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クズ勇者と決別した俺は、魔王軍で働くことにした  作者: 趙雲


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第9話 大賢者!

朝の光が大図書館のステンドグラスを通り、机の上へ差し込んだ頃。


レインはようやく、手にしていた木炭筆を置いた。


目は充血し、何度も掻きむしったせいで髪も乱れている。


草木灰を使った毒抜きによって、野生のジャガイモを食べられるようにはした。


だがレインは、あれが根本的な解決ではなく、あくまで一時しのぎにすぎないことを理解していた。


野生のジャガイモは収穫量が安定しない。


天候任せの採取生活では、真に豊かな文明の土台を築くことなどできない。


魔族を飢えの泥沼から完全に救い出すには、この呪われた暗赤色の大地で、普通の作物を――いや、収穫量の多い作物を育てなければならない。


「土の中の魔力が強すぎて植物が変異したり、焼け死んだりするなら……一部だけでも魔力の影響を受けない空間を作ればいいんじゃないか?」


そのとき、大図書館の扉が開いた。


万象魔主メフィストが中へ入ってくる。


彼はたった今、亜人商隊との一晩にわたる面倒な交渉を終えたばかりだった。


圧倒的な実力を背景に場を収めることには成功したものの、人間による商路封鎖を盾に強気な態度を崩さない商人たちとのやり取りは、優雅な魔族の執事長をひどく疲弊させていた。


