地や機関銃座。
時には何なのかよく分からないものまで機関銃で撃ち、爆弾を落とした。そういうものは当てようとすればもう体が覚えていた。けれどこんなものは初めてだ。
射程は聞いた。やや曲なりの弾道も。が、機首をどの辺まで上げればいいか、どこまで近づくのか、頭の中で覚えていることと身体が覚えていることは違う。
噴進弾を指さす。
「で、どうやって当てる?」
「まだ決まってません」
「専用の照準器は…ないのか………よく持ってきたな」
操縦者が機首を見る。7.7㎜の前方機関銃、そして翼内にも同じ機関銃。この頃の主力である97式戦闘機より重武装だ。
「機関銃は撃てるんだよな。ならそれでやってみる。で当たりをつける」
「機関銃と噴進弾では弾道が違いますよ、第一、速度が違う」
無理を言っているのは分かっている。本土で発射はできている。ただ、現地からの「早く、早く!」という言葉に逆らえなかったのは上司であり、持ち込んだ自分だった。
「知ってる、けれど一度撃てば分かるだろ?」
何年も地面を撃ってきた人間だからか、時々平然とこういうことを言う。
「百四十一聯隊からの支援要請です」
簡易な作りの応急指揮所の中で、地図へと指が置かれた。
アブカイ方面。
百四十一聯隊は前へ前へと出ようとしていた。だが、道路と斜面の間から撃つ機関銃に何度も頭を押さえられている。連隊砲も大隊砲も、そしてそれぞれの支援のための迫撃砲。砲兵は懸命に前へと続く。だが、今そこで撃っている機関銃を今すぐ黙らせたいのだ。
「機関銃を潰したいようです」
「場所は理解した、が、近いな、味方と…」
まだ整地が十分には終わっていない荒々しい飛行場から九九式襲撃機二機が上がった。
バターンは山だった。地図で見ると細長い半島にしか見えない。飛んでみれば森と尾根と沢ばかりである。その間を道路がくねくねと曲がりながら南へ延びていた。
尾根のちょっと下、50メートル前後の高度でその道を確認しながら飛ぶ。
道路脇。兵が伏せている。その先の斜面から、時々細かな閃光が見えた。
「百四十一聯隊だよな?」
「そうです!」
後部の偵察員が先ほどの地図の写しを見ながら答えた。
高度を落とす。機首を下げた。地上からも撃ってきた。間違いない、敵だ。
翼内機関銃を短く撃つ。曳光弾をいつもの二倍にしたためか多めの赤い線が斜面へ伸びる。銃座手前、赤土が跳ねる、機首を少し上げる。今度は土嚢の横へと弾が入った。
噴進弾を発射する。爆弾投下用の位置、いつもの位置。翼下から二本の白煙が流れる。噴進弾が機体を離れた。一発、手前。もう一発、さらに手前。爆発し赤土と枝が上へと。
「外れました!手前です!」
「分かってる!」
機体を引き起こし、山肌を左へと旋回する。
「まだ二発あるから、やってみる」
二度目、また翼内機関銃を撃つ、確かに曳光弾が機関銃座へ入っている。だがそこを狙うわけではない。ほんの少し機首を上げる。照準器の丸い枠の半分くらい上。発射。
一本、斜面へ飛び込む、爆発する。そしてもう一本は手前の木へ当たり、木自体を倒した。機関銃座が壊れたかどうかは分からないが、射撃は止まっていた。
一拍、道路脇に伏せていた兵が動いた。一人。二人。続くように何人も斜面へ走っていく。
「当たりましたね」
機体を起こす。周囲を確認しつつ下からの要求や指示がないのであれば帰投の手順となる。後席が訊ねる。
「二回目、どうやったんです?噴進弾」
「4発の中の1発だ、嬉しがるな。ま、一回目より少し上へ向けた」
「何度です?」
「知らん、見れば分かる」
次の日。
もう一機の九九式襲撃機が飛んだ。要請があったからだ。パイロットは若かった。
前日のパイロットも今日は2番機の場所にいる。
先行機が機首を下げた。目標を捉えたらしい。降下を始める。短く切った機関銃音、曳光弾が地面へと入る。そして、白煙が二本伸びた。機体は緩く上昇する。地上で爆発。1発は機関銃座のすぐ近く。もう1発は少し左へ。
「あいつ上手かったっけ?」
「軍曹に比べるなんて…まだ下手ですよ」
「じゃあ…」
なんで当たる? という言葉は声にならなかった。
航空隊にやってきた中央からの中尉は紙を差し出した。
「軍曹がやってたことを書いただけです」
