夜明けの船影
ローサは見張り台の上で、海に沈んでいた夜の名残を見つめていた。
本当は、もう来る必要はなかった。
一昨日、ラジオで流れた。
ホジャンの訓練所が摘発された、と。
ゲリラは捕まった。
もう来ないだろう、と大人たちは言っていた。
それでも、体が勝手に目を覚ました。
まだ暗い空。
まだ眠っている村。
特にやることもなく、いつものように見張り台に登ってしまった。
このひと月あまり――怖かった。
けれど同時に、どこか胸が高鳴っていた。
自分が島を守る一員だという感覚。
ただの農家の娘ではないという実感。
風は弱い。
だが海はざわついていた。
昨日のラジオで台風が近づいていると言っていた。
(今日は漁船は出ないだろうな)
漁民は休み。
農民はいつも通り畑へ。
ホテルはどうだろう。
ダイビング船は出せるのか。
出ても、近場で短時間だけだろう。
暇な観光客向けに、またショーがあるかもしれない。
ローサは、少し笑った。
ショーに出るようになってから、両親の小言は減った。
少しだけ、お金も入る。
アンダルから、新しい作物の話も聞いた。
カカオ。コーヒー。
未来がある、と。
けれど。
(時間が、かかりすぎる)
漁のように、その日の勝ち負けがすぐ分かる仕事がよかった。
今日獲れた。
今日はだめだった。
明日取り返す。
そういう、生き方。
*
空がゆっくりと橙色に染まり始める。
太陽が顔を出しかけた、そのとき。
海の上に、小さな点が2つ。
ローサは目を細めた。
「……船かも?」
2隻。
並ぶように、こちらへ向かっている。
(この時間?)
港に入るなら、もっと左に進路を取るはずだ。
だが、真っ直ぐ。
見張り台の正面は砂浜。
普通の船では着岸できない。
(ボートを積んでいる……?)
胸の奥が、ひやりと冷えた。
嫌な予感。
少しずつ、距離が縮まる。
双眼鏡があれば。
少し前までは、大人が必ずいて、双眼鏡を持っていた。
今は、自分だけ。
肉眼で見るしかない。
船は、迷いなく、浜に向かう位置を取っている。
(上陸する気だ)
喉が乾く。
見張り台の下に置いてある爆竹を探した。
銃声に似た音が出る。
調査団に「銃があるかもしれない」と思わせるため、何度か鳴らしていた。
マッチを擦る。
手が震えた。
(間違いだったら、謝ればいい)
火をつける。
――パンッ!!
乾いた破裂音が、朝の空気を切り裂いた。
もう一度。
パンッ!!
何度も鳴らした。
村に届くように。
見張り台に駆け戻る。
船を見る。
(気づいたなら、引き返して)
祈った。
だが。
船は、むしろ速度を上げたように見えた。
やがて、船上が慌ただしく動き出す。
ボートが降ろされる。
波が高い。
簡単にはいかない。
1人、2人、乗り移る。
3人目が、足を滑らせて海に落ちた。
怒鳴り声が聞こえる。
助けるのにも時間がかかる。
(慣れていない……)
ボートは小さい。
6人乗れば満員だ。
もう1隻も、同じ動きをしている。
これは島民じゃない。
観光客でもない。
港があるのに、この時間に、わざわざ砂浜から上陸する。
想定していた方法と、同じ。
(……ゲリラ?)
でも、なぜ今?
