日本人カメラマン
潮の匂いが、いつもより重く感じられた。
グリフは港の突堤に立ち、遠くに見え始めた白い船影を見つめていた。
アリが来てから9日目。
ゲリラの調査団が乗っている可能性のある、最初の定期船だ。
「……ある程度の準備はできた、か」
グリフは小さく息を吐いた。
「最初はどうなることかと思ったけどな」
思い返せば、最初の自警団の集まりはひどいものだった。
まともな進行役もいない。
島民はあちこちで勝手に意見を叫び、誰も全体をまとめようとはしなかった。
島には、そもそも「会議」という文化があまりない。
ファジャルは大声で皆を制しながら言った。
「今日はここまでだ! 明日また続きをやる。今度は役割を分けて、グループごとに話そう!」
だが、あの混乱を見たグリフは、本当にまとまるのかと不安になった。
そこで、思いついたことを口にした。
「どうせやるなら、朝、夜明けごろに集まった方がいい」
「どうして?」
最初に反応したのは、あの場で手を上げていた少女だった。
ローサ。
「なぜ、夜明けに来るって分かるんですか?」
少し挑むような言い方だった。
グリフは思わず身構えた。
よそ者扱いされることには慣れている。
それでも、真正面から向けられる視線には、まだ少し弱かった。
「ゲリラは昼間には来ないと思う」
グリフは答えた。
「船が遠くから見えるし、通報される可能性も高い」
ローサは黙って聞いている。
「でも、真っ暗な中で接岸するほど、この島の海には慣れていないはずだ」
「じゃあ……」
「夜が明け始めて、周りが見えるようになる時間が一番可能性が高い」
そう説明すると、ローサは少し驚いた顔をした。
そして、納得したようにうなずく。
「なるほど」
なぜか少し誇らしそうだった。
その反応を見て、グリフは胸をなで下ろした。
この島で「受け入れられた」と感じることは、久しぶりだった。
そこから、夜明けの集まりが島の習慣になった。
見張り。
避難経路。
罠を仕掛ける場所。
連絡の方法。
島民たちは、それぞれ得意な分野に自然と分かれていった。
若者が案を出せば、年寄りが昔の経験を加える。
誰かが「こういう道具があれば」と言えば、次の日には別の誰かが持ってくる。
朝の話し合いは30分ほど。
その後は、それぞれの持ち場に散って作業する。
昼を過ぎれば、漁や畑仕事など、いつもの暮らしへ戻った。
少しずつ。
ほんの少しずつだが、島が強くなっている。
グリフには、そんなふうに思えた。
自警団の準備とは別に、ヘルマンとも相談を進めていた。
ゲリラの調査団への「印象操作」だ。
調査員は、観光客や商売人を装って来る可能性が高い。
そして、島でまともに泊まれる宿は、ヘルマンのところしかない。
ならば、その周囲に仕掛けを作ればいい。
この島はまとまっている。
政府との関係も悪くない。
簡単には脅せない。
そう思わせるための仕掛けを、いくつも用意した。
やりすぎれば、かえって怪しまれる。
足りなければ、何の効果もない。
綱渡りだった。
*
そのとき、港の沖がざわついた。
定期船が、灰色の船体を波に揺らしながら近づいてくる。
「来た……」
胸が強く脈打った。
あの船のどこかに、調査団がいるかもしれない。
そして、トニーも帰ってくる。
政府との交渉は、どうなったのか。
島への支援は引き出せたのか。
政府は、ルンザットに少しでも肩入れしてくれるのか。
それから――
自分がトニーに持ちかけた案。
あれは結局、「おまけ」扱いのまま終わったのだろうか。
気にはなる。
だが、帰ってきたトニーにすぐ聞ける話でもない。
船が港へ近づき、甲板に立つ人影が見え始めた。
グリフは一度、深く息を吸った。
そして、出迎えるための笑みを作る。
――最初の言葉は、島の言葉か。
それとも英語か。
そんな些細なことさえ、今のグリフには戦略の一部だった。
