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98式噴進砲 その4 (とりあえず作ったが影響が大きすぎた)

やあやあポチです。

なんかどんどん広がってます。

(おまえのせいだよ…という言葉は無視します 笑)


今回は、「御下問」に対する一つの答えを出します。

が

その影響が次第に広がり…


うまく描けたのか心配です。


お楽しみください。


『昨日の夢は、今日の希望であり、明日の現実である。』

              (ロバート・H・ゴダード)

 

    ◇          ◇


 昭和十二年。

 上海。

 雨は上がっていた。だが、地面にはまだ水が残っている。黒く濡れた土。

 その向こうに、鉄条網があった。杭に何重にも鉄線が絡んでいる。さらに奥には土嚢。

 ときおり、機関銃が短く鳴った。


 工兵中尉が双眼鏡を下ろした。


「今日は、あれを使う」

 木と鉄で組んだ簡単な発射架が運ばれた。まだ制式兵器ではなかった。工兵学校で試験を続けている、試製の破壊弾。細長い弾体。尾部には噴出口。

 発射架の脚を泥へ押し込む。


「距離、百二十」

「風、右から」


 曹長が鉄条網を見る。

「使えるんですかね」


「知らん」

「だから持ってきた」


 兵らが発射架の向きを直す。

 簡単な凹凸だけの照準。弾を載せた。後方より逃れる。

「準備よし!」


 中尉が手を上げた。

「点火!」


 白煙を帯びた弾体が狙った場所より右へ落ちる。そして一瞬遅れて爆発した。

 土。煙。切れた鉄線が跳ね上がる。杭が一本倒れ,もう一本が傾いた。


「もう一発」


 1発目を見て発射架を少し動かす。

 弾が伸びたのは1発目とは少し離れた場所だった。

 土嚢の手前で土が跳ねる。また鉄線が切れた。そして、何本かの杭が傾いた。


 しばらくして、歩兵が動いた。最初の一人が鉄条網の間をくぐり抜けた。次。その次。

 切れた鉄線を踏む。傾いた杭を押し倒す。

 綺麗な通路ではなかった。

 予定した場所でもなかった。

 曹長が双眼鏡を下ろした。

「当たりましたね」


 中尉は首を振った。

「狙ったところから、どっちもずれてる」


曹長は応える

「けれど」

「使えた」


 中尉は答えなかった。

 後ろでは、次の弾を運ぶ兵がいた。

 前では、工兵が切れ残った鉄線を片付けている。

 もう爆薬を抱えて走っている者はいなかった。


      ◇          ◇


 十日後。

 上海から報告書が届いた。


 机の上へ広げる。


「使えたそうです」


 赤い線が着弾点を囲んでいる。

 二つとも、狙った場所からずれている。


「追加要求は?」


「あります」


「なら次だな」

 研究員は地図上の二つの赤丸を見た。

「もう少し」

 鉛筆の先で、目標点を軽く叩いた。

「こっちへ飛んでもらう」


      ◇          ◇


 穴が開いたあとだった。

 雨の跡が未だ上海の路面に黒く残っていた。

 火薬の煙は低い雲の下へ広がり、湿った空気の中でなかなか消えなかった。


 遠くでは機関銃が鳴っている。歩兵はもう前へ出ている。工兵も次の仕事を始めている。


 その後ろで、一人だけ違うものを見ていた。

 服が違う。海軍陸戦隊の士官だった。

「……あれ、何貫ある」


 陸軍の工兵が振り返った。


「あれだ」

 指の先。泥の上に、簡単な発射架が置かれていた。


「これですか? よく分かりませんが…二人で運べます」


「砲身は?」


「ありません」


「駐退機は?」


「ありません」


「砲架は」


「これです」

工兵が指さす。それは木と鉄で組んだ脚立のようにも見えた。


 海軍士官はしばらく見ていた。

「……ずるいな、陸軍は」


      ◇


 海軍陸戦隊にも、武器はあった。

 小銃。拳銃。短機関銃、軽機関銃、重機関銃。そして装甲車。

 迫撃砲などの火砲もないわけではない。

 だが、砲は砲であり重い。

 確かに艦へ戻れば、もっと大きな砲はいくらでもあった。陸軍だと重砲とされるものが当たり前に載っている。ならばその砲を使う?