オールを出している。
エンジンはない。
漕ぎ始めれば、10分ほど。
海が荒れている分、もう少しかかる。
その間。
下から声が響いた。
「そこにいるのはローサか!? 何している!」
父の声。
爆竹を鳴らしてから、5分も経っていない。
村からここまで、500メートル。
「誰か来る! 海から!」
父――チャンドラが駆け上がってきた。
見張り台から海を見た。
「……もう1隻もだな」
2隻目も、ボートを降ろしている。
波に揺られ、時間を食っている。
最初に上陸するのは、10人ほどか。
浜まで500メートル。
漕ぎ始めれば、10分。
銃らしきものが見えた。
数丁。
確実に、武装している。
チャンドラの顔が変わった。
「ローサ、村に走れ!」
「父さんは!?」
「俺はここで時間を稼ぐ」
即答だった。
「アンダルに伝えろ。みんなを避難させろ。
それと……できればグリフをここに呼べ」
息を荒くしながら、続ける。
「大丈夫だ。俺も訓練は受けた。
やれることをやる。
危なくなったら逃げる」
ローサは一瞬、動けなかった。
(逃げたい)
(ここから離れたい)
そう思っている自分が、情けなかった。
父は、いつも地味だった。
畑を耕し、家族を支え、黙って働く人。
刺激を求めて動き回っていた自分より――
(父さんのほうが、勇気がある)
ローサは歯を食いしばり、見張り台を駆け下りた。
村へ向かって、全力で走り出す。
砂を蹴り、朝露で滑りそうになりながらも止まらない。
背後で、波をかき分ける音が、はっきりと聞こえ始めていた。
夜が明けたばかりの空気が、急に冷たく感じられた。
(本当に、来た)
恐怖が、胸を締め付ける。
それでも、足は止まらなかった。
村まで、2分。
それが、島の運命を分ける2分になるかもしれないと、ローサは直感していた。
*
チャンドラは、海面を滑る2隻のボートを凝視していた。
ひとつ目には5人。
もう1隻は、ようやく3人目が乗り移ったところだ。
波が荒い。
揺れが大きい。
(慣れていない……)
もし熟練した連中なら、もっと手際がいい。
それでも、油断はできない。
2隻は、どうやら同時に漕ぎ出すつもりらしい。
少人数で先行上陸するのを避けている。
(慎重だ。怖がっているのかもしれん)
浜まで、急いで漕いでも十数分。
そこから村までは、警戒しながら歩いても10分。
罠を撤去するまでは、道の入り口を木で覆っていた。
今はそれもない。
森に入れば――銃から身を隠す場所はいくらでもある。
木の上からスリングショットで頭部を狙う。
爆竹と同時なら、銃撃と勘違いさせられる。
枝から枝へ渡れる通路もあった。
撃ったらすぐ移動。
落とし穴。
丸太が崩れる罠。
全部、グリフが形にした。
皆が出した断片的な案を、具体的な仕掛けに落とし込んだのがグリフだった。
(頼りになるやつだ)
だが――
頭上通路が役に立つのは、早期発見と、自警団の待機が前提だ。
今回は肉眼で発見した。
遅れた。
しかも、自警団は自分ひとり。
道は晒されている。
森に入る可能性も低い。
ボートが、漕ぎ出した。
よく見ると、オールが人数分ない。
1隻は4本。
もう1隻は2本。
(積み忘れたのか?)
最初は10分と思ったが、15分はかかりそうだ。
15分。
そこから村まで10分。
(あと25分)
訓練では、全員避難完了に1時間かかった。
島は小さい。
だが、年寄りもいる。
子どももいる。
ローサは、もう村に着いているだろう。
最低でも35分、時間を稼ぐ。
35分。
その数字が、重くのしかかる。
どうして警戒を解いたのか。
ベニは「農民の意見が通った」と誇らしげだった。
だが、あれは農民の総意ではない。
解除は早すぎると思っていた農民も多い。
少なくとも、自分はそう思っていた。
グリフが判断したと聞いた。
賢いグリフが、状況を見て決めたのなら、と自分を納得させようとした。
だが。
(間違っていたのかもしれん)
グリフを呼べと言ったのは、頼りたい気持ちもある。
だが、責任を共有してほしいという思いも、正直あった。
チャンドラは、ゆっくりと見張り台を降りた。
そして、浜へ向かう。
