98式噴進砲 その5 (どこで始まり?どこで終わる?)
全国、500名を超えるポチファンの皆さん、日々の生活ご苦労様です。<m(__)m>
え?
お前のファンじゃない?
ま、まぁ、分かってますけれどね…((; ;)ホロホロ
とりあえず話題は『量産』という視点です。前回火薬については考えました。次は本体です。
時系列がずれてる?
ハハハハハ
このくらい読みこなせなくて、かの京極さんの小説(初めて見た時、枕かよ?と思ったことはナイショ)を楽しめますか? (自分の文章力を誤魔化す手段 笑)
ではお楽しみください。
昭和十六年十二月二十日。
ダバオ湾。
夜の海は黒かった。
陸は、もっと黒い。
海岸も島影も、まだほとんど見えない。
ただ、空気だけが南へ来たことを教えていた。
暖かい。
十二月とは思えない湿気が、肌にまとわりついている。
夜気の中で匂いが混じっていた。
「上陸準備」
鉄帽・帯革・弾薬盒・水筒・雑嚢・小銃。
兵らは一つずつ確かめていく。
上陸戦だった。
船倉では、人より先に荷物が動いていた。最初に浜へ出すもの。あとでいいもの。順番を間違えれば、必要なものほど船の奥に残る。
暗い船倉に、潮と油、そして汗の臭いがこもっていた。
その中から、細長い木箱が出てきた。
「それも第一陣」
「そうだ」
一人で持ち上げる。
「軽いな」
「砲にしちゃ」
箱の横に黒い文字があった。
兵が顔を寄せる。
『九八式噴進砲』
「……ふんしんほう」
「例の筒じゃないですか」
「筒でいいでしょう」
「俺に言うな」
携帯発射筒。陸戦隊用ロケット弾発射器。試製携帯発射器。
陸軍と海軍、そして研究員、生産者、書類を書く者によって、呼び方まで違った。
どこかで、それでは困る者がいたらしい。
いまは木箱に、『噴進砲』と書かれていた。
中身は相変わらず筒だった。
発射筒一本。
数発入っている弾薬箱。
それで撃てる。
照準具も点火装置も、筒についている。
艇を降りる。
浜を越える。
道へ出る。
路地へ入る。
筒を持つ兵がいれば、ついてこられる。
陸戦隊が、そういう兵器にした。
「降ろせ!」
船から降ろされた大発が舷側で上下した。
船と艇の間で、黒い海が見えたり消えたりする。
縄梯子。兵が足を滑らせる。下から手が伸びる。
艇が輸送船を離れた。
沖では、別の大発も動いていた。
一隻。また一隻。黒い海を、陸へ向かって進んでいく。
呉第二特別陸戦隊。
人と物が、同じ海を渡っていた。
艇の中から見えるものは少ない。
前の兵の背中。黒い海。また黒い筒。そしてやや白みを帯びた木製の弾薬箱。
それだけだった。
「海岸」
誰かが呟いた。黒い帯が近づいてくる。その上に、椰子の輪郭が見え始めた。風の匂いが変わった。
潮の中へ、
濡れた土。
葉。
どこか甘い、腐りかけたような植物の臭いが混じる。
「準備!」
小銃を立てる。軽機関銃手が弾倉を確かめる。
艇底が擦った。衝撃。
「降りろ!」
海へ入る。膝よりはちょっと上、そして次の一歩で腿まで来た。水は冷たくなかった。それが妙に感じた。
靴の中へ海水が入る。脚絆が重くなる。しかし小銃はぬらさないように持ち上げる。
弾薬箱も持ち上げる。
波打ち際。砂。そしてその先は、湿った砂だった。
「第一小隊、集合!」
上陸というものは、予定表どおりに人間を並べてはくれなかった。第一分隊がいる。けれど第二分隊が半分しかいない。
「筒!」
「あります!」
「弾!」
「六発!」
士官が振り返った。
「よし」 (現場ネコではない)
それだけは揃っていた。
海岸を離れた。夜明け前の道。両側には濃い植物。ところどころに誰もいない家屋。
歩くほど汗が出た。海水に濡れた軍服が肌へ張りつく。油を塗った銃。砂。草。
遠くで小さな爆音。小隊長がピクリとした。そして前方から小銃声がした。続いて機関銃。
「道の両端へ!」
兵が道路脇へ飛び込んだ。
道路の土が跳ねた。
「機関銃!」
「撃つな! 展開!」
樹木の陰から一人が覗き、そしてすぐに頭を引っ込める。
「道の先!」
「あの白い建物!」
薄明るくなり始めた空の下。
白く二階建ての建物。その脇に土嚢。キラキラとした閃光。