高度・速度・降下角・発射距離・照準位置。自分が昨夜に聞かれたことだ。
「ふん…ま、当たりゃあそれだけ楽になる…」
歩兵第百四十一聯隊から、また航空支援の要請が来た。机の上の飛行帽に手を伸ばす。
「噴進弾装備機を希望す。…だそうです」
「六発くらい載らんかな?」
また誰かの仕事が増える。
その噴進弾が飛行機の翼下へぶら下がるまでには、少し時間を遡る必要がある。
発足した『委員会』は、最初、
「何か使えるみたい」
という興味本位の感覚の参加者が多かった、いや当事者である技術本部と工兵以外はみなそんなものである。なにせ目の前で見てない。どっかか面白そうなものを作っており、そして現場からは欲しいという訴えがあり、とりあえず参加したという担当者もいた。
で、見た。書類の上では何度も目にした実物を。単なる射撃実験ではあったが、既に工兵用「障害物破壊」のために数種類の試作品が並んでいた。陸軍科学研究所としてもどれが本命か、増産するかは工兵と相談するしかない。だからこそ上海に送ったのだ。
「すごくない?」
目の色が変わった、顔つきが変わった、姿勢が変わった。
「こんなのがうちにあったら…」
会議は踊った。温度差は確かにあったが、次第に熱を帯びてくる。
歩兵は大隊砲の補助、中隊支援のためのものと見た。
砲兵は一つで複数発を広範囲に一斉に撃てるものと見た。
騎兵と戦車隊は同行すべき支援砲の一種として見た。
輜重(自動車)兵は自己防御用の砲として見た。
航空隊は機関銃と爆弾以外の兵器として見た。
そして、海軍は?
軽い、というだけではない。重い砲身も駐退機もいらない。必要なのは発射架と弾である。しかも重量の大部分は撃てば飛んでいく。
「欲しい、いくらでも」
既に技術本部だけではどうすることもできなかった。というか、このままでは自分の仕事ができなくなる。
「すまん、そっちで引き受けてくれないか?」
陸軍省から来ていた顔なじみに丸投げするしかなかった。
泣く泣く陸軍省に帰った連絡士官は、自分の範囲を既に超えていることを感じていた。実感していた。だから素直に上へと丸投げした。(後は知らない…)
結果として、陸軍大臣にまで話が行った。行ってしまった。
陸軍大臣である杉山元は怪訝な顔をした。
「この…報告だが…」
「例の『三勇士』からの流れのようです」
しばらく黙り込む。思い出そうというわけではなく、どうするのが一番なのか…という思案顔であるのは、長年副官として付いていたことで理解した。
「ならば答えるしかないか…いずれは奏上するとして…海軍には言ってやれ」
「陸軍大臣の責任において『研究開発』のための委員会を置く」
「海軍にも?」
「連絡しておけ。委員を出してもらえ」
「参加しますかね」
杉山はうっすら笑った。
「仲間はずれは嫌だろう」
◇ ◇
陸海軍間のロケット兵器における話し合いは、
「お互い火薬(推進薬)で苦労したね、で、同じ答えにたどり着いた(笑) そんな無駄なことしなくったって…だから、分かっていることを教え合おうよ」
というものであった。
ただ単純に「統一化しよう!」という話ではない。使う場所も時も違う、知識や知恵、工夫は「お互い内緒箱にしまわないように」ということであり、別々に作るのだからもの自体が異なる。
海軍は、最初から少し違うところを見ていたわけである。
「上陸の時に使えないか?」
艦砲射撃は強力ではある。駆逐艦の砲は12.7センチ。が、いつでも欲しい場所へ撃てるわけではない。欲しいのは艇から降りた歩兵と一緒に運べ、海岸へ着いた即時に撃てる、路地には入れる砲である。まずはあの工兵用の発射架と弾体、発射架を軽くできないかと考え結局は様々な場所に移動する中で発射架の安定性が問題となった。できたのは
「筒」
だった。携帯性と威力、バランスを考えると最終的に10センチとなった。(日本海軍には10㎝砲というのにあまり馴染みがないので、7.5センチ(だいたい3インチ)派と12.7センチ(だいたい5インチ)派のせめぎあいがあったとされている。馴染みのある数字を主張するのは仕方がない。10センチになったのはバランスの結果である)
次に、もっと大きくしたいという要求が出た。(だろうな…苦笑)