服を脱ぎ、上半身をさらす。
ズボンの裾をたくし上げる。
農民ではなく、リゾートの客に見えるように。
鍛えた体は、年齢のわりに締まっている。
(人がいれば、無視はできない)
何かアクションを起こす。
それだけで、時間が稼げる。
たとえ銃撃でも。
若い頃、シラットを習っていた。
銃を持つ相手に通用するとは思わない。
だが、強い相手ほど、思い切って間合いに入ることで道が開けることがある。
グリフの日本の武術も、似たことを言っていた。
浜に出る。
ゆっくり歩く。
散歩する観光客のように。
ボートがざわついた。
気づいた。
銃口が、こちらを向く。
四丁。
合計10人。
浜から10メートル手前、森の縁で止まる。
不安定なボートからの射撃は当たりにくい。
訓練で聞いた。
この距離なら、3秒で森に逃げ込める。
チャンドラは、にっと笑った。
両手を上げ、大きく手を振る。
「おーい!」
陽気に。
まるで、歓迎するかのように。
銃口が、わずかに揺れた。
ボートの男たちが、顔を見合わせる。
撃つか。
撃たないか。
その、迷いの一瞬。
それが、島にとっての、命綱だった。
チャンドラは、笑顔のまま、一歩だけ前に出た。
海風が、汗ばんだ背中を冷やした。
(来い)
(撃つなら、撃て)
村まで、あと35分。
彼は、1人で、その時間を買おうとしていた。
*
「どうした。テレビかなんかの撮影でもあるのか? なんなら出てやってもいいぞ!」
できるだけ明るく、腹の底から声を出した。
自分の声が震えていないことに、チャンドラは内心ほっとした。
2分ほどして、ボートが砂浜に乗り上げた。
波が砕け、男たちが次々と降りてくる。
数える。
一、二、三……十。
やはり10人。
オールを漕いでいた者の何人かは武器を持っていない。
銃は四丁のまま。
トランシーバーを持つ男が1人。
銃とトランシーバーの両方を持つ男――あれがリーダーだろう。
沖の船と連絡を取っているのか、短く何かを話している。
内容は聞き取れない。
だが、様子からして――
(予定を続けるか、引き返すかで揉めているな)
船の上で話さなかったのは、揺れる中でトランシーバーを落とすのを避けたのか。
ゲリラの中で、戻るべきだと進言している者もいるようだ。
小さな言い争いが見える。
(少しは稼げたか?)
まだ足りない。
ほんの数分だ。
「俺はここで見ているから、好きにやってくれ! あんたらの仕事の邪魔はしないよ!」
大声で言いながら、その場に腰を下ろした。
立っていると的が大きい。
座れば、少しは小さくなる。
浜に降りた男たちの足元は安定している。
命中率も上がるだろう。
リーダーが、指示を出し終え、こちらへ歩いてきた。
1人、銃を持った男が随伴する。
左右から2人ずつ、回り込もうとしている。
残り4人はボートの近くで警戒。
(囲む気だな)
人質にして、島を案内させるつもりか。
銃口はまだ向けてこない。
逃げ出させないための位置取りだ。
リーダーが笑顔を作る。
「散歩かい? さっき何か爆発音が聞こえた気がするが、あれは君かい?」
ゆっくりだが、歩幅が広い。
「ああ、そうだよ」
チャンドラも笑う。
「あまりに暇だったんでな。祭りに使う爆竹があちこちにあるんだ。この島は。試してみただけさ。あんたたちにも聞こえたか?」
逃げるなら、今か。
森に入れば、銃の脅威は減る。
一対一の近接なら、やれる自信はあった。
訓練で、グリフと互角だった。
だが――
(まだ足りん)
あと少し。
「そこで止まれよ……」
声を落とした。
「お前ら、インドネシア解放戦線だろ」
リーダーの足が止まる。
銃口が、こちらを向く。
「お前らは帰れ。俺は仲間だよ。もっとも、こちらは東部諸島人民軍だがな」
ゆっくり立ち上がる。
「この島は、俺たちが先に入っている。これ以上入るなら、組織と組織の対立になるぞ」
リーダーの目が細くなる。
疑っている。
だが、隣の銃持ちが小声で何か言った。
信じかけている。
銃口が、わずかに上がる。
「どうする?」と、リーダーに問う。
リーダーは鼻で笑った。
「関係ないな。俺たちは既に組織を抜けている」
(……?)