***
西田久美子がルンザット島を訪れるのは、これで2度目だった。
最初に来たのは2年前。
「穴場のダイビングスポットがある」
そう仲間に誘われ、5人でやって来た。
州都のある島からホテルの高速艇で送迎され、荷物もほとんど運んでもらった。自分で旅をしたというより、ツアーに乗せられて来たようなものだった。
今回は違う。
1人だ。
だから定期船を選んだ。
「こっちの方が旅っぽくていいわよね」
船の手すりにもたれながら、久美子は海を眺めた。
乗客は50人ほど。
ルンザットで降りたのは10人くらいだった。残りは近くの島まで行くらしい。
島の住民らしき人もいるが、聞こえてくる会話は英語が多かった。
「前より観光客、増えたのかな」
2年前より、少し外向きの島になっている気がした。
船が港へ着く。
荷物を抱えて降りると、1人の男が笑顔で乗客を迎えていた。
ホテルの案内人らしい。
久美子はその顔を見て、思わず足を止めた。
――ちょっと待って。
かなりの男前だった。
背も高い。
日焼けした肌に、南国の景色が妙に似合っている。
カメラマンとしての癖で、久美子の頭は勝手に構図を作り始めた。
海を背に立たせる。
ダイビングスーツを着せる。
水面から半身だけ出してもいい。
――使える。
男が何か話しかけてきた。
現地語だったので、意味は分からない。
久美子はとりあえず笑顔を返した。
「I'm happy to be here.(ここに来られてうれしいです)」
そして、男の横顔を見ながら日本語で呟く。
「……モデルもできそうね」
久美子は日本ではカメラマンをしていた。
本当にやりたいのは水中写真だ。
だが、それだけではまだ食べていけない。
ファッション誌、広告、チラシ、企業のパンフレット。
仕事は選ばず撮ってきた。
名前が大きく出るようなカメラマンではない。
それでも、人を見た瞬間に「どう撮れば映えるか」を考える癖だけは、すっかり染みついていた。
目の前の男が、きょとんとする。
そして日本語で言った。
「日本の方ですか? ようこそ、ルンザット島へ」
久美子の目が大きくなる。
「え?」
一歩近づく。
「日本語できるの?」
「はい」
「日本人?」
「母が日本人です」
「じゃあ話が早い」
「はい?」
久美子は男を上から下まで見た。
「モデルやらない?」
「……モデル?」
「そう。あなた、絵になるわよ」
完全に仕事の顔になっていた。
「ここでダイビングスーツ着て、海を背に立ってもらうだけでもいい。水中まで来てくれたらもっといい。雑誌に売れるかもしれない」
男が完全に固まった。
久美子はそこでようやく、自分が初対面の相手に何を言っているのか気づいた。
「あ」
一拍置く。
「ごめん。職業病」
男は少し困ったように頭をかいた。
「母が日本人で、日本に住んでいたことがあります。ただ、モデルは……仕事がありますので」
「そうよね。普通そうよね」
久美子はあっさり引いた。
「でも、急に日本語が返ってきたうえに、いい被写体が目の前にいたから。頭が勝手に仕事しちゃった」
「いい被写体……ですか」
「褒めてるのよ」
「ありがとうございます」
男もようやく笑った。
「お客様もルンザットホテルにお泊まりですよね?」
「そう。西田久美子で予約してる」
「でしたら、上司に聞いてみます。短い時間なら、協力できるかもしれません」
久美子の顔がぱっと明るくなる。
「本当?」
「まだ聞いてみるだけです」
「十分。期待してる」
「あまり期待されると困りますが……」
「大丈夫。断られても怒らないから」
少し間を置く。
「たぶん」
「たぶんですか」
2人とも笑った。
「私はグリフといいます。日本名は田辺直人です。ホテルでは案内をしています」
「コンシェルジュみたいな感じ?」
「まあ、そんなところです」