「艦は路地へ入ってこない」


 上海の路地には瓦礫がある。橋は狭い。水路もある。家屋が倒れれば、昨日通れた道が今日は通れない。

 そんな中にはもちろんフネを進められないし、カッターでフネから上陸する際に砲などを揚げさせようとするための悠長な暇はない。


 海軍士官は、もう一度泥の中の発射架を見た。

 陸軍の工兵が次の弾を運んでくる。

 二人だった。

「……欲しいな」


      ◇          ◇


「見せてほしい」


 報告書の分析が進む中、海軍から話が来た。


「破障弾ですか?」


 海軍士官は机に手を置いた。

「あの発射架は軽いそうだな」


「艇に載る」

「浜へ降ろせる」

「人でも運べる」

「なら、陸戦隊でも使える」


 研究員は黙ったままだった。


 ところが。

「海軍でもやっていますよ」

 誰かが言った。


「ロケットです」

 対応していた研究員が顔を上げた。そして海軍士官も。


「海軍が?」

「いつから」


「だいぶ前から」


「聞いてません」


「向こうも、こちらも、全部を知っているわけではありません」


 それもそうだ。




 昭和九年。

 神奈川県、辻堂。

 海軍でも、似たようなことをしていた。もちろん陸軍とは別である。まずは目的が違う。陸軍は野砲の射程を伸ばそうとしていた。海軍は軍艦用信号弾を考えた。ただその解決策が同じものであっただけである。相談もしていない。書類も別だった。そして予算も別だった。ただ、火薬へ火をつけて、後ろからガスを出せば前へ進むというところだけは同じだった。