チャンドラは、わずかに目を見開く。
「本当かい? 組織を抜けた人間が銃を持ち出したのか? 報復されて死ぬぞ、お前ら」
一瞬、リーダーの目が揺れた。
早口になる。
「銃? 報復? それはない。どちらかというと、組織が俺たちを捨てたんだ。何をしようと気にかけないさ」
(組織が捨てた……?)
その言葉が、胸に刺さる。
捨て駒。
ホジャンの話がよぎる。
相手のわずかな緊張が、逆にチャンドラを落ち着かせた。
そのとき。
森の縁、見張り台に――人影。
(グリフか?)
「ふん」
チャンドラは鼻で笑った。
「そんな理屈があいつらに通じるかな。……こんなところにいるより、国外にでも逃げたほうがいいじゃないか」
「そのためにも、まずはこの島に落ち着きたいのさ」
リーダーの目が鋭くなる。
「お前が本当に東部諸島人民軍なのか、ただの島民なのかは分からん。だが、お前の身柄は抑えたほうがよさそうだ」
再び、歩き出す。
距離が縮まる。
(潮時だ)
その瞬間――
見張り台から、叫び声。
次の瞬間、爆発音。
砂が舞い上がる。
リーダーは反射的に身を低くし、銃を声の方向へ撃ち返した。
だが。
音と、砂煙の方向は、微妙にずれている。
冷静なら気づく。
だが、銃手は音を優先した。
たぶん、そこには誰もいない。
銃口が、自分から外れた。
その一瞬。
チャンドラは、全力で森へ駆けた。
リーダーが気づいたように振り向くが、自分の安全を優先し、身を低くしたままだ。
森に飛び込む。
枝を払い、湿った土を蹴る。
十数歩で、銃の視界から消えた。
止まらず、さらに奥へ。
そこでようやく――
(……服)
脱いだ服を浜に置いたままだ。
粗末な、農民の服。
見つかれば、島民だと分かる。
(しまった……)
息が荒い。
足が震えている。
今になって、全身が震え始めた。
(どれだけ稼げた?)
10分か。
15分か。
分からない。
だが、確実に数分は削った。
森の奥で、銃声が続く。
チャンドラは、木に背を預け、荒い呼吸を整えながら思った。
(あとは……頼んだぞ、グリフ)
そして、初めて、自分が生きていることに、深く安堵した。
グリフは、チャンドラが森に逃げ込んだのを確認すると、迷いなくその場を離れた。
浜に留まる理由はない。
気づかれる前に、消える。
森に入り、決められた木へ向かう。
手をかけ、体を引き上げる。
枝から枝へ。
そして、張り巡らされた通路へ。
木の上に出ると、視界が一気に開けた。
浜の様子が、はっきりと見える。
ゲリラたちは、まだその場に留まっていた。
爆発音を銃声と誤認しているのか、低い姿勢のまま、周囲を警戒している。
(……まだ動かない)
その数分が、命をつないでいる。
下から声がした。
「……グリフ」
チャンドラだ。
グリフは素早く縄梯子を降ろした。
「上がってください」
チャンドラは無駄のない動きで登ってくる。
この通路は、特定の場所からしか上がれない。
あとは仲間に梯子を降ろしてもらうしかない。
つまり――
ゲリラは、ここに来られない。
「チャンドラさん、無事でよかった」
「いや……お前のおかげだ」
短く言って、息を整える。
「助かった」
グリフはすぐに本題に入った。
「自警団も集めています。道の入口も隠すように頼みました」
浜から目を離さずに言う。
「……あいつらは、やっぱりゲリラですか」
チャンドラは小さくうなずいた。
「まず間違いない。……だが妙だ」
「妙?」
「組織の正式な連中じゃない。抜けてきたらしい。
武器も持ち出したと言っていた。
『捨てられた』ともな」
グリフの視線がわずかに鋭くなる。
だが、考える時間はない。
「……報告します」
トランシーバーを取り出す。
「父さん、こちらグリフ。現場に到着した」
すぐに応答が来た。
「状況を」
グリフは要点だけを伝え、トランシーバーをチャンドラに渡した。