「私は西田久美子。さっき言った通りカメラマン」
「水中写真の?」
「今は『目指してる』段階。食べていくために人も撮る」
久美子は改めてグリフを見る。
「だから、あなたを見て仕事のスイッチが入った」
「なるほど……」
「引いてる?」
「少しだけ」
「正直ね」
久美子は笑った。
「ホテルでは、どこにいることが多い?」
「昼間ならカウンターにいることが多いです。案内中は不在ですが」
「じゃあ、あとで行く」
「それと、ここでは田辺ではなくグリフと呼んでください。その方が通じます」
「了解。グリフ君ね」
「君、ですか」
「年下でしょ?」
「たぶん」
「じゃあ決まり」
久美子は勝手に納得した。
「上司への交渉、よろしく」
「努力します」
2人は握手を交わした。
久美子はホテルへ向かい、グリフは次の観光客へ向き直った。
すぐに流暢な英語へ切り替わる。
久美子は歩きながら振り返った。
「へえ。やるじゃない」
その切り替えの速さに、少し感心した。
***
ホテルへ着き、チェックインを済ませる。
フロントの係が、少し申し訳なさそうに説明した。
「現在、山の中へ入ることは原則として禁止しています」
「山?」
「最近、害獣が増えておりまして。島の住民が猟銃で駆除をしています」
「なるほど」
久美子はあっさりうなずいた。
「海は?」
「海は問題ありません」
「なら大丈夫」
目的はダイビングだ。
山へ入れないのは残念だが、今回の本命ではない。
「でも、動物狙いの写真家だったら怒るでしょうね」
フロント係は困ったように笑った。
部屋へ入ると、久美子はすぐに荷物を開いた。
カメラ。
水中ハウジング。
ストロボ。
予備バッテリー。
レンズ。
ベッドの上が、あっという間に機材で埋まる。
「さて」
久美子は腰に手を当てた。
「遊びに来たわけじゃないのよ」
ホテルのツアーに参加するか。
ボートを借りて、自分でポイントを探すか。
狙いはマンタだった。
サンゴ礁の上を大きなマンタが泳ぐ。
光がきれいに入れば、かなりいい写真になる。
「編集部はこういうの好きなのよね」
運がよければ、ジュゴンも狙える。
技術には自信があった。
あとは天気と海と、被写体の機嫌。
「結局、最後は運なのよ」
機材を確認しながら、ふと港で会った男を思い出した。
「グリフ君、か」
顔はいい。
身体つきも悪くない。
日本語も話せる。
しかも南国の島で働いている。
「設定まで出来すぎじゃない?」
撮影素材としてはかなり面白い。
そこで久美子は、ふと別のことに気づいた。
「……たぶん、年下よね」
30歳になった。
以前なら20代後半の男を見ても何とも思わなかったのに、最近は「年下かどうか」を無意識に考えるようになった。
「嫌ねえ」
鏡を見る。
「まだ普通にいけると思うんだけど」
自分で言ってから笑った。
「何を確認してるのよ、私は」
異国の島で、突然日本語を話す男に会った。
それで少し気分が上がっただけだ。
「つり橋効果、つり橋効果」
誰に言い訳するでもなく呟く。
そのとき。
遠くで、乾いた音が響いた。
ぱん、と短い音だった。
久美子の手が止まる。
「……銃?」
一瞬だけ身体が強張った。
だが、すぐにフロントで聞いた話を思い出した。
――害獣駆除。
「ああ。そういうことね」
久美子はあっさり機材へ視線を戻した。
「びっくりさせないでよ」
カメラを持ち上げ、レンズを確認する。
頭の中は、すぐに撮影のことへ切り替わった。
「とりあえずマンタ」
そして財布の中身を思い出す。
「最低でも、旅費分は稼ぐ」
少し考える。
「できれば黒字」
久美子は満足そうにうなずいた。
今のところ、それがこの島で一番大事な目標だった。
***
翌朝、久美子はホテルのダイビングツアーに参加することにした。
初心者向けの安全なポイントを回る可能性がある、と事前に説明は受けている。
