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【連載版】加護なしの第八王女は、前世が社畜だったので王宮生活がイージーモードにしか見えない  作者: 茨木野


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84.

【☆★おしらせ★☆】


あとがきに、

とても大切なお知らせが書いてあります。


最後まで読んでくださると嬉しいです。

 中庭の温かな日差しの中、ミシェルがカイウスの言葉に一喜一憂する姿を、回廊からこっそりと見守っている者たちがいた。

 副官のティルと、大賢者ピクシーである。

 ティルは柱の陰から顔を出し、胸をなで下ろすように息を吐いた。


「ミシェル様が少しずつ柔らかくなって、安心したんですぅ。あの人、冷徹妃のあだ名の通り、普段はちょっと怖いし。人の心ないんかって思うこと多々あったし」


「君、直属の上司に対して結構辛辣だね」


 ピクシーが呆れたように肩をすくめる。


「まあ、いい傾向だと思うよ。私もね」


「でもでも、ちょっと心配でもあるんですぅ」


 ティルは耳を垂らした子犬のように、眉をハの字に下げて首を傾げた。


「このままミシェル様が、政治の場でも情けをかけるような甘い人間になってしまったら。せっかくバカ皇帝と二人三脚で帝国を建て直してきているのに、また腐敗貴族に付け込まれちゃうかもしれないですよぉ」


「杞憂もいいとこだろう、君」


 ピクシーは鼻で笑い、中庭の方へと顎をしゃくった。

 ティルが再び視線を向けると、ちょうどミシェルが懐中時計を取り出し、時間を確認しているところであった。


「さて、時間です」


 たった一言で、ミシェルの纏う空気が一変した。

 先ほどまでのふにゃりとしたデレ顔は完全に消え去り、氷のように澄んだ冷徹妃の仮面がスッと顔に張り付く。


「午後の財務会議に向かいます。ギデオン、あとは任せましたよ」


「ああ、任せておけ。国政はしっかり頼んだぞ」


 ギデオンは頼もしく頷き、足元にいるカイウスの背中を軽く叩いた。


「ほらカイウス、仕事に向かうミシェルに、いってらっしゃいだ」


「いられらしゃい」


 カイウスが小さな手を振りながら、舌足らずな声で応える。

 遊びを通じてギデオンとコミュニケーションを取るようになったおかげで、彼の語彙はここ数日で劇的に増えつつあった。


 ミシェルはほんのわずかに口角を上げると、回廊の方へ向かって歩き出した。

 コツ、コツ、コツ。

 大理石の床を叩くヒールの音が、規則正しく近づいてくる。


「ひぃっ」


 ティルは慌てて隠れようとしたが、ミシェルの冷たい視線に完全に捕縛されてしまった。


「何サボっているのですか、ティル。資料の準備はできていますね。行きますよ」


「は、はいぃいっ。もちろん準備万端ですぅ」


 ティルは慌てて背筋を伸ばし、大量の書類を抱えてミシェルの後ろを小走りで追いかけた。


 数分後。

 重苦しい空気が漂う帝城の大会議室で、ミシェルの氷の刃が容赦なく振るわれていた。


「マーストン伯爵。貴方が提出したこの農業支援の報告書ですが、数字の辻褄が全く合っていません。小学生でもできる足し算を間違えるとは、脳の機能に障害を抱えていらっしゃるのですか」


「うぐっ」


「それから、ゼウス男爵。この治水工事の追加予算案、相場の三倍の金額が計上されていますね。残りの差額は、貴方の懐から憲兵隊の活動資金として寄付していただけるという認識でよろしいですか」


「ひぃっ、い、いえ、それは何かの間違いで」


 ミシェルは分厚い報告書の束を、文字通りバッサバッサと斬り捨てていく。

 情けなど微塵もない。一切の隙を与えない、完璧なデータによる論破と社会的抹殺の連続であった。


 机に叩きつけられる書類の音と、貴族たちの情けない悲鳴が会議室にこだまする。

 先ほどまでカイウスに向けていた母性など、ここには欠片も存在していなかった。


「……よかったような、わるかったようなぁ」


 議事録を取りながら、ティルはガタガタと震える手でペンを走らせる。

 冷徹妃の有能さが少しも損なわれていないことに安心しつつも、やはりこの恐ろしい上司の下で働く自分の胃袋の寿命を思い、小さく、ひどく悲しい溜息を吐き出すのであった。


【おしらせ】

※5/6(水)


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