近くの葉が切れた。兵が頭を下げる。士官が後ろを見た。
「噴進砲!」
返事がない。
「噴進砲!」
「……はい?」
「筒だ!」
「ああ、筒!」
二人が這ってきた。
一人が筒。一人が弾。
「距離」
「百……百五十くらい!」
「撃てるか」
「撃てます」
筒を肩へ載せる。
「後方!」
「空いてます!」
兵がすでに左右に退いていた。
簡単な照準具の向こう。
白い建物。
土嚢。
乾いた噴射音。
筒の後ろから煙と地面の砂が吹き出した。
近くの兵が顔を伏せる。
弾は飛んだ。
白い建物。
その手前。
爆発。機関銃は止まらない。
「次!」
もう一発。
白煙。
機関銃の音が途切れた。
「前へ!」
兵が走る。
土嚢へ着く、直撃ではなかった。
それでも土嚢は崩れ、機関銃は使えなくなっていた。
「外れてます」
「使えたじゃないか」
別の道から、陸軍の歩兵部隊が来た。
「さっきの爆発、何だ」
陸戦隊の兵が筒を見せた。
「噴進砲です」
「何砲?」
「噴進砲」
陸軍士官が筒を見る。
後ろも見る。
「穴が開いてるぞ」
「開いてないと困ります」
「これが?」
「土嚢は崩しました」
「…………」
少し考えた。
「なぜうちにない?」
◇ ◇
日が暮れても、空気は暖かかった。
海から湿った風が戻ってくる。
朝とは少し違う臭いだった。
鉛筆が走った。
『噴進砲』
携行容易。
近距離直射に有効。
弾薬携行数不足。
少し考えた。
最後に一行。
増加配当を望む。
海の向こうでは、電報が日本へ向かっていた。
噴進砲。
追加要求。
数字。
試験場で必要だった数より当然多い。
上海で欲しがった数より、かなり多い。
火薬はあった。というか、なんとかした。
そこまでは、どうにかなった。
今度は別のものが足りなかった。
発射筒・弾体・噴口・金具・信管の部品 などなど。
「必要数は?」
「なるべくと……」
ふんと、鼻を鳴らす。
「生産数は?」
紙を見る。
黙った。
「……これを、どこで作るんだ」
陸海軍とも、また同じ問題に至った。
◇ ◇
その数年前の話である。
東京。
大阪。
名古屋。
川口。
大田。
墨田。
地図の上では、どれも小さな点だった。
そのころ町のあちこちの工作機械がいつもと同じ油の臭いの中で回っていた。
表通りから一本入る。道が急に細くなる。荷車が一台通れば人は軒下へ寄らなければならない。そんなごちゃごちゃした風景の中で、人々は生活していた。そしてその間に、工場があった。工場といっても、そのあたりの家とほぼ同じ。いつも開け放たれている引戸があり、その前には煤けた看板。
中から音だけが、路地へ流れ出していた。
甲高い金属音。低い旋盤の唸り。ボール盤が材料へ食い込む音。どこかでは槌が鉄を叩いている。そして日中は音が止むことはなかった。或いは夜中まで鳴っていた。しかし町の人々は日常の音として、たまの夜中の音を受け入れていた。
入口をくぐる。明るい外から入ると、最初は中がよく見えない。天井は低かった。梁は黒い。その下を一本の軸が回っている。何本もの平ベルトが垂れ、機械へ動力を渡していた。
ぱたぱた。
ぱたぱた。
平ベルトの継ぎ目が滑車を通るたびに一定の音がする。その下で旋盤が回る。刃物が鉄へ当たる。細い削り屑が、銀色に伸びた。熱を持って丸まり、床へ落ちる。
狭かった。床板には、何年分か分からない油が染み込んでいた。自分の履いている革靴が鉄の切粉でざらりと鳴った。
匂いも一つではなかった。切削油。熱くなった鉄。煙草。汗。木の壁が吸い込んだ湿気。そしてその隙間から、隣家の昼餉であろう味噌汁や煮物を作る匂いが流れ込んでいた。
入口を一歩出れば、子供が路地を走っていた。洗濯物が風に揺れている。一歩戻れば、旋盤が鉄を削っていた。
「親父、軍の人」
旋盤は止まらなかった。旋盤の銘板には池貝とあった。
「待たせろ」
刃物が最後まで走る。機械がようやく止まった。急に静かになる。向かいの工場からは槌の音が聞こえる。
町そのものは止まらい。
男が手を布で拭いた。
黒くなった布で拭くものだから、指はあまりきれいにならない。
「何だ」
研究員が図面を出した。