チャンドラが浜でのやり取りを補足する。
話し終えると、グリフが受け取った。
「父さん、現場の補足だ」
視線は浜のまま。
「ゲリラはまだ周辺を警戒中。……いや、一部ボートに戻る動きもある」
「リーダーらしき男が沖の船と交信中」
「それと……チャンドラさんの服を回収している」
一瞬、間を置く。
「こちらが島民であると認識された可能性が高い」
「銃は四丁、人数は十。トランシーバーは一つ」
「撤退の様子はない」
森の奥、仲間の影が増えている。
「自警団は14人。全員、木の上の通路に配置済み。スリングショット装備」
「道の入口は枝で隠した。遠目には分からないが、近づけば気づかれる」
「以上」
ディオの声。
「了解した。それぞれ報告を」
最初に入ったのは、アンダルだった。
「アンダルだ。農民の避難は開始している。20分前だ」
遠くで人のざわめきが混じる。
「ローサは無事だ。……それと、浜からの道に丸太の罠がある」
グリフの眉がわずかに動く。
「一度撤去したが、短時間で復旧できる。今、人を集めている」
アンダルは続けた。
「復旧できれば、道は通れない。かなり時間を稼げるはずだ」
(……使える)
グリフは頭の中で位置を思い浮かべた。
次はファジャル。
「ファジャルだ。漁民の避難指示は出した」
波音が大きく聞こえる。
「船を持っている連中には出航準備をさせている」
少し声を落とす。
「チャンドラの話からすると、敵は小型船2隻だ。
こちらにも、海でできることがあるかもしれない」
(海側……)
グリフは一瞬だけ意識を向けた。
「島の周囲を確認しながら浜に向かう。
トランシーバーが使えなくなる可能性がある。港の無線を使う」
3人目、トニー。
「トニーだ。警察か軍への連絡を取りたい」
落ち着いた声だった。
「州都へ向かう必要がある。ホテルの高速艇を使わせてほしい」
(外部……)
この戦いが島の中だけで終わらないことを示していた。
ヘルマンがすぐに応じる。
「ヘルマンだ。了解した。出航準備させる」
事務的だが、速い。
「客は外に出さない。ホテル側で抑える」
少し間を置いて、
「食事を出して足止めする。避難所にも回す」
(……動いてる)
それぞれが、自分の持ち場で最適解を出している。
そのとき――
グリフの視界で、変化が起きた。
「グリフだ!」
声を上げる。
「動いた」
全員が息を詰める気配。
「ゲリラが移動開始。……ボートに2人残した。銃一丁」
「残り8人が陸へ」
さらに観察する。
「……分かれた」
「2人ずつ、間隔を空けて進む。前衛・中央・後衛」
「各グループに銃一丁」
森の中に視線を移す。
「残り2人は側面警戒。森の中を並走。ナイフ装備」
チャンドラが低く言った。
「近接要員か……」
ディオの声が入る。
「避難はまだ終わっていない。止められるか」
グリフは、ほんの一瞬だけ目を閉じた。
(ここからだ)
「……わからない」
正直に言う。
「だが、やる」
短く続ける。
「状況によっては戦闘になる」
「通信は切る」
返答を待たず、電源を落とした。
森が静まり返る。
グリフは周囲を見た。
木の上に潜む、自警団。
それぞれが、息を潜めている。
「配置を変える」
低い声で指示を出す。
「前衛に合わせて、三点で迎え撃つ。
アンダルの罠の位置まで引き込む」
影が、静かに動く。
枝がわずかに揺れるだけ。
森も、海も、空も――いつもと変わらない。
だが、その中で。
人間だけが、戦いの準備を整えていた。
*
グリフは、森の中で短く作戦を伝えた。
「側面の2人を落とす。俺とチャンドラさんでやる」
声は低いが、迷いはない。
「銃を持っていない。数を減らす」
チャンドラがうなずく。
「了解だ」
「残りは上から。進行を止めろ」
自警団のメンバーが、それぞれ静かに散った。




