119.
軍事演習責任者、ワルイマンは、戦線を離脱した。
「くそ……! くそ! こうなったら……作戦2を実行だ!」
作戦1は、軍事演習にかこつけて、帝国に攻め入ること。
もしそれがだめだったときのプランも、きちんと考えておいたのだ。
ワルイマンは通信用の魔道具を取り出す。
「ひ、ひひ! 帝国は今手薄! ならば今が攻め入る大チャンスだ!」
セイファート平原には、帝国軍の【全主力】が集結していたのだろう。
ならば、今帝国の守りは薄い。
「全軍、突撃! 冷徹妃の首を獲れぇ……!」
ワルイマンの狙いは、帝国に革命を起こした女、冷徹妃ミシェル。
彼女がこの実力主義(笑)だった国を、本物の実力主義な軍事国家へと進化させたのだ。
この国の要であるミシェルを殺せば、帝国は瓦解する。
「ひひひ! 冷徹妃の居ない帝国なんて、残るは無能帝だけだからなぁ!」
「呼んだか?」
「なにぃいいいい!?」
振り返ると、そこには無能帝こと、ギデオンが腕を組んで立っていた。
ワルイマンの顔面を蹴飛ばす。
凄まじい速度で、ワルイマンは吹き飛んでいき、地面に転がる。
「どうして……ここが……?」
「貴様の浅い作戦など、まるっとお見通しだ。俺のミシェルがな」
「冷徹妃……に? ま、まさか!」
ワルイマンがここに来ることも、そしてこの機に乗じて、帝国を攻めることも。
全ては、ミシェルの手のひらの上だったのだ。
「ば、馬鹿な……奴は加護なしのクズ……未来を見通す加護はないはず! ぶぎゃぁ!」
ギデオンはワルイマンにのしかかると、その腕を振るい、顔面の骨を砕く。
「二度と、俺の愛する女を、加護なしのクズ等と言うな」
「しゅ、しゅみましぇ……ぶぎゃ!」
「加護なしのクズと言うなと言ってるのだ。ハイと答えろ」
「はひ……ぶぎゃ!」
「はひじゃない、ハイだ。言うまで殴り続けるからな!」
どご、ばき、ぐしゃ……!
「陛下ぁ~……。それくらいにしてくださいよぉ~……」
付き添いのティルが、ギデオンを止める。
だがギデオンはティルをガン無視してワルイマンを殴り続ける。
それだけミシェルを馬鹿にされたことが、許せなかったのだろう。
「ミシェル様に言いつけますよぉ?」
「それは困るな」
ギデオンは殴るのを止める。
ティルはため息をつくと、ワルイマンが所有していた通信用魔道具を回収。
「あー、てすてす。全軍、撤退。相手に作戦がばれました。繰り返します、全軍撤退」
ティルは通信用魔道具を使って、聖王国軍を引かせる。
ほ……とティルは安堵の息をついた。
「なんだ、捕らえて殺すのではないのか?」
ギデオンが目を丸くしていた。
(この人マジですか……)
ティルは……呆れたようにため息をつく。
「ミシェル様がおっしゃっていたではないですか。今回はあくまで、軍事演習ですませるって。殺しちゃったら演習にならないでしょ?」
「うーむ……。しかし敵は皆殺しにしたほうがよいのではないか? また聖王国が襲ってきたら?」
「そんな虐殺を行ったら、他国からの不興を買いますよぉう。聖王国以外の国が結託して、帝国に一気に攻め入られたらお仕舞いですぅ~」
帝国は今でこそ力を付けているが、まだ先代のせいで国力がかなり削られている状況だ。
こんななか、残りの国々を相手に戦争をできるだけの体力は無い。
だから今回はこういう静かな決着を付ける、と。
「ミシェル様が軍議で全て説明なさっていたじゃあないですかぁ~。何を聞いてたのですぅ~?」
「美しいミシェルをずっと見つめていた。ふっ……やはりミシェルは美しい」
ティルは心から、ミシェルが居ないとこの国終わってたな、と思うのだった。




