122.
ティルが執務室を去ってから、しばらく経った。
「ふっ……ミシェル……おまえは最高だ……」
「はぁ……」
ミシェルの前で、ギデオンは正座をしている。
かれこれもう3時間が経過していた。
その間、ミシェルはクドクドとお説教をした。
しかしギデオンはこの状態のまま、ミシェルの言葉にずっと耳を貸していたのである。
「少し疲れました……」
「なに? それはいけないな! ふっ……俺の膝の上で休むといい」
大真面目で、ギデオンは言った。
ティルなどがここに居たら「いやいや……ミシェル様の冗談を真に受けすぎでしょ……」と突っ込んだだろう。
ミシェルは周りを気にし、窓の外を見て、出入り口の鍵を閉めて、一言。
「そうですね」
ミシェルはギデオンに正座を止めるように言い、ソファに座るよう指示した。
ミシェルはその膝の上に、頭をのせる。
「ふ……可愛い女だ」
「黙れ」
「ふっ……」
……端から見れば、ミシェルがギデオンに膝枕を要求してることに、驚いたことだろう。
「よいですかギデオン。これは、私が疲れたから、ソファに横になっているだけですからね」
「そうだな」
「決して他意はありませんからね」
「ふっ……当然だ」
「…………何も分かってないくせに」
「む? なんだって?」
ミシェルはギデオンの太ももを指でつねる。
しばらくして、ミシェルは口を開いた。
「軍議をきちんと聞いてください。一応貴方がこの国の最高責任者なのですから」
「ふ……問題ない。俺にはミシェルがいる」
(それが問題大ありなんだって何故わからないのだろうか……)
ミシェルが小さくため息をつく。
「私を信頼してくれるのはいいですが、私が居なかったとき、あるいは動けなかった時に、貴方にも動いてもらわないといけないんですけど」
「そんなことは永久に起きない。俺がそうさせない」
「…………馬鹿。何を世迷い言を。本当に馬鹿なのですから」
ミシェルはギデオンから身をそらしながら、何度も馬鹿とつぶやく。
「ふっ……俺は問題ない」
「……はぁ。じゃあ、そうですね。問題ないというのなら、聖王国の使者がやってきます。それの応対を一人でやってみせなさい」
先日、聖王国側は、軍事演習にかこつけて、帝国に攻め入るつもりだった。
その悪巧みを、未然に、帝国が防いだ。
そのことについて、聖王国側が、言い訳をしにやってくる。
「私たちとしては、今回の件で聖王国側に非を認めさせるのがゴールです。最悪なのは、一部の馬鹿がやったことなので、我々は一切関与しないとなる展開です」
「なるほど……聖王国を脅し、奴らから金を引っ張れるだけ引っ張るということだな」
にやり、とギデオンが笑う。
……そこで、初めてミシェルが笑った。
それはギデオンに怒る時に向けた笑みではない。
本当に、ココロから、嬉しそうに笑った。
「いけ、ギデオン」
「心得た。行ってくる」