「二十センチくらい、いけませんか」
砲なら二十センチ(海軍だからたぶん8インチ)ともなれば、砲身も砲架も巨大になる。牽引車まで揚陸させられない(その前に持ってない)のだから無理が大きい。が、噴進弾なら…重いのはほとんど弾そのものだった。最初は大砲と同じように立派な発射架を作った。駐退機もなければ砲身厚も薄い。が、照準装置を付け、脚を付け、頑丈にした。外見的には立派な大砲に見えた。
試す、試す…そして、だんだん何かに気付く者がいた。
「……これ、向きさえ決めてやれば撃てません?」
試した。本来、筒でなくても良い、雨樋のようなもの、レールのような弾体の方向さえ決めれば……いやいや工兵用の発射架に戻ってませんか? 試した結果、斜面に溝でも掘れば…
撃てた。
さらに誰かが、輸送用の木枠を見た。本来の木箱ですらない。枠だけの輸送用梱包である。平塚の海軍火薬廠で作られた試作品であるので、近い射撃場で使うのならこの程度の梱包で十分だと考えられたのだろう。
「これから撃てないか?どうせ弾を固定するために作ってあるんだろ?」
角度を付けて試す。木枠はバラバラとなった。で木枠を補強した。撃てた。撃ててしまった。そして、そこでまた話が変わった。(誰が変えた?)
それまでは、砲と弾を運んでいた。今度は弾を、弾だけを運べばよくなった。海岸へ揚げた木枠をそのまま並べる。向きを合わせる。それだけで、大口径の噴進弾が撃てる。
「……これって、砲なんですかね」
「弾だよ、でも使える」
「それならばわざわざ砲身を飛行機に載せずに済むのでは?」
と気づいたのは、海軍側だったか陸軍側だったか…会議の途中のことであり、うやむやになった。会議の途中で誰かが言い、何人かが黙り、そして別の誰かが、
「……航空を呼べ」
すぐさま陸軍航空技術研究所と海軍航空廠へ連絡が飛んだ。本人たちは困惑顔である。なにせ、「使える」ということが分かったばかりのものである。内部の研究会は数日先に予定されている。
陸軍側の技術者が図面を見る。そして海軍側も覗き込んだ。
「ロケットですか」
海軍側が何気なく言った。陸軍側がぎょっとする。
「いや……まあ、似たようなことは前からしてますので…」
「飛行機関係で?」
「ええ爆弾です」
陸軍側が顔を上げた。
「まさか…爆弾を? 加速させるんですか?」
「まあ、落としたあと、もう少し速くできないかと…装甲板への貫通力を上げようかと」
「そんなことやってたんですか?当たるんです?」
海軍側は少し黙った。
「……そこなんですよ」
会議の途中に笑いが広まる。みんな知っている。
「とりあえず使えそうかな程度でやっている最中ですが、あとが困ってます」
会議というのは、時々こういうものだった。別々の場所で、別々の目的で、似たような失敗をしていた人間が同じ机に座る。
「で、これは?」
陸軍側が噴進弾を指した。
「載せるだけなら載りますし、たぶん撃てます。ただ……当たるかどうかは別の問題です。陸海軍とも同様のことでしょう」
海軍側の技術者も噴進弾を持ち上げた。
「重いが…反動がないのはいいか…」
「向きを決めるものがあれば…機体に向きを決めさせればいいですよね?」
「翼の下に付けるのが一番かな?」
発射時の噴流。さらに書類が一枚。取付強度。
「実際に飛ばすのが分かりやすいか…」
また一枚増えた。
「で、どうやって当てます?照準は?」
誰も答えなかった。答えをまだ誰も持ってなかった。
「とりあえず…撃つんだ、やってみるしかない」
それを聞いた陸軍側が笑った。
「簡単そうだったのに、どんどん分からなくなる」
「で、何を撃つんです?」
陸軍の人間は少し考えた。
「地上でしょうね。機関銃座とか、砲兵陣地とか」
「橋や自動車あたりにも」
海軍側は別のことを考えた。
「フネにも使えるか」
「とりあえず撃ってみろ、って」
その日、航空用噴進弾の研究項目が一つ増えた。まだ航空用という名前すら付いていなかった。
いかがだったでしょうか?
まだまだまとめる力がないですねぇ~
文章力の低さにびっくりしてます。
(; ;)ホロホロ
でも、書き続けることも大切ですよね。
次は…連休中になるべく投下しようと思います。
ではでは。