「昨夜は、ずいぶん充実した時間を過ごされたようですね。大賢者」


メフィストは、机の上へ無造作に積まれた古書と草案を見渡した。


「小さな水球一つでも出せるようになる奇跡は、見つかりましたか?」


「水球? そんな効率の悪いものに興味はない」


レインはメフィストの腕を掴み、机の前まで引っ張っていった。


そして中央に広げた図面を指差す。


「それより、これを見ろ。魔界で普通の作物を育てる方法を見つけた!」


メフィストは図面へ視線を落とした。


そこには、半円形の閉鎖された建物が描かれている。


さらに建物の底部には、レインが書き写した魔法陣の紋様があった。


「これは……第二階位の魔力抑制陣ですか?」


メフィストは、その珍しい魔法陣を一目で見抜いた。


「そのとおり!」


レインは指を鳴らした。


「俺はこれを、温室栽培と呼ぶことにした」


「外の魔力が荒れ狂っているなら、この抑制陣で土地の一部を囲い、数十平方メートルの無魔力空間を作ればいい」


「魔法陣の内側なら、土と空気に含まれる魔力の影響を打ち消せる。そうすれば、この温室の中で普通の作物を育てられる」


メフィストは、レインの説明へ静かに耳を傾けていた。


その瞳が、一瞬だけ明るくなる。


魔力抑制陣を使い、普通の植物が育つ環境を作る。


確かに、着眼点としては見事だった。


だがすぐに、博識な万象魔主は首を横に振った。


「大賢者。魔法理論としては、非常に優れた発想です。しかし、現実的ではありません」


メフィストは魔法陣の部分へ指を置いた。


「作物が育つまでには、短くても数か月かかります」


「数十平方メートル規模の中位抑制陣を維持するために、どれほどの魔力が必要になるか、ご存じですか?」


「わずかな作物を育てるために、すべての畑へ魔族の戦士を一人ずつ配置し、眠ることも休むこともなく、数か月間ずっと魔力を流し続けさせるつもりですか?」


「戦士の魔力が尽きれば、法陣は崩壊します」


「その瞬間、外部の荒れ狂う魔力が流れ込み、育ちかけの作物はすべて焼き尽くされるでしょう」


「費用があまりにも大きすぎます。魔王軍の全戦力を注ぎ込んでも、数十万人を養えるだけの作物を育てることはできません」


メフィストの分析を聞いても、レインの笑みは消えなかった。


むしろ、さらに深くなる。


「人を電池代わりに使うことしか考えられないなら、そりゃ飢えて当然だな」


「誰が、魔法陣は人間や魔族が維持しなきゃならないって決めた?」


メフィストが見つめる前で、レインは横に積まれていた埃まみれの本を一冊抜き取った。


『全自動要塞防衛陣列構想』


「これを見ろ」


レインは特定の頁を開いた。


「この本によると、城を守る大型防御陣は、魔法陣の中枢が自動的にエネルギーを吸収しながら稼働する仕組みになっている」


「なら、少しだけ改造すればいい」


「防御陣の攻撃機能を取り外して、代わりに魔力抑制陣を組み込む。そのうえで、動力源を接続する」


「動力源?」


メフィストは首をかしげた。


聞いたことのない表現だった。


「魔晶に決まってるだろ!」


レインは机を叩いた。


「昨日アシュリーアが言ってたじゃないか。この土地は貧しくて、魔晶鉱脈だけは腐るほどあるって!」


「魔族は生まれつき魔力炉を持っているから、魔晶なんて魔界じゃ道端の石ころと同じなんだろ?」


「それなら、その役に立たない石を魔法陣の溝へはめ込んで、動力源として使えばいい!」


「全自動魔力温室だ!」


「人がつきっきりになる必要はない。魔晶を差し込めば、勝手に動き続ける!」


「魔界の地下に眠る、大陸最大の魔晶鉱脈。それこそが、魔族の農業を支える無尽蔵のエネルギーになる!」


……


防御陣の仕組みを分解する。


攻撃機能を魔力抑制陣へ置き換える。


そして、魔界で最も価値の低い魔晶を使って駆動させる。


あまりにも傲慢で、神をも恐れぬ組み合わせだった。


だが、常に慎重なメフィストの頭には、すでにその先の未来が浮かび始めていた。


「これは……確かに可能です」


メフィストの声が震えた。


「ですが、大賢者」


「魔界全土へ温室を広げるとなれば、たとえ地下の鉱脈がどれほど巨大でも、高品質の魔晶はいずれ掘り尽くされます」


「これは、一度使えば元には戻らない消費です」


「そう聞かれると思ってた」


レインは落ち着いた動作で、さらに一冊の本を取り出した。


表紙の角が欠けた、ぼろぼろの黄ばんだ本だ。


そこには、こう記されていた。


『空気中に浮遊する魔力の捕集および物質化に関する仮説』


「この本を書いたのは、エルクという人間の魔法使いだ」


「貧乏すぎて、魔法を使うための魔晶すら買えなかったらしい」


「そこでこいつは、空気中に漂う微量の魔力を吸収し、もう一度集め直して低位魔晶へ変換する法陣を考え出した」


レインは両手を広げた。


「人間帝国の多くの土地じゃ、空気中の魔力が薄すぎる」


「この法陣を三年間動かしても、爪ほどの魔晶一つ作れなかった」


「だから、荒唐無稽な紙くずとして捨てられたんだ」


レインの口元が持ち上がる。


「でも……ここは魔界だ」


「ここの土地と空気には、植物を変異させるほど濃密な魔力が満ちている!」


レインは紙の上へ、大きな循環を描いた。


「魔晶鉱脈の外側へ、浮遊魔力捕集陣を設置する」


「鉱脈から漏れ出した魔力は法陣へ吸い込まれ、次々と新しい魔晶へ変換される」


「そこで作られた魔晶を、内側の抑制陣へ入れて動力として使う」


「そうすれば、温室内の作物を守り続けられる」


レインは椅子の背もたれへ身体を預けた。


そして、何でもないことのように、この一連の仕組みの完成形を告げる。


「これが、俺の答えだ」


メフィストは、机の上に散らばった古書と乱雑な図面を見つめていた。


彼の常識は、目の前の人間によって押し潰され、引き裂かれ、そして新たな形へ組み直されていく。


毒を養分へ変える。


死を、生へと作り替える。


ほとんど何の関係もなかった三つの理論を繋ぎ合わせ、魔族の飢えを終わらせる奇跡を作り上げた。


メフィストは手を伸ばし、レインの手首を掴んだ。


「おい、何だよ! まだ話は終わってないぞ……!」


次の瞬間、レインの視界が激しく揺れた。


万象魔主ともあろう者が、今は貴族らしい振る舞いさえ忘れていた。


メフィストはレインの腕を掴んだまま、大図書館の扉を蹴り開ける。


そして、生涯でも最速と思える勢いで、魔王アシュリーアの居室へ向かって駆け出した。


「急ぎますよ、大賢者!」


「今すぐ陛下にお会いします!」


「この時代を変える奇跡を、一秒たりとも眠らせておくわけにはいきません!」


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