135.
ティルはミシェルが居ない間の事務処理を行っていた。
書類仕事をしながら、「ふひぃん……」と情けない声を上げる。
「どうしたの?」
と一緒になって事務処理を行っていた、軍医フローラが訪ねる。
「作戦……失敗にならないかなぁって」
「いきなり不穏なこと言ってるじゃないわよ……」
「いや、だってぇ、やっぱり妖精郷へ赴くの怖いじゃないですかぁ~……」
妖精郷には瘴気だけでなく、巨大虫が居る。
いくら瘴気をどうにかできたところで、虫の脅威が消え去るわけではないのだ。
「てぃるに虫の餌になれっていうんですか、あの強面女っ!」
「いやでもほら、そうならないように対策とってくれてるじゃん。今も、八宝斎のとこいってるんでしょ?」
八宝斎に魔道具を作ってもらうのも、ティル達の安全を確保するため。
「わかってますよっ。でも……でもぉ……こわいじゃーん。あーあー、勧誘失敗すればいいのに」
「あ……」
フローラの顔色が青くなっていくことに、ティルは気づいていなかった。
「だいたい、あの人に勧誘とか無理ですよぉ。人のココロとかないんか? なんですから~」
「…………」
「あの人のほんっと怖いし、人使い荒いしあの人の本性を知ったら、八宝斎さんだって逃げてきますよねぇ?」
「…………」
「まあ別に悪い人じゃないし? 恩義も感じてますけど? でもそれ以上に馬車馬のごとく働かせるし、酷い人ですぅ。人でなしですぅ」
「…………」
先ほどから、フローラが何も言ってくれなくなった。
不思議に思って、背後を見やる。
「ただいま帰りましたよ、ティル」
「あ……」
そこに居たのは、たった今悪口を言っていた相手、ミシェルその人だった。
フローラはとばっちりを受けないように、そぉ……と部屋から退出。
周りにはティルだけ。
緩衝材である、カイウスもここにはいない。
ガチャリ。
ミシェルは鍵を閉める。
ティルは、両手を挙げて天を仰いだのだった。