 海岸には風があった。

 砂が流れる。

 少し離れたところに松林が見えた。

 海軍火薬廠の若い技術士官、村田勉は、発射台の横に立っていた。


「角度」


「四十五度」


 皆が少し離れた。

 火が入る。煙。一瞬遅れて、弾体が発射台を離れた。そして飛んだ。


「おお」

 誰かが声を上げた。

 次の瞬間。


「……こっち来てないか?」

 来ていた。


「伏せろ!」


 弾体は村田たちの頭上を越えた。そしてそのまま後ろへ飛んでいく。枝の折れる音。林の中へ消えた。

 しばらく誰も喋らなかった。

 村田が海を見る。次に林を見る。


「海は?」


「反対側です」

「取りに行きます?」


 東京湾を挟んだ、辻堂と富津。


 陸軍では森へ飛び込んだ。

 海軍でも林へ飛び込んだ。

 別に打ち合わせをしたわけではない。

 そのあたりだけ、妙に足並みが揃っていた。



 飛ばなかったわけではない。むしろ、飛んだ。だから困った。

 飛ぶ方向が揃わない。


「尾翼を大きくしますか」


「その前に火薬だ」

 村田は燃焼記録を見ていた。

「爆薬と推進薬は違う。変えるしかない」


「何に?」


 村田は答えなかった。


 発射するものだけを直しても仕方がなかった。

 燃えるものから作り直す。

 海軍側の研究は、そこへ入っていった。


 いつの間にか、陸軍と海軍の資料が同じ机に置かれた。

 図面は違う。

 寸法も違う。

 目的も違う。


 だが。

「穴がありますね」


「ありますね」


「そちらも」


「そちらも」


 中央に穴の開いた、細長い推薬。

 一人が手に取った。


「……マカロニ」


「何です?」


「いや」


 机へ戻した。


 互いの資料が交わされた。しばらく双方が黙った。


「……同じところで困ってません?」


「困っていますね」


「一緒にやります?」


「全部は無理です。使い方が違います。でも火薬だけなら」


 話はまとまった。

 陸海軍が仲良くなったわけではなかった。

 火薬の燃え方が同じだっただけである。


      ◇          ◇


 海軍側は、まず上海で使った発射架を小さくした。

 陸戦隊の要求は単純だった。軽く。小さく。そしてすぐ撃てるように。

 それだけだった。


「小さくなったな」

 二人で持っていたものを、一人でも運べる程度にはなった。持ちにくいが…

「まぁ、これならいい」


「では試します」


 試験場に発射架を置く。地面が少し傾いていた。

「右が高いな」

 直した。弾を載せた。凸凹だけの照準器で狙う。

「もう少し左」


「架台ごと動かします」

 持ち上げる、そして置いた。

「行きすぎた」

 また動かした。撃った。

 外れた。いやきちんと前には発射された。が…。


 次は土の上だった。脚が沈んだ。

「さっき合わせただろ」


「沈みました」

 水準器通りに直した。


 次は瓦礫の上だった。

「無理です、安定しません」


「場所を探せ」


「撃ちたいのはここなんですが」



 陸戦隊士官が発射架を見た。

「これでは駄目だ、撃つたびに置く場所を探さないといけない」


「架台ですから」


「艇から降りる、浜を越える…路地へ入る。そのたびに地面を選ぶのか?」

 士官は続けた。

「弾と、撃つもの。それだけにしろ」


「簡単に言いますね」


「荷物は少ない方がいい」


 発射架を、もっと小さくした。脚を折り畳みにした。支持具を変えた。いくら変えても同じ問題があった。発射場所を探さなければならない。


「これ、持ったまま撃てないか」


「持ったまま?」


「小銃みたいに」


「これは小銃じゃありません」


「知ってる」


「では、誰が持つんです」


「兵だ」


 架台をなくす。言葉にすると簡単だった。だが、弾だけを手に持つわけにはいかなかった。点火すれば燃える。動き出す。それが離れるまで、その瞬間まで、弾を狙った方向へ向けておくものが要る。


 研究員は紙を前に、いろいろと考えた。柱、レール、誘導路、雨樋…最初は必要から削り、そして零から必要を考えた。イラストとはとても言えない、そんなものが数値と数値の隅にあった。