「これを作っていただきたいんですが」
「見せろ」
図面を取られた。ひったくような勢いだった。
入口から入る午後の光へ、紙を少し傾けた。
「これ、誰が引いた」
「研究所です」
「だろうな」
「分かるんですか」
図面を油に薄汚れた指で叩く。
「一個作る図面だ」
「量産用ですが」
「嘘つけ」
「…………」
指が、一つの寸法で止まった。
「ここ」
「この数字」
男が顔を上げた。
「本当に、ここが要るのかって聞いてんだ」
奥で平ベルトが鳴った。
ぱたん。
ぱたん。
誰かが松ヤニの塊をベルトに当てる。
次の日の朝、旋盤の横。油染みの付いた作業台。
そこに一つ、部品が置かれていた。
「できない」
「……できませんか」
親父は煙草を咥えたまま言った。
「できないとは言ってねえ」
「はい?」
研究員が部品を手に取る。
測る。
寸法は出ていた。
「一個だけな」
「いつ作ったんです」
「昨日」
「昨日?」
「図面置いてっただろ」
「百個できます?」
男が煙草を口から外した。
「だから」
油の付いた指で図面を叩く。
「百個作れって言うなら、図面直してくれ」
別の町へ行けば、匂いも変わった。
同じものを作っている工場はほとんどなかった。
しかし、どこにもロケット、噴進砲を作っている工場はなかった。
「噴進砲って何です?」
やはり聞かれた。
「火薬で弾を――」
「いや、そこは……」
「で、うちは何を作ればいいんです」
油が付いてない指が、図面の一部を指した。
「これです」
「この筒」
「なら筒って言ってください」
親父は図面の上へ鉛筆で一本、線を引いた。
路地の向こうでプレスが落ちた。
どん。
平ベルトは、まだ回っていた。
◇ ◇
幾つかの町工場から集められた部品が揃った。
百個
若い連中が組み立てる。
が、八七個……
「難しいです」
「八七個できたんだろ?」
「では、残りの十三個は捨てますか?」
「…もったいないよな」
これまでは研究室で作ってきた。何でも引き受けてくれる専任職人がそれこそ宝物のように作ってくれた。その後を工廠が引き継いだ。百発単位でもどうにかしてくれた。ただ、工廠で捨てた数はどこにも記載がない。そして千、万の単位になった。作る場を求めて民間に求めた。大企業ではない。親方一人、職工数名の町工場へと話は降りてきた。そして、このままでは無理だった。
「寸法か? どこも図面通り作ったんだろ?」
「そのはずです」
「なら、図面が問題なのか?…いや、違うか…」
研究室で作っていた時は専任職人が一個一個丁寧に作っていた。工廠でも表に出てないだけで不良品は出ただろう。が、複数の工場で作る部品を組み立てる時に表に出た。筒は大田、金具は墨田、噴口は川口。作った者同士は互いの顔も知らない。
会議だ。研究会だ。検討会だ。いや、名称は違ってもほとんど同じメンバーが机を囲んだ。そして、相変わらずの課題は
「どうすれば、百個を完成できるか」
であった。資料は次第に枚数を増やす。部品数ではない、きちんと納入されている。ただ正しくはない。全てが完品とならないのだから。
なら何だ?
話は最初の精神論からは離れた。そんなことを言う人物はさっさと外された。政治的なもの? 最初からない。理系的、工学的な話が次第に深まる。
公差・限界ゲージ・共通基準・測定器、そして削り方。
「最初から分かっていたのでは?」
呆れた表情で軽く言う一人。
「分かってるなら、初めから言え」
「最初から言ってましたよ」
「なら…貴官に任せようか」
「以前から興味あります。で、どこにでも行って良いですよね」
いかがだったでしょぅか?
実は「戦時中の量産体制」については、
アメリカ風 (とりあえず作れ、あとはどうにかする)
ドイツ風 (中央の指示に従え! できるよね、ね、ね)
のことについて、いろいろ調べてました。
けれど、日本ってどっちも合わないのですよ。あ、もちろん
ソ連風 (うちが正しい! できない?ではシベリアだ)
はもちろん合わない。ならば?
そうイギリス風が…
そんな増産体制の拡充のために走り回ってます。
次は…何でしょ?(笑
次は…何処に行く?(笑
明日公開です。
ではでは。