それでも、内心では少し期待していた。
ここまでわざわざ来る客なら、中級者以上も多いはずだ。
「せっかくなんだから、ちょっとくらい攻めてほしいんだけどな」
機材を確認しながら、久美子は小さく呟いた。
目的はもう一つあった。
バディを組めそうな上級者を探すことだ。
いなければ、現地ガイドを別に雇うしかない。
だが、機材を新調したばかりで、財布にはあまり余裕がなかった。
「撮る前から赤字じゃ、しゃれにならないのよ」
船はホテルの桟橋を離れ、島の周囲を回るように進んだ。
海は穏やかだった。
水面への光の入り方も悪くない。
久美子は景色を楽しむより先に、色温度や水中での光量を頭の中で組み立てていた。
しばらくすると、岸の高台に妙なものが見えてきた。
「ん?」
久美子は目を細めた。
木材を組んだ、簡素な高台。
日本の盆踊りで使う櫓を、もっと無骨にしたような形だ。
「……前に来たとき、あんなのあった?」
記憶を探っていると、ガイドが指差した。
「あれは見張り台です」
「見張り台?」
久美子が思わず聞き返す。
「数年前、同じ州の別の島で海賊が出たことがありまして。念のために作りました」
船の上の観光客たちが、少しざわついた。
「海賊って、本物の?」
誰かが笑いながら尋ねる。
「まあ、ここからはかなり離れています。それに何年も前の話ですから、心配はいりません」
ガイドは明るく答えた。
「将来は展望台にする予定です」
「見張り台から展望台?」
久美子が言うと、ガイドは肩をすくめた。
「警備施設という名目の方が、政府の補助が出やすいんですよ」
船上に笑いが起きた。
「なるほど。世界中、考えることは同じね」
久美子も笑った。
だが、視線はもう一度、高台へ向いた。
――海賊。
言葉だけなら、映画や漫画の世界だ。
ところが、昨日聞いた乾いた銃声を思い出すと、妙に現実味が出てくる。
「……まあ、考えすぎか」
久美子はすぐに切り替えた。
今は撮影だ。
カメラの設定を確認し、水面を見る。
結局、その日のダイビングは無難なポイントばかりだった。
透明度は高い。
サンゴもきれいだ。
魚影も悪くない。
ただ――
「きれいなんだけどねえ」
水面へ上がった久美子は、少し不満そうにマスクを外した。
「雑誌に載せるなら、もう1発ほしいのよ」
どこかで見たことのある南国の海。
そんな印象を抜けきれない。
マンタも出なかった。
ジュゴンなど影も形もない。
「まあ、初日から当たったら苦労しないか」
自分に言い聞かせる。
夕方、船が桟橋へ戻った。
久美子は荷物を抱えながら、無意識に周囲を見回した。
――グリフ、いるかな。
そう考えた自分に気づき、少し笑う。
「何探してるのよ、私」
結局、姿は見つからなかった。
そのままホテルへ戻る。
再びグリフに会ったのは、その日の夕食だった。
***
夕食は、コテージの前に作られた特設スペースで用意されていた。
簡単なステージもある。
食事のあと、島の祭りを再現した演目を披露するらしい。
「へえ、こういうのも始めたんだ」
2年前にはなかった。
ダイビングだけではなく、島そのものを観光資源にしようとしているのだろう。
久美子はカメラを手元に置いた。
仕事にするつもりはない。
だが、面白ければ撮る。
カメラマンとはそういうものだ。
演目が始まった。
島の外から来た悪者が娘をさらう。
島の若者たちが追いかけ、助け出す。
話そのものは分かりやすい。
「ずいぶん王道ね」
久美子は料理を口に運びながら眺めていた。
台詞は英語だった。
だが、ところどころ妙に棒読みで、観光客の間から笑いが漏れる。
「演技は素人ね」
久美子も少し笑った。
ところが。
戦闘場面に入った瞬間、空気が変わった。
「……え?」
久美子の手が止まる。