 はっとする。

 机の上にあった紙を丸めた。筒にし、その中に鉛筆を入れた。

「こういうのは?」


「……筒?」


「筒です。弾自身が自分を押します。なら筒は向きを決めるだけです」

 なるほど、筒なら弾を案内できる。筒なら、照準具を付けられる。筒なら点火装置も付けられる。把手も。肩へ当てるものも。一つにまとめられる。


「これなら」

 海軍士官が試作品を持った。

「筒を持ってる奴が、砲を持ってることになる」


「正確には砲じゃありませんよ」


「それがいいんだ」


 最初のものは兵器というより長い鉄管、水道管に毛が生えたようなものだった。

 照準器は簡単。把手も肩へ当てる部分も、とりあえず付けただけでった。


「……筒だな」


「筒ですね」


「ずいぶん安っぽくなったな」


「でも、使えますよ」


 名前も決まっていなかった。

 携帯式発射筒。

 陸戦隊用噴進弾発射器。

 試製携帯発射器。

 陸軍と海軍とでは異なる。書類によって未だ違った。

 けれど現場ではもっと簡単だった。


「例の筒、持ってきました!」


 それで通った。




 最初に膝をついた。筒を肩で支える。


「後ろ、空けてください!」


「どのくらい」


「分かりません!」


「分からないのか」


「だから試験です!」


 人が退いた。乾いた噴射音。後方へ煙と砂埃が吹いた。弾は土嚢へと落ちた。爆発。


「もう一発」


 研究員が発射筒の後ろを見た。草が倒れている。地面が黒くなっていた。


「ここまで人を立たせない方がいいですね」

「壁際も」


「まずいか」


「たぶん」


「艇の中は」


「もっとまずいです」



 撃った。直した。また撃った。

 筒を短くした。長くした。

 照準器を変えた。把手の位置も変えた。肩当の形状も変えた。

 片膝持ちで撃った。伏せてもみた。

 やればやるほど兵の負担が多くなった。

「慣れれば?」


「兵に慣れろと言うんですか」


「兵器なんだから、そうだろう」


 積んである土嚢、爆発。積んであった袋が崩れる。土が舞う。煙が流れる。

 海軍士官が双眼鏡を下ろした。

 「欲しかったのは…これだ」


 土嚢。家屋。窓。軽い掩体。機関銃座。トーチカ。見えているものへ、大きな炸薬を直接送り込む。

 擲弾筒とは違う。上から落とすのではない。見えているものへと正面から入れる。

 それだけで、陸戦隊には十分だった。



 そして。

 陸軍歩兵が見つけた。

 「何だ、それ」


 「海軍の試作品です」


 「海軍?」


 「陸戦隊用です」


 「大砲?」


 「いえ、『筒』と呼んでます」


 「筒……」

 歩兵士官が試験場の向こうを見た。

 壊れかけた土嚢がある。


 歩兵士官は、しばらく何も言わなかった。

 もう一度、土嚢を見る。



 要求書が増え始めた。加速度的に。最初は工兵だった。上海で使った。追加が欲しい。次に海軍。研究用。陸戦隊用。あっちはあっちでやっているようで携帯式発射筒というよく分からないものが書類に出されていた。

 さらに歩兵。直射用として試したい。


「もう少し軽く」

「もう少し弾頭を重く」

「もう少し射程を」

「もっと当たるように」


「はい」


「全部できます?」


「できません」


「どれなら」


「一つずつなら」


 研究者は頑張った。頑張るしかなかった。



 試験用、試作用の弾が目の前で減っていった。

 「いったいいくつ作れば良いのか?」

 とうとう紙を並べた。


 陸軍工兵。

 陸軍研究所。

 歩兵試験。

 海軍研究。

 陸戦隊。

 携帯式発射筒。

 予備。


 数字を足してみる。

 一度、計算し直した。


「……まず、一万」


「一万?」

「これを?」


 机の上に、中空の推薬が一本あった。


「同じものを?」

「一万本?」


「はい」


 もう一度、推薬を見た。


「火薬は?」

 誰かが訊いた。


「あります…というか、ロケットは火薬を使いすぎると言われたのであっちこっちに話を流しました」


「一万本分?」


「さすがに…今すぐは…」


 部屋が静かになった。


 一本なら、作れた。一万本は、別だった。


 武豊へ材料が届いた。

 荷札が付いていた。

 工場名。

 日付。

 番号。


「これは」


「網干」


「こっちは」


「別のロットです」


「混ぜるな」

 同じ名前の材料でも、同じではなかった。

 そして番号が必要になった。


 成形室へ入ると、酸の刺激は薄くなり、代わりに機械油の臭いが強くなった。押出機が低く唸る。口金の向こうから、細長い推薬が出てくる。

 中央に穴。


「止めろ」

 機械が止まった。


「穴が寄ってる」


 切る、断面を見る。確かに中心からずれている。


「燃えますよ」


「燃えるのは分かってる」

「同じように燃えない」


「こんなに捨てるんですか」

「もったいない」

いや、再度練り工程から始めるのだが…


「不良を一万本作る方が、もっともったいないじゃないか」


 問題は次々に出た。

 品質を揃えると、数が減る。

 数を増やすと、ばらつく。

 設備を増やせば、人が足りない。

 人を増やせば、教える者が足りない。


 それでも建物が増えた。空いていた土塁の向こうに、新しい建屋の骨組みが立った。機械が増えた。人が増えた。検査台が増えた。そして書類と番号札も増えた。しかし工場の臭いは変わらなかった。


 木箱が運び込まれると、そこに推薬が詰められる。蓋が閉じられ、番号が書かれる。

 次の箱。

 その次。

 湿った木の匂いが、火薬の臭いに混じった。


 行き先の違う荷札が付いた。

 中に入っているものは、同じだった。

 箱は構内を出、貨車へ載せられた。


 汽笛が鳴る。

 石炭の煙が、湾から来た湿った風の上を流れていった。


 一本ではなかった。



いかがだったでしょうか?


海軍側の研究…ほとんど同時期に始まってます。

はい、全く関係なく始まってます。

もちろん「目的」は異なりますが…

そして、クロスします。

その結果として…


どうやら、バズーカ砲をアメリカより早く作れそうです。

はい、歴史変革ですが何か?(苦笑


また次も一週間後の予定です。

ではでは。




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― 新着の感想 ―
推進薬をマカロニ形状にすると、偏りとかややこしい 単純な円柱にして、7本束にしてから真ん中の1本を除いてやれば楽にならんかなあ?
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