表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【連載版】加護なしの第八王女は、前世が社畜だったので王宮生活がイージーモードにしか見えない  作者: 茨木野


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

83/86

83.

 帝城の中庭には、暖かな春の陽光が降り注いでいた。

 若草の青い匂いと、微かに土の香りが風に乗って鼻腔をくすぐる。

 その青々とした芝生の上で、巨大な皇帝ギデオンと三歳のカイウスが楽しげに転げ回っていた。


「ぎでおん」

「おう、なんだ」


「ぎでおん」

「おう」


 名前を呼ばれるのが嬉しいのか、ギデオンはだらしなく顔を綻ばせ、カイウスが呼ぶたびに大げさに返事をしている。

 その微笑ましい光景を、回廊の太い柱の陰から、冷徹妃ミシェルがじっと見つめていた。

 彼女の氷のように澄んだ瞳の奥には、自覚のない微かな嫉妬の炎が揺らめいている。


「どうした、ミシェル。そんなところから睨みつけて」


 視線に気づいたギデオンが、不思議そうに首を傾げた。

 ミシェルは柱の陰からつつつと歩み寄り、無表情のまま首を横に振る。


「いえ、別に」


 ミシェルはそれだけ言うと、わざとらしくうぉほんと咳払いをした。

 そして、ギデオンとカイウスのすぐそばに立ち止まり、じーっと無言で皇帝の顔を見つめ下ろす。


「なんだ、ミシェル。俺の顔に何かついているか」


「なんでもありません」


 ミシェルはツンとそっぽを向き、しかしその場から離れようとはしない。

 しばらく沈黙が流れた後、彼女は再びギデオンの方を向き直り、静かな声で要求した。


「ギデオン。もっと大きな声で、わたしの名前を呼びなさい」


「ははあん」


 ギデオンの顔に、ニヤリと意地悪な笑みが浮かんだ。

 彼はすべてを察したように大きく頷き、立ち上がってミシェルを見下ろす。


「ミシェル。お前、ガキに自分の名前を呼ばせたいのだな。俺ばかり呼ばれるのが悔しくて」


「馬鹿なことを言うんじゃありません」


 ギデオンの言葉が最後まで終わる前に、ミシェルが食い気味に言い放った。

 彼女はほんのりと頬を赤く染め、ぷくっとわずかに頬を膨らませて視線をそらす。


「素直じゃない奴め」


 ギデオンは愉快そうに鼻を鳴らすと、芝生の上に座るカイウスの隣にしゃがみ込んだ。

 そして、大きな手でミシェルの方を指し示す。


「いいか、カイウス。この人はミシェルだ。みしぇる。ほら、言ってみろ。み・しぇ・るだぞ」


 カイウスはきょとんと目を丸くし、ギデオンの指の先にある銀髪の女性を見上げた。

 そして、小さな口を一生懸命に動かす。


「みえう」


 たどたどしい、しかし可愛らしい声が中庭に響いた。

 その瞬間、ミシェルの顔から冷徹な仮面が完全に剥げ落ちる。


「お、惜しいです。ですが、とてもいい感じですよ」


 ミシェルはふにゃっと表情を崩し、目をキラキラと輝かせながらカイウスの前にしゃがみ込んだ。

 普段の氷のような彼女からは想像もつかない、だらしのないデレ顔であった。


「ふっ。面白い女だ」


「貴方に言われたくはありません」


 ギデオンの茶化すような言葉をピシャリと跳ね除け、ミシェルは期待に満ちた目でカイウスを見つめる。

 もっと呼んでほしい。その思いが、全身から溢れ出ていた。

 しかし、カイウスは嬉しそうに笑うと、無邪気な声でこう告げたのである。


「みえう。ぎでおん」


 完璧な発音で呼ばれたギデオンの名前に、ミシェルはぐっと呻いてガックリと項垂れた。

 そのまま膝から崩れ落ち、両手で顔を覆って芝生の上に突っ伏す。


「ははははっ。いつも俺はお前に言い負かされてばかりだったがな。今回ばかりは、俺の完全勝利というわけだ」


 ギデオンが勝ち誇ったように腰に手を当て、腹を抱えて高笑いをする。

 ミシェルはむかっと顔を上げると、立ち上がってギデオンの鋼のような腕をべしべしと叩き始めた。


「うるさいです。このバカ皇帝。次は絶対にわたしの方が上手く呼ばせてみせますから」


 顔を真っ赤にして怒る冷徹妃と、痛くも痒くもない様子で笑い続ける巨大な皇帝。

 カイウスは二人の騒がしいやり取りを、ぽかぽかとした陽だまりの中で楽しそうに見つめていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
ほのぼの~  いいな~
クールビューティー・ミシェルさんの、よもやの一面w
もう完全に親子なんだよなぁ( ^)o(^ )
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