10人ほどの若者が、敵味方に分かれて動き始めた。
速い。
踏み込みも鋭い。
蹴りも、投げも、明らかに形だけではなかった。
「ちょっと待って」
久美子は身を乗り出した。
「これ、観光用の殺陣じゃないでしょ」
日本の歌舞伎のように、大きく見栄を切る動きではない。
もっと近い。
もっと実戦的だ。
相手を本当に倒す寸前で止めている。
そして、その中に見覚えのある顔があった。
「あ」
グリフだった。
若者たちを率いる役らしい。
しかも、舞台の中でも「グリフ」と呼ばれている。
「本名そのまま?」
久美子は思わず笑った。
「役名くらいつければいいのに」
敵側のリーダーは「ファジャル」と呼ばれていた。
「そっちも本名っぽいなあ」
文化的な習慣なのか。
単に考える時間がなかったのか。
そこまで考えたところで、グリフが相手を投げた。
「うわ」
久美子は思わず声を漏らした。
きれいな動きだった。
「やっぱり撮りたいわ、この人」
仕事の目が戻る。
戦いが終わると、次は子どもたちが登場した。
「今度はダンスかな」
久美子は少し気を抜いた。
ところが、子どもたちが手に持っていたのは、Y字型の木とゴムだった。
「……パチンコ?」
スリングショットだった。
司会が何か説明し、最初に小さな子どもが3人並ぶ。
10メートルほど先には、風船が置かれていた。
「まさかね」
1人目が撃つ。
ぱん。
風船が割れた。
2人目。
ぱん。
3人目。
ぱん。
「え、全部当てた?」
久美子は目を丸くした。
観客も拍手を送る。
子どもたちは得意そうだった。
次に出てきたのは、少し年上の3人。
今度は標的が遠い。
20メートルほど先の木箱だった。
「いやいや、それは無理でしょ」
そう思った直後。
硬い音が響き、箱の板が割れた。
「……本気じゃない」
久美子は思わず呟いた。
手にしているスリングショットも、先ほどの子どもたちのものとは違う。
明らかに頑丈な作りだった。
遊び道具ではない。
そして最後に、1人の少女が呼ばれた。
「ローサ!」
歓声が上がった。
日に焼けた、活発そうな女の子だった。
ローサはステージへ出ると、そのまま近くの木まで走った。
「何するの?」
あっという間に登っていく。
「速っ」
久美子が感心している間に、ローサは枝の上へ身体を安定させた。
会場の反対側には、別の箱が置かれている。
さっきより大きな弾をつがえる。
「まさか、そこから?」
ローサが放った。
次の瞬間。
ぱん、と硬い音が響いた。
続いて、ガラスが割れるような音。
そして――火が上がった。
「えっ!」
久美子は思わず立ち上がりかけた。
周囲から大きなどよめきと拍手が起こる。
どうやら、最初からそうなるよう仕掛けてあったらしい。
ローサは木の上で、照れくさそうに笑っていた。
「いやいやいや」
久美子は半分笑いながら、半分本気で首を傾げた。
「観光客に見せる芸としては、ちょっと物騒じゃない?」
周囲の客は喜んでいる。
島の者たちも笑っている。
誰も不思議そうにはしていない。
久美子はカメラを持ち上げ、ローサを1枚撮った。
その瞬間だけ切り取れば、元気な島の少女だった。
だが。
グリフたちの実戦的な動き。
子どもたちの異様に正確なスリングショット。
海沿いの見張り台。
山へ入るのは禁止。
昨日の銃声。
頭の中で、ばらばらだったものが少しずつ並び始める。
「……何かやってるわね、この島」
久美子は小さく呟いた。
怖い、というより。
気になる。
カメラマンとしての好奇心が、むくむくと頭をもたげていた。
ステージではローサが木から降り、仲間たちと笑っている。
その姿は、ごく普通の少女にしか見えない。
だからこそ、余計に引っかかった。
久美子はグラスを持ち上げた。
「まあ、いいか」
そして、もう一度ステージを見る。
「面白くなってきたじゃない」